米国産業・組織心理学の最新動向 SIOP(米国産業・組織心理学会)2009 参加報告

執筆者情報
組織行動研究所
主幹研究員
今城 志保

世界最大の産業・組織心理学会であるSIOP(米国産業・組織心理学会)年次大会で報告された研究から、興味深かったトピックスについてご紹介します。


大会概要

今年のSIOP(Society for Industrial and Organizational Psychology)の年次大会は、4月1日〜4日の4日間、米国ニューオーリンズにおいて開催された。参加者は3,500名程度と昨年に比べるとやや減ったものの、昨年を超える数の研究発表が行われた。また、今年も米国以外の国からの参加者が増加しており、国際化の流れはより加速した感があった。アジアからは中国、韓国、シンガポールなどからの参加が目立った。この学会とヨーロッパを中心とする国際応用心理学会(International Congress of Applied Psychology)が今後連携していくことも発表され、いよいよグローバルな産業組織を視野に入れた学会活動を目指すことになりそうだ。

年次大会では、特に注目度の高いテーマや今後の重点テーマから2つほどを取り上げてテーマセッションが行われるが、今年のテーマセッションは“Evidence-Based Management(科学的根拠に基づくマネジメント)”と“Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任)”であった。またセッション数が多かったテーマは、採用選考、リーダーシップ、パーソナリティ、エンゲージメントなどの職務態度に関するものであった。昨年と比べてセッション数が目立って増えていたものは、グローバルマネジメント、チームの活用とマネジメント、反組織的行動などであった。

本年度の大会で参加したセッションの中から、特に興味深かったものを取り上げ、以下に簡単に報告を行う。

無意識の行動がモチベーションや目標達成に及ぼす影響についての研究

今回の大会では、無意識の行動がモチベーションや目標達成に及ぼす影響を取り上げたセッションが2つ行われた。ひとつめは「無意識のゴール、自己効力感、達成動機に関する最新のプライミング研究」とタイトルのついたシンポジウムで、もうひとつは招待講演者であるGollwitzer氏の講演であった。

「無意識のゴール、自己効力感、達成動機に関する最新のプライミング研究」シンポジウム

シンポジウムでは、目標設定理論の提唱者であるLocke氏とLatham氏をプレゼンターに加え、目標の提示や達成動機の喚起が本人の意識しない形で行われた場合に、行動にどのような変化が見られるかを実験研究した結果が報告された。無意識が行動に及ぼす影響については社会心理学では近年盛んに研究がなされているが、その知見を産業組織場面に応用した試みである。

具体的な研究の一例としては、コールセンターの職員を対象に、オリンピックの長距離走でテープを切ってゴールする女性アスリートの写真を背景に印刷した指示書(実験群)と白紙の背景の指示書(コントール群)で仕事の指示をした結果、実験群のほうが達成意欲が高くなり、より多く電話をかけたというものである。もちろん実験に参加した職員は、指示書の背景の意味については全く認識していなかったことが確認されている。何気なく目にする風景や情報の中から、われわれは意識せずに多くの手がかりを受け取り、それを行動に反映させている。このことが職務遂行にも影響を及ぼす可能性が示された点で興味深いものであった。

上記の実験操作によって、本当に達成の動機が高まったのであれば、目標が長期のものであったり、企画などの高度な認知活動を含むものであったとしても、効果が見られるはずである。このあたりの検討は今後の課題となるようだ。また研究課題とは異なるが、サブリミナル効果の広告への利用が、視聴者が自覚的に認知できない広告はアンフェアであるという理由から規制されているように、これを企業が何らかの形で利用することは倫理的な問題を含んでおり、この点からの議論も今後必要だろう。

Gollwitzer氏の講演

Gollwitzer氏は著名な社会心理学者であるが、彼の主たる研究の領域はimplementation intention(実行意図)にかかわるものである。実行意図というのは、ある目標を達成するための行動を、いつ、どこで、どのように実行するかをあらかじめ決めているものをいい、if-then(もし○○という状況になったら、××という目標達成行動を行う)の形式で表現される。実行意図をもつことによって、予期していた状況に対しては自動的に目標達成に向けた対処行動がとれるというものである。これまでは実験室で研究されることが多かったが、近年では、たとえば禁酒や自閉症児の対人関係構築といった実社会の問題解決場面における実用可能性が検討されつつある。実行意図の優れた点は、環境からの実行の合図を受けとった際の(ifのプロセス)、とるべき行動がすでに定められているため(thenのプロセス)、ストレスやプレッシャーが大きく、物事を考える余裕がない状況下でも実行が容易であることがあげられる。つまり、無意識に正しい行動をとることが期待できるのである。このアイデアが、組織における行動の変容や学習にどの程度活用できるかは、これからの研究で明らかにされるべき問いではあるが、意識的な目標設定との組み合わせで一定の効果が期待できるのではないかと思わせる講演の内容であった。

チーム能力開発のための実証データに基づくトレーニングプログラム

チーム能力開発のトレーニングプログラムに関する理論的背景と効果検証を題材とした半日のワークショップで、実例としてAHRD(Agency for Healthcare Research and Quality;ヘルスケアに関する研究と質の向上を活動の目的とする米国政府機関)においてヘルスケア従事者を対象に実施された取り組みの紹介があった。

AHRDで実施されたチーム能力開発のためのトレーニングプログラムの目的は、チームビルディングではなく、チームワークに必要なスキルの取得である。チームスキルには、(1)チームリーダーシップ、(2)コミュニケーション、(3)状況のモニタリング、(4)相互サポート、の4つがあげられている。何か画期的な手法を用いるのではなく、産業組織心理学の分野で一般に用いられる、現状分析から結果の検証までの一連のトレーニングの設計手続きに従って、実際のプログラム設計は進められる。講演者の一人であるSalas氏はチームトレーニング研究の第一人者であるが、彼自身が設計したトレーニングを含む過去の93の研究をまとめて、チームスキルのトレーニングが確かに効果的であることを示している。また、彼の研究によれば、トレーニングは編成直後のチームのほうが既存のチームよりも、またチームの構成人数が多いほうが効果が大きいことも報告している。これらの結果は、チームスキルの活用が編成直後のチームの立ち上がりを早める効果があることや、多くメンバーを抱えるチームで仕事を行う場合のほうがチームスキルが発揮される機会があることを示唆するものだろう。

今回ご紹介したものは、いずれも行動の変容やスキルの獲得といった能力開発に関連するものであった。チーム能力トレーニングのワークショップの中でも触れられていたことであるが、トレーニングの場で取得したスキルや行動を継続的に実行していくためには、実は自己コントロールを行うスキルが必要である。自分の行動をモニタリングし、得られるフィードバック情報を正しく理解し、自分の行動を目標に向けてコントロールする力を身につけることこそが、究極のトレーニングといえるのかもしれない。


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