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インタビュー

甲南大学 尾形真実哉氏

オンボーディングを強化して中途採用者に選ばれる会社になろう

  • 公開日:2025/07/22
  • 更新日:2025/07/22
オンボーディングを強化して中途採用者に選ばれる会社になろう

尾形真実哉氏は、企業のオンボーディング施策を研究し、その成果を『中途採用人材を活かすマネジメント』や『組織になじませる力』などにまとめている。その尾形氏に、中途採用者向けオンボーディング施策のポイントを詳しく伺った。

中途採用者がクリアすべき「8つの課題」がある
人的ネットワークの構築を管理職が全面的に支援すべきだ
人事は導入研修と人事部面談で中途採用者を支援する
中途採用の先輩たちがメンタルケアなどを行うのも大切
中途採用者には「アンラーニング教育」も必要だ

中途採用者がクリアすべき「8つの課題」がある

オンボーディングとは、会社という乗り物に新しく加わった個人を、同じ乗組員としてなじませ、一人前にしていくプロセスを指します。

多くの会社が、新人研修などの新卒採用者向けオンボーディング施策を充実させていますが、中途採用者向けは充実していない会社が珍しくありません。しかし、中途採用者が組織になじむためには、オンボーディング支援があった方が絶対によいのです。中途採用者向けオンボーディング施策を強化する会社は、中途採用者に選ばれる会社になります。今から始めることをお薦めします。

私は、中途採用者が組織になじむためにクリアすべき8つの課題があると考えています。「スキルや知識の習得」「暗黙のルールの理解」「リアリティ・ショックの克服」「アンラーニング」「中途意識の排除」「精神的プレッシャーの克服」「信頼関係の構築」「人的ネットワークの構築」です。

これらの課題を乗り越えたときに初めて、中途採用者が会社の一員として戦力になっているといえるのです。オンボーディング施策とは、これらをクリアするための支援に他なりません。「スキルや知識の習得」に関しては、多くの企業がすでに支援していると思いますが、それだけで中途採用者が組織になじむわけではないのです。

人的ネットワークの構築を管理職が全面的に支援すべきだ

オンボーディングは、現場と人事が役割を明確に分担して取り組む必要があります。

現場の管理職が第一に支援すべきなのは「人的ネットワークの構築」です。中途採用者は、社内人脈のなさに必ず苦しみます。彼らの人脈づくりのサポートは、管理職の極めて大事な役割だと考えましょう。中途採用者と関わる可能性の高い他部署の人たちを紹介してつなげるのです。紹介する人数は、できるだけ多い方がよいです。

私がある企業の中途採用者360人を調査したところ、上司から他部署社員を10人以上紹介してもらえた人たちは、その後の適応状態が非常に良かったことが分かりました。反対に、1人も紹介してもらえなかった人たちは、まったく適応できていませんでした。人的ネットワークの構築は、組織になじむかどうかを大きく左右するのです。中途採用者に活躍してもらいたいのなら、上司は他部署の人たちをどんどん紹介すべきです。

人事の皆さんは、以上のことをぜひ管理職に伝えてください。人的ネットワーク構築を支援するのは管理職ですが、その管理職を支援するのは人事の大事な役割です。

人事は導入研修と人事部面談で中途採用者を支援する

人事の皆さんには、まず「導入研修」を用意することをお薦めします。なぜなら、多くの中途採用者が、同期の仲間を求めているからです。ワークショップやディスカッションを通じ、同期入社組がつながる研修の場をつくるのです。導入研修は人的ネットワークの構築にもつながります。

また、スキルや知識の習得支援は現場に任せますが、会社の全体像や各事業部の役割、カルチャーなどを説明するのは人事の役目と考えた方がよいでしょう。さらに、「人事は何ができるのか」「人事に何を相談できるのか」もきちんと伝えてください。人事以外の人たちは、人事の想像以上に人事の役割を知らないものですから。

もう1つ、「人事部面談」も大事です。私は、入社1カ月目、3カ月目、6カ月目の3回、人事が中途採用者と面談し、あれこれと相談に乗ることをお薦めしています。人事部面談は、離職率低下に大きな効果があることが分かっています。

中途採用の先輩たちがメンタルケアなどを行うのも大切

中途採用の先輩たちも、オンボーディングのキーパーソンです。例えば、「暗黙のルールの理解」は難しい課題です。プロパー社員はなかなか言語化できず、中途採用者だけではなかなか理解が深まりません。実は、暗黙のルールを最も上手に言語化できるのは、中途採用の先輩たちです。彼らがどのカルチャーに驚いたか、苦労したかをヒアリングすると、暗黙のルールが見えてきます。

中途採用者の「メンタルケア」も、中途採用の先輩に任せるとよいでしょう。彼らが中途採用者の気持ちを最も深く理解できるからです。もし職場や部署に中途採用の先輩がいるのなら、中途採用者のメンタルサポーターにすることをお薦めします。

中途採用者には「アンラーニング教育」も必要だ

アンラーニングは避けられない課題の1つです。アンラーニングとは「学びほぐし」です。中途採用者が前職のやり方で仕事をすると、必ずプロパー社員から反発を受けます。中途採用者は、最初は新たな会社の仕事の仕方を受け入れ、パフォーマンスを発揮する必要があります。その上で前職のスキルや知識や経験を活かせばよいのです。このプロセスをアンラーニングと呼びます。

私は、中途採用者には「アンラーニング教育」が必要だと考えています。中途採用の先輩たちが最初どのように周囲から反発を受けたのか、どうやってアンラーニングしたのかを伝え、アンラーニングの必要性を理解してもらう研修を用意するのです。もちろん研修づくりは人事の役割です。

中途採用者は即戦力だといわれがちですが、それは間違いです。即戦力ではなく、オンボーディング支援があって初めて戦力化していく「早期戦力」なのです。そのことを忘れずに、オンボーディング施策に注力してもらえたら嬉しいです。

【text:米川青馬 photo:角田貴美】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.78 特集2「中途入社者のオンボーディングと組織適応」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
尾形真実哉(おがたまみや)氏
甲南大学 経営学部 教授

2007年神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。甲南大学准教授などを経て、2015年より現職。『中途採用人材を活かすマネジメント』(生産性出版)、『組織になじませる力』(アルク)、『若年就業者の組織適応』(白桃書房)などの著書がある。

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