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調査レポート

学生のキャリア選択と入社後の状態に関する意識調査

企業と学生のオープンなやり取りが、入社への納得感や入社後の定着につながる

  • 公開日:2024/12/02
  • 更新日:2024/12/02
企業と学生のオープンなやり取りが、入社への納得感や入社後の定着につながる

新卒採用における企業と学生の関係性が互いに選び選ばれるものへと変わりつつあるなかで、学生はより主体的に行動し自身が納得できる決断を下すことが求められている。キャリア選択への納得感には本人の活動以外に、何が影響しているのだろうか。企業がキャリア選択を支援することは、どのような意味があるのだろうか。この問いを考えるにあたり、社会人1~2年目を対象に就職活動期の活動やキャリア選択の状況、入社後の現在に関する調査を実施した。  

調査概要
入社意欲の向上に見る学生との対話の重要性
3〜4割はキャリア選択への納得感が低い
入社後の状態に影響するキャリア選択への納得感
キャリア選択への納得感を高める要因(1)企業への信頼感と期待
キャリア選択への納得感を高める要因(2)インターンシップ経験
キャリア選択への納得感を高める要因(3)キャリア探索行動
キャリア選択への納得感を高める要因(4)採用プロセス
学生と企業にとってよりよい就職活動・採用活動とは

調査概要

新卒で入社する企業を選ぶとき、学生はどのような心理状態にあるのだろうか。現在の新卒採用では、多くの大学生・大学院生は、就業経験が極めて少ないなかでキャリア選択をすることとなる。納得のいく決断をするまでに、大きな不安や難しさを感じることは想像に難くないが、正解がないなかで自分なりの理由を置き、納得感をもって決断することは、入社後の状態にも影響し、組織への定着やポジティブな心理状態を促すのだろうか。

本調査では社会人1~2年目を対象に振り返り調査を実施し、就職活動を通じた入社意欲の変化やキャリア選択への納得感の測定を試み、納得感が入社後の状態にどのように影響するか検討した。また学生の意欲や納得感を高める採用プロセスの特徴や就職活動全般の行動傾向の影響の実態を確認することで、学生のよりよいキャリア選択を促す、企業と学生双方の取り組みについて考察することを目指す。

調査は、大学または大学院を出て新卒で企業に入社した社会人1~2年目の一般社員を対象とした。就職活動期としては、23卒・24卒にあたる(図表1)。

<図表1>調査概要「学生のキャリア選択と入社後の状態に関する意識調査」

調査概要
調査概要

入社意欲の向上に見る学生との対話の重要性

学生は就職活動でのさまざまな経験を通じて志望先・志望度を変化させる。キャリア選択に関わる要素として、まず就職活動を通じた志望度の変化とその要因について確認する。

新卒で入社した企業について、就職活動を始めた当初の志望度と、内定獲得時の入社意欲について、それぞれ振り返って5件法で回答を求めた。志望度と入社意欲を高(5・4点)、中(3点)、低(2・1点)に分け、その組み合わせを集計した(図表2)。

<図表2>就職活動開始時の志望度と内定獲得時の入社意欲の変化

就職活動開始時の志望度と内定獲得時の入社意欲の変化

内定獲得時に入社意欲が高い人のうち、就職活動開始時にも志望度が高かった人(A群)の割合が最も高く、全体の47.1%である。一方、当初の志望度が低かったものの入社意欲が向上した人(B群)は27.5%いた。志望度、入社意欲共に中低群のままだった人(C群)は22.7%である。なお、A群とB群を合わせた入社意欲が高い人は74.6%であり、売り手市場の影響がうかがえる。

次に志望度と入社意欲の変化の3群ごとに、採用プロセスの違いが見られるか確認した。「新卒入社の会社」の採用プロセスに関する17項目に対して、どの程度あてはまるか1~5段階で尋ねた。A群~C群の平均点の違いを図表3に示す。クラスカル・ウォリス検定および多重比較を行ったところ、A群とB群とで、統計的に有意な差は見られなかったため、当初志望度の高低にかかわらず意欲が高まる採用プロセスは共通していると分かる。

<図表3>志望度と入社意欲の変化と、採用プロセスの関係

志望度と入社意欲の変化と、採用プロセスの関係

一方、当初志望度は同じ中低であるにもかかわらず、最終的な入社意欲が変化したB群とC群の差を見ると、いくつかの項目で統計的に有意な差が確認された。B群とC群との平均値の間で特に大きな差が見られた項目は「10.面接などの接点で、温かく迎えてくれた」「12.面接などの接点で、話したいことを話せた」「6.採用活動における各種のやり取り(合否連絡など)が手際よく迅速だった」「11.面接などの接点で、自分のことを掘り下げて、よく理解しようとしてくれた」だった。接点を多くもつことや採用プロセスの手続きを適切に行うことに加え、学生との対話を引き出すようなやり取りが重要であることがうかがえる。面接などの機会で相手が話しやすい雰囲気を作り、話したいことを引き出し、理解しようとすること。当然のように思える対応だが、面接官やリクルーターなど、各現場の対応を統一・徹底することは難しい。学生の話を引き出せるよう、また理解しようとするスタンスが伝わるように、教育や支援の工夫が求められるだろう。

就職活動開始時に志望度が高くなかったが最終的に入社意欲が高まったB群の人たちに、入社意欲が上がるきっかけになった具体的なエピソードを聞いたところ、対面でのコミュニケーションによって入社意欲が向上した人が多かった。また、周囲の反応や条件的な部分を知って印象が変わった人たちもいる。企業への印象や意欲は固定的ではなく、さまざまな人との接点や経験を通じて変化していることが分かる。具体的なエピソードには次のようなものがあった。

「社員の方の雰囲気が自分に合っていると思った。また、人事の方がとても親身に寄り添ってくださる対応だった」「社員の方と直接お話しする機会があり仕事にやりがいを感じた」「面接官からぜひ我が社に入社してほしいと言われた」「親や周りの人の反応や、福利厚生が良かったから」

一方、項目15~17の学生本人へのフィードバックについて、B群とC群との間で差が見られなかったことは意外に感じる。3項目とも平均点が低めであるため、フィードバックの機会自体があまりないことが要因と考えられる。

3〜4割はキャリア選択への納得感が低い

学生が選ぶ立場になっていくと、個人のキャリア選択意識の重要性が増してくる。内定受諾時点のキャリア選択の状態について確認するために、主体的に決定できているか、選択について納得しているか、明確な選択基準があったかという観点で評価してもらった(図表4)。

<図表4>学生のキャリア選択の状態

学生のキャリア選択の状態

「とてもあてはまる」「あてはまる」を選んでいるのは21~35%、「ややあてはまる」まで合わせると、おおむね5~6割が肯定的な回答だったが、項目により差がある。

項目間で比べると、「1.自分の進路は主体的に決定している」「3.この会社に就職することに納得している」「2.自分の進路には自分で責任をもっている」が相対的に高く(69.4%、68.7%、68.4%)、「6.自分の将来進むべき方向性が見つかっている」「5.仕事を通じて自分のやりたいことがはっきりしている」が相対的に低い選択率だった(51.5%、54.6%)。約7割の人は主体的に意思決定をしており、入社することに納得はしているが、自分がやりたいことや将来の道筋が明確かどうかは五分五分である。また納得感も「4.この会社でやっていく覚悟ができている」のように問われると、やや肯定的な割合は下がる傾向にある(59.8%)。

裏返すと、納得感のカテゴリの項目3・4で「ややあてはまらない」~「まったくあてはまらない」と否定的に回答している人は3~4割程度と一定数いるわけだが、入社という重大な意思決定に少なからず迷いがあるのは、社会人生活を送る上での定着などの心の状態に影響を及ぼすのではないだろうか。

そこで以降、「3.この会社に就職することに納得している」「4.この会社でやっていく覚悟ができている」の2項目を平均した尺度を「キャリア選択への納得感」として、入社後の状態への影響や先行要因を検討していく(平均値3.9、標準偏差1.2、相関係数=0.76)。

入社後の状態に影響するキャリア選択への納得感

まずは、キャリア選択への納得感が入社後に及ぼす影響を確認する。入社後の状態として、自律的・主体的な仕事ぶり、心身共に健康に働いているか、組織コミットメントは高いかなど6つの指標を採用した。納得感の得点を高・中・低群に分け、それぞれごとに入社後の状態得点を集計した結果が図表5である。項目1~6は高・低群で得点差が大きかった順に並べた。なお、入社後への影響を確認するときのみ、新卒入社企業を離職していた12名を除いて分析した。

<図表5>キャリア選択への納得感が、入社後の状態に及ぼす影響(社会人1〜2年目)

キャリア選択への納得感が、入社後の状態に及ぼす影響(社会人1〜2年目)

キャリア選択への納得感の高・中・低群で納得感に差があるかクラスカル・ウォリス検定を行い、その後多重比較を行ったところ、すべてのグループ間において統計的に有意に差があることが確認され、内定受諾時点のキャリア選択意識が入社後の状態に影響することが示された。特に高・低群で得点差が大きいものは「1.勤続意向」「2.心身共に健康的に働いている」「3.組織コミットメント(目的・愛着)」である。キャリア選択への納得感は、本人の適応感のみならず組織への定着を促進するようだ。

キャリア選択への納得感を高める要因(1)企業への信頼感と期待

キャリア選択への納得感は、どのように醸成されるのだろうか。(1)内定受諾時点の働くことへの理解度と入社企業への評価、(2)インターンシップ参加状況、(3)就職活動全般のキャリア探索行動、(4)入社企業の採用プロセスの4つのカテゴリで検証した。

まず、内定受諾時点での働くことへの理解度および入社企業への評価との関係を見ていく。新卒入社した企業についての理解度、入社企業での働くイメージの程度、入社企業への信頼感、期待の程度の4観点について尺度化し、それらの高・中・低群別にキャリア選択への納得感を集計した結果が図表6である。

<図表6>働くことへの理解度と入社企業への評価が、キャリア選択への納得感に及ぼす影響

働くことへの理解度と入社企業への評価が、キャリア選択への納得感に及ぼす影響

どの観点も高群が突出して納得感が高く、高群と低群、高群と中群の差は、すべて統計的に有意な差が確認された。内定受諾時点での働くことへの理解度や入社企業への信頼や期待といった評価が、キャリア選択への納得感を高めているといえる。

4尺度いずれも先行要因として重要な観点だが、特に「3.入社企業への信頼感」「4.入社企業への期待」の項目において高・低群による差が大きい。就職活動を通じて入社企業への理解や働くイメージを醸成することももちろん重要だが、それ以上に企業とのやり取りのなかで信頼感や期待を膨らませていくことが、キャリア選択への納得感を引き出していると考えられる。

キャリア選択への納得感を高める要因(2)インターンシップ経験

続いて、就職活動全体を通した行動の影響を確認する。インターンシップへの参加有無との関係を見るために、「1.参加(就業体験あり)」「2.参加(就業体験なし)」「3.不参加」の3群に分けて、キャリア選択への納得感高・中・低の割合を示した(図表7)。なお、インターンシップは入社企業に限らず、学生時代を通じた参加経験を指す。

<図表7>インターンシップへの参加と、納得感・働くイメージの醸成との関係

インターンシップへの参加と、納得感・働くイメージの醸成との関係

キャリア選択への納得感高群の割合は、項目1から3の順に43.8%、28.9%、19.4%と、インターンシップに参加する方が、またそのなかでも就業体験を伴う方が、その割合が高かった。また、入社企業での働くイメージとの関係を見ると、「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」と回答した割合が、1から3の順に56.9%、35.5%、33.9%と、就業体験の有無と関係していることが分かった。インターンシップによって視野が広がることによるキャリア選択の基準づくりや、就業体験を通じて得られるリアルな働くイメージが、キャリア選択への納得感を高めることにつながっている可能性がある。

キャリア選択への納得感を高める要因(3)キャリア探索行動

次に、就職に向けた準備行動としてのキャリア探索行動と納得感の関係を見てみよう。「自己探索」は自分のことを客観的に理解することで、就職活動の自己分析にあたる。「環境探索」は働くことや職業や業界についての理解を深めるための情報収集や対話・体験をすることで、インターンシップや仕事分析・業界研究にあたる。

自己探索、環境探索の高・低群ごとのキャリア選択への納得感の平均を示したものが図表8である。t検定を行ったところ、自己探索、環境探索共に、有意に高群の方が納得感が高かった。就職活動の準備のなかで、自己分析や仕事・業界分析などの準備行動をしっかりと行うことで、さまざまな選択肢のなかから、自分なりの基準をもって、納得感高く意思決定することができるようだ。

<図表8>就職活動中のキャリア探索行動がキャリア選択への納得感に及ぼす影響

就職活動中のキャリア探索行動がキャリア選択への納得感に及ぼす影響

キャリア選択への納得感を高める要因(4)採用プロセス

続いて、新卒入社した企業の採用プロセスのどのような点が、キャリア選択への納得感を高めたのか確認する(図表9)。採用プロセスの特徴に関する17項目それぞれについて、あてはまる程度の高い高群とそうでない低群別にキャリア選択への納得感の得点を比較したところ、すべての項目について統計的に有意な差が確認された。

<図表9>採用プロセスがキャリア選択への納得感に及ぼす影響

採用プロセスがキャリア選択への納得感に及ぼす影響

2群の差が大きい項目に着目すると「12.面接などの接点で、話したいことを話せた」「11.面接などの接点で、自分のことを掘り下げて、よく理解しようとしてくれた」「14.あなたのキャリアを支援するスタンスが感じられた」「10.面接などの接点で、温かく迎えてくれた」が相対的に高く、オープンなやり取りが納得感の醸成に大きく貢献していた。面接や面談といった個別接点が想定される場面で、学生との対話を引き出し、相手を理解しようとする姿勢が、個人のよりよいキャリア選択を促進する上で重要なのかもしれない。

項目16・17の社員からのフィードバックは、入社意欲の向上では関係が見られなかったが、納得感の醸成には影響していた。社員から提供された情報も参考にしながら、企業との相互作用のなかで、自分なりの意思決定理由を固めていく様子が見られる。

学生と企業にとってよりよい就職活動・採用活動とは

長期にわたる就職活動だが、今振り返ると、本人にとってどのような経験だったと認識されているのだろうか(図表10)。

<図表10>就職活動はどのような経験だったか

就職活動はどのような経験だったか

「1.非常に楽しく、総じて良い思い出となる経験だった」「2.成長の機会になるなど、自分にとって意味のある経験だった」と、比較的ポジティブに受け止めている人が54.0%、「3.自分にとっての意味はあまり感じられないが、社会人になるためには必要な経験だった」とフラットに受け止めている人が19.6%、「4.良い思い出はなく、大変な経験だった」「5.あまり思い出したくない、総じてつらい経験だった」「6.自分にとってまったく意味のない経験だった」など、ネガティブに受け止めている人が25.4%だった。比較的ポジティブに受け止めている人が多い一方、少なからずネガティブな経験だったと捉えている人がいることには留意したい。新卒の採用活動の仕組みは若年層の失業率を下げるなど良い側面はあるが、学生本人の負担は大きい。企業・学生双方に必要な仕組みだからこそ、よりよい就職活動・採用活動のために、それぞれの立場で何ができるのか、考えていく必要があるだろう。

最後に、かつて応募者側であった社会人の意見を紹介したい。図表11は、新卒での就職活動・採用活動が、学生と企業にとってよりよいものになるために、どんなことが必要だと思うかを尋ねたコメントを、抜粋してまとめたものである。

<図表11>よりよい就職活動・採用活動のために必要なこと

よりよい就職活動・採用活動のために必要なこと

学生側がしっかりと比較検討し選ぶために、企業側に情報や採用プロセスの透明性や公平性の担保、対等なスタンスを求めていることが見えてくる。一方、学生本人も、積極的な情報収集や分析といった努力が必要だと認識されており、双方の努力が必要とされる。共通点としては、よりオープンなやり取り・相互理解である。

その他のコメントとしては、「企業以前にさまざまな分野に関心をもつ」といった視野を広げることへの言及もあった。人は自分が知っている選択肢のなかからしか選べない。就職活動期のみならず、さまざまなことに関心をもち視野を広げることはよりよいキャリア選択につながるだろう。今回は、学生と企業という視点から、これからの就職活動・採用活動を捉えることを試みたが、自治体や国、大学、関係領域の企業など、多様な視点でこれからを考え続けていく必要がある。

本調査では、キャリア選択への納得感を基軸に、入社後への影響や先行要因について見てきた。キャリア選択への納得感は入社後の定着に影響を及ぼすこと、その醸成には本人の積極的なキャリア探索行動のみならず、企業側の関わりや機会提供が重要であることが確認された。学生のキャリア選択を企業が支援し、納得感を引き出すことは、企業への定着を促すため、企業にとっても意義のある活動といえるだろう。就業体験を含むインターンシップの提供、情報提供の充実、適切な手続き設計、オープンなやり取りやフィードバックの実現など、企業にできることは多い。面接のなかで一部の時間を対話の時間にする、選考フローや基準を開示するなど、今の選考フローのなかで着手できることから始めていきたい。企業と個人双方にとって望ましい状態にするための手がかりを考える一助になれば幸いである。

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.76 特集1「『選び・選ばれる』時代の新卒採用」より抜粋・一部修正したものである。
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渡辺 かおり

人材コンサルティング企業におけるアセスメントの開発・営業を経て、2007年リクルートマネジメントソリューションズに入社。主にアセスメント商品サービスの企画開発・メンテナンス業務、研究業務に従事。2023年より現職。
立教大学現代心理学部兼任講師。

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