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モチベーションを支える評価・報酬のあり方に関するレビュー
トータル・リワードとの接点から考える人事評価と承認
読了時間:10分
- 公開日:2026/10/13
- 更新日:2026/10/13
人事評価は、組織においてさまざまな目的のもと行われている。しかしながら、人事評価については被評価者・評価者、いずれからも不満をもたれているという調査結果などが示されることが少なくない。
本レビューでは、「トータル・リワード」や「承認」という視点も交え、人事評価のより良いあり方を考えるための情報提供を試みる。
- 目次
- 従業員の肯定的な感情・状態を高めることの重要性
- 報酬に関する考え方の変遷
- トータル・リワードという考え方
- 人事評価の諸機能とトータル・リワードの関係
- 多種多様な人事評価の使い分け
- 承認の4類型
- 表彰制度の3類型
- 人事評価・表彰を「未来に目を向ける」機会とする
従業員の肯定的な感情・状態を高めることの重要性
ワーク・エンゲージメント、ウェルビーイング、ワーク・モチベーション、従業員満足度のように、従業員の肯定的な感情や状態を指し示す言葉は数多くある。これらは、従業員がパフォーマンスを上げるための礎となるものであり、それらをどのように高めるかは企業にとって主要な人事課題の1つである。
また、流動化の進む労働市場においては、企業と個人が「選び、選ばれる」関係に変化しており、企業にとっては「選ばれる」ために、従業員が企業に採用されてから退職するまでに得る体験・感情〈エンプロイー・エクスペリエンス;例えば沢渡ら(2024)*1〉を高めることが重視されており、その観点からも、従業員の肯定的な感情や状態を高めることの重要性は増していると考えられる。
報酬に関する考え方の変遷
肯定的な感情や状態を支えるものに、報酬がある。かつては、報酬については、労働に対する対価である「賃金」という金銭的報酬が中心に考えられていた。その後、賃金だけでなく、福利厚生や企業年金など、さまざまな金銭的報酬を組み合わせた「総報酬(トータル・コンペンセーション)」という考え方が普及した。
内閣府「国民生活に関する世論調査」(2025)*2によると、複数の「働く目的」のうち1つを選択する設問への回答結果は、「お金を得るために働く(63.5%)」「生きがいをみつけるために働く(13.1%)」「社会の一員として、務めを果たすために働く(10.7%)」「自分の才能や能力を発揮するために働く(7.1%)」となっている。厚生労働省「労働経済の分析」(2025)*3でまとめられている同調査の経年変化では、「お金を得るために働く」の選択率は、常に最も高く、かつ、この20年で上昇傾向にある。無論、この上昇傾向には、国際情勢や経済環境なども影響を与えていると考えられるが、金銭的報酬が重要なものであることは確かであるようだ。
一方、経済学の視点からは安藤(2017)*4、心理学の視点からは村山(2020)*5にあるとおり、金銭的報酬には限界があったり、成長ややりがいといった非金銭的報酬ならではの動機づけ効果などがあったりすることから、非金銭的報酬も重要なものであると考えられる。
トータル・リワードという考え方
そのようななか、現在は、「賃金」そして「総報酬」のような金銭的報酬のみでなく、成長ややりがいといった非金銭的報酬も含む、米国の報酬に関する専門家の協会であるWorldatWorkが2000年に提唱した「トータル・リワード」という考え方が注目されている。
トータル・リワードとは、優秀で才能ある意欲的な人材を惹きつけ、定着させ、育成するために企業が展開する、戦略的な取り組みのポートフォリオのことである。トータル・リワードは、大きくは図表1の「報酬」「福利厚生」「ウェルビーイング」「キャリア」「承認」からなる。
<図表1>トータル・リワードの内容

基本給や賞与などの報酬が金銭的報酬、福利厚生/ウェルビーイング/キャリア/承認が非金銭的報酬にあたる。WorldatWorkのトータル・リワードのモデルは常にアップデートされており、現在のモデルは図表2のようなものである。リワードによって、組織パフォーマンスと従業員体験、双方を高めることがねらいとされている。
<図表2>トータル・リワード・モデル

人事評価の諸機能とトータル・リワードの関係
人事評価は、報酬の決定、昇進・昇格の判断、育成目標の具体化など、さまざまな目的で用いられていることが、例えばクリーブランドら(1989)*7で指摘されている。目的は大別すると、髙橋(2025)*8などにあるように、賃金・賞与・昇進・異動などの処遇の意思決定のための「管理的目的」と、強み・課題のフィードバックなどの「育成的目的」に二分される。
トータル・リワードとの関係で考えれば、例えば、管理的目的の評価は「報酬」の決定にかかわるものであり、育成的目的の評価は従業員の「キャリア」開発にかかわるものである。すなわち、人事評価はリワードのありように影響を与えるものであり、組織パフォーマンスと従業員体験の向上のために重要な役割を果たすといえる。
多種多様な人事評価の使い分け
濵村(2025)*9などにあるように、業績評価のなかには客観的業績評価もあれば、主観的業績評価もある。また、対象者の行動特徴を捉える360度評価(360度フィードバック)のような取り組みもある。評価にはさまざまな様態のものがあり、それらを分けたり、組み合わせたりすることの重要性が指摘されている。
なお、古くはメイヤーら(1965)*10でも指摘されているように、目的に応じて評価は分離して行うことが重要とされることが多い。柳澤と古川(2004)*11で検討されているように、評価目的を明確にしているか否か、また、評価目的の内容によって、情報処理の過程も異なってくる。メイヤーら(1965)*10の指摘にあるように、「パフォーマンス向上の支援者」と「処遇の裁定者」といった自己矛盾をはらむような多重評価には注意が必要だ。
承認の4類型
続いてトータル・リワードの1つの要素である「承認」に目を向けてみよう。
従業員に対する承認を体系的にまとめたブランとデュガス(2008)*12によると、承認は図表3のような4つの類型に整理することができる。
<図表3>承認の4類型
1つ目は、「存在の承認」であり、1人の人間、1つの集団としての存在そのものを尊重することである。2つ目は、「業務実践の承認」であり、業務に取り組むための専門性やスキルなどを認めることである。3つ目は、「職務貢献の承認」であり、職務への関与度や貢献度などの努力を認めることである。そして4つ目は、「成果の承認」であり、具体的な成果物の出来栄えや目標の達成度合いなどを認めることである。
日本においては、人事考課における3つの柱として、業績評価、能力評価、情意評価が挙げられることがある。それぞれ、「業績評価=成果の承認」「能力評価=業務実践の承認」「情意評価=職務貢献の承認」のような対応があると考えられる。すなわち、承認という観点からも、人事評価は重要なものと考えることができる。
表彰制度の3類型
図表3のなかに「勤続年数の表彰」があるが、承認の方法としては「表彰」も代表的なものの1つである。太田肇と日本表彰研究所(2013)*13では、表彰制度の主要な3類型が紹介されている(図表4)。
<図表4>表彰制度の3類型
1つ目は「特別に高い業績を上げた個人、チーム、部署などに対し、その功績を称え、模範として顕彰する『顕彰型』」、2つ目は「目立たなくてもコツコツと努力し続ける人、縁の下の力持ちとして組織を支えてきた人に対し、その努力や姿勢を称え、奨励する『奨励型』」、3つ目は「日常における良い仕事、ちょっとした気配りなどを称え、職場の人間関係や空気を良くする『HR(Human Relations =人間関係)型』」とされている。
同書では、表彰制度の導入にあたっての留意点として、「組織の歴史、風土、成員の特徴等を鑑み、各組織ごとに独自の制度を作り上げること」「マネジメントツールの一つとして、マネジメントシステムの中にうまく溶け込むようにすること」「色あせた制度は、新しい制度に衣替えをすること」が挙げられている。
なお、人事評価の結果は、基本的には、上長からメンバーに対して伝えられるものであり、全社に公開がなされるものではない。一方で、表彰については、例えば社員総会の場で授賞式がなされるなど、「誰が、どのような賞をとったのか」が分かるものも多い。それゆえ、ブランとデュガス(2008)*12にあるように表彰は、「表彰を受けた人に対する嫉妬」「自分が表彰されなかったことに対する不公平感」「従業員同士の競争意識の過度の高まり」といったネガティブな影響を組織・個人に及ぼし得る。このような負の側面があることも忘れないようにしたい。
人事評価・表彰を「未来に目を向ける」機会とする
人事評価については、誰もが自分が望む、あるいは、それを超える高い評価結果を得られるわけではない。表彰についても、誰もが受賞の機会を得られるわけではない。よって、「評価の高さ」や「受賞」ということがもたらす動機づけの効果は、対象が限定されたものとなる。よって、「低い評価」や「受賞できないこと」に対する不満を回避する上でも、江夏(2023a)*14にあるように企業は正確性や公正性を担保するよう努力し、評価や表彰制度に対する納得感を高めることが重要である。ただし、江夏(2023b)*15にあるように、正確性や公正性を担保することには、制度が複雑になり運用の負荷が高くなる点など、留意しなければならないこともある。
正確性に寄与するものに測定があるが、ミュラー(2019)*16で指摘されているように、測定できるようにする過程で複雑性が捨象されてしまうこと、数字の改善のために基準を下げてしまうこと、数値化しやすい短期的な成果への偏重など、さまざまな問題を引き起こす可能性がある。
トータル・リワードを支える評価や表彰といった仕組みにおいて、個人のモチベーションや組織のパフォーマンスに対し、マイナスの影響をもたらさないよう、留意が必要である。そして、江夏(2023c)*17の指摘にあるように、人事評価や表彰を通じて「これまでの貢献」だけでなく、「これからの成長や活躍の足がかりになる情報」にも目を向けられるようにし、プラスの影響をもたらすものにしていく必要があるだろう。
*1 沢渡あまね・石山恒貴・伊達洋駆 (2024).『EXジャーニー ―良い人材を惹きつける従業員体験のつくりかた』技術評論社.
*2 内閣府(2025). 国民生活に関する世論調査(令和7年8月調査).
*3 厚生労働省(2025). 令和7年版 労働経済の分析 ―労働力供給制約の下での持続的な経済成長に向けて―.
*4 安藤至大 (2017). 金銭的・非金銭的報酬とワークモチベーション. 日本労働研究雑誌, 59(7), 26-36.
*5 村山航 (2020). 労働の動機づけにおける金銭的報酬と非金銭的報酬の役割. 日本労働研究雑誌, 62(6), 46-55.
*6 WorldatWork.(2023). Unlock the power of total rewards: A model for impact. WorldatWork.
*7 Cleveland, J. N., Murphy, K. R., & Williams, R. E. (1989). Multiple uses of performance appraisal: Prevalence and correlates. Journal of Applied Psychology, 74(1), 130-135.
*8 髙橋潔 (2025).『現場で役立つ人材評価学―人を見る目を養い仕事・教育に活かす』日経BP日本経済新聞出版.
*9 濵村純平 (2025) .『評価と報酬の経営学―アイツの査定は高すぎる?』光文社新書.
*10 Meyer, H. H., Kay, E., & French, J. (1965). Split roles in performance appraisal. Harvard Business Review, 43(1), 123–129.
*11 柳澤さおり・古川久敬 (2004). 人事考課に及ぼす評価目的の影響. 実験社会心理学研究, 43(2), 185-192.
*12 Brun, J. P., & Dugas, N. (2008). An analysis of employee recognition: Perspectives on human resources practices. The International Journal of Human Resource Management, 19(4), 716-730.
*13 太田肇・日本表彰研究所 (2013).『表彰制度―会社を変える最強のモチベーション戦略』東洋経済新報社.
*14 江夏幾多郎 (2023a). 人事評価において正確性はどの程度重要か?〜公正研究の見地から〜人事評価の現在地 #05.
*15 江夏幾多郎 (2023b). 正確性追求のジレンマ〜人事評価制度の運用の難しさ〜人事評価の現在地 #04.
*16 ミュラー, J. Z. (2019).『測りすぎ―なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?』 (松本裕 訳). みすず書房.
*17 江夏幾多郎 (2023c). 納得感を目指した「現実解」(2)〜人事評価が将来への「希望」を生む?〜人事評価の現在地 #07.
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.83 特集1「モチベーションを支える評価・報酬のあり方」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
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執筆者

技術開発統括部
研究本部
研究主幹
入江 崇介
2002年HRR入社。アセスメント、トレーニング、組織開発の商品開発・研究に携わり、現在は人事データ活用や、そのための測定・解析技術の研究に従事する。
日本学術会議協力学術研究団体人材育成学会常任理事。一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会上席研究員。昭和女子大学非常勤講師。新たな公務員人事管理に関する勉強会委員。
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