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個人の適応と組織の適応は結びつけるべきか —個人の適応と組織の適応を連動、対立、独立の視点から考える

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  • 公開日:2026/07/06
  • 更新日:2026/07/06
個人の適応と組織の適応は結びつけるべきか —個人の適応と組織の適応を連動、対立、独立の視点から考える

企業は環境変化への対応を迫られ、事業ポートフォリオの見直しやリソースシフト、学び直しの促進を進めている。その一方、従業員には自律的なキャリア形成も求められるようになった。こうした状況のなか、実務においては、「個人の適応と組織の適応には自然な連動がある」という直感と、「両者は対立関係にある」という直感が併存しているように思われる。本稿は個人と組織の適応の関連性が成立する条件について検討し、人事が何を設計すべきかという実務上の示唆を考える視点を提供する。

はじめに
何を「適応」と呼ぶのか
個人の適応と組織の適応が連動するとき
個人の適応と組織の適応が連動しないとき
個人と組織の関係性によって必要な対応は異なる
おわりに

はじめに

個人の適応と組織の適応をめぐっては、2つの異なる実務上の「直感」が併存しているように思われる。第1に、その2つは自然な連動がある、という感覚である。例えば、個人の成長やエンゲージメントは、最終的には組織の成果にも資するという議論は直感的に正しいように見える。第2に、その2つは対立関係にある、という直感である。例えば、個人のキャリア自律と組織の戦略的な資源配分はしばしば衝突するように見える。これら2つの「直感」は矛盾するものであるようにも見えるため、どちらが正しいのかについて問いたくなる。

しかし、このような問い立ては、幾つかの点で混乱を招きやすい。第1に、「適応」という語が個人側と組織側で異なる概念を指しているにもかかわらず、同一視されがちであること。第2に、個人と組織は分析単位が異なるにもかかわらず、同じレベルで議論されること。そして第3として、最も重要なことに、両者の関係は正にも負にも無関連にもなり得るのに、一律の答えが求められること。

本稿では、2つの実務的な「直感」は、どちらか一方が誤りというより、成立する条件が異なっていると見る視点を提供したい。そのために、「個人の適応と組織の適応は両立するのか」という二者択一の問いではなく、両者がどのような関係にあり、その関係がどのような条件で生じ、そのとき人事は何を設計すべきか、という点を検討する。以下では、まず、先行研究における「適応」の捉え方(の多様性)を概観する。そして、個人の適応と組織の適応が連動するという視点について解説した上で、そうした視点が一般に成立するわけではないことについて議論する。最後に実務上の示唆について述べる。

何を「適応」と呼ぶのか

「個人の適応」と「組織の適応」を論じる難しさの1つは、同じ「適応」という語で、多様な内容が一括りになってしまうことである。そこで本節では、明確化のために、先行研究における用語の違いを簡単に整理する(図表1)。

<図表1>適応概念の整理

個人の適応に関する学術知見には、まず、変化する課題環境のもとで成果を出す行動に注目する適応的パフォーマンス(adaptive performance)の研究がある*1,2。簡単にいえば、「変化が起きたときにどれだけうまく対応できるか」を測る系統である。また、将来のキャリア課題に対処するための社会心理的資源を扱うキャリア適応性(career adaptability)の研究もある*3。こちらは、現在の行動というよりも、変化に備えるための資源(関心・統制・好奇心・自信)を対象とする。他にも、組織社会化(organizational socialization)や人―環境適合(person‒environment fit)も研究されている*4,5。これらはいずれも個人の適応を扱っているが、その内実は異なることに注意が必要である。

一方、組織側で適応というと、環境変化に対応する能力や学習の仕組みを指すことが多い。まず、探索と深化をどう両立するかという問題を捉える「両利き(ambidexterity)」の議論がある*6。また、環境変化のもとで内外の資源や能力を統合し、再構成する組織能力に注目するダイナミック・ケイパビリティに関する研究もある*7。さらに、外部知識の獲得・活用に関する「吸収能力(absorptive capacity)」の研究や、学習の組織的な定着を射程に入れる組織学習に関する研究も蓄積されている*8,9

個人の適応と組織の適応が連動するとき

では、個人の適応と組織の適応はどのような関係にあるだろうか。その2つが連動するケースから考え始めたい。

個人の適応が組織の適応につながるという実務上の直感は、単なる夢物語ではなく、それを支持する学術知見が存在している。例えば、従業員満足やエンゲージメントが事業単位の成果指標と関係することはメタ分析でも示されてきたし*10、役割外の自発的行動が周囲の遂行を支え、集団全体の効率性に資することも、組織市民行動の研究で繰り返し論じられてきた*11。また、個人の学習や知識獲得が、新製品開発や業務改善、知識蓄積を通じて組織の革新に寄与するという議論も広く共有されている*8,9。こうした研究によれば、個人側の適応資源・適応行動は、変化の多い環境で新しい課題に取り組み、学び直し、役割を調整するための基盤となる。企業の変化適応が、最終的には人を介して遂行される以上、個人の側に変化に対応する資源や行動傾向があることは、組織にとっても一定の意味をもつといえる。

もっとも、ここで重要なのは、こうした連動がどのような条件下で成立しているのか、という点である。ダイナミック・ケイパビリティや組織学習に関する研究は、個人の変化対応が協働や制度を通じて組織の側に波及する過程を重視している。また、組織適応に関する研究が繰り返し強調してきたように、組織能力やルーティン(行動パターン)は、個人の資質だけで生まれるのではなく、組織の構造や相互作用から生じる*12

つまり、個人の学びや主体性がいかに豊かであっても、それが共有されず、仕事の進め方や役割設計や制度に組み込まれなければ、組織の適応にはならない。言い換えれば、個人側の変化対応が組織としての能力へと変換される「回路」が存在することが、連動のためには必要となる。個人が新しい知見や仮説をもっていても、それが組織内で共有され、統合されなければ、組織としての行動変容にはつながらない。個人の適応から組織適応への変換回路は、個人の非公式な解釈や局地的な取り組みから公式的・全社的な制度へというプロセスが機能することによって初めて成立するものであるといえる。したがって、「個人を適応させれば組織も適応する」という素朴な推論は、個人から組織への変換過程を省略しているという意味で不十分である。個人の適応が組織の適応に結びつくには、そのための組織制度の設計が必要なのである。

個人の適応と組織の適応が連動しないとき

次に、個人の適応と組織の適応のあいだに連動(正の関連)を成立させる組織設計上の条件が満たされない場合を検討する。ここで重要なのは、非連動をすべて「対立」とみなすべきではない、ということである。個人と組織の適応が連動しないケースには、少なくとも2つの型がある。1つは、片方を高めることがもう片方を損なうという意味での「対立」(負の関係)であり、もう1つは、そもそも両者が接続されていないという意味での「独立」(無関連)である。

まず、前提として確認しておかなければならないのが、「個人について観察された関係を、そのまま組織に関する関係として読むことはできない」という理論上の問題である*14,15。例えば、図表2のように、個人についてのデータで正の関係が見えても、組織単位で見ると関連が逆向きになることがあり得る。これは、個人レベルでの適応状況が組織レベルでの適応に映し出されるとは限らないことを意味している。個人と組織の関係を論じる際には、こうした理論上の落とし穴に意識的である必要がある。

<図表2>観察するレベルによって関係性は変わり得る

「対立」となる条件

その上で、個人と組織が「対立」する状況とはどのようなものであるのだろうか。先行研究は幾つかの状況を示唆している。

第1に、個人と組織の目標の対立である。個人にとって合理的な行動が、集団や組織全体の観点では非効率になることは珍しくない。目標設定理論に基づく先行研究は、明確で挑戦的な目標の有効性を示してきた一方で、個人目標と集団目標が同時に課されると、パフォーマンスが下がる可能性も明らかにしてきた*16,17

第2に、資源配分の設計が負の関係を生む場合がある。組織の資源配分のあり方が、現状の最適化に過度に偏った状態では、変化に備えた探索行動は個人にとっては単なる負担として扱われやすい。その場合、個人の学習や試行錯誤は組織適応へ翻訳される前に摩耗してしまう*6

第3に、個人の適応や主体性それ自体が、組織にとって負に働く場合がある。例えばキャリア適応性は本人の方向性と結びついていないと、成果向上と同時に離職意向にもつながり得る*18,19。同様に、プロアクティブ行動も、組織に受容されなければ摩擦や疲弊をもたらし得る*20

これらは、組織は変化を求めながら、同時に変化の担い手を消耗させるという矛盾に陥る例である。個人の適応を単純に促すだけではなく、それが組織内でどのような方向へ使われるのかを設計しなければ、両者は容易に対立へ転じ得る。個人と組織の対立は、組織の制度上の問題として生じるのである。

「独立」となる条件

個人と組織の適応が連動しないからといって、それが直ちに対立を意味するわけではない。むしろ重要なのは、両者がそもそもつながっていない場合(「独立」の場合)が少なくないことである。

そうした状況が生じる典型例の1つと考えられるのは、組織適応の主要因がそもそも個人適応ではない場合である。組織の変化対応や能力構築がトップダウンの戦略的な意思決定、例えばM&Aや事業ポートフォリオの再編などを主因としてなされている(少なくともそれが企図されている)ような場合には、そこで働く個人の適応は組織適応のための主要因とはならないことがある。こうした状況では、個人適応と組織適応の結びつきが弱いことは、必ずしも失敗を意味しない。むしろ、両者を無理に一本化しない方が合理的な局面であるとも考えられる。

また、個人の適応が組織の適応へと変換される回路が「ない」場合も、そこで生じるのは、個人と組織の衝突ではない。両者は単に切り離されて(独立して)いるだけだと見るのが適切である。

こうした議論が示すのは、個人の適応と組織の適応の関係は、状況によって異なるということである。制度的な支えがあれば、個人の適応は組織の適応に接続されるが、目標が食い違い、主体性が組織内に居場所を見つけることができなければ、対立の関係にも転じ得る。そして、そうした関連の条件が不在であったり、組織適応の主要因が個人とは離れた経営判断にあったりする場合には、両者はそもそも結びつかずに独立した事象となる。

個人と組織の関係性によって必要な対応は異なる

こうした議論から、自組織での両者の関係性を診断し、それに応じて対応を変えることが、実務上は必要となるだろう。以下では、連動・対立・独立の3つの型ごとにとるべき対応と避けるべき誤りについて整理する(図表3)。

<図表3>個人の適応と組織の適応の関係を分ける条件

まず、「連動型」とは、個人への投資が組織能力の更新へと翻訳され、組織の変化対応が個人の成長や学習機会も支える関係である。典型例は、リスキリングや越境学習が内部機会と接続し、個人の学びが新事業や新業務の遂行能力として生かされる場合である。ある意味で、人事の理想形のような状況かもしれない。ただし、連動型であっても「個人に学ばせれば自然と組織変革や成果につながる」とみなすことは誤りである。連動型においては、今起きている連動を再現可能にすることが重要であり、個人の学びや主体性が組織能力の更新につながる経路が働き続けるようモニタリングすることが実務の中心課題になる。そのためには、個人の適応(例えば学習行動やキャリア適応性の変化)と組織の適応(例えば新業務への配置転換の実現度や作業標準の更新頻度)を別々に把握した上で、両者の接続点を指標として追うことが必要になるだろう。

次に、「対立型」とは、片方を高める施策が、もう片方を損なっている状態である。組織の適応戦略が個人の適応の妨げになっている状況が該当する。典型例としては、リスキリングや動機づけの支援がない一方的な配置転換、内部機会を伴わないキャリア自律支援、短期KPIのみの目標設定で個人の探索を圧迫するなどのケースが考えられる。対立型で最優先なのは、まず悪循環を止めることであり、個人と組織の両者の接続を作り直すことが必要となる。例えば、個人のキャリア方向性と組織の変化方向を結びつける対話の場を設計することが役立つかもしれない。また、個人の学習や越境経験が組織内の機会へ返ってくる設計を厚くすることも有用だろう。直ちに「連動型」への移行を目指すのではなく、どこに対立の原因があるのかを事後的に点検することが重要であると思われる。

最後に、「独立型」とは、個人の適応と組織の適応が、少なくともその局面では連鎖していない状態である。M&Aや事業ポートフォリオ再編など、組織適応の中心が資本配分や構造変化といったトップダウンの意思決定にある場面では、個々人の適応が組織の適応につながる必然性は少ない。こうした状況で人事に求められるのは連動を演出することではなく、むしろ、両者の分離を前提にしつつ、個人の成長機会の確保や幸福感の向上などを通じて、個人と組織の適応の関係が対立へと転化しないようにすることが重要になる。両者に関連がないのは失敗ではない。局面によっては、無理に結びつけるより、切り分けて管理した方が合理的なのである。

おわりに

以上の議論が示すのは、個人の適応と組織の適応の関連性を紐解く視点の重要性である。

本稿が論じたのは、個人の適応と組織の適応を常に一致させる処方箋ではない。企業に必要なのは、「個人の適応を高めれば組織も適応する」と信じることでも、「両者は必ず対立する」と諦めることでもない。個人と組織の適応を、どの局面で関連づけて問うべきかを見極め、その時点の関係性に応じて人事設計を調整していくことである。企業の変化適応と個人のキャリア自律の接点とは、自然に与えられるものではない。それは、関係性の型を見極めた上で、場面ごとに設計し、検証し続ける対象なのである。

*1 Pulakos, E. D., Arad, S., Donovan, M. A., & Plamondon, K. E. (2000). Adaptability in the workplace: Development of a taxonomy of adaptive performance. Journal of Applied Psychology, 85(4), 612–624.

*2 Griffin, M. A., Neal, A., & Parker, S. K. (2007). A new model of work role performance: Positive behavior in uncertain and interdependent contexts. Academy of Management Journal, 50(2), 327–347.

*3 Savickas, M. L., & Porfeli, E. J. (2012). Career adapt-abilities scale: Construction, reliability, and measurement equivalence across 13 countries. Journal of Vocational Behavior, 80(3), 661–673.

*4 Bauer, T. N., Bodner, T., Erdogan, B., Truxillo, D. M., & Tucker, J. S. (2007). Newcomer adjustment during organizational socialization: A meta-analytic review of antecedents, outcomes, and methods. Journal of Applied Psychology, 92(3), 707–721.

*5 Kristof-Brown, A. L., Zimmerman, R. D., & Johnson, E. C. (2005). Consequences of individuals' fit at work: A meta-analysis of person-job, person-organization, person-group, and person-supervisor fit. Personnel Psychology, 58(2), 281–342.

*6 March, J. G. (1991). Exploration and exploitation in organizational learning. Organization Science, 2(1), 71–87.

*7 Teece, D. J., Pisano, G., & Shuen, A. (1997). Dynamic capabilities and strategic management. Strategic Management Journal, 18(7), 509–533.

*8 Cohen, W. M., & Levinthal, D. A. (1990). Absorptive capacity: A new perspective on learning and innovation. Administrative Science Quarterly, 35(1), 128–152.

*9 Crossan, M. M., Lane, H. W., & White, R. E. (1999). An organizational learning framework: From intuition to institution. Academy of Management Review, 24(3), 522–537.

*10 Harter, J. K., Schmidt, F. L., & Hayes, T. L. (2002). Business-unit-level relationship between employee satisfaction, employee engagement, and business outcomes: A meta-analysis. Journal of Applied Psychology, 87(2), 268–279.

*11 Organ, D. W. (1988). Organizational citizenship behavior: The good soldier syndrome. Lexington Books.

*12 Felin, T., Foss, N. J., Heimeriks, K. H., & Madsen, T. L. (2012). Microfoundations of routines and capabilities: Individuals, processes, and structure. Journal of Management Studies, 49(8), 1351–1374.

*13 Gibson, C. B., & Birkinshaw, J. (2004). The antecedents, consequences, and mediating role of organizational ambidexterity. Academy of Management Journal, 47(2), 209–226.

*14 Chan, D. (1998). Functional relations among constructs in the same content domain at different levels of analysis: A typology of composition models. Journal of Applied Psychology, 83(2), 234–246.

*15 Kozlowski, S. W. J., & Klein, K. J. (2000). A multilevel approach to theory and research in organizations: Contextual, temporal, and emergent processes. In K. J. Klein & S. W. J. Kozlowski (Eds.), Multilevel theory, research, and methods in organizations: Foundations, extensions, and new directions (pp. 3–90). Jossey-Bass.

*16 Locke, E. A., & Latham, G. P. (1990). A theory of goal setting & task performance. Prentice Hall.

*17 Crown, D. F. (2007). Effects of structurally competitive multilevel goals for an interdependent task. Small Group Research, 38(2), 265-288.

*18 Haibo, Y., Xiaoyu, G., Xiaoming, Z., & Zhijin, H. (2018). Career Adaptability With or Without Career Identity: How Career Adaptability Leads to Organizational Success and Individual Career Success? Journal of Career Assessment, 26(4), 717-731.

*19 Baranchenko, Y., Xie, Y., Lin, Z., Lau, M. C. K., & Ma, J. (2020). Relationship between employability and turnover intention: The moderating effects of organizational support and career orientation. Journal of Management & Organization, 26(2), 241-262.

*20 Parker, S. K., Wang, Y., & Liao, J. (2019). When is proactivity wise? A review of factors that influence the individual outcomes of proactive behavior. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 6, 221–248.

 ※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.82 特集1「企業の変化適応とキャリア自律の接点」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

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組織行動研究所
主任研究員

仲間 大輔

大学院を経て、2006年リクルート入社。グローバルM&AとPMI等に従事し、米国駐在などを経て、2017年4月より現職。東京大学から社会心理学で博士号を取得。 米国公認会計士。
現在は、チームと組織デザインをテーマに、コーディネーションと協力行動に関する研究を行っている。Advancement Prize for MSEM Nominated Prize 受賞(The 12th International Conference on Management Science and Engineering Management.)

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