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働く人の安全や幸福を考える

職場における尊厳(dignity at work)という概念に関連する研究や理論

  • 公開日:2026/01/13
  • 更新日:2026/01/13
職場における尊厳(dignity at work)という概念に関連する研究や理論

機関誌RMS Message80号では、「尊厳ある職場を考える」というテーマで特集を組んだ。
多くの人は、「尊厳」という言葉で、戦争や暴力によってそれが危険にさらされることを想像するのではないだろうか。広辞苑では、尊厳とは「とうとくおごそかで、おかしがたいこと」、大辞泉では「とうとくおごそかなこと。気高く犯しがたいこと。また、そのさま」と説明されている。「おかしがたいこと」という文言があるように、尊厳は多い方がよいというより、損なわれることのないようにすべきものと捉えられている。
「とうとくおごそか」の部分も分かりにくいが、人であれば誰もが有するものであり、人間性に基づき絶対的な価値をもつものとされることが多いようである。ところが、この「誰もが」と「絶対的な価値」については、仕事における尊厳の研究では、やや柔軟に扱われている感がある。
法律や倫理に関する記述に使用されることの多い用語であるが、働く人の安全や幸福との関連において、産業組織心理学や経営学のなかで、近年注目されるようになっている。そこで本稿では、これらの分野で用いられる「尊厳」という概念に関連する研究や理論のレビューを行う。

職場における尊厳とは
生得的な尊厳と獲得された尊厳
主観性
社会性と尊厳
テクノロジーと尊厳

職場における尊厳とは

職場における尊厳の研究は、比較的近年になって、本格的に始まった。そのきっかけとなったのが社会学者のHodsonが2001年に出版した『Dignity at Work』で、そのなかでは、工場や病院、レストランや警察といったさまざまな職業に従事する人たち200名近くの観察とインタビューから、仕事の尊厳を保つ、あるいは毀損する際の要因についてまとめている*1。その後Hodsonらは、働く人の尊厳とは、仕事における意義や達成の感覚と、ポジティブで支援的な同僚との関係を実現する組織の営みによってもたらされるものであると述べている(p.680, 筆者訳)*2

これ以降、尊厳についての学術的定義はさまざまな研究者によって提案されている。1つに定まったものはないが、中心的な研究者の定義を2つ紹介する。Gibsonらは、仕事における尊厳を、不満、排除、使い捨てられる感覚がなく、つながり、尊重、そして意味のある経験が存在する状態で、個人が職場で経験する「生得的な」、あるいは「獲得された」相応の価値(worth)、個人的価値(value)、尊敬(esteem)と定義している(p.230, 筆者訳)*3

一方BlusteinとAllanは、職場における尊厳を、獲得された尊厳と生得的な尊厳の両方を包含するものであり、人権と一致した自律的に行動する能力;多様なアイデンティティ、信念、価値観の肯定;人間らしい扱いを受けること;適切な労働条件へのアクセス;組織化と抵抗の自由;そして貢献、意味ある活動、達成の機会を含むものと定義する(p.492, 筆者訳)*4

上記2つの定義に共通して見られる要素は、「生得的な尊厳と獲得された尊厳の2種類があること」「他者から人としてふさわしい扱いを受けること」「自分の価値観に合った意味のある活動をすること」になる。生得的な尊厳は誰もがもつことを前提としているが、獲得された尊厳はそうではない。ちなみに残る2つの共通要素である「他者から人としてふさわしい扱いを受けること」は生得的な尊厳に、「意味のある活動をすること」は獲得された尊厳に対応すると考えられる。加えて、Gibsonの定義には明確に「尊厳は個人が経験するもの」とあり、BlusteinとAllanの定義にも「信念や価値観の肯定」「貢献、意味ある活動、達成の機会」とあるように、尊厳は経験と主観を含むものである。

生得的な尊厳と獲得された尊厳

生得的な尊厳は、人間であるというだけで、すべての人々が平等にその権利を有するという信念に根ざしている。この尊厳は「人間の尊厳」として、国際労働機関のフィラデルフィア宣言や国連の経済的、社会的、文化的権利に関する国際規約などの文書において、明言され、制度化されている※。

※本稿で「生得的な尊厳」としている「inherent dignity」は、国連人権条約などの公定訳では「固有の尊厳」とされる。 ここでは、人間が生まれながらにして有しているという意味をより直感的に伝えるため、「生得的」という表現を用いた。

他方、獲得された尊厳は、個人が獲得する特別な地位や権利として位置付けられ、能力、努力、貢献などに応じて、異なる程度で存在するとされる*5

これら2種類の尊厳の関係性についても、さまざまな議論がある。生得的な尊厳が満たされた上で、獲得された尊厳が重視されると、通常考える。一方で、獲得された尊厳があれば生得的な尊厳はなくても十分なのかといった哲学的な議論もあるようだ。例えば、収入が安定しない仕事でも、自身を危険にさらす仕事でも、誇りをもってその仕事に従事している人は多くいる。

また、組織の側から見ると、これら2種類の尊厳は、ある種の矛盾をはらんでおり、実践的な課題を引き起こすことがある*6。組織が一部の人々をより高い尊厳に値するものと位置付けることは、必然的に全員が等しい尊厳をもつことができないことを意味するからである。

組織の生産性が個人の尊厳と両立し得るのかを検討した社会学の研究がある*2。204に及ぶ職場や組織のケーススタディを丁寧にコーディングし、それを用いて、仕事と組織レベルでの特徴の組み合わせによって、生産性を上げることと個人の尊厳が保たれることの両方が、実現可能であることを示している(図表1)。組織と個人の双方にとって、望ましい結果をもたらすものとして、例えば、組織が円滑に運営され、従業員が高い関与を示し、職権を乱用する上司ではないといった状況がある。あるいは、組織と個人の双方にとって望ましくない結果をもたらすものとして、組織運営が円滑でなく、現場での人材育成がなされていないといった状況がある。ポジティブとネガティブな要素の組み合わせの場合についても検討されている。例えば、雇用の安定性があり、現場での人材育成がなされている場合は、職権を乱用する上司であっても、個人の尊厳にはプラスの影響があるものの、組織の生産性は低下した。今後類似の研究が必要ではあるが、生産性の向上と個人の尊厳は、一方を立てれば一方が立たないといったものではなく、両方にとって望ましい状況というのが存在するといえる。

<図表1>組織実務の組み合わせの結果のまとめ

組織実務の組み合わせの結果のまとめ

主観性

尊厳を論じるときのもう1つの重要な要素が、主観性である。生まれ持った尊厳は、例えば健康に配慮された就労環境(eg.労働法による長時間労働や連続勤務の規制、危険または有害な環境での作業の規制など)は、主観にかかわらず誰にとっても尊厳を保つために必要だといえる。一方で、少し前は珍しいことではなかった、性別によって職業選択の自由が制限されるケースはどうだろうか。当時の人は、その状況に尊厳が傷つけられたと思う人もいれば、そうでない人もいただろう。つまり、尊厳が脅かされていると感じるかどうかは、受け手の主観による場合がある。

ただし主観性といっても、それは個人的なものに限らない。Lee(2008)は、尊厳は外部者の認識ではなく、個人または集団自身の認識である(p.8, 筆者訳)としている*7。性別の職業選択の例も、何が公正な扱いであるのかは社会的基準によって影響を受ける。個人の尊厳の認識には、集団での基準も関連する。その結果として、尊厳は国の文化や組織文化によって異なる可能性も指摘されている。

尊厳の主観性について直接的に検討した研究では、メンバーを尊重する組織風土があることや、仕事が意義あるものであることを超えて、主観的に尊厳があると感じることや尊厳がないと感じることが、エンゲージメントの高さといった望ましい結果や、離職意図やバーンアウトのような望ましくない結果を引き起こす可能性を示している(図表2)。

尊厳に関する介入を考える際に、自組織のメンバーの特徴や組織の価値観を考慮する必要があることが示唆される。

<図表2>仕事における尊厳の観察された先行要因と結果の関連

仕事における尊厳の観察された先行要因と結果の関連

社会性と尊厳

性差別によって尊厳が失われたと感じるケースがあるように、また、図表2の尊厳の先行要因に組織内の階級があるように、尊厳は不平等な扱いを受けることで毀損される。つまり尊厳は私たちが社会的動物であることに起因するといえる。人の社会性と尊厳の関係を考えるにあたって、ここでは社会的公正(Social justice)と対人関係を取り上げる。

尊厳の議論には、社会的公正の概念が持ち出されることが多い。Blusteinは尊厳研究の理論的ベースに社会的公正概念を据えており、ここでは特に人種や性別など、あるいは特定の職業集団(eg. ギグワーカー)などの社会的弱者に着目した視点が扱われている*4

一方で組織的公正の議論では、より詳細に公正を分類する。成果・資源の配分に関わる分配的公正、意思決定プロセスに関わる手続き的公正、上司や同僚から敬意・礼儀をもって扱われるかの対人的公正、十分で誠実な説明が与えられるかの情報的公正の4種類があるとされている*9。社会的公正、組織的公正のいずれにおいても、自己を含む特定の対象がそれ以外の人と比較して、公正さを欠く扱いを受けていないかを問題視する。理由によっては、またその扱われ方によっては、尊厳が失われたと感じる。

組織的公正の議論は、獲得された尊厳の議論と密接に関係する。すべての人を平等に扱うことが難しい場合、組織は納得のいく説明や対応を行うことで、組織メンバーを公正に扱おうとする。一方で、他者よりも低い評価や処遇を受けることになった組織メンバーにしてみれば、組織は公正さを欠くものと受け止める可能性がある。

図表3は、BlusteinとAllanが尊厳の先行要因と結果変数をまとめたものである*4図表2は実証研究の結果として、先行要因と結果変数の関係をまとめたものであるが、おおむね構造はそちらと異ならない。ただ、図表3は先行要因に、社会的なレベルのものが含まれていることが特徴的である。例えば、市場での競争の激化や社会的なセーフティネットの弱体化などの社会的・政治的・経済的な文脈に関わるものと、人種やその他の理由による差別の結果生じる権力や抑圧のシステムがある。さらに、「抵抗」が図に含まれている点も異なる。「抵抗」とは、人は尊厳が失われそうになったときに単にそれを受け入れるのでなく、さまざまな方法でそれに対応を試みることを指す。

<図表3>職場における尊厳の先行要因と結果変数

職場における尊厳の先行要因と結果変数

尊厳が毀損されたときに、当人にそれに対抗する手段があることを強調したもので、働く個人にとって有益な視点である。労働争議のように集団でのアクションにつながるものもあれば、自分の仕事の意味を再定義してみるといった、個人で行う心理的なものもある。後者の例として、汚れに物理的に接する仕事をしていることから尊厳の毀損を経験しているごみ収集の作業員は、自分たちの仕事を日常的な英雄的行為と捉えることで、尊厳を内面化していた*10。同様に、ラテン系の農場労働者は、差別や不正に直面しつつも、自分の能力を誇りに思い、環境のなかに美しさを見つけ、有意義な人間関係を築くことで、尊厳を維持していた*11

テクノロジーと尊厳

最後に簡単にテクノロジーと尊厳の関係について、触れておく。近年のAIの利用によって、さまざまな倫理的な問題が指摘されるようになっている。その1つが、AIに仕事が奪われるという懸念である。これは、Gibsonらの定義にある「使い捨てられる感覚」に直結するものである。加えて、ここでは自律的な行動が制限される可能性について考えてみる。

製造や物流現場で仕事を行う人やギグワーカーを主な対象として、アルゴリズミック・マネジメントが用いられるようになっている。アルゴリズミック・マネジメントとは、タスクの割り当て、パフォーマンスの評価、報酬設定などのマネジメント機能をアルゴリズムに委譲することを指す*12。アルゴリズミック・マネジメントの状況下では、動作や作業が事細かに記録され活用されることで、従事する人の自律性が損なわれているとの指摘がなされている*13。BlusteinとAllanの定義にある「自律的な行動する能力」を発揮できない状況であり、尊厳が危機にさらされることになる。

職場における尊厳は、テクノロジーの進歩に加えて、国の政策の影響も受ける。アルゴリズミック・マネジメントは、同様の仕事であっても、先進国ではなく開発途上国において、仕事の質を低下させる可能性を示した*14

職場における尊厳は、これまでは主に人種や性別のマイノリティや経済的弱者にとって深刻な問題であった。しかし、テクノロジーの影響に見られるように、組織の生産性向上を目指して導入されたものが、尊厳を脅かす可能性についても、今後は視野を広げて検討を進めることが求められる。

*1 Hodson, R. (2001). Dignity at work. Cambridge University Press.

*2 Hodson, R., & Roscigno, V. J. (2004). Organizational success and worker dignity: Complementary or contradictory? American Journal of Sociology, 110(3), 672-708.

*3 Gibson, C., Thomason, B., Margolis, J., Groves, K., Gibson, S., & Franczak, J. (2023). Dignity inherent and earned: The experience of dignity at work. Academy of Management Annals, 17(1), 218-267.

*4 Blustein, D. L., & Allan, B. A. (2024). Dignity at work: A critical conceptual framework and research agenda. Journal of Career Assessment, 33(3), 489-509.

*5 Brennan, A., & Lo, Y. S. (2007). Two conceptions of dignity: Honor and self-determination. In J. Malpas & N. Lickiss (Eds.), Perspectives on human dignity: A conversation: 43–58. Dordrecht, Netherlands: Springer.

*6 Lucas, K. (2017). Workplace dignity. The international encyclopedia of organizational communication, 4, 2549-2562.

*7 Lee, M. Y. K. (2008). Universal human dignity: some reflections in the Asian context. Asian Journal of Comparative Law, 3, 1–33.

*8 Thomas, B., & Lucas, K. (2019). Development and validation of the workplace dignity scale. Group & Organization Management, 44(1), 72-111.

*9 Colquitt, J. A. (2001). On the dimensionality of organizational justice: A construct validation of a measure. Journal of applied psychology, 86(3), 386.

*10 Hamilton, P., Redman, T., & McMurray, R. (2019). ‘Lower than a snake’s belly’: Discursive constructions of dignity and heroism in low-status garbage work. Journal of Business Ethics, 156(4), 889-901.

*11 Areguin, M. A., & Stewart, A. J. (2022). Latina farmworkers’ experiences: Maintaining dignity in an oppressive workplace. Gender, Work & Organization, 29(4), 988-1007.

*12 Lee, M. K., Kusbit, D., Metsky, E., & Dabbish, L. (2015). Working with machines: The impact of algorithmic and data-driven management on human workers. In Proceedings of the 33rd annual ACM conference on human factors in computing systems (pp.1603-1612).

*13 Del Pero, A. S., Wyckoff, P., & Vourc’h, A. (2022). Using artificial intelligence in the workplace: What are the main ethical risks? OECD Social, Employment and Migration Working Papers No. 273.

*14 Rani, U., Pesole, A., & Vázquez, I. G. (2024). Algorithmic Management practices in regular workplaces: Case studies in logistics and healthcare. Luxembourg: Publications Office of the European Union.

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.80 特集1「尊厳ある職場を考える」より抜粋・一部修正したものである。
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技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
主幹研究員

今城 志保

1988年リクルート入社。ニューヨーク大学で産業組織心理学を学び修士を取得。研究開発部門で、能力や個人特性のアセスメント開発や構造化面接の設計・研究に携わる。2013年、東京大学から社会心理学で博士号を取得。現在は面接評価などの個人のアセスメントのほか、経験学習、高齢者就労、職場の心理的安全性など、多岐にわたる研究に従事。

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