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新卒採用に関する歴史や他国との比較から

日本の新卒採用を捉える視点

  • 公開日:2025/01/20
  • 更新日:2025/01/20
日本の新卒採用を捉える視点

日本におけるいわゆる新卒一括採用は、明治期にその萌芽が見られ、それ以降、現在に至るまで、日本企業における人材調達の中心的手法の1つとして考えられている。日本の雇用環境においては、社会・企業・学生に多くのメリットをもたらす一方で、「青田買い」「就職氷河期」「就職活動の早期化・長期化」「オワハラ」など、その時々の経済環境を反映し、社会課題として議論されてきている。本稿では、改めて日本の新卒採用に関する歴史や他国との違い、メリット・デメリットを提示しながら、今後の日本の新卒採用について考えていくための土台を整理してみたい。

“日本の新卒採用”の定義
日本の新卒採用の歴史
日本の新卒採用の他国との比較
日本の新卒採用のメリット・デメリット

“日本の新卒採用”の定義

谷田部(2018)*1は、日本企業における採用管理の特徴として、「新卒・定期・一括採用」を挙げている。具体的には、採用の対象が新規学卒者中心であり、定期的、特に春季(4月)に職種を限定せず社員として一括採用する、主に中堅・大企業の採用慣行として整理を行っている。安田(2023)*2によると新規学卒者のうち高等学校卒業予定者は、「一人一社制」といわれる特有の就職慣行があり、自由応募である大学・大学院卒の労働市場とは一線を画しており、高卒の就職者の比率は大学などの進学者の4分の1程度と比較的少数であるとしている。

また、従業員数300名未満の中小企業において77.6%が大学・短期大学・高等専門学校卒業予定者の新卒採用活動を実施しているという調査*3もある。従業員数300名以上の大企業(97.2%)と比較すると割合は低いものの、一定数の企業で新卒採用が行われていることが分かる。

上記を踏まえ、本レビューにおいては、「大学・大学院卒の新規学卒者を主な対象とし、毎年定期的に行われる一括採用」を日本の新卒採用として定義する。つまり、広く日本の新卒採用一般を想定し、その歴史、他国との違いを中心に整理することとする。

日本の新卒採用の歴史

今後の日本の新卒採用を考えるための土台整理の位置づけとして、その歴史を簡略化し概観することを試みた(図表1)。詳細については参考文献*1~11をご確認いただきたい。

<図表1>新卒採用に関する歴史概観

新卒採用に関する歴史概観
1800年代末~1900年代初頭:企業における新卒採用の開始と縁故採用

日本の新卒採用の始まりについては諸説あるが、1800年代末に財閥系企業を中心に大卒の定期採用が開始されたといわれている。それまでは、大卒者の就職先は官庁に限られていたが、管理的職務を担うホワイトカラー層としての定期採用が一般化したものである。当時、企業の採用選考を受ける際には紹介者が必要で、縁故をベースに就職の斡旋を依頼する/されることは、正当な行為として理解されていた。大卒者の人数自体が人口のごく一部であったこともあり、紹介という採用手法が一定の信頼をもって捉えられていた。加えて、選考にあたっては、学校の成績が重視されていたようである。

戦前:企業における新卒採用の広がりと選抜基準としての人柄・人物

1920年代から1930年代にかけて、新卒採用を行う企業は広がりを見せた。教育改革の影響を受け、大学・専門学校数が急増したことで、学校の多様化、求職者の増加が起こった。

さらに、企業の近代化も相まって、選抜基準としての学校成績の有用性が相対的に低下したことで、選抜時に人柄・人物も重視していく流れが生まれたといわれている。1928年には大手企業を中心に、入社試験は卒業後に行うことを定める動き(「六社協定」)があったものの、卒業前に就職が決まる現在の新卒採用の原型がこの頃できたといわれている。

戦後~1970年代:新卒の大量採用と学生の自由応募の広がり

戦後も戦前期と同様、学校推薦をベースとする新卒・定期採用方式が継続された。1950~1960年代の高度成長期に入ると、大卒者の大量採用が本格化した。「就職協定」の取り決めや、採用活動の早期化が「青田買い」という言葉で社会問題として取り上げられたのもこの頃である。1960~1970年代には、大学紛争の影響、また民間の就職情報会社の設立により、学生の自由応募の仕組みが広がったといわれている。加えて、第三次産業の拡大にともない、就職先の多様化が進んだ。

当時は、企業が特定の大学のみに自由応募で試験することを伝える、指定校内自由応募といった形をとる企業もまだまだ一般的だったようだが、だんだんと今日見るような日本の新卒採用の形態が形づくられたと考えられる。

1980年代:バブル景気と青田買いの再燃

1980年代には景気が回復し、バブル景気に入っていく。1991年卒の大卒求人倍率*7が2.86倍となり、統計開始後の最大値を記録するなど、1980年代は企業の採用意欲が右肩上がりに高まっていった。

企業の採用競争が熾烈になるなかで、再び「青田買い」が社会問題化した。対策として、「就職協定」の改定が繰り返し行われたが、企業や学生側の協定違反が頻発し、結局は、違反によって築かれた基準をルールとして適用・追認するという形で「就職協定」は変化していった。

1990年代:バブル崩壊と就職氷河期、インターンシップの始まり

バブル崩壊を契機に、企業は新規採用を大幅に削減した。1996年には「就職氷河期」という言葉が流行語となり、世間では、フリーターの増加や大卒無業者が社会問題として取り沙汰されるようになった。

また、1997年に政府の公的文章に「インターンシップ」という用語が初めて用いられ、日本の新卒採用において、インターンシップがだんだんと一般化するようになっていった。

2000年代以降:自由応募の加速、採用選考の早期化・長期化

2000年代に入って、大卒求人倍率は回復し、1990年代後半の就職ナビサイト登場により大学生の企業への応募の自由化が大幅に加速した。2010年代は、採用の早期化への対策を目的として、新卒採用スケジュールが繰り返し変更された。また、2010年代後半より、企業によるインターンシップが当たり前化していった。インターンシップの推進にあたっての基本的考え方(3省合意)の改正も行われている。現在(2024年時点)は、広報活動開始を3月1日、採用選考活動開始を6月1日として政府は原則を提示しているが、5月末までに内定取得している学生は約7割という調査*11もあり、実態としては「就職活動および採用活動の早期化・長期化」が進んでいる。

まとめ:ルールを変容させつつ雇用慣行として受け入れられてきた新卒一括採用

日本の新卒採用は明治期にその萌芽が見られ、1970年代の高度成長期には今日見られるような日本の新卒採用の仕組みが形づくられていった。時代背景、経済状況、技術的な進歩によって、その仕組み自体が有する課題が顕在化し、それに対応するようにルールを変化させてきているが、新卒一括採用は、いまだに日本企業の採用行動の中心であると考えられる*2

日本の新卒採用の他国との比較

次に、日本の新卒採用の特徴を他国と比較することで整理していきたい。

リクルートワークス研究所が2024年に行った調査*12では、労働者が初めて就職した時期について、各国の結果を比較している(図表2上)。日本においては、“大学(大学院)卒業後すぐ”の割合が78.9%と他国と比べて圧倒的に多い。加えて、初職の就業形態においては、実に93.2%が正社員という結果だった(図表2下)。大学(大学院)生が、卒業後すぐに正社員として就職するという「間断なき移行」*13は他国と比較した際の日本の特徴と考えられる。

<図表2>日本の新卒採用の他国との比較

日本の新卒採用の他国との比較

一方で、新卒・定期採用方式は日本独特の採用慣行という思い込みが広く存在するものの、他国においても一定の新卒採用が行われていることを指摘する意見もある*1

例えば、アメリカにおいては、「職業紹介業者」「求人広告」などを通じた採用活動が一般的といわれているが、カレッジ・リクルーティングあるいはキャンパス・リクルーティング(以下、CR)と呼ばれる、大学のキャリアセンターを通じた採用も行われている。

CRは、年2回、毎年定期的に行われるという意味で日本の新卒採用とも似ているが、その規模は調査によって異なり、必ずしも明確ではない。CRは、高度専門職、管理職候補の採用手段の1つと考えられており、企業側が対象大学を特定する「指定校」形式となっていることが特徴的で、面接、学業成績、社会奉仕活動などの他、長期のインターンシップで学生の態度や能力を見極めてから、採用オファーを出すケースも多いようである。CRはこうした形式にもかかわらず、学歴差別や学歴主義といった形での批判はほとんどなく、一般的な手法の1つとして受け入れられている。

また、韓国においては、1980年代には日本の新卒一括採用に類似した大量定期採用が見られた(対象者は30歳未満の既卒者も含めているケースが多い)。一方、1990年代の経済危機を皮切りに、採用方式の細分化、多様化、専門化が進んだとされており、定期採用から随時募集の中途採用のような形へ変化していったといわれている*14

つまり、アメリカや韓国における新卒採用は、既卒者と同枠の競争的な環境のなかで行われることが一般的であることが想定され、日本の新卒採用は、既卒者とは別枠で採用が行われていることが特徴的である。また、先述のとおり「間断なき移行」も特徴として挙げられるだろう。

新卒採用をはじめとした採用活動は、各国の企業における人事制度などの影響を大きく受けているものである。日本の新卒採用は、メンバーシップ型、終身雇用・長期雇用、年功的昇進・賃金体系などの日本的雇用システムを背景として大学および大学院卒者が、“集団”として労働市場に移行する仕組みとして捉えることができる*15

日本の新卒採用のメリット・デメリット

最後に、日本の新卒採用のメリット・デメリットを企業側・学生側の視点から整理したい(図表3)。

<図表3>日本の新卒採用のメリット・デメリット

日本の新卒採用のメリット・デメリット

企業にとってのメリットとして挙げられるのが採用選考、人材育成の観点からの効率性である。これは、メンバーシップ型といわれる日本の雇用環境において、中長期的な人材育成の仕組みがベースにある。その他、安定的な人材確保および適正な人員構成の維持、新入社員が組織に入ってくることによる組織活性化もメリットとして語られる。一方、デメリットとしては、ミスマッチが起こる可能性、採用選考や人材育成において時間やコストがかかることが指摘されている。

学生にとってのメリットとしては、職業能力を有していなくても、学業生活から職業生活への円滑な移行ができるという点がある。新卒採用という仕組みが社会全体での若年層の失業率低下に寄与していることは学生にとってメリットだろう。一方、デメリットとしては、在学中の就職活動により学業がおろそかになってしまうこと、ミスマッチが起こりやすいことが指摘されている。その他、新卒時に就職しないと、その後の就職機会を逃しやすい可能性、景気変動などによる卒業年次による不公平性も指摘されている。

日本の新卒一括採用は、日本の雇用システムに沿う形で成り立ってきた仕組みであり、企業・学生・社会にとって、一定の有用性が認められているからこそ、現在も運用されていると考えられる。一方で、日本型雇用システムの変化、労働者の価値観の多様化など、日本の企業や労働者を取り巻く環境も変化しつつあるなかで、今一度、新卒採用のあり方を再考する価値があるのではないか。

*1 谷田部光一(2018)日本企業における新卒採用管理の実態と方向性,政経研究,第55巻第1号.

*2 安田宏樹(2023)日本企業の新規学卒者の位置づけに変化はあるか,日本労働研究雑誌,No.756.

*3 文部科学省(2023)令和5年度就職・採用活動に関する調査(企業).

*4 吉本隆男(2017)日本型就職システムの変遷,都市住宅学,99号.

*5 福井康貴(2016)『歴史のなかの大卒労働市場 就職・採用の経済社会学』勁草書房.

*6 常見陽平(2015)『「就活」と日本社会 平等幻想を超えて』NHK出版.

*7 リクルートワークス研究所(2024)大卒求人倍率調査(2025年卒).

*8 脇坂明(2011)均等法後の企業における女性の雇用管理の変遷,日本労働研究雑誌,No.615.

*9 亀野淳(2021)日本における大学生のインターンシップの歴史的背景や近年の変化とその課題―「教育目的」と「就職・採用目的」の視点で,日本労働研究雑誌,No.733.

*10 就職みらい研究所(2019)就職白書2019(冊子版).

*11 就職みらい研究所(2024)就職白書2024(冊子版).

*12 リクルートワークス研究所(2024)「日本型雇用」のリアル―多国間調査からいまの日本の雇用を解析する.

*13 岩永雅也(1983)若年労働市場の組織化と学校,教育社会学研究,38.

*14 堀有喜衣・岩脇千裕・小杉礼子・久保京子・小黒恵・柳煌碩(2022)『日本社会の変容と若者のキャリア形成』第6章韓国における若者政策の展開,労働政策研究・研修機構.

*15 労働政策研究・研修機構編(2017)『「個人化」される若者のキャリア』労働政策研究・研修機構.

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.76 特集1「『選び・選ばれる』時代の新卒採用」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

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技術開発統括部
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仁田 光彦

2009年リクルートマネジメントソリューションズ入社。入社以降、一貫して採用・入社後領域に携わり、若手の適応やメンタルヘルス領域についての研究を行う。 2010年より開発職として採用時のアセスメント開発、品質管理を担当。 2018年より測定技術研究所 マネジャー兼主任研究員。 2023年より測定技術研究所 所長。

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