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連載・コラム

成長を続けるオーナー企業・モトヤユナイテッドが「オーナー創業家以外への経営者交代」を実現するためのCES

オーナー創業家社長は「次世代社長プロジェクト」で後継者を選んだ

読了時間:10分

  • 公開日:2026/09/28
  • 更新日:2026/09/28
オーナー創業家社長は「次世代社長プロジェクト」で後継者を選んだ

最近、日本のオーナー企業が「オーナー創業家や親族以外への経営者交代」を行う事例が増えています。しかし、それは決して簡単なことではなく、失敗する事例も珍しくありません。社内人材を次期経営者として育成するのも、社外から経営者候補を採用して経営を引き継いでもらうのも難度が高いからです。このような課題に対して、弊社はコミュニケーションエンジニアリング・サービス(以降CES[セス])を提供し、オーナー創業家社長から創業家以外への経営者交代を支援しています。

モトヤユナイテッドは、岡山県倉敷市を中心に、最近12年で売上10億円から120億円超に成長を遂げてきたオーナー企業です。オーナー創業家社長だった小野新太郎氏は、2025年に10カ月にわたる「次世代社長プロジェクト」を行い、候補者のなかから後継者として岡野恭明氏を選びました。

小野氏は、次世代社長プロジェクトのプログラムの1つにCESを採用しました。なぜ創業家以外の人材を後継者にしようと思ったのでしょうか。そこにはどのような想いや葛藤があったのでしょうか。こうした経営者交代の背景をはじめ、CES採用後の表れた効果や、これからどのような体制で経営を行うのかなどを詳しく伺いました。

●対談者紹介

小野新太郎氏
モトヤユナイテッド株式会社 代表取締役会長 グループCEO

岡野恭明氏
モトヤユナイテッド株式会社 代表取締役社長 グループCOO 兼 フードデザイン事業本部長

大久保壮一
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ シニアコミュニケーションエンジニア

なぜたった12年で売上10億円から120億円超に成長できたのか
オーナー社長は、影響力が強すぎて、自律型ボトムアップが生まれにくい
次期社長には「このモトヤユナイテッドは、どんな紆余曲折を経て今があるのか」を深く理解してもらいたかった
5人の次世代社長候補者たちがCES合宿で一気に仲良くなった
岡野たちに経営を任せ、自分は経営への関与をできるだけ減らす

なぜたった12年で売上10億円から120億円超に成長できたのか

大久保さん①の画像

大久保:モトヤユナイテッドを支援させていただき、大変ユニークな会社だなと感じております。まずはどんな会社か教えてください。




小野:私たちモトヤは、1947年、岡山県倉敷市の小さな商店「元屋」から始まりました。創業者が大切にしていたのは、食べることも苦しい時代に「近所の方においしいものを安く提供したい」という、まっすぐな想いです。その後、時代と共に地元のニーズに寄り添いながら、事業の領域を、倉敷から日本各地、世界へと広げました。しかし、根底にある想いはずっと変わっていません。地元をもっと元気にしたい。この想いをより明確に、より力強く発信していくために、新たに「地元の元気の元になれ。」という企業スローガンを掲げました。

モトヤは私の祖父が創業し、父が2代目となり、3代目の私は2014年に代表取締役社長に就任しました。私が社長に就任したときは売上10億円規模の会社でしたが、2026年5月期には売上高124億2400万円を達成し、12年間で企業規模を約12倍に成長させることができました。展開するのは、エデュケーション事業、プロパティ事業、モビリティ事業、フードデザイン事業など、10の事業。現在も拠点は倉敷市ですが、事業によっては全国各地で展開しており、さらにマレーシアでも焼肉店や日本人就職支援にチャレンジしています。

大久保:驚いたのが、何か流行りの事業ということではない、どの事業も全国によくあるビジネスなのに、売上を12年で10億円から120億円超と12倍にしている点です。なぜそのような急成長を遂げることができたのでしょうか?

小野:私を大きく変えたターニングポイントの1つは、社長になる前に、父から倉敷自動車教習所の経営変革を任されたことです。当初、教習所の従業員たちは、私になかなか心を開いてくれず、私の言葉にも耳を傾けてくれず……。いきなり経営の難しさに直面し、一時は心が折れそうになりました。

しかし冷静に考えてみると、従業員たちがいきなり現れた3代目を簡単に信用できないのは当然だと思います。私のような経験の乏しい若者が会社を変えるためには、まず従業員と本気で向き合う必要があると考え、彼らの言葉に耳を傾けることから始めました。

まず私は、父と共に全従業員と1対1で面談し、さらに全従業員にアンケートを取りました。そして、面談やアンケートで得た有益な意見を積極的に取り入れながら、さまざまな改善や改革を進めたのです。すると、従業員たちが徐々に私の考えを理解し、受け入れてくれるようになり、少しずつ経営変革の結果が出始め、会社が元気になってきました。

一方の私は従業員たちと付き合うなかで、経営者として彼らを守ることが大切だと考えるようになりました。この経験を通じて、私は経営者としての自覚と自信を持てるようになったのです。

大久保:その象徴的な出来事が、2015年の土浦自動車学校のM&Aと経営変革を成功に導き、その後のモトヤの飛躍的成長の起点になっていると思います。その点はいかがでしょうか?

小野会長①の画像

小野:まさにそうなんです。私は最初、土浦自動車学校の全従業員にこう伝えました。

「皆さんと一緒に会社を良くしたいので、ぜひ力を貸してください。不満や不安や提案などがあったら、何でも話してください」と。そのうえで、倉敷自動車教習所のケースと同様にパートスタッフを含めた全員と1対1で面談しました。すると彼らは、腹を割ってさまざまな不満や不安を打ち明けてくれて、「支払いにクレジットカードが使えないのは問題だ」「送迎バスのルートが良くないから変えた方がよい」といった有益な提案をいくつも出してくれたのです。

大久保:従業員からすると「これを機会に会社が変わるかも!」と期待が膨らみ、嬉しかったのかもしれませんね。

小野:私は、彼らの提案をもとに作った「やることリスト」を、全従業員が見えるところに張り出し実現を約束しました。そして、このやることリストを一つひとつ実現して変革を進めた結果、3年後の売上目標を2年で達成。その間の生徒数は倍増し、従業員たちのエンゲージメントポイントも急上昇しました。

大久保:従業員から上がってきた意見に対して小野さんはどのように感じられたんですか?

小野:実は彼らの改善提案の9割は、彼らの話を聞く前から私が実践しようと考えていたことでした。しかし、それらをトップダウンで決断し実行するのではなく、ボトムアップで彼らと一緒になって変革したことに大きな意味があったと考えています。私はどのビジネスも、基本的には同じように従業員の声によく耳を傾け、ボトムアップで変革を続ける手法で取り組んできました。モトヤが10事業を展開し、12年で売上120億円超の企業に成長できたのは、私たちがこのスタンスにこだわり、この手法を丁寧に実行してきた結果だと考えています。

オーナー社長は、影響力が強すぎて、自律型ボトムアップが生まれにくい

大久保:現場の声を生かし、ボトムアップで本質的な力をつけて、M&Aとの相乗効果を最大限に生かしている――このことは他事業でも生かせると思いますし、まだまだ小野さんが社長として舵取りをしていくという選択肢はあったと思うのですが……なぜオーナー創業家以外への経営者交代を考えるようになったのでしょうか?

小野会長②の画像

小野:理由は2つあります。1つは個人的な理由で、以前から50歳前後で社長を引退したいと思っていたからです。社長業は大変な仕事で、20年も30年も集中して取り組むのは難しいもの。今月48歳になりますから、そろそろ引き際だと考えていました(取材時は2026年7月)。

もう1つの理由――こちらがより大事な理由で、それはモトヤを継続的に発展し続ける組織にしたい、そのために「自律型のボトムアップ組織」を実現したいという想いがあったからです。そのとき、「私が社長を続けない方がいい」と思うようになりました。

それは、オーナー社長というだけで、意図しない影響力が生まれてしまい、さまざまな場面でボトムアップの風土を阻害していると感じていたからでもあります。権力集中にはもちろんメリットもありますが、一方で組織を停滞させるデメリットも大きいのです。これからモトヤを永続的に成長し繫栄する会社にするためには、私の権力を分散し、所有と経営を分離させることが欠かせないという結論に至りました。

大久保:小野さんに初めてお会いしたとき、「300人の部下を持つ部長と、5人の部下を持つ社長とでは、意思決定や決断のヒリヒリ感がまったく違う」「自分は幹部の成長の機会を奪っている」とおっしゃっていましたね。

小野:そうなんです。経営という視点で見ると、やはり社長を経験することが大変な成長になると思います。今後のモトヤの成長を考えたとき、そういう人材を増やすことが必要不可欠だと考えました。

大久保:それで2025年に、後継者を選ぶための「次世代社長プロジェクト」を実施したのですね。本プロジェクトの内容を教えてください。

小野:まず事前に次世代社長候補者を社内公募で募り、11人が手を挙げてくれました。6月に本プロジェクトの開始を宣言し、最初に7~9月に経営の基礎を学ぶ「経営座学研修」を実施。次に11月に「社長塾」を開催し、私が経営者として大事にしてきたことを、体験を交えて赤裸々に対話するセッションを実施しました。

その後、最終候補者を5人に絞り込み、2026年1~2月に「CES合宿」に参加してもらいました。そのうえで3月に全従業員に向けて「最終プレゼンテーション」を行ってもらい、最終的に私が次期社長を選定した流れです。

次期社長には「このモトヤユナイテッドは、どんな紆余曲折を経て今があるのか」を深く理解してもらいたかった

大久保:小野さんは次世代社長の要件として、以下の5項目を必須条件として挙げていました。

「企業理念を深く理解し、自ら体現できていること」
「社員を尊重し、仲間との信頼関係を築ける人であること」
「目先にとらわれず長期的な視点で経営判断ができること」
「人格・品格を磨き、謙虚な姿勢で行動できること」
「価値を創造し、継続的に成果を上げられること」

大久保さん②の画像

このなかで、なぜ次世代社長プロジェクトのプログラムの1つにCESを選んだのでしょうか?

小野:そもそも次世代社長プロジェクトの構想時点から、外部の協力が必要だと考えていました。なぜなら、経営者の私自身が過去の経営判断などを客観的に教えるのは難しく、候補者たちにモトヤの経営を深く理解してもらうためには、外部パートナーの力が不可欠だからです。

また、CESを知った直接のきっかけは、サイバーエージェントの藤田前社長が後継者育成にCESを利用した事例記事を読んだことでした。特に、社長のシャレにならない重圧を追体験してもらうプログラム(戦略推進マネジメント・社史プログラム)が魅力的で、大久保さんから直接話を聞いたうえで実施を決めました。

大久保:このプログラムのどのような点に特に惹かれたのでしょうか?

小野:次期社長候補者たちは、中途入社がほとんどなので、今のモトヤしか知りません。モトヤは戦後、住宅兼お店の八百屋から始まり、そこから教習所だけでなく、ホームセンターやボーリング場など、さまざまな事業に挑戦してきました。成功したものもあれば、そうでないものもあり、大変な苦労があったと思います。その度に地域の人たちに助けられ、そんな地域の人たちと共に発展してきたのがモトヤです。そういう過去を経て今があるということを伝えるのに、同プログラムが最適だと感じたのです。

大久保:なるほど。今のモトヤは、どこかベンチャー企業のような勢いや活気を感じますが、そのような部分だけでなく、もっと本質的なところにも目を向けてほしいということですね。

小野:はい。先の「300人の部下を持つ部長と、5人の部下を持つ社長」の話にも通じるのですが、私は幼い頃から祖父と父の考え、苦労や苦悩を間近で見ながらも、挑戦を続けてきました。オーナー経営者は大きな力を持つ一方で、常にさまざまなことに想いや考えを巡らしています。経営トップが苦悩や葛藤を抱えながらも挑戦し、その想いに現場が応えて今がある――次期社長候補者には、こうした経営トップの実情を理解したうえで、社長になってもらいたかったのです。

大久保:CES実施前、私は小野さんの想いや考えを掴むために何度もやり取りをしてきましたが……前述のような想いがある一方で、後継者となる方の個性や考えも尊重しているように感じました。

小野:前提として、一人ひとり経験も価値観も異なるので、次期社長にはその人らしい経営をしてほしいという考えがありました。一方で、モトヤを引き継ぐ以上は、周囲の情報や指摘を素直に受け入れ、柔軟に変化できる人を選びたいと思っていました。最終候補者の5人は自分の得意領域で勝負してきた人ばかりで個性豊かです。CESを通して、それぞれ良い変化が生まれればと願っていました。

また、サイバーエージェントの藤田さんは、CESを通して「後継者チーム」を結成できたことを喜んでいました。私も単に後継者を選ぶのではなく、次期社長を中心に候補者たちがスクラムを組み、今後のモトヤを引っ張っていくような一体感をつくりたいと思っていました。

私には、いずれ自分の息子や娘に経営を継いでもらいたいという想いがあります。もちろん彼らに経営者の適性と想いがある場合に限りますが、仮にそうなったら、次期社長には将来的に会長職などの立場で息子・娘の支援をお願いすることになるかもしれません。私はCESのなかで、そのような未来構想も腹を割って話しました。こうした点を含めて大久保さんと話し合い、「モトヤにフィットするCES」が生まれたのです。

5人の次世代社長候補者たちがCES合宿で一気に仲良くなった

手元の画像

大久保:濃密な計5日間の合宿でしたが、実際にCESを実施してみていかがでしたか?

小野:「社史プログラム」では、先ほど触れたオーナー経営者の苦労も含めて、祖父・父・私の経営判断がどのようなもので、その背景にどのような想いや苦労、葛藤、奮励努力があったのかを受講者に実感してもらい、また先の教習所の変革事例のような、私の経営変革の手法やスタンスも再実感できたのではないでしょうか。また、「自己発見・探索プログラム」では私自身、5人の特徴を詳しく知ることができ、メンバーの相互理解も相当深まったはずです。

大久保:そう言っていただけて安心しました。当初、対象者のなかには「社長になれなかったらモトヤを辞めます」とまでおっしゃる方もいるなど、個性の強い面々だったので、うまくいくのか正直不安でした。

小野:私もCESが終わったときに、全員が「誰が社長になっても社長を支えていきます」と言ってくれたときは、ホッとしました。

大久保:私もそのことを聞いたとき、つくづく「本当に良かったな」と思いました。

そしてここからは、今回のCESに参加され、新社長になられた岡野さんに話を聞いていきます。まず簡単に自己紹介をお願いします。

岡野:私は、大手流通企業の社長を務めた後、2025年にモトヤに入社しました。私の地元の倉敷市でたまたま小野と知り合い、その熱に触れて「小野の想いに賭けてみよう」と入社を決意。地元に貢献したいという気持ちも決意を後押ししました。なお、入社時点で次世代社長プロジェクトを実施することは決まっており、プロジェクトに参加する前提で入社しました。もちろん社長になれる保証はまったくありませんでしたから、プロジェクト中はずっと緊張していました。

大久保:そんななかで参加されたCESはいかがでしたか?

岡野社長①の画像

岡野:社歴が短く、会社の歴史に詳しくない私に「社史プログラム」は、特にありがたかったです。このプログラムのおかげで、社史の知識は皆と同等レベルまで一気に深まりました。なかでも、会社のターニングポイントでどのようなことが起き、3代の社長たちがどのような経営判断を下したのかをよく理解できたことが有益でした。さらにそれらの経営判断を追体験し、自分ならその判断ができたかどうかを考えたことにも大きな意味があったと感じています。

大久保:大手流通企業での社長を経験した岡野さんでも、経営判断を追体験することには意味があったのですね。

岡野:私が社長を経験した会社は、無借金経営の大企業だったので、中小オーナー企業が資金繰りにどれほど苦労しているかをまったく知らなかったのです。CESを通してこの苦労やヒリヒリ感をリアルに感じられたことは私の財産です。

その一方で、モトヤには自由とスピード感という大企業にはない強みや大きなメリットがあることもよく分かりました。モトヤなら、オーナーの小野の理解を得て資金調達さえできれば、スピーディーかつ大胆なM&Aも十分に可能なのです。大企業で同じことをしようと思ったら、M&A決定までに社内外の交渉がいくつも必要で、膨大な時間がかかってしまうでしょう。CESのなかでは、こうしたモトヤの強みと社長職の魅力を深く理解することができました。

大久保:そのようなことに魅力を感じられているんですね。STEP1の「自己発見・探索プログラム」の3日間はいかがでしたか?初めての体験だったと思いますが。

岡野:候補者5人のこれまでの人生をたっぷり振り返り、お互いの体験を共有し実感するというのは不思議な体験でした。特に良かったのは、自分の短所や欠点を赤裸々に明かし合ったり、お互いのダメなところを指摘し合ったりすることです。日頃、経営会議に参加しているメンバー同士ですが、しっかりと本音で議論し合う機会はなかったので、私を含めた社内のキーパーソン5人の距離が一気に縮まり、お互いにいろいろと話し合う仲になれました。

岡野たちに経営を任せ、自分は経営への関与をできるだけ減らす

大久保:今、お二人は次世代社長プロジェクトの成果をどのように考えていますか?

皆様の画像

小野:次世代社長プロジェクトを経て、新社長に岡野を選ぶことができました。CES合宿の様子や最終プレゼンテーションの内容を踏まえ、総合的に判断した結果です。岡野ならMOTOYA Wayを引き継ぎ会社をさらに成長させてくれるでしょうし、多くの従業員も岡野に期待しているので、その点は私も安心しています。

岡野:社長に選ばれたときはやはり嬉しかったです。CESを通じて、この会社の社長になりたい、モトヤをもっと有名にしたいという想いが強くなっていましたから。今は「1000億円企業にする」という大目標に向け、未来からの逆算方式でチャレンジしている最中です。

小野:私は代表取締役会長 グループCEOという肩書になりましたが、今後は経営への関与をできるだけ減らします。私自身は今、次に何をするかを模索中で、ライフワーク候補の1つとして、全国の自動車教習所の次世代経営者たちをボランティアで教える経営塾を始めたところです。

岡野:今後、新メンバーを加えてCES合宿のようなイベントを定期的に開催した方がよいのではないかと話し合っています。新経営チームの結束をあらためて強めたいからです。CESの効果は大きいのですが、時間が経つと徐々に薄れてしまうので、そのときには、また大久保さんとリクルートマネジメントソリューションズの力を貸してもらえたらと思っています。

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