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マネジメント変革で組織を動かす【中編】

戦略人事の実現を阻む「縦の分断」を乗り越える

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  • 公開日:2026/04/13
  • 更新日:2026/04/13
戦略人事の実現を阻む「縦の分断」を乗り越える

前編では、戦略人事の実現には縦の分断(経営と現場)と横の分断(人事部門内)の解消が必要であることを論じました。縦の分断の本質は、経営・人事から求められるアジェンダが多岐にわたり、かつ難度・複雑性を増すなかで、管理職がその要請に応えきれない状況にあります。

この状況を打開するには、経営と現場の結節点である管理職を基点とした組織変革、すなわち「マネジメント変革」が必要です。マネジメント変革とは、マネジャー自身のスキル・スタンスの改革と、マネジメントを取り巻く環境・仕組みの改革の2つからなります。ただし、その前提として、現状の管理職の負荷を軽減することが不可欠です。

中編では、こうしたマネジメント変革を推進するにあたり、人事と管理職それぞれの役割を整理したうえで、管理職が現場で戦略人事の推進役として機能するために人事として何ができるか、具体的なアプローチを提示します。

【図表1】戦略実現のためのマネジメントを起点とした組織変革

本シリーズ記事一覧
マネジメント変革で組織を動かす【中編】
戦略人事の実現を阻む「縦の分断」を乗り越える
マネジメント変革で組織を動かす【前編】
戦略人事の実現を阻む2つの「分断」
拡大し続ける管理職への期待
経営・人事に求められる「個別具体的な支援」
ハードイシューとソフトイシューの統合
管理統率型と自律共創型の使い分け
生成AIはマネジメントをどう変えるか
中編のまとめ──マネジメント変革は「個人」と「環境」の両輪で

拡大し続ける管理職への期待

管理職に求められる役割は、年々拡大しています。かつては業績管理と部下育成が中心でしたが、現在ではそれに加えて、組織開発的な役割──風土構築、チームビルディング、多様な個をエンパワーメントすること──が求められています。さらに、プレイングマネジャーとして自ら業務を担うことが常態化しており、管理職の負荷は増大の一途をたどっています。加えて、管理職自身のコンプライアンス順守やハラスメント防止への意識が厳しく問われる時代となり、心理的な負担も増しています。

このような状況下では、管理職に「変わってください」「新しいマネジメントスタイルを身につけてください」とメッセージを発するだけでは、管理職は変われません。マネジメント変革の主体者は管理職ですが、人事部門、HRBP(HRビジネスパートナー)、部長や役員などの上位役職者が、管理職をしっかりと支援する必要があります。

【図表2】年代別管理職役割の変化

出所:中間管理職のオーバーワークを乗り越える4つのアプローチ(2024)

経営・人事に求められる「個別具体的な支援」

管理職が最も求めているのは、個別具体的な支援です。組織開発の観点では、チームの関係性をどう改善すればよいのか、メンバー同士の協働や創発をどう促進すればよいのか。部下育成の観点では、個々のメンバーの強みをどう伸ばし、課題にどうアプローチすればよいのか──これらの課題に対する具体的なアドバイスがあれば、管理職は行動を変えやすくなります。

例えば、HRBPが定期的に管理職と対話し、個別の課題に寄り添う。人事企画部門が1on1の事例集や対話のヒント集を提供する。外部のコーチやコンサルタントが、管理職一人ひとりに伴走する。こうした支援があることで、管理職は安心して新しいマネジメントに挑戦できます。

また、上位役職者(部長や役員)の役割も重要です。管理職が直面している課題を理解し、組織の目的に照らして業務の取捨選択・優先順位づけ、必要なリソースの確保を行う。経営の意図を丁寧に説明し、管理職が現場に向けて翻訳しやすいようにサポートする。管理職の挑戦を認め、失敗を許容する文化をつくる。こうしたリーダーシップが、マネジメント変革を後押しします。

支援の方向性は、大きく2つに分けられます。1つは、管理職自身のスキル・スタンスの改革支援です。もう1つは、管理職を取り巻く環境・仕組みの改革です。まずは、管理職に求められる能力から見ていきましょう。

【図表3】管理職が困っていることと必要とするサポート

出所:マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査(2023)

【調査レポート】マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2025年

ハードイシューとソフトイシューの統合

管理職が組織を動かすには、「ハードイシュー」と「ソフトイシュー」の両面をデザインし、それらを統合させることが必要です。

ハードイシューのデザインとは、組織の構造や仕組みを整えることです。目的の設定、計画の立案、役割の設定、分業のデザイン、行動規範の制定などが含まれます(図表4)。これらは組織運営の土台となるものであり、明確に定義されていなければ、メンバーは何をすべきか分からず、組織は機能しません。

一方、ソフトイシューのデザインとは、人の心や関係性に働きかけることです。貢献意欲の促進、コミュニケーションのデザイン、組織文化の形成などが該当します。興味深いことに、新任管理職が直面する問題のほとんどは、対人関係の問題、つまりソフトイシューの問題だといわれています。メンバーのモチベーションが上がらない、チーム内の意思疎通がうまくいかない、価値観の異なるメンバー間で衝突が起きる──こうした問題への対処に、多くの管理職が苦慮しているのです。

しかし、実際にはハードイシューとソフトイシューは相互に連関しており、両者を統合させて個人や組織に働きかけることこそがマネジメントの本質です。例えば、目標設定(ハード)を行う際に、メンバーの内発的動機(ソフト)を引き出す対話を行う。役割分担(ハード)を決める際に、メンバー間の信頼関係(ソフト)を考慮する。制度やイベント(ハード)を設計する際に、それが組織文化(ソフト)にどう影響するかを考える──こうした統合的なアプローチが求められています。

リクルートグループの「Will Can Must」は、この統合を個人単位で実現する好例です。個人の内発的動機(Will)を最大限に高めながら、それを現実的な戦略や組織の要請(Must)と結びつけ、能力開発(Can)につなげる。このフレームワークは、ハードとソフトを統合させながら、個人のパフォーマンスを最大化・持続させる仕組みといえます。

人事部門は、管理職がこうした統合的なマネジメントを実践できるよう、学びと実践の場を提供する必要があります。ソフトイシューへの対応に必要な傾聴力、フィードバックスキル、コーチング、心理的安全性の構築といったスキルの開発と共に、それらをハードイシューと統合させる思考力や実践力の育成が求められます。

【図表4】組織責任者に求められるハード/ソフトイシューのデザイン

出所:組織変革の教科書 リーダーが知っておきたい人と心の動かし方(2024)

管理統率型と自律共創型の使い分け

ハードとソフトの統合が重要になる背景には、ビジネス環境の変化があります。技術革新のスピードが加速し、顧客ニーズが多様化し、働く人々の価値観も変化しています。こうした環境下では、過去の成功体験や定型的な業務プロセスだけでは対応できない課題への挑戦が増えています。タスクの依存性(メンバー間の協働の必要性)と不確実性(正解が見えにくい状況)が高まるなかで、新しいマネジメントスタイルの体得が求められているのです。

従来の管理統率型マネジメントは、上司が方向性を示し、部下に指示を出し、進捗を管理するスタイルです(図表5)。タスクが明確で、正解が見えている状況や、緊急性が高く迅速な判断が求められる場面では、今も有効なアプローチです。

一方で、不確実性の高い環境下では自律共創型マネジメントが力を発揮します。メンバー一人ひとりが自律的に考え、行動し、互いに協力しながら成果を生み出す。管理職の役割は、対話を通じてメンバーの自律を促し、共に創造する支援者となります。

これからのマネジメントは、状況に応じてこの2つのスタイルを使い分けることが重要です。従来の管理統率型マネジメントに加え、自律共創を支援できる管理職になるための能力開発と自律共創的な組織風土づくりへの支援が人事には求められています。

【図表5】管理統率型と自律共創型のマネジメント

【特集】変化の時代に求められるマネジメントと職場づくり

マネジメント業務の分担──負荷軽減と能力開発の両立

管理職の負荷が増大するなかで、注目されているのが「マネジメント業務の分担」という考え方です。ここで重要なのは、「マネジャー業務」ではなく「マネジメント業務」と捉えることです。マネジメント業務を構造的に改革する必要があるからこそ、戦略を踏まえた仕組みやシステム、それらを動かす役割(マネジャーや管理職候補、HRBPなど)のデザイン、各役割のスキル・スタンス支援などを包括的に取り扱うことが求められます。

管理職が担っている機能を大幅に削減することは難しい。であれば、「他の誰が担うか?」「他のリソースは使えないか?」を検討する必要があります。

機能を分割して別の人が担う 

1つのアプローチは、マネジャーの果たす機能の一部を別の人材が担うことで負荷軽減を図る「機能の分業」です。リクルートでは、2023年度より「Co-AL施策」という独自のプログラムを開発・展開しています。このプログラムの特徴は、「Co-AL Partner(コアルパートナー)」と呼ばれる専門的な訓練を受けた社内コーチが、従業員のキャリア構築支援を担うことです。

Co-AL Partnerは、対象従業員とのセッションを実施し、従業員の内発的動機を引き出し、自己理解を深める支援を行います。その後、対象従業員の上長が加わった計3人で、従業員の育成計画を策定します。つまり、通常は直属の上長だけが担う人材育成機能を、Co-AL Partnerという専門人材が分担し、複眼的に従業員を理解し、育成計画を立てる仕組みです。

管理職候補者へ業務を切り出す 

もう1つのアプローチは、管理職候補者やリーダークラスとの分業です。自身で職場のマネジメント機能をすべて担保しようという発想から脱却し、管理職が自身の責任と権限の範囲内で業務を切り出すことが求められています。例えば、短期的な業務遂行はリーダークラスに管理してもらい、自身は長期の戦略立案に時間を使う、ベテランに他のメンバーのメンター的役割を引き受けてもらうことで、組織コンディションを維持する、などです。

ただし、業務を委譲するためには、相手にそれを推進できるだけの力量が必要です。候補者向けのマネジメント教育・支援もセットで行いましょう。プレマネジメント経験は管理職への就任意欲を高め、なり手不足が叫ばれるなかで、将来の管理職育成にもつながります。

【調査レポート】管理職のあり方に関する実態調査―管理職と一般社員、双方の意向から探る持続可能な管理職

生成AIはマネジメントをどう変えるか

もう1つ、忘れてはならないのが「生成AIの人事面への影響」です。AI技術が急速に進化する今、生成AIが組織人事の現場にどのような決定的な影響を及ぼすかを正確に予測するのは困難です。しかし、将来的な組織のあり方を検討するために、管理職の業務がどのように変化し得るのかを考えることは非常に有意義です。

生成AIが変えるマネジャーの役割と業務」(リクルートワークス研究所)では、マネジャーの役割は従来の「管理」中心から、より「人間中心の支援」へとシフトしていく可能性があると報告しています。AIが資料作成や進捗報告といった日常的な管理業務を補完・代替することで、マネジャーには対人コミュニケーションに充てる新たな時間が生まれるからです。

その生まれた時間を使って、部下一人ひとりの資質や内発的動機を深く理解する対話や、キャリア構築の伴走といった、AIにはできない「感情に寄り添う支援」の比重を高めることが求められます。一方で、AIが提示したデータをもとに正解のない意思決定を下し、ビジョンをチームに浸透させるというリーダーシップの根幹は、人間のマネジャーに残り続けるでしょう。

技術の活用前提が定まりきっていない現在だからこそ、どのような体制が最適か、現場と人事が協力して模索し続ける必要があります。AIの活用を前提としたマネジメントのあり方への問いに、人事部門は答えを出していく必要があるのです。

【コラム】AIはマネジャーの仕事をどう変えるのか ~11の役割から見る変化とは~

中編のまとめ──マネジメント変革は「個人」と「環境」の両輪で

マネジメント変革を成功させるには、管理職個人の努力だけでは不十分です。管理職への期待が拡大し、役割が複雑化するなかで、彼らを支える環境と仕組みを整えることが不可欠です。管理職を孤立させず、組織全体で支える。その先に、マネジメント変革の実現があります。

後編では、こうした支援を一貫して提供するために欠かせない、人事部門内の「横の連携強化」と統合的なアプローチについて解説します。

執筆者

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浅尾 陽介

2007年、リクルートメディアコミュニケーションズ(当時)に入社。ブライダル事業、まなび事業で広報プランニング・マーケティング職を歴任後、2022年より現職。HRD・OD事業のマーケティング業務と、各種HR調査の企画設計・分析を担当。

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