導入事例
社員エンゲージメント向上のため、「360度サーベイ」で部長・課長層に気づきを与え、行動変容を促す
日本航空株式会社(JAL)
- 公開日:2025/12/01
- 更新日:2025/12/01
事例概要
背景・課題
私たちJALは、「人的資本経営」の考え方を基に、多様な人財の活躍と共に組織全体の成長も促進し、エンゲージメント・価値創造力・社員還元の好循環を実現することで、中長期成長戦略を推進しています。社員のエンゲージメント向上のためには、組織の活性化が不可欠ですが、その中心的役割を担う「部長・課長層」が自らを見つめなおし、気づきを得て、行動変容につなげる施策として「360度サーベイ」を導入しました。ねらいは、部長・課長層の行動変容より、組織が活性化することでエンゲージメントの高い職場環境を構築することです。
検討プロセス・実行施策
2023年度に経営人材360度評価システム(PRO-MOA)を導入後、毎年サーベイを実施しています。実施前には、不安・誤解の払拭のため「事前説明会」を開催し、さらに評価者のサーベイ回答の負担を考慮して回答期間を長くしたり、時期を調整したりもしています。また、結果をフィードバックするときには、誤解や勘違いをなくし、結果を正しく前向きに受け止めてもらうために「フィードバックセッション」を開催しています。
成果・今後の取り組み
評価者の回答率は非常に高く、1年目・2年目どちらも98%超でした。多くの社員が360度サーベイの意味や意義を正しく理解し、建設的なコメントが寄せられました。一方の部長・課長層は、多くが360度サーベイからの意見を謙虚かつ率直に受け止め、前向きに変わろうとしています。また、1on1を自主的に実施する部長・課長が増えるなど、360度サーベイの影響で部長・課長層の意識が少しずつ変容しています。
背景・課題
「個の成長支援」と「組織による個の力の最大化」の鍵となるのは部長・課長層の「気づき」

森山:私たち日本航空(JAL)はこの数年、「コロナ禍からの回復・成長」をテーマに、フルサービスキャリア事業の一本足から脱却し事業の多様化を図る、事業構造改革を推進してきました。
私たちはそのなかで「新事業への挑戦」を積極的に進めています。例えば、マイレージ・ライフスタイル領域(JALマイルライフ構想)、エアモビリティ領域(ドローン活用支援サービス)、MaaS(JAL MaaS、電車・路線バス・高速バス・飛行機の乗り換え案内サービス)、関係・つながり創出による価値創造などの事業創出・事業拡大を行っています。また、JALスマートエアポート(空港手続きのスマート化)、グランドハンドリングの自動化(リモコン式航空機牽引車の導入)、タイヤ摩耗予測技術を使った整備業務DXなどの「DX戦略」も加速させています。
私たちは、今後もこのような変革挑戦と価値創造を強力に推進したいと考えています。その際、人財戦略として極めて重要なのが、「個の成長支援」と「組織による個の力の最大化」であり、その両方の鍵となるのが「部長・課長層」です。メンバー一人ひとりのやる気を引き出し、能力を高めるためのサポートをすることに加え、各職場・組織を活性化させ、エンゲージメントの高い職場環境をつくる中心的な存在を担うのが部長・課長層です。
つまり、部長・課長層が刺激を受け、気づきを得て変容していけば、私たちの変革挑戦と価値創造は間違いなく前進するのです。しかし、部長・課長層は、周囲からフィードバックを受け、刺激や気づきを得る機会が限られています。年に数回、上長との面談でフィードバックをもらうだけの者も少なくありません。しかしそれだけでは、部長・課長層が変わっていくことは難しいと考えました。
そこで私たちは、部長・課長層に「360度サーベイ」を導入することにしました。ねらいは、部長・課長層に刺激を与え、個の成長支援や組織による個の力の最大化に向けた気づきを得てもらい、彼らの変容を促すことです。
検討プロセス・実行施策
不安や誤解をなくすため、「事前説明会」や「フィードバックセッション」を実施

馬場:私たちは2022年度に360度サーベイの導入を企画し、2023年度から導入を開始しました。さまざまな選択肢がありましたが、そのなかから最終的にリクルートマネジメントソリューションズの「経営人材360度評価システム(以下、PRO-MOA)」を選びました。選定理由は2つあります。
1つ目は、リクルートマネジメントソリューションズには以前からSPIやエンゲージメントサーベイなどでお世話になっており、JALのビジネスや組織のことをよく理解してもらっていたからです。2つ目は、PRO-MOAの内容がシンプルで分かりやすく、信頼性が高いと感じたからです。PRO-MOAは、まさに私たちのねらいを実現できるサービスだと感じました。
森山:2023年度の初導入以降、私たちは毎年PRO-MOAを活用したサーベイを実施しています。2023年度は部長層、2024年は課長層、2025年は部長層と課長層の両方を対象としてきました。
実施前には、360度サーベイに対する不安や誤解を払拭するために「事前説明会」を開催し、あくまでも部長・課長自身の変容のために実施する施策であること、人事考課には影響がないこと、評価者は特定できないようになっていることなどを詳しく説明しています。評価者に対しては、サーベイ回答の負担を考慮して、回答期間をできるだけ長くしたり、回答時期を調整したりしています。定着するまでは不安や誤解などが生じやすい取り組みですから、実施の際はこうした社員に対する配慮が欠かせないと考えています。
また、サーベイ結果を返却するときには、必ず「フィードバックセッション」を開催するようにしています。フィードバックセッションでは、結果の見方を詳しく説明すると同時に、部長同士・課長同士で結果についてディスカッションする時間を設けています。誤解や勘違いをなくし、多面評価の結果を正しく前向きに受け止めてもらうことが、フィードバックセッションのねらいです。また、部長同士・課長同士で共通の悩みなどを相談し合える貴重な時間でもあります。
成果・今後の取り組み
多くの部長・課長が360度サーベイからの意見を謙虚かつ率直に受け止め、前向きに変わろうとしている
馬場:これまでの成果を紹介します。まず評価者側からお話しすると、評価者の回答率は非常に高く、1年目も2年目も98%超でした。
森山:実施前、私たち人事は、評価者のコメント内容によって部長・課長たちが傷つけられるような事態を懸念していました。しかし実施してみると、組織を良くしようとする意図が込められた建設的なコメントが多く、正直なところホッとしました。特に、役員層が360度サーベイの意味や意義を深く理解し、部長・課長たちの成長を促す叱咤激励のコメントをしてくれるケースが多く、嬉しく思うことがよくあります。当然ながら、現場メンバーからは比較的ストレートな要求などもあるのですが、個人を傷つけるような意図がない限りは、できるだけ本人たちに受け止めてもらうようにしています。

河村:一方の部長・課長層は、360度サーベイによって自分が気づいていない自身の姿を知ることになります。当然ながら、なかには大きなショックを受けている部長・課長もいます。しかし私が知る限りでは、多くの部長・課長が360度サーベイからの意見を謙虚かつ率直に受け止め、前向きに変わろうとしています。
特に、同僚や部下からの率直な意見が貴重だと感じている部長・課長が多くおり、人事としては喜んでいます。また、フィードバックセッションでは「社内の仲間たちに悩みを相談することができてよかった」「仲間たちと有益な意見交換ができた」という感想を多くもらっています。
森山:事前説明会やフィードバックセッションが、誤解・不安・勘違いの払拭に効果を発揮しているのではないかと思います。人事としては、犯人探し(部長・課長がネガティブな意見を書いた人を特定しようとすること)のような事態も懸念していたのですが、そうした話も聞かれず、多くの社員が360度サーベイの意味や意義を正しく理解してくれていると感じます。
馬場:フィードバックセッションは、部長・課長同士の対話が盛り上がることが多く、時間が足りないと感じる参加者も多くいます。あえて接点の少ない組み合わせで参加者をセッティングしているのですが、それもプラスに働いているようです。
1on1を自主的に実施する部長・課長の増加は、360度サーベイの影響が大きい

森山:360度サーベイを重ねることで、実際に部長・課長層の意識は少しずつ変容してきています。例えば、私たちは1on1を制度やルールとしていないのですが、それにもかかわらず、自主的に1on1を実施し部下の話に耳を傾ける部長・課長が増えています。
この1on1の増加は、360度サーベイの影響が大きいと考えています。
河村:また、部下の自律的キャリアや多様な働き方をより積極的に支援しようとする部長・課長も増えています。これも360度サーベイの効果の1つだと考えています。特に、コロナ禍以降、私たちは「自律的キャリア形成」や「多様な働き方の尊重」を目指してきたのですが、360度サーベイはこうした取り組みの醸成にも役立っています。
馬場:一方で、私たち人事側も改善を続けています。例えば、過去2回はサーベイ結果をフィードバックセッション時に渡していましたが、2025年度からは、事前に結果を渡してから、フィードバックセッションに参加してもらう流れに変えました。360度サーベイを経験済みの部長・課長が多くなり、事前に渡しても大丈夫だろうと考えたからです。事前に結果を見てもらい、理解を深めてからフィードバックセッションに参加してもらった方が、対話の質が高まるのです。
森山:このような360度サーベイの取り組みに終わりはないと考えています。今後も継続的に実施し、部長・課長層の行動変容を促し続けていきます。
ソリューションプランナーの声

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
営業統括部営業1部1グループ
ソリューションプランナー 池井 勇輝
JAL様が目指すのは、多様な個が成長し、持ち味を発揮できる、エンゲージメントの高い職場づくり。その実現に向けて、「ミドルマネジメントこそが鍵である」という点に着目されました。
コロナ禍で事業も教育投資も厳しい状況が続くなか、ようやく回復の兆しが見えてきたとき、社員エンゲージメントの向上、新価値創造と変革への挑戦を加速させるため「まずはどこから手をつけるべきか?」という悩ましさのなかでの意思決定が求められました。その末に辿り着いたのが、ミドルマネジメントの行動変容でした。
JAL様は真の行動変容を起こすための丁寧な仕掛けづくりに取り組まれ、まさに「線」で考え抜かれた設計を実現されています。
この施策はJAL様の変革において重要な一歩と感じており、私たちも真のパートナーとして一歩先の課題まで一緒に考え、JAL様の挑戦を全力で支えてまいります。
研究員の声

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
HRMサービス推進部 サービス開発G
主任研究員 坂本 佑太朗
360度サーベイは、単に上司や同僚、部下からの声を集めるだけではなく、その結果を対象者へ返却し行動変容を促す学習の仕組みとして設計することが重要です。
JAL様の事例では、事前説明会による目的共有と安心の提供、回答者の負担に配慮した運用設計、そしてフィードバックセッションを通じた育成支援が一体的に行われていました。
その結果、初年度から98%を超える高い回答率を実現し、さらに部長・課長層の間で自主的な1on1の増加や部下育成への姿勢変化が見られるなどの成果が出ています。
ここから示唆されるのは、評価結果を単に返すのではなく、対話を通じて気づきを行動計画へとつなげる設計を盛り込むことの有効性です。これから360度サーベイの導入を検討されている企業にとっては、実施プロセスや運用面の構築に関するヒントが、既に導入されている企業にとっても、フィードバックを通して行動変容を促すためのヒントが得られる、今後の360度サーベイ活用に大きな示唆を与える事例といえます。
取材日:2025/09/12
企業紹介

日本航空株式会社(JAL)
1951年に日本で戦後初の民間航空会社として、日本航空株式会社が創業して以来、JALグループは日本の翼として、高い目標を持ち、日々地道な努力と創意工夫を繰り返しながら、お客様と共に日本の空、世界の空を開拓してきた。また、2010年の経営破綻後は、JALフィロソフィを全社員が学び、実践し、挑戦と革新を積み重ねている。
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