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インタビュー

共立女子大学 日向野幹也氏

「権限によらないリーダーシップ」で管理職の負担を減らす

読了時間:6分

  • 公開日:2026/11/02
  • 更新日:2026/11/02
「権限によらないリーダーシップ」で管理職の負担を減らす

過重な負荷を抱える管理職に対し、さらなるリーダーシップを発揮して組織をけん引してもらいたいという期待は、現実感に乏しい状況になっている。こうしたなかで注目されているのが、「権限によらないリーダーシップ」だ。この概念はマネジャーのリーダーシップ発揮をどう促すのか、第一人者である日向野幹也教授に聞いた。

個人の権限や資質に関係なくリーダーシップを発揮してもらう
長距離を飛ぶ渡り鳥のようにリーダー役を交代するスタイル
権限によらないリーダーシップには心理的安全性が重要

個人の権限や資質に関係なくリーダーシップを発揮してもらう

私が、役職や権限をもたない人が周囲を巻き込み目標達成を目指す「権限によらないリーダーシップ」に基づく教育を始めたのは、2006年のことです。この概念は、1990年代からアメリカを中心に研究・教育の場で急速に広まりましたが、日本では事情が異なりました。役職がない若手にもリーダーシップは発揮できると企業経営者や人事担当者に説明しても、その必要性を真剣に受け止められることはさほど多くなかったのです。

潮目が変わったのは2010年代前半でしょうか。まずはVUCAな業界で「権限によらないリーダーシップ」に強い関心が寄せられるようになり、続いてそれ以外の業界でも、人事担当者の間では認知率が向上。そしてそれから10年ほどたった今では、伝統ある日本企業でも上司に遠慮せず意見を述べる若手が増えています。

昔の日本企業では、リーダーシップの源泉を、組織上の権限やリーダー個人の資質に求めがちでした。つまり、役職が上で発言力がある、あるいはカリスマ性が高いなどの人だけが、リーダーシップを発揮できると考えられていたのです。しかしこれだと、環境変化にすぐ対応したり、ボトムアップでイノベーションを起こしたりすることが難しくなります。そこで、地位が高くなくてもリーダーシップを発揮できるようにするのが、「権限によらないリーダーシップ」のねらいです。

似通った概念に、メリーランド大学名誉教授であるスーザン・R・コミベズ氏が提唱した「関係性リーダーシップ」があります。これは、個人の能力や資質でリーダーシップが決まるという従来の考え方の代替案で、リーダーシップは個人と個人の関係性が決めると考えます。すなわち、人と人とのつながり方が重要になりますから、リーダーシップ開発をすると、個人のリーダーシップと組織のなかの関係性が同時に改善されるわけです。

「権限によらないリーダーシップ」や「関係性リーダーシップ」は、大きな権限をもたない人に、周囲を巻き込んで成果を上げる機会を与えます。そのため、特に若手からは前向きに受け入れられるでしょう。一方、管理職のなかには新たなリーダーシップ像にすんなりと適応するのが難しい人もいます。こうした層には、「若い人に命令するのではなく、彼らにリーダーシップを発揮してもらうことがあなたの新しい役割」と説得しましょう。そうして先入観をアップデートできれば、マネジメントの負担に悩む管理職自身も楽になるのです。

長距離を飛ぶ渡り鳥のようにリーダー役を交代するスタイル

現代の管理職のなかには、古いリーダーシップ像にとらわれている人もいます。これは管理職が悪いのではなく、新たなリーダーシップを共有できない組織全体の責任です。この状態が続けば、板挟み状態の管理職はますます疲弊するでしょう。

そうした悩める管理職に伝えたいのが、「雁行(がんこう)」という言葉です。これは、渡り鳥の雁が集団で移動するとき、前を飛ぶ雁の後ろに生じた上昇気流を効率良く利用しようとして、群れが斜め一列の編隊を組むことです。特定のリーダーが群れを率いるのではなく、複数の雁が先頭を交代して互いの体力を温存し、群れ全体で長距離を渡るのです。この、リーダーという立場が固定されることなく入れ替わりながら組織を機能させるスタイルは、まさに「権限によらないリーダーシップ」と同じではないでしょうか。

雁行型の組織を社内に定着させるには、特定の部門で成功モデルを作って横展開するのがいいでしょう。良い効果が出て組織がV字回復したら、他部門にも強いインパクトを与えられ、普及が加速しやすいからです。

権限によらないリーダーシップには心理的安全性が重要

「権限によらないリーダーシップ」が機能し、成果につながっているかどうかは、現場からのトラブル報告率や業務改善提案件数、社員定着率といった指標で類推できます。また、これらの指標が改善されていることで、メンバーの心理的安全性が向上しているということも間接的に確認できるでしょう。

私は大学でリーダーシップ教育を行う際にも、心理的安全性の確保を心がけます。講座には教員と学生の他に前年の受講生から選ばれたTAと呼ばれる支援役がいて、時に授業の改善提案などを出します。TAは学生ですから提案のなかには的外れなものもありますが、私や教員は絶対に否定せず、励ましたり一緒に考えたりします。また、定期的な食事会などで学生との関係性を深めますし、授業終了後の振り返り会でも関係性にフォーカスしています。そうして心理的安全性を確保しつつ、学生のプログラム改善の意欲を高めるのです。

こうした考え方は、企業でも十分応用できるでしょう。組織の問題を明らかにするため360度サーベイなどの手法を活用することが一般的になりましたが、心理的安全性なしで実施しても有意義なフィードバックなど期待できません。まずは管理職とメンバーの双方にリーダーシップ教育を行い、組織全体に心理的安全性を作り出してから、360度サーベイを導入する。あるいは、心理的安全性が確保された関係性でのみフィードバックを交換し、遠い関係性からのフィードバック交換は後回しにするなどの工夫が考えられるでしょう。

心理的安全性を確保することで、「権限によらないリーダーシップ」を発揮しやすくなります。一見、即効性がないように見えたり、継続的支援が必要なために手離れが悪く見えたりするかもしれません。しかし「急がば回れ」で、経営層や人事にはこれらの同時遂行が求められるのです。

【text:白谷輝英】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.83 特集2「これからの時代に求められるリーダーシップとは?」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
日向野幹也(ひがのみきなり)
共立女子大学 客員教授

1978年東京大学経済学部卒業。1983年同大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。東京都立大学教授、立教大学教授、早稲田大学教授を経て、現職。専攻はリーダーシップ開発論。著書に『高校生からのリーダーシップ入門』(ちくまプリマー新書)、『権限によらないリーダーシップで組織が変わる』(ちくま新書)、『大学教育アントレプレナーシップ』(ナカニシヤ出版)。

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