インタビュー
社会を変えるリーダー
株式会社やまやま 代表取締役 猪原有紀子氏
- 公開日:2025/07/28
- 更新日:2025/07/28

自分の子どもに、カラフルで甘くてパクパクと夢中になって食べてくれる無添加おやつを食べさせたい。猪原有紀子氏は、その一心で「自分でグミを作ろう!」と思い立ち、いろんな人を巻き込んで、4年をかけてグミのような食感の無添加ドライフルーツ「無添加こどもグミぃ〜。」を開発した。なぜそんなことができたのかを詳しく伺った。
- 目次
- おやつストレスからの解放を目指し立ち上がる
- 共同研究が完結するまで2年半もかかった
- 私と会社は別の山を目指している
- 自分が欠けている大企業の新規事業開発者
- 「無添加こどもグミぃ〜。」の世界展開構想中
おやつストレスからの解放を目指し立ち上がる
始まりは、猪原氏の長男が2歳のときだった。「あるとき、私の父が息子にグミをあげたのです。それが気に入った息子は、グミ買って、グミちょうだいといつも言うようになりました」。しかし猪原氏は、添加物が多く含まれ、いかにも虫歯になりそうなお菓子を息子に与えたくなかった。無添加のおやつを探したが、本当に無添加のおやつはなかなか見つからない。ようやく無添加のドライフルーツを見つけたと思ったら、今度は息子が食べたがらなかった。茶色くて硬いからだ。
「息子がスーパーでグミ買ってと騒ぐのが、私の大きなストレスになっていました。それが原因で息子にひどい怒り方をしてしまうこともありました。私は、そうやって息子に怒りをぶつける自分が何よりも嫌いで、長男の寝顔を見ながら『怒りすぎてごめんね』と泣いて詫びていたのですが、そんな自分も嫌でした。それで仕方なく添加物の入ったお菓子を買い与えていたのです。こうして私は毎日、おやつ戦争に敗北していました。
あるとき、あまりにも腹が立って、カラフルで甘くて、子どもがパクパクと夢中になって食べてくれる無添加おやつがどこにもないのなら、自分で作ってやろうと思ったのです。そうして、私と同じようにおやつ戦争に負けつづけているお母さんたちを、おやつストレスから解放しようと思ったのです」。猪原氏はこの想いを1枚の企画書にまとめ、夫にプレゼンテーションした。「無添加こどもグミぃ~。」開発が始まった瞬間である。
共同研究が完結するまで2年半もかかった
その直後の2016年の冬から、猪原氏は夫の仕事の関係で、和歌山県かつらぎ町を何度も訪ねることになった。「夫は初めて来たときから、ここに住みたいと言っていましたが、私は地方移住にはまったく憧れがありませんでした。また、私は新卒で入社したWEBマーケティング会社が大好きで、辞めるつもりも全然ありませんでした」。しかし、夫の意向もあり、猪原氏は2018年5月にかつらぎ町に移住した。「私は最後まで、かつらぎ町で生活するイメージが全然湧きませんでした。でも、だからこそ最高なのではないかと思ったのです。変化が大きい方が絶対にいいからです」
移住にあたって、猪原氏は、地域の廃棄フルーツを使って無添加おやつを作る事業案を考えた。「かつらぎ町は柿の名産地です。最初に行ったのが冬だったので、柿農園には廃棄された柿がたくさん落ちていました。これでグミを作ればいいんじゃないか!とひらめいたのです」
しかし、ここからが大変だった。まず、自治体の起業補助金制度に3度も落とされた。ただ、3度目の最終プレゼン後に強力なサポーターが現れる。「補助金制度の審査員の1人に、そのとき和歌山県の起業支援センターの所長をしていた関さんという人がいました。その関さんが、私の事業案を気に入ってくれて、他の補助金制度を教えてくれたり、私が当時住んでいた大阪まで来て、いろんな人を紹介してくれたりしたのです」
そのなかに、乾燥工学を研究する伊與田浩志氏(大阪公立大学教授)がいた。「伊與田先生が私のアイディアを面白がってくれて、畿央大学の先生も巻き込んで共同研究することになったのです」。ところが、これまた大変だった。「共同研究が完結するまで、なんと2年半もかかりました。世の中に出回っているフルーツをすべて買ってきて、乾燥の時間や温度や湿度を少しずつ変えたり、時にはレンジでチンしたり茹でたりして、細かくパラメーターを作ったからです」。最終的には、膨大な数の試作と検証を重ねた。その結果、猪原氏たちは、カラフルで甘く、グミのような食感の無添加ドライフルーツの開発に成功したのである。
私と会社は別の山を目指している
しかし、これで猪原氏の苦労が終わったわけではない。「果樹園から廃棄フルーツがたくさん出ることは知っていましたから、すぐに入手できると思っていました。ところが、全然購入できなかったのです」。なぜなら、農家にとっては廃棄フルーツを取り分けること自体が大きな手間だからだ。「私は作戦を立てました。かつらぎ町のママ友たちにプレゼンテーションをしたのです。無添加おやつは母と子のための商品ですから、ママ友の理解を得るのが一番の早道だと考えたわけです」
この作戦は成功した。ママ友のなかには果樹農家の人もいて、突破口が開いたのだ。「その後は一人ひとりの農家さんときちんとお話しして、私のやりたいことを理解してもらい、廃棄フルーツや規格外フルーツを購入させてもらえるようになりました」。さらに、地域の障害者福祉施設の協力を得て、袋詰めをしてもらうことになった。
こうして2020年、猪原氏たちは「無添加こどもグミぃ~。」の販売を開始した。2025年3月現在、累計販売数は12万袋を突破している。
なお、前職は2019年に退社した。「実は移住後もしばらくは、かつらぎ町から大阪の中心地まで通うつもりでした。私はそれほどその会社が好きだったのです。長男の出産時に大きな病気をして、キャリアが断絶していました。その遅れを取り戻したい気持ちも強くありました。
ですが、かつらぎ町の自然のなかで子どもたちが元気になっていく様子を見たり、子どもたちを抱きながら山を眺めたりしているうちに、私と会社が別の山の頂上を目指していることにようやく気づいたのです。目の前の社会課題解決に向かう覚悟が決まったわけです」
自分が欠けている大企業の新規事業開発者
猪原氏は今、「無添加こどもグミぃ~。」の製造販売の他に、耕作放棄地を生まれ変わらせた自然体験施設の開発運営と、女性の社会起業スクールSBCの運営を行っている。
「私が、女性の社会起業スクールSBCでよく話しているのは、自分と社会とビジネスの真ん中でやれば、『無添加こどもグミぃ~。』のようなニッチな事業でもうまくいく、ということです」。自分とは、自らの原体験や想い、価値観や好きなことのことだ。社会とは社会課題のこと、ビジネスとはビジネスモデルのことである。
SBCに多いのは、ビジネスが欠けている人だ。「自分なりの想いのこもった社会貢献活動をしているのに、継続的に利益を生むビジネスモデルがないために、ボランティアになってしまっている人が全国にたくさんいます。これでは長続きしません。このタイプの人たちには、ビジネスモデルをよく考えてもらうようにしています」
一方で、社会が欠けているタイプもいる。「自分がやりたいことで上手に稼いでいる人も、実はそれなりに存在します。ただ、社会課題を解決する姿勢が欠けている限りは、善良なる支援者がつきません。お金は稼げるかもしれませんが、それだけにとどまってしまいます」
そして大企業の新規事業開発担当者には、自分が欠けているタイプが多い。「大企業には、自分のワクワクのスイッチをオフにしながら新規事業開発に取り組んでいる人が多いのです。このタイプの人は、上司に一度却下されたら、すぐに諦めてしまいます。自分のワクワクや原体験や怒りや悔しさをのせていないからです。
私が無添加おやつを開発しようとしたとき、私には自分の怒りの原体験と、前職で培ったWEBマーケティングスキルしかありませんでした。ですが私には、自分の怒りをベースとしたビジョンがあったのです。関さんや伊與田先生、かつらぎ町のママ友や農家の皆さん、障害者福祉施設の皆さんなどと『ビジョンで握手』できたから、ここまでのことを実現できたのです。
自分のビジョンさえあれば、多様な人たちとビジョンで握手して協力し合えるのです。ですから、大企業の皆さんにはもっと自分を前面に出してもらえたらと願っています。資金などの面では、大企業ほど恵まれた環境は他にないのですから」
自分のやりたいことが思い浮かばない人は、自分の怒りや不甲斐なさや悔しさなどに立ち戻れば、必ず何か見つかる。「すでにお話ししたとおり、無添加おやつの開発は、私の育児ストレスなどから来る怒りがパワーの源泉になっています。怒りや悔しさの原体験が、こうしてポジティブな力に変わることが実はとても多いのです」
「無添加こどもグミぃ〜。」の世界展開構想中
猪原氏は今、「無添加こどもグミぃ~。」の世界展開を目指している。「アメリカやタンザニアでマーケティング調査をしたら、とても好評だったのです。特にタンザニアの子どもたちが夢中になって食べてくれたのを見たときは、涙が出るほど嬉しかったです。アフリカで大量廃棄されているマンゴーでグミを作って現地雇用を生み出し、アメリカなどで販売するビジネスを構想中です」
猪原氏は今、「自分と社会とビジネスの真ん中でやればうまくいく」という自らの法則を、世界規模で実証しようとしているのである。
【text:米川青馬 photo:角田貴美】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.78 連載「Message from TOP 社会を変えるリーダー」より抜粋・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
PROFILE
猪原有紀子(いのはらゆきこ)氏
株式会社やまやま 代表取締役
2009年株式会社セプテーニ入社。赤字会社の再建に従事。2018年に縁もゆかりもない和歌山県かつらぎ町に移住し、株式会社やまやまを設立。「無添加こどもグミぃ〜。」は累計販売数12万袋突破。三兄弟の母親でもある。
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