- 公開日:2021/04/05
- 更新日:2024/05/20

リモート時代に人事評価で悩んでいるのはどのような会社か。リモート以外のビジネス環境の変化が、現代の人事評価をどのように変えているのか。評価情報やそれ以外の人材情報を人事にどう活用すればよいのか。人事評価を研究する神戸大学の江夏幾多郎氏に詳しく伺った。
リモートで評価に悩んでいる組織とは
リモート時代に人事評価で困っているのは、次のような組織ではないかと思います。
● 上司と部下があまり話し合わない組織
● 上司が部下の情報を積極的に収集しない組織
● 部下が上司にアピールしない組織
● 勤務時間やうわべの姿勢などの本質的でない代理指標で評価してきた組織
一言で言えば、「情報の収集や開示が足りない組織」ほど、リモートで評価に悩んでいるはずです。反対に、以前から上司と部下が頻繁に対話して互いに情報を開示したり、上司が部下の情報をこまめに収集したり、部下が上司にアピールしたりする習慣があった組織は、リモートでもさほど変わらずに評価できているのではないでしょうか。
評価に必要な情報は主体的にとりに行かなければ得られない
評価に必要な部下の情報は、上司が主体的にとりに行かなければ得られないものです。あるいは、部下が上司に積極的にアピールしなければ、上司に届かないものです。リモート時代は、その傾向がより顕著になっています。
上司が適切な評価のために行うべきことはリモートでも基本的には同じで、今部下が何をしているか、どんな成果を出したか、何に困っているか、どういった想いで働いているかをよく知ることです。そしてそのために、部下と日々コミュニケーションすることです。目標共有も、期初に行ったら終わりではありません。部下が目標を忘れたり、「分かっているつもり」で違う方向に流されたりしていないか、より現実的で有効な目標はないか、定期的に確認する必要があります。
また、人の8割は、他者評価よりも自己評価が高いともいわれます。部下に納得してもらおうと思ったら、こうしたバイアスの存在も含めて、事前に認識をすり合わせることが大事です。こうした事前の準備が、人事評価の際の濃密な上司部下間のフィードバック、本音のやり取りのなかでの評価結果の確定につながります。
評価のための情報収集や情報開示や話し合いは、面倒なことです。しかし、こうした関係性は組織づくりの基本です。上司と部下が面倒なことを地道に続けているかどうかが、リモート時代の今、まさに問われているのだと思います。
正確な評価などそもそも存在しない
職務が複雑化した現代のビジネス組織では、職務を個別タスクに分解し、それらすべてを客観的尺度で評価することは不可能です。個人への期待すなわち職務内容、成果やそれを生むプロセスは大まかに捉える他になく、評価は曖昧化を避けられません。デジタル化や「見える化」を推進したとしても、事業環境の複雑化や変化の速さにともなって、評価の曖昧化が基本的な傾向となります。
その結果、最近の人事評価は、評価の正確さよりも、評価の手続きやプロセスの充実を通じた納得感の醸成に重点が移ってきています。評価者が評価の場面や日常で自分に真摯に向き合ってくれたかどうか、評価者の意見を一方的に押し付けるのではなく自分の意見に耳を傾けてくれたかどうかが、従業員の評価への納得度を左右するのです。典型例が、目標についてリアルタイムで確認する「1on1」や、評価指標に頼らずに複数の評価者が合議で報酬を定める「ノーレイティング」です。
もっと根本的なことを言えば、私は、従業員のパフォーマンスや貢献というものは、「事実」そのものというよりは、本来謎である事実に対する「解釈」にすぎないと考えています。パフォーマンスや貢献については主観的にしか語れないからこそ、「すばらしい」「 あなたは分かっていない」などと上司と部下が語り合いながら、パフォーマンスや貢献が意味するところについて議論を尽くし、合意を形成しないといけないのです。組織ですから、議論を尽くしたから納得に至るとは限りません。配置転換や転職が解決法になることもあります。しかし、議論を避ける職場は、目標達成に対する無気力や諦めに覆われてしまうでしょう。
評価の外側にある人材情報が配属や登用などに役立つ
上司と部下の間には人事評価情報だけでなく、より包括的な人材情報があり、それを豊かにすることが人事評価にもそれ以外にも役立ちます。「周囲を支援するのが得意なタイプだ」「 チームを明るくしてくれる存在だ」「 粗削りだけれど将来性を感じる」「 誰と誰の相性が良さそうだ」というような情報は、目先の評価とは直接関係ないこともしばしばです。しかし、こうした情報は、既存の評価指標では捉えきれない従業員の成果や貢献を理解するのに役立ちます。また、配属や登用、それらを通じた長期的なキャリア形成に役立つことも多いのです。
特に、新たな組織を立ち上げたり、これまでにないチャレンジを始めたりする場合には、「優秀さ」についての既存の評価軸では十分に捉えられない、しかし何か光る価値を感じさせる人々を集めた方がよいケースがあるはずです。そうしたときに、評価の外側にある人材情報を活用できます。なぜなら、未知に挑むときには、さまざまな可能性に対応するための余剰や冗長性、いわば「遊び」があった方がよいからです。狭い評価軸を頼りに人事管理を行うだけでは、個人や組織における余剰や冗長性は決して手に入りません。
包括的な人材情報を増やすには、人生観や仕事観、趣味も含めて、職場の人々がお互いを知るための機会が必要です。雑談ばかりしていては元も子もないわけですが、職場の同僚の人となりにも関心をもてる人々の間には、互いに関する情報とそれを生み出す関係性があります。人事管理全般を円滑に進めるのに貢献するそうした「遊び」をなくさないよう、経営者や人事担当者は心を配る必要があります。
【text :米川青馬】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.61 特集1「視点 リモート時代の人事評価と人材情報」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
PROFILE
江夏幾多郎(えなついくたろう)氏
神戸大学 経済経営研究所 准教授
2008年一橋大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得満期退学。2009年に同大学より博士(商学)を授与。名古屋大学大学院経済学研究科准教授を経て、2019年9月より現職。著書に『人事評価の「曖昧」と「納得」』(NHK出版)、『人事管理』(共著・有斐閣)など。
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