- 公開日:2023/08/28
- 更新日:2024/05/16
障害者就労の増加にともない、障害のある人と同じ職場で働く人も今後ますます増えていくと予想される。本調査では、そのような機会をもつ個人や職場にとって参考になる知見を得るべく、現在、障害のある人と一緒に働いている人に対して、日頃どのような働きかけや配慮を行っているか、また一緒に働くことでどのような影響を受けているか、などについて尋ねた。
- 目次
- 調査概要
- さまざまな困難を抱える人と一緒に働いている
- 取り組みが進んでいるのは特性に応じた業務アサイン
- 職場での説明や対話が個人的な働きかけを促進
- 一緒に働くことが就労や活躍への理解に
- 職場全体が変わるきっかけとなる可能性
- 職場のD&I に向けた問題意識の高まりも
- 職場の障害者活躍支援が個人の適応感に及ぼす影響
調査概要
分析対象は、現在の職場で、障害のある人と一緒に働いて、3カ月以上経過している人380名である(図表1)。
<図表1>調査概要「障害のある人と一緒に働くことに関する実態調査」
本調査では、障害のある人を「仕事をする上で、身体的・知的・精神的な特性に起因する困難があり、周囲の配慮(支援・サポート)を必要とする人のこと。手帳や診断の有無は問わない」とした。障害がある人の支援スタッフ(ジョブコーチ・職場支援員など)、採用・雇用管理担当は回答対象に含まない。
回答者の所属組織は、20.5%(78名)が「障害のある人の雇用のために設けられた特例子会社」あるいは「その他障害のある人の雇用のために設けられた組織」(以下「特例子会社等」)、79.5%(302名)がその他一般の組織(以下「一般組織」)である。
さまざまな困難を抱える人と一緒に働いている
まず、今回の回答者380名が、どのような困難を抱えている人と一緒に働いているかについて尋ねた(図表2)。異なる困難を抱える複数の人が働いているケースや、1人で複数の困難を抱えて働いている人がいるケースも想定し、複数回答可とした。
<図表2>どのような困難を抱えている人と一緒に働いているか〈複数回答/n=380/%〉
結果を「特例子会社等」「一般組織」に分けてみたところ、両群とも最も多いのは「対人関係や対人コミュニケーションに関する困難を抱えている人」だった。「特例子会社等」では61.5%、「一般組織」でも44.7%となっている。「特例子会社等」では、次いで「体力的、気力的な困難を抱えている人(50.0%)」「行動や感情をコントロールすることに困難を抱えている人(50.0%)」が多い。「一般組織」では、2番目に多いのは「移動や視聴覚に関する困難を抱えている人(39.7%)」、次いで「体力的、気力的な困難を抱えている人(27.5%)」だった。
一緒に働く立場から見て取ったり感じ取ったりできる困難の状況には、限りや偏りがあると思われるが、一緒に仕事を進めていくなかでは、「対人関係や対人コミュニケーションに関する困難」は、特に認識されやすいものの1つだということが示唆される。
また、総じて「特例子会社等」の方が選択率が高いものの、「一般組織」においても、さまざまな種類の困難を抱える人が、同じ職場で働いていることが見て取れた。
取り組みが進んでいるのは特性に応じた業務アサイン
では、職場では、障害のある人に対してどのような配慮を行っているだろうか。同じく「特例子会社等」と「一般組織」に分けて見てみると(図表3)、「特例子会社等」で最も多いのは「調子の悪いときに休みをとりやすくしている(69.2%)」、次いで「能力が発揮できる仕事に配置している(66.7%)」である。「一般組織」で最も多いのは「能力が発揮できる仕事に配置している(59.6%)」「苦手なタスクを避けて得意なタスクを任せるようにしている(59.6%)」だった。特性に応じて能力が発揮できるような業務アサインは、両群共に実施率が高いことが分かる。
<図表3>職場における配慮〈単一回答/n=380/%〉
一方で、両群間で実施率の差が大きかったのは、「支援スタッフを配置している(特例子会社等38.5%、一般組織13.6%)」「職場でのコミュニケーションを容易にする手段を用意している(同53.8%、33.8%)」「働く場所に関する自由度を高くしている(同56.4%、38.4%)」「調子の悪いときに休みをとりやすくしている(同69.2%、52.6%)」だった。この差には、図表2で見たような、抱えている困難の違いも影響していると思われるが、一般組織においても障害がある人の雇用が増えるのにともない、支援スタッフや特別なコミュニケーション手段などの追加投資や専門的なフォロー態勢、働く場所や休みなどの制度の変更や特別ルールなどについて、導入を検討する必要が出てくるかもしれない。
職場での説明や対話が個人的な働きかけを促進
ここまで、一緒に働く人のもつ困難の種類と、職場における配慮について、「特例子会社等」「一般組織」ごとに見てきた。ここからは、一緒に働く個人の取り組みや、個人や職場への影響について分析を進めていくにあたって、より回答数が多く、また、今後一層の事例拡充が求められるであろう「一般組織」に対象を絞って、傾向を見ていくことにしたい。
図表4上は、回答者個人が、一緒に働く障害のある人に対し、どのような働きかけを行っているかを尋ねた結果である。支援的コミュニケーションに関する3項目(「うまく仕事を進められるよう、仕事を手伝ったり問題解決に協力したりしている」「必要とするときに、話を聞いたり相談にのったりしている」など)について尋ねたところ、いずれも「あてはまる」「どちらかというとあてはまる」の合計が約6割と半数を超え、「どちらともいえない」が約3割だった。「あてはまらない」「どちらかというとあてはまらない」は約1割と少ない。「どちらともいえない」が比較的多いのは、積極的に関われていない、十分に関われているかどうか自信がない、といった人が一定数いることを示しているかもしれない。
<図表4>障害のある人に対する個人的な働きかけ〈単一回答/n=302/%〉
では、こうした働きかけの差には、どのようなことが影響しているだろうか。前述の3項目を「個人的な働きかけ」として尺度化し、個人的な経験や職場での経験の違いごとに、平均値の差を比較した(図表4下)。
「学校や地域において、障害のある人と日常的な接点がある(あった)」や「自分自身が、障害を理由とした配慮を受けて働いている(働いたことがある)」といった、個人的に障害のある人に対する理解を深める経験の有無により、働きかけの程度には一定の差が見られた。身近に感じられる経験が、より積極的な働きかけに影響することが分かる。
一方、それにも増して、働きかけの程度に差が見られたのは、職場での経験の有無である。「人事や上司から障害特性や必要な配慮についての説明があった」「本人と障害特性や必要な配慮について話し合った」「どのような支援をしていけばいいかについて、職場で話し合った」といった職場の取り組み経験がある方が、個人的な働きかけの程度が高かった。障害のある人に対する理解を深めるような個人的な経験に巡り合わない場合でも、職場において、説明や対話をしっかりと行っていくことで、働きかけを促進していくことができるといえる。
一緒に働くことが就労や活躍への理解に
一緒に働くことで学んだこと・気づいたことについては、図表5のとおりである。7割以上の人が「障害のある人の就労に対する理解が深まった(75.5%)」、約8割の人が「仕事や環境を整えれば、障害がある人も十分に職場の戦力になると感じた(78.5%)」と回答しており、一緒に働く経験が、障害者の就労や活躍に対する理解を大きく促進することが分かる。
<図表5>一緒に働くことで学んだこと・気づいたこと〈単一回答/n=302/%〉
図表6に具体的な記述内容を抜粋した。「考えがブレないところは、見習いたいと感じた」「障害があっても働くという意思に、感銘を受けた」「熱心に仕事をする姿勢は、とても尊敬している」のように、その働きぶりから影響を受けたというコメントも多く見られ、障害のあるなしの垣根を越え、共に働く仲間として刺激を受けていることが分かる。
<図表6>一緒に働くことで学んだこと・気づいたこと〈自由記述から抜粋〉
職場全体が変わるきっかけとなる可能性
では、職場全体の働き方や業務プロセスには、どのような影響が見られただろうか。図表7の7項目について尋ねたところ、最も多かったのは「お互いの個別事情への配慮が高まった(53.6%)」だった。
<図表7>職場への良い影響〈単一回答/n=302/%〉
自由記述(図表8)では、「障害のある人だけでなく、いろいろな性格、特性をもったスタッフがチームで働きやすくするための方法を、考えるきっかけになった」「できないことを、苦痛を伴ってまでやるより、できることをやろうと、プラスの方向で動くようになった」といったコメントが見られた。誰にでも得意なこと不得意なことがあることを再認識し、それぞれの力をより発揮できるような工夫を、職場として行っていくきっかけとなっているようだ。「必然的に休暇をとる人がいることで、他の人も休暇をとりやすい雰囲気が生まれた」「障害のある人だけでなく、全員への配慮が増えた」なども、障害がある人の就労が、すべての人にとって働きやすい職場の実現につながっている例だろう。
<図表8>職場への良い影響〈自由記述から抜粋〉
また、「職場周りのごちゃごちゃした環境が整備されて、動きやすくなった」「障害がある人が歩きやすいように、職場のなかが整理整頓された」といった執務環境の改善や、「役割分担するために業務の標準化が進んだ」「役割分担を最適に行うことを心掛けるようになった」などの業務の整理、「仕事の進め方などについて話し合う機会が増えた」といった職場全体のコミュニケーションの向上など、障害のある人と一緒に働くことが職場全体の効率性に波及する効果は少なくない。こうした効果は、障害のある人の特性を認め、生かそうとし、その活躍のための環境づくりに積極的に取り組む職場であるほど、高まることが想定される。
職場のD&I に向けた問題意識の高まりも
障害のある人と一緒に働くことが、個人や職場にとって、さまざまな良い影響をもたらす可能性を見てきたが、一方で、困っている点や要望したい点はあるだろうか。この点について、自由記述で回答を得たものを抜粋したのが図表9である。大きく分けて、障害者支援の拡充に関するものと、サポートする側への配慮や要望に関するものが見られた。
<図表9>困っていること・要望したいこと〈自由記述から抜粋〉
前者では、「事前の説明」について、「仕事をするなかでどのような障害があるかを少しずつ理解していったので、最初に説明があればもう少し関わりやすかったと思う」「会社から具体的な説明がなされておらず対応に困ることが多かったので、雇用前にしっかりとした説明が必要」といったコメントが見られた。事前の説明が、周囲の積極的な働きかけに大きく影響を与えることは図表4でも示したが、こうしたコメントは、より効果的に関わりたいという前向きな気持ちの表れでもあるだろう。「サポートする側に対する学習機会の提供」についてのコメントも同様である。
「障害がある人への待遇や執務環境の改善」に関するコメントも散見された。「仕事の内容は障害に配慮されているが、フルタイムで働いてくれているので、給料がもう少し上がってほしいと思う」「今の部署だけでなくいろいろな部署での仕事を経験させてあげ、自分に合っている部署を見つけさせてあげてほしい」「肢体不自由な方に対する施設面のサポートが不足しているので、予算化した上で早急に取り組んでほしい」などは、一緒に働く同僚に対するさらなる公平性を要望する声である。自然な形で、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の意識が職場に広がっていることを感じさせる。
後者のサポートする側への配慮については、「障害のある人は、どうしたらうまくいくかを考える機会がある。一方、障害がなくとも苦手なことや向き不向きがあるが、それについては話し合われないのをどうかと感じる」「障害のある人だけかなり優遇されていると感じることがある」のようなコメントが見られた。図表7で、障害のある人と一緒に働くことで、職場全体としてお互いへの個別配慮が高まる傾向を紹介したが、逆に、それがない場合、こうした不満につながる可能性があると思われる。
また、取り組みが上司を含めた職場全体のものでない場合には、「同僚で協力してサポートすることに対して不満はないが、上司が協力に積極的ではなく、スタッフに依存していることは不満」「退職者が出ても問題点、改善点などを考えることがないため、また採用しても離職してしまう」のような声につながり、共に働く体制を維持することは難しいだろう。
職場の障害者活躍支援が個人の適応感に及ぼす影響
これまで見てきたように、障害者と一緒に働くことは、個人や職場にプラスの影響を与える可能性が高いものの、マイナスの感情をもたらすこともある。そこで最後に、職場の障害者活躍支援とインクルージョン風土が、個人の適応感に与える影響について検討したい。
自職場が、障害のある人を積極的に受け入れ、活躍を支援しているという認知は、個人の仕事や職場への適応感にどのように影響するのだろうか。また、自職場が、障害のあるなしにかかわらず、個々人の違いを尊重し、異なる視点を大事にする風土をもっていると感じることは、同じく、どのように影響するだろうか。
図表10は、「職場の障害者活躍支援(「私の職場は、障害のある人の採用・活用に積極的だと思う」など3項目を平均)」と「職場のインクルージョン風土(「私の職場は、個々人の違いを尊重していると思う」など3項目を平均)」についてそれぞれH群(平均より高い群)、L群(平均より低い群)に分け、その組み合わせで構成した4群について、「個人の適応感(「今の仕事にやりがいを感じる」「今の職場が気に入っている」など4項目を平均)」の得点を比較したものである。
<図表10>職場の障害者活躍支援とインクルージョン風土が個人の適応感に与える影響〈n=302〉
障害者活躍支援もインクルージョン風土も高いと感じているHH群(1)は、最も適応感が高い。一方、障害者活躍支援は進んでいるが、インクルージョン風土は低いと感じているHL群(2)は、HH群(1)と比べて、適応感が有意に低い。この群はLL群(4)に比べれば適応感が高いが、自職場が、障害者活躍支援において進んでいるだけでなく、障害のあるなしにかかわらずすべての人を尊重するインクルージョン風土も高いと感じられることが、個人の適応感に強く影響を与えることが示唆される。
今回は、障害のある人と一緒に働く人を対象にした調査であり、一緒に働く個人や職場がどのようなことを感じ、影響を受けているかについて、いくつかの興味深い示唆を得た。障害のある人が、職場の一員として活躍できるよう工夫していくことは、障害のある当事者や受け入れ企業・人事だけの問題ではなく、一緒に働く人にとって価値のある事柄であることを、今回の調査から改めて感じることができた。障害のある人と一緒に働く人に対する調査はまだあまり多くないため、今後も、引き続き検討していきたい。
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.71 特集1「障害者雇用・就労から考えるインクルージョン」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
執筆者
技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
研究員
佐藤 裕子
リクルートにて、法人向けのアセスメント系研修の企画・開発、Webラーニングコンテンツの企画・開発などに携わる。その後、公開型セミナー事業の企画・開発などを経て、2014年より現職。研修での学びを職場で活用すること(転移)、社会人の自律的な学び/リスキリング、経験学習と持論形成、などに関する研究や、機関誌RMS Messageの企画・編集などに携わる。
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