実践的な学びとその定着 4つのポイント ベンチャー・成長企業の新任マネジャー育成

執筆者情報
HRテクノロジー事業開発部
マネジャー
野崎 日土志
執筆者情報
HRテクノロジー事業開発部
主任研究員
藤江 嘉彦

ベンチャー・成長企業の組織発展を阻害する課題の1つに、ミドルマネジメントの強化が挙げられる。新任ミドルマネジャー(以下、マネジャー)の多くが半年以内にぶつかる壁の多くが部下育成・チームづくりであり、ある一定期間を経てもその課題を克服できていないマネジャーが多いことも調査で分かっている。経験が浅いなかで、ある日突然管理職に任命され、プレイング業務に追われながら、マネジメントの課題を克服していくには、何がポイントになるのだろうか。小社で実施したフィジビリティスタディの結果をご紹介しながら、ベンチャー・成長企業における新任マネジャーの育成支援のあり方について、考察していきたい。


ベンチャー・成長企業における組織課題

ベンチャー・成長企業における事業の急成長期には、人・組織力の成長スピードを事業の成長スピードが超えることが多く、ひずみやタイムラグが生じているケースをよく目にする※1。この拡大化ステージにおける「ひずみ」の特徴は、第1に方針が明確に伝わりづらくなること(制度・仕組みの側面)、第2に権限委譲がうまくいかないこと(個人の側面)、第3にマネジャー1人あたりの部下人数が増え部下への個別フォローが減少すること(コミュニケーションの側面)である。

拡大化ステージは、日頃から会社の方向性や理念を直接共有できていた創業ステージと比して、経営者との接点が大幅に減少し、経営者と社員との距離が離れていく。代わりに、マネジャー(直属上司)が社員の会社接点の中心となる。その一方で、事業成長と共に、現場と経営をつなぐ存在であるマネジャーを担える人材の不足感が強まっていく。そのため、マネジャー1人あたりの部下人数も増えざるを得なくなる。

こうして、創業時に抱いていた組織の理想像と現実との乖離が生じる職場環境のなか、組織運営の制度・ルールが整わない環境下での非効率を原因とする長時間労働、適切なマネジメントを受けられない状態などを理由に、1人、また1人と社員が離職していく。拡大化ステージにおいて、こうした組織の「ひずみ」を放置していると、事業推進の遅滞を招くことになりかねない。

組織の意欲・コミットメントを高めるための打ち手と課題

拡大化ステージにおいて、組織の意欲・コミットメントを高めていくために重要になるのは、「制度・仕組み」と「マネジャー」の強化の2点であると考える。物理的な制約から、経営トップからの発信だけで影響を行き渡らせるのは困難になる。そこで、その代役をマネジャーが担うわけだが、創業メンバーが有していた影響力を内・外部から新規登用されたマネジャーは必ずしも有してはいない。故に、経営理念の明文化やビジョンや行動規範の具体化、非金銭面も含めた報酬設計など、より重層的な仕掛けを通じて、マネジャーのマネジメントコストを下げることが必要になる(制度・仕組みの強化)。そして、その仕掛けを運用し、職場の中心で経営との結節点となるマネジャー層が、時に経営の代弁者、時にメンバーに寄り添う存在として機能するようにマネジメントスキルを強化する必要がある(マネジャーの強化)。

筆者の限られた経験ではあるが、ベンチャー・成長企業において、「制度・仕組みの強化」については、社内における優先順位の高さから、すでに内部で取り組んでいる企業が多い印象である。一方で、「マネジャーの強化」については、リソースの問題もあり、十分な手が回っていないケースが見受けられる。故に、本稿では、「マネジャーの強化」に焦点を当てていきたい。

マネジャーへの役割転換における課題

まずは、組織のステージにかかわらず確認される「マネジャーへの役割転換における課題」について、小社で実施した部下をもつマネジャー(課長相当)に対するアンケートおよびインタビュー調査結果※2 を踏まえて考えたい。

調査の結果、第1にマネジャー(課長)という仕事を理解するまでの期間として、「1カ月以内」だった人は、わずか1割弱にとどまり、半数以上が半年以上かかったという回答であった。多くの人にとって、マネジャーの仕事内容を理解するには、ある程度の時間がかかることが分かる。第2に、マネジャーに就任した後、3カ月で一度モチベーションが落ちるケースが多いこと(U字カーブを描くこと)、第3に、マネジャーへの役割転換における具体的な課題は、対人面に関するものが中心であることが確認された。対人面において直面する問題は主に3つ存在し、1つ目は、部下へ権限委譲ができず、仕事を任せられないこと、2つ目は、任せた仕事に対して適切なフィードバックをかけられず、部下を育てられないこと、3つ目は、チームワークが作れず、リーダーシップを発揮できないことであった(3つの壁)。

次に、ベンチャー・成長企業におけるマネジャーの現状に焦点を当てる。前述のとおり、事業成長のスピードが速く、かつ慢性的なリソース不足からフラット型の組織形態であることが多いため、ピラミッド型組織であれば経験しうるプレマネジメント経験の機会が乏しい。ある日、突然マネジャーに抜擢され、すぐに成果を出すことが求められる。マネジメントに専念できるかといえば、もちろんそうではなく、プレイングマネジャーが大半である※3。さらに昨今の働き方改革やコンプライアンス強化の流れを受け、物理的な時間の制約やペーパーワークの増加に伴う業務量増加により、十分な能力開発の時間をとれないのが現実である。労働時間のなかで学びに費やせる時間を調査したところ、1%しかないという調査結果も存在する※4。

仮にマネジャーとしてうまく機能しなかった場合、リソースやポストが一定数存在する大企業であれば、異動の上、再チャレンジさせながら、失敗経験を通じた経験学習を促進することも可能ではあるが、リソースやポストが限られるベンチャー・成長企業ではそうした機会の提供は難しいケースが多い。では、せめて先行研究※5 が示すように、着任時に十分な人材開発施策を投下できているかといえば、人材開発に関する小社の調査※6 によれば、マネジメント職着任時のインプット機会は一定程度あるものの、その後の現場フォローを通じた経験学習の促進がなされているケースは2割程度にとどまる。ベンチャー・成長企業のマネジャーが置かれている環境は、より深刻であるといえるのではないだろうか。こうした制約条件下において、再現性のある「マネジャーの強化」の仕組みは構築可能なのか。

壁を乗り越えるための4つのポイント

前述の調査※2 において、マネジャー本人が実践でき、かつ、「問題を乗り越える上で役に立った」行動として、「内省」「マネジャー前の経験の応用」「部下時代の上司への期待を思い出すこと」が確認された。そして、着任直後の「役割・自己理解」の不足が適応感にマイナスの影響を与えること、問題に対する主体的な対処と支援獲得の両方を行うことが適応には重要であることが示唆された※7。キャリア発達論においても、キャリアの転換期に対処するには、自己理解や自身がマネジメントする職場の状態、組織における支援環境を把握した上で戦略を立てることの重要性が示されている※8。

以上を踏まえて、新任マネジャーが直面する3つの壁を乗り越えるために、4つのポイントから成る「内省機会の提供と周囲からの支援」を考えた(図表1)。先行研究※5 の知見によれば、マネジャーになってから間もない時期に、支援を行う方が効果的である。着任時こそ、本人に委ねるだけでなく、1〜4のような機会提供や支援を行うことで、マネジャーとしての適応が促され、成果を高めやすくなるのではないだろうか。

フィジビリティスタディの概要

ここからは、この4つのポイントの有効性を検証するために実施した、フィジビリティスタディの概要と成果について紹介したい。ベンチャー・成長企業のマネジャーを対象に、3カ月間のマネジメント強化プログラムを提供した(2017年9月〜2018年3月、のべ18社143名)。プログラムと4つのポイントとの対応を整理すると図表2のようになる。

まとまった時間を学習に割けない、未経験ななかで取り組むべき課題が多岐にわたる、という状況を踏まえ、隙間時間を用いてさまざまな場面に応じたマネジメントのエッセンスを短時間で学べるコンテンツの提供、職場でのトライ&エラーを支援するリマインド機能、自分自身のマネジメントを内省するための振り返り機能を備えた、専用のモバイルラーニングシステムを開発した。参加しているマネジャー同士が、お互いの記述から相互学習できるようなソーシャルラーニングの機能も備えている。さらに、自分自身のマネジメント行動や職場コンディションを客観的に把握するための360度サーベイと、会社ごとに同じ立場のマネジャー同士が少人数で集まって1〜2時間程度、相互にフィードバックし合ったりして、問題解決をするための短時間ワークショップを組み合わせた構成とした。

事業拡大期にそれぞれの部署の中核業務を第線で担ってきた今回の参加者には、担当業務やサービスをゼロから立ち上げてきた人も少なくない。「自分以外は経験数カ月のローキャリアばかり」「正直、自分以外に仕事を安心して任せられる人はいない」といった率直な声も聞かれた。参加者アンケートにおいても、就任前に想像していたのと違っていたこととして、「メンバーへの仕事委任の難しさ」「メンバーの能力不足」「メンバーの意欲の喚起の難しさ」が挙げられていた。そのようななかで、4つのポイントは効果があったのか。インタビューで得た参加者の声(以下、網がけ部分、一部抜粋)とあわせて紹介していく。

■ポイント1
マネジャーとしての役割認識・業務の理解

360度サーベイでは、マネジャーの役割行動に関する設問に本人と職場メンバーが回答する。その結果を比較することにより、自分のマネジメントのどこがうまくいっていて、どこに課題があるのかを客観的に把握することをねらいとしている。

メンバーとの認識のギャップを知ることが、自分のマネジメントの現状を理解して課題を把握するために、有効に機能したと思われる。

■ポイント2
ピープルマネジメントにおける原理原則の習得

ベンチャー・成長企業に限らず、マネジャーの役割や業務を理解する機会がないままに就任するマネジャーは多い。そのため、今回のモバイルラーニングでは、多くのマネジャーが直面してきた具体的なケースを示して「自分だったらどうする?」と考えてもらった上で、原理原則を提示し、その原則を職場で実践するための具体的な行動を選択してもらった。「部下に仕事を任せきれない」という壁に直面しているマネジャーは、それがマネジャーの役割であることを知ってはいるが、「経験が浅いメンバーが多く、任せたくても任せられない」「組織の目標を達成するには自分がやるのが最も速いし確実」といった、そうしたくてもできない悩みや、そうしないことのメリットの方を感じていることが多い。これらの悩みは解消され、原理原則への理解を深めることはできたのだろうか。

マネジャーの役割・業務を知識として知るだけではなく、実際に職場で部下に対して実践してみることにより、部下から反応が返ってくる。それをきっかけに、より具体的に掘り下げて考える機会となり、繰り返し実践することで、問題場面に応じた具体的な対処方法を身につけていくことにつながっていったといえそうだ。

■ポイント3
他者から支援を得やすくする関係づくり

「人のマネジメントとなると、具体的に何をどうすればいいのか誰も教えてくれないし、社内で参考になる人もいないので、自分で試行錯誤するしかない」というのは、ベンチャー・成長企業の多くのマネジャーが抱える悩みであった。そこで、他者からの支援を得やすくする関係づくりを促進するため、同じ立場の管理職同士で、うまくいったこと、いかなかったことを題材に、どうすれば問題が解決するのかを、短時間ワークショップで議論してもらった。

多くの参加者が他のマネジャーとのディスカッションを通じて、他のマネジャーの考えや行動を疑似体験し、行動を変えるためのヒントを得ることができたと思われる。

■ポイント4
自分の過去の経験・現在の行動を振り返る内省機会

すべての参加者が、ここまで紹介してきたポイントを、順調にクリアしていったわけではない。原理原則は理屈としては分かっても実践への一歩が踏み出せない、実践してもうまくいかないと継続できないというマネジャーが多かったのも事実である。忙しい業務のなか、自分自身のマネジメントの改善の優先順位が上がらないマネジャーは、その認識を変えることができたのだろうか。

参加者がどのタイミングで、自分自身の課題に本当の意味で気づき、行動を変えるための一歩を踏み出すかはあらかじめ計画しておくことはできない。そのため、マネジメント強化のプロセスは、一定期間、継続して伴走するアプローチが有効であり、職場で伴走してきたメンバーからのフィードバックの有効性を感じている。

考察とまとめ

最後に、360度サーベイ結果をもとに、フィジビリティスタディ実施前後で本人や職場にどのような変化が起こったのかを検証したい。まず、マネジャー本人による認知の変化としては、「任せて育てるマネジメントの実践」「マネジャーの役割認識」「メンバーとの信頼関係構築」に関する項目において一定の向上が見られた。職場メンバーから見たマネジャーの変化としては、マネジメント行動そのものに限らず、職場での方針共有や施策の実行、組織・顧客への貢献意識など、職場全体のコンディションにおいてもプラスの変化が見られた。

また、本人によるマネジメント上の課題感についてのアンケートでは、フィジビリティスタディ実施前後での選択率を比較すると、「プレイング業務との両立の難しさ」は依然として高いものの、すべての項目において改善されている。特にピープルマネジメントに関する課題感の選択率は減少傾向であり、今回の方法がマネジメントへの適応感の向上に寄与する可能性が示唆された(図表3)。3カ月間のフィジビリティスタディを礎に、各社で内省・実践支援を継続していくことで、さらなる効果が期待できると考えている。

今回のフィジビリティスタディでは、多くの事業責任者や人事・育成担当者が、支援者として参加マネジャーに伴走し、ワークショップにも立ち会っていただいたことも特筆すべきことである。そのようななかで、自らの経験の振り返りや他のマネジャーとのディスカッションを通じて、自社・自部門ならではのマネジメントの基準を共通言語化できたことにも意味があったと感じる。

今後も、ベンチャー・成長企業のマネジメント育成・強化のプロセスに伴走させていただくことで、施策の改善に努めていきたい。


※1 本誌43号第2特集「成長企業の組織・人材マネジメント
※2 リクルートマネジメントソリューションズ(2016).「マネジメント人材育成ブック」
※3 東京大学・公益財団法人日本生産性本部(2012).「マネジメントへの移行と熟達に関する共同調査」
※4 Julian,B. & Jordan,C. (2013). Make Time for the Work That Matters
※5 Powell,K.S. & Yalcin,S. (2010). Managerial training effectiveness:a meta- analysis 1952-2002
※6 リクルートマネジメントソリューションズ(2017).「人材開発実態調査
※7 石橋慶・藤村直子・古野庸一(2016).「新任管理職の適応に影響を及ぼす要因の検討」産業・組織心理学会第32回年次大会
※8 ナンシー・K. シュロスバーグ、武田圭太・立野了嗣監訳(2000).『「選職社会」転機を活かせ』日本マンパワー出版


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.53 特集2「ベンチャー・成長企業の新任マネジャー育成〜実践的な学びとその定着」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

 
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