「ひずみ」を乗り越え、持続的な成長を実現する 成長企業の組織・人材マネジメント

執筆者情報
ソリューション統括部
コンサルティング部
部長
齋藤 悠介

事業の立ち上げフェーズを乗り越え、弾み車が回り始めると加速度的に成長していくフェーズが訪れる。その際、事業成長と呼応するように組織にも大きな変化が生じるのが常であり、適切にマネジメントしていくことが経営の重要課題となる。事業と組織が、車の前輪・後輪のように噛み合いながら成長していくための鍵は何か。本稿では、成長企業の組織・人材マネジメントのあり方について考える。


事業成長に潜む組織の「ひずみ」

10年以上前のことになるが、ある経営者の方から「事業は拡大しているし、規制緩和のなかで新たなチャンスもどんどん生じてきている。ただ、今まで自分が企画立案して牽引してきたためか、現場が自ら企画してチャレンジするということが見られない。最近では期待していた人材の離職などもあり、このままでは将来が思いやられる……」と伺ったことがあり、私が成長企業のマネジメントに強く関心をもつきっかけともなった。このような「事業の急成長に組織が追いつかず苦労した」という類いの話は、2年前に弊社で実施した「急成長を経験した企業」へのインタビュー調査においても多数伺ったことである。これらの背景には何が起きているのか。

人間が生まれてからいくつもの発達段階を経て成長するように、組織にも発展の段階(=発展ステージ)が存在する。そして、次の段階に進むためには乗り越えなければいけない壁、すなわち、組織の「ひずみ」が潜んでいる。そして、急成長する組織において経営陣・人事が頭を悩ませる多くの問題は、この「ひずみ」の影響を少なからず受けているのである(図表1)。

創業・拡大期に生じる「ひずみ」の正体

それでは、創業・拡大期に生じる「ひずみ」とは、具体的にどのような事柄なのか。先行研究(ダフト、グレイナーなど)や弊社調査をもとに主な「ひずみ」を3つの領域・10の観点で整理した(図表2)。調査結果の一部を図表3にご紹介する。

「ひずみ」の放置は、戦略の遅滞や業績の悪化を招く

人間の成長痛は放置しておいても時間と共に解消されていくが、組織の成長痛ともいえる「ひずみ」は放置しておくと徐々に悪化していってしまう。そして事業面での順調な成長に異変が起きたとき、さらに追い討ちをかけるように組織課題として顕在化してくる。また、組織の疲弊・混乱が先に起こり、事業成長にブレーキをかけるというケースもある。弊社調査でも、低業績企業ほどひずみの認識数が多いことが確認されている(図表4)。

しかしながら、現実には問題が大きくなるまで放置されてしまうことも珍しくない。ある急成長企業の人事責任者から、「事業拡大を優先していたため組織課題についてはあえて目をつぶっていた。実際に、いくつものプロダクトが成功しており大きな問題になることはなかった。しかし、国内外の事業成長が踊り場を迎えた今、放置していたさまざまな問題が噴出してきているため、経営課題として優先度を上げて取り組んでいる」という話を伺ったことがある。何となく気づいていても放置されてしまう、もしくはそもそも気づかないというケースもあるのだろう。

いずれにしても、組織の「ひずみ」を放置することは、戦略の遅滞や業績の悪化を招く危険性を放置することになるのである。

「ひずみ」克服の鍵は「重層的な動機付け」と「衛生要因への配慮」

前述のとおり、急成長企業においてはさまざまなひずみが生じてくる。当然、ひずみに対する打ち手は企業によってさまざまであろうし、テクノロジーの進化などとあわせ従来とは違う新しい乗り越え方を考案していく余地は大いにある。しかし、多くの企業で共通する押さえるべきポイントが存在する。それが以下に述べる「重層的な動機付け」と「衛生要因への配慮」である。

創業ステージでは経営トップがビジョンや理念を直接語りかけることで、いわゆる動機付け要因といわれる仕事の意義・やりがいを担保している。しかし、拡大化ステージ以降になると物理的な制約から経営トップからの発信だけでは行き渡らず、より重層的な仕掛け・方法が必要になってくる。例えば、経営理念の明文化や経営トップ以外による伝承・対話、非金銭面も含めた報酬設計などが考えられる。そして、その中心となるのがミドルマネジメント層である。ミドルマネジメント層が、時に経営の代弁者として、時にメンバーに寄り添う頼れる存在として機能するように強化する必要がある。

もう1つのポイントが「衛生要因への配慮」である。急成長企業では、ある程度の規模になるまでは動機付け要因のみで従業員が突き動かされているケースが多い。しかし、規模が大きくなり人員が増えてくると、「公正に扱われていない」「大切にされていない」といった衛生要因に関連する不満が出やすくなるため、そうしたことへの配慮が必要になってくる。

そのなかで特に着目したいのが、組織市民行動を支える公正性という観点である。組織市民行動とは、オーガン(1988)が提唱した概念であり、「従業員の任意の行動のうち、正式な職務の必要条件を超えて、組織の効果を高める行動」と定義されている。変化の激しい急成長企業においては、さまざまなことを予め決めきることは現実的でなく、常に柔軟な対応を求められる。そうした環境下において、組織市民行動は非常に有益なものである。

そうした組織市民行動は、組織の公正性と密接な関係があり、従業員が公正性の低下を感じると組織市民行動も低下してしまう。では公正性とは何か。主に3つに分類される。報酬の分配結果などに関する「分配的公正」、結果に至るまでの過程に関する「手続き的公正」、そして個人的な配慮や誠意に関する「対人的公正」。そのなかで組織市民行動に特に影響を与えるのは、「手続き的公正」と「対人的公正」といわれている(Skarlicki & Latham,1990/Moorman,1991)。「手続き的公正」という面では評価・処遇に関する明確な基準・ルールを定めた分かりやすい人事制度を整備したり、「対人的公正」という面では社員一人ひとりに配慮したミドルマネジメントによる対話などの施策が必要となる(図表5)。

ベースとして欠かせない「経営チーム」としてのトップコミットメント

前述したようなさまざまな施策を打ち出すことは、これまでのやり方が変わり、組織の慣性が変化することにつながる。いわば、組織における「健全なゆらぎ」ともいえるが、一時的には混乱をもたらすことも多い。こうした状況においては、効果が出るまでやり続けるためのトップコミットメントが欠かせないことは論を俟たない。

しかし、創業ステージを牽引する経営トップは得てして事業創造や動機付けに長けている半面、衛生要因への配慮が疎かになるケースが散見される。そうした点を補完する「経営チーム」としてのトップコミットメントが重要といえる。ティモンズ(1994)によると、ベンチャー企業の成長と経営チームの質には高い相関性があるとされている。そのなかで、相互補完的な経営チーム内での共同作業により経営の諸問題を複数の目で洗い出し、問題を予測することの重要性が説かれている。

また、「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉がある。江戸時代・松浦静山の剣術書に出てくる名言であり、かつてプロ野球の野村克也元監督がぼやいたことでも有名な言葉である。王道を知り、精進することの大切さを説いているのだが、これは成長企業におけるマネジメントにおいても通じることであろう。

すなわち、経営トップ一人の利き腕だけに頼らない相互補完的な「経営チーム」として、典型的なひずみのパターン・対処法などの知識(王道)を応用しながら、現状および未来に対する共通認識をもって粘り強く取り組んでいくことが重要である。また、成長企業における人事として、そうしたことを経営チームが対話する機会・場を意図的に作り出していくことが醍醐味の1つではないか。本特集がその一助になれば幸いである。

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.43 特集2「成長企業の組織・人材マネジメント」より抜粋・一部修正したものものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

関連するテーマ・課題

関連する無料セミナー

関連する記事

お問い合わせはこちらから
WEBからのお問い合わせ
資料請求・お問い合わせ
[報道関係・マスコミの皆様へ]
取材・お問い合わせ
電話でのお問い合わせ
0120-878-300

受付時間
/ 8:30~18:00 月~金(祝祭日除く)

※フリーダイヤルをご利用できない場合は
03-6331-6000へおかけください。

記事のキーワード検索
Page Top