連載・コラム
3つの転機で語る 女性リーダーのライフキャリア
やってみないと見えない景色がある。営業、ブランド創出、経営を通じて見つけたキャリアの拓き方
読了時間:10分
- 公開日:2026/11/02
- 更新日:2026/11/02
キリンビール株式会社
マーケティング本部 流通営業本部 首都圏流通第2支社 支社長
倉内 夕子(くらうち ゆうこ)氏
昨今、日本企業でも女性活躍が着実に進み、女性管理職比率も高まっています。一方で、部長以上の上級管理職に目を向けると、女性の登用はなかなか進んでいない現状があります。
そこで本シリーズでは、企業の枠を超えてロールモデルとなる方々を紹介したいという思いから、現在上級管理職に就く方々にインタビューを実施しました。どのようなライフキャリアを歩んできたのか、どのような転機があったのか、そしてリーダーとして何を心がけているのか——。「3つの転機」を挙げていき、その歩みや考え方を伺いながら、次世代の女性リーダーに向けたヒントをお届けします。
第3回は、キリンビール株式会社・首都圏流通第2支社の支社長を務めている倉内夕子氏にお話を伺いました。倉内氏は1995年にキリンビール株式会社(初代、現・キリンホールディングス株式会社)へ入社。営業企画や量販営業、広報といった幅広い業務を経験されたあと、プラズマ乳酸菌を使用したブランド『iMUSE』の立ち上げにも参画。その後、キリンアンドコミュニケーションズ株式会社の社長を経て、2026年4月より現職に就いています。
- 3つの転機で語る 女性リーダーのライフキャリア
- やってみないと見えない景色がある。営業、ブランド創出、経営を通じて見つけたキャリアの拓き方
- 3つの転機で語る 女性リーダーのライフキャリア
- 軸は「未来が良くなる予感」を掴むこと。会社と自分の未来をつくる柔らかなキャリア観
- 3つの転機で語る 女性リーダーのライフキャリア
- 諦めずに続ければ、花開く。10年前の自分に「ありがとう」と言える人生を歩もう
- 目次
- 新卒時代から変わらない、営業への熱意と“伝える”スタンス
- 転機1:育休明けから管理職へ。時間的・体力的な制約との向き合い方
- 転機2:『iMUSE』立ち上げを支えた、人とのつながり
- 転機3:「従業員の雇用を守るには?」正解のないなかで手繰り寄せた、会社の新たな役割
- 大切にしたいのは感謝の気持ちと、固定観念にとらわれないこと
新卒時代から変わらない、営業への熱意と“伝える”スタンス

——最初に、現職について教えてください。
現在は、首都圏のスーパーマーケットなどの流通企業を担当する営業組織で、支社長を務めています。担当企業様と共に売場や販売施策を考え、キリンの商品をお客様にお届けしていく組織です。売上や利益の目標達成に加え、メンバー一人ひとりが力を発揮できる組織をつくることが、私の大切な役割です。
私は新卒の頃からずっとキリングループで働いていますが、健康領域などに携わっていたため、キリンビールでの勤務は15年ぶりになります。営業の仕事に戻るのも久しぶりです。
——久しぶりの営業とのことですが、倉内さんから見てどんなところが魅力的ですか?
自分たちが自信を持ってお薦めしたい商品の価値が、売場や販売施策を通じてお客様に届き、最終的に数字にも表れる。その一連の手応えを感じられることが、営業の大きな魅力だと思っています。
入社した頃から飲食店様向けの業務用営業に興味がありまして、新卒として営業企画に配属されたあとも、「ぜひ営業をやらせてください!」と強くアピールしていました。希望がなかなか叶わず、1人でモヤモヤを抱えていた時期もありましたが、上司との面談や対話の機会を見つけては、「営業に挑戦したい」と繰り返し伝えました。時には懇親の場でも、思いの丈を率直に話したことを覚えています。
そうして熱意を伝え続けていたら、次の異動の際に、当時ではまだ珍しい量販営業というポジションを任せてもらうことができました。
転機1:育休明けから管理職へ。時間的・体力的な制約との向き合い方

——倉内さんのキャリアのなかで、1つ目の転機になったことを教えてください。
1つ目の転機は出産を終えて、量販営業に復帰した時でした。以前から管理職に興味があったのですが、ちょうど育休明けの時期と、管理職試験のタイミングが重なってしまったんです。「復帰したばかりだし、子育てとリーダーを両立できるのかな?」という不安もあり、受験するかどうか相当悩みました。
不安はありましたが、「今の自分にできるか」だけで考えるのではなく、「挑戦しながら、自分に合ったやり方をつくっていけばいい」と考え、受験を決めました。家族の協力に加え、職場の上司や先輩、同僚など周囲の力を借りることで、リーダーとしての一歩を踏み出すことができました。一方で、子どもが生まれてからは時間や体力といった制約と常に向き合う必要があり、家庭と仕事を両立するために、まず仕事のやり方を変えなければなりませんでした。
——具体的には、どのように仕事のやり方を変えたのでしょうか?
育休前よりも、周りに頼るようになりました。すべてを完璧に仕上げようとするのではなく、本当に大切にしたいことを見極め、それ以外は仲間に任せる。仕事の優先順位を明確にし、周囲の力を借りることで、仕事と家庭を少しずつ回せるようになりました。
今までのやり方ではどうにもならない時に、別の方法を考えることも増えました。例えば、夜しか商談できないバイヤーの方がいたのですが、当時は子どもが小さく、夜の商談に対応することが難しい状況でした。そこで、「できない」と諦めるのではなく、お客様が日中に参加されるイベント会場まで行って、「5分でいいので歩きながら商談させてもらえませんか」とお願いしました。
もし「夜は動けない」という制約がなかったら、代替案を考えることも、柔軟に変わっていくこともなかったでしょう。“制約”も決して悪いことばかりではないと学んだことが、1つ目の転機における大きな成果でした。
転機2:『iMUSE』立ち上げを支えた、人とのつながり
——倉内さんは量販営業を経て、2011年よりキリンホールディングスの健康領域を担当されていました。有名な『iMUSE』の立ち上げにも携わられたそうですね。
キャリアのなかでも、とても大きな転機でした。『iMUSE』はキリンの独自素材である「プラズマ乳酸菌」を使った免疫ケアブランドで、キリンホールディングスが各事業会社と連携して立ち上げたものです。今でこそグループ全体でもり立ててもらえるブランドになりましたが、立ち上げ前は本当に大変でした。もともと『iMUSE』の前にもプラズマ乳酸菌を使ったブランドがあったので、それぞれを大切に育ててきた人たちからは、「なぜ1つのブランドにまとめる必要があるのか」という戸惑いや反発もあったからです。
私たち自身も、正解が見えないなかで議論を重ね、ブランド名候補は250案にまで広がりました。チーム内で“『iMUSE』すごろく”と呼ぶほど、1歩進んだと思ったら翌日2歩下がるような先の見えない日々でした。消費者調査で思うような反応が得られなかった日には、夜9時過ぎに調査を終えたあとも、帰り道、チームメンバー数名と夜桜の下に立ったまま何時間も議論を続けました。「私たち、この商品を本当に世のなかに出せるのかな」と弱音が思わずこぼれることもあるほど、当時は手探りの毎日でした。
——そのような逆境を、どんなふうに乗り越えられたのでしょうか?
チームで考えたのは、「『iMUSE』は絶対に自信を持ってお薦めできる」という私たちの思いに、しっかり共感してくれる仲間を増やすことでした。
幸いなことに、『iMUSE』を立ち上げた10名ほどのメンバーは、それぞれ異なる専門性を持っていました。自分の領域だけでは思いつきもしないようなアイディアを出し合えたことが大きな力になりました。例えば医薬領域の経験を持つメンバーは、プラズマ乳酸菌の良さを医師や薬剤師の方にも認知していただくため、医学会で研究成果を発表するなど、科学的な根拠を伝える活動を進めました。異なる専門性を持つメンバーが集まれば、チーム力は足し算ではなく掛け算になることをあらためて実感しました。
そうして少しずつ共感してくれる仲間が増え、『iMUSE』というブランドも無事に生まれて、今に至ります。おかげさまでプラズマ乳酸菌やブランドの認知も広まってきて、嬉しい限りです。
転機3:「従業員の雇用を守るには?」正解のないなかで手繰り寄せた、会社の新たな役割

——3つ目の転機は、どのような出来事でしたか?
3つ目の転機は、キリンアンドコミュニケーションズの社長に就任したことです。社長業を任されたのは、キャリアのなかでも初めてのことでした。「意思決定にはこれだけの重みがあるのだ」と、日々痛感した時期でもあります。
キリンアンドコミュニケーションズはキリングループの工場見学の運営などを担う350名ほどの会社ですが、社長に着任したのはちょうどコロナ禍の頃でした。お客様を迎えたいのに、工場見学は休止や再開延期を繰り返すばかりで、メンバーのモチベーションも下がっていたと思います。休業補償はあるものの、生活のために辞めざるを得ないパートやアルバイトの方々もいて、本当に心苦しくて……。普段どおりの仕事ができないなかで従業員の雇用を守るにはどうしたらいいか、徹底的に考えた時期でした。
——雇用を守るために、どのような取り組みをされたのでしょうか?
私たちの強みを生かせる仕事がほかにもあるはずだと考え、グループ各社に自ら働きかけ、「お客様相談室や受付業務などお客様と直接接する業務を任せてもらえませんか?」と交渉しました。ホスピタリティを大切にしてきた会社だからこそ、これまで培ったノウハウが強みになります。グループ会社への働きかけ方や、誰に相談すれば前に進むかを見極める力は、営業時代の経験を大いに生かせるものでした。
誰にも正解が分からないなかで、それでも覚悟を持って意思決定をしなければならない。そんな社長業の重みを学べたのは、本当に大きな経験だったと感じています。
——初めての社長業とのことですが、社長に就任される前に何か段階的に経営を経験する機会があったのでしょうか?
営業を希望した時のように、自分から強く意思を伝えた経験もありますが、その後のキャリアでは想定していなかった役割を任されることも多く、経営を経験する機会もこの時が初めてでした。「なぜ私に任せていただけたのだろう」と戸惑うこともあります。それでも、「任せていただいたことには何か意味がある。まずは挑戦してみよう」と、機会を前向きに受け止めてきました。
とりあえず何にでもチャレンジしてみる姿勢は、社会人生活を通じて自分が培った1つの軸なのかもしれません。
大切にしたいのは感謝の気持ちと、固定観念にとらわれないこと

——3つの転機を経て、倉内さんがリーダーとして心がけていることを教えてください。
意識していることは2つあります。1つ目は自分で何もかも抱え込まないことだと思います。どの転機も、一人で乗り越えたという感覚はありません。家族も支えてくれましたし、一緒に頑張ってくれる仲間が常にいました。だからこそ、感謝の気持ちはきちんと言葉にして伝えるようにしています。
もう1つは、自分の先入観だけで物事を判断しないことです。学生時代から旅行が好きで、20歳の頃にバングラデシュを訪れたのですが、その経験が今の考え方につながっています。現地で学校に通うことが難しく、道端で物を売る子どもたちを目にした時、私は自分の価値観だけで、その境遇や気持ちを一面的に捉えようとしていました。しかし、実際にその場で人々の表情や暮らしに触れるなかで、外から見える一面だけではその人の置かれた状況や思いを理解することはできないと気づきました。それ以来、先入観で相手を決めつけず、まず自分の目で見て相手を知ろうとすることを大切にしています。
就職活動でも、先入観をなくすことで選択が変わりました。当初は同業界他社に入社するつもりでしたが、友人の「ライバル会社のことは入社前の今しか見られないから、キリンビールも受けてみたら?」と言われたのがまさに運命的なものとなりました。トップの理念が現場の行動にまで浸透していると感じ、「この会社で働きたい」と入社を決めました。
色眼鏡を外して自分の目で見てみることで、景色や人生が大きく変わることもある。学生時代に得た学びは、これからも大切にしていきたいです。
——最後に、上級管理職を目指す読者の皆さんへメッセージをお願いします。
キャリアを通してさまざまな経験をしてきましたが、どれも自信があって務めてきたわけではありません。新しい役割やチャレンジの機会をいただくたびに、不安は少なからず感じていました。それでも目の前の仕事に向き合い、周囲の助けを得ながら一歩ずつ進んできた結果が、今につながっています。
10年後、20年後にやりたいことが今は明確でなくても構わないと思います。すぐに大きな決断をする必要もありません。少し興味があることを周囲に話してみる。目の前の機会について、まず話を聞いてみる。それも立派な一歩です。やってみたからこそ、自分の可能性や新しい景色が見えてくることがあります。1人で抱え込まず、周囲の力も借りながら、自分なりの一歩を踏み出してほしいと思います。
(インタビュー:武藤久美子)
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