連載・コラム
3つの転機で語る 女性リーダーのライフキャリア
諦めずに続ければ、花開く。10年前の自分に「ありがとう」と言える人生を歩もう
読了時間:10分
- 公開日:2026/08/24
- 更新日:2026/08/24
パナソニック株式会社
エンプロイーサクセス推進部
部長 兼 DEI・組織開発室 室長
小泉朱里(こいずみあかり)氏
昨今、日本企業でも女性活躍が着実に進み、女性管理職比率も高まっています。一方で、部長以上の上級管理職に目を向けると、女性の登用はなかなか進んでいない現状があります。
そこで本シリーズでは、企業の枠を超えてロールモデルとなる方々を紹介したいという思いから、現在上級管理職に就く方々にインタビューを実施しました。どのようなライフキャリアを歩んできたのか、どのような転機があったのか、そしてリーダーとして何を心がけているのか——。「3つの転機」を挙げていただき、その歩みや考え方を伺いながら、次世代の女性リーダーに向けたヒントをお届けしていきます。
第1回は、2026年にパナソニック株式会社 エンプロイーサクセス推進部 部長に就任した小泉朱里氏にお話を伺いました。小泉氏は創業間もない楽天株式会社(当時)に入社、出産・育児を経て、2016年に住友重機械工業株式会社に転職。そこで活躍のチャンスを得て部長となり、グループ会社の社長まで昇進した後、2024年にパナソニック株式会社に移って現在に至ります。
- 目次
- 「自立する個人」と「挑戦する組織」の実現を目指して
- 転機1:「仕事が楽しい」と思える経験ができたこと
- 転機2:育児による時短勤務中の「暗黒の10年」
- 転機3:転職先で活躍のチャンスをもらえたこと
- チャンスが来たと思ったら、思いきって掴むことが大事
- 多くが途中で諦めるのは、継続が成果につながるのが10年後だから
「自立する個人」と「挑戦する組織」の実現を目指して
——最初に、現職について教えてください。
2026年4月から、パナソニック エンプロイーサクセス推進部で部長を務めています。
パナソニックには創業以来、「人間はダイヤモンドの原石」という考え方があります。誰もが可能性を持っており、その可能性を磨き、輝かせることができるという考え方です。
パナソニックグループは現在、一人ひとりの社員が自らのポテンシャルを「UNLOCK(アンロック)」し、自律的に挑戦しながら能力やスキルを最大限に発揮できる会社を目指しています。私は、そんな「自立する個人」と「挑戦する組織」をつくることが、エンプロイーサクセス推進部の役割であり、一人ひとりの可能性を引き出すことで、パナソニック全体の挑戦や成長を後押しする存在になりたいと考えています。現在は、部内の一体感を高めながら、さまざまなシナジー創出に取り組んでいるところです(※取材は2026年6月)。
——そんな小泉さんのキャリアの始まりを教えてください。
私が大学を卒業した頃はちょうど就職氷河期で、約100社にエントリーしましたが、面接に進めたのは2社だけでした。最終的には何とか広告代理店に入社し、営業職となりました。それが私のキャリアの始まりです。
転機1:「仕事が楽しい」と思える経験ができたこと
——そして、1つ目の転機を迎えたのですね。
2000年に楽天へ入社しました。社員番号は97番。当時の楽天は社員100人にも満たないベンチャー企業でした。
私にとって最初の大きな転機は、楽天で「仕事が楽しい」と心から思えた経験です。
当時の楽天市場は急成長の真っただなかでしたが、利用者の増加にサーバーの処理能力が追いつかず、夜になると頻繁にダウンしてしまい、私たち社員は申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

そんなある日、店舗の皆さんから寄せ書きが届きました。そこには苦情ではなく、「一緒に頑張ろう」「楽天を信じています」「応援しています」という温かい言葉が並んでいました。
迷惑をおかけしているはずなのに、大切なビジネスパートナーとして応援してくださる。
店舗の皆さんの期待に応えたい一心で仕事に向き合ううちに、仕事は「苦しいもの」から「楽しいもの」へと変わりました。人の期待に応え、仲間と成果を生み出す喜びを知ったこの経験は、今でも私の仕事観の原点になっています。
転機2:育児による時短勤務中の「暗黒の10年」
——そのままお仕事は順調だったのでしょうか?
楽天ではテクニカルサポートなどで経験を積んだ後、法人マーケティング部門の立ち上げや、M&Aをした会社のPMI(M&A後の統合プロセス)にも携わり、女性管理職として順調なキャリアを歩んでいました。しかし、結婚と3人の出産を経て、出産前とは景色が180度変わりました。復職しても大した業務もアサインされず、管理職にも戻れない。
時短勤務をしていた約10年間は私にとって「暗黒の10年」だったと思います。
今振り返って、自分のキャリアにおける最大の失敗は何だったかと聞かれたら、私は迷わず「上司を味方につけられなかったこと」と答えます。
当時の私は、仕事も育児もこなすのに精一杯で、「頑張っていれば見ていてくれる」とどこかで思っていました。しかし実際には、上司に自分の思いや挑戦したいことを十分に伝えられておらず、信頼関係を築き切れていませんでした。
後になって、J-Win(特定非営利活動法人ジャパン・ウィメンズ・イノベイティブ・ネットワーク)の理事長(当時)を務めていた内永ゆか子さんに、「上司は最大のビジネスパートナー」という言葉をいただきました。その言葉を聞いた時、自分に足りなかったものが腑に落ちた気がしました。

上司との信頼関係を築き、自分の意思や目指したい姿を率直に伝えることは、キャリアを切り拓くうえで非常に重要です。もし当時の私がそれをできていたら、子育てや時短勤務という制約があっても、違う景色が見えていたかもしれません。
ただし、この暗黒の10年には良い面もありました。私はこの時の経験のおかげで、思うように成果を出せないもどかしさや、少数派として働く難しさ、立場の弱い人や苦しんでいる人の気持ちを以前より深く理解できるようになりました。
当時は暗黒の10年だと思っていましたが、今振り返れば、人としてもリーダーとしても大切なことを学んだ10年だったと思います。
転機3:転職先で活躍のチャンスをもらえたこと
——その後、2016年に住友重機械工業に入社されていますね。
住友重機械工業への転職で活躍のチャンスを得ることができました。8年ほど在籍しましたが、ダイバーシティ推進担当者として入社し、半年後に課長、5年後に部長に昇進し、最終的には自ら設立したグループ会社(住重ウィル株式会社)の社長まで任せてもらいました。
ただ、転職直後からすべてが順調だったわけではなく、はじめは賛同してくれる仲間も少なく、孤軍奮闘した時期もありました。ただ、上司が応援してくれて、諦めずに活動し続けた結果、徐々に応援者が増えていき、少しずつ会社が変わっていっていることを実感できました。
——住友重機械工業でチャンスを得るために、どのようなことを心がけたのでしょうか?
楽天でできなかった上司とのコミュニケーションは重視しました。上司はもちろん、その上のCHROと毎月1on1を願い入れ、CHROの視点や考え方の理解につとめ、また私の考えもお伝えしながらすり合わせを行いました。その結果、組織開発チームや特例子会社の立ち上げなどを実現し、成果を出すことができました。また、仕事以外の場も含めて積極的にコミュニケーションを図り人間関係を築いていきました。
——グループ会社社長にはどのような経緯で就任したのでしょうか?
住重ウィルは、私自身が企画や設立準備をリードした特例子会社です。しかし、それまで女性社長の前例はなく、年齢的にも自分が社長になることはないだろうと思っていました。
それでも、「社長として経営に関わりたい」という自分の希望だけは、CHROにきちんと伝えました。その結果、社長に抜擢いただくことになりました。
上級管理職を目指す女性の皆さんにお伝えしたいのは、「言わなくてもきっと分かってくれているはず」と思わず、自分の意思や目指す姿を言葉にして伝えることの大切さです。
時代は変わりつつありますが、「社長のようなポジションは女性には任せにくい」というアンコンシャスバイアスが残っている場面があることも事実です。だからこそ、自分で可能性を狭めずに手を挙げ、自らの意思を発信してほしいと思います。
「言わなくても伝わる」ではなく、「自分の意思は自分で伝える」。それが、キャリアの可能性を広げる第一歩だと思います。
チャンスが来たと思ったら、思いきって掴むことが大事
——なぜ、次の活躍の場にパナソニックを選んだのでしょうか?
正直なところ、社長に就任して間もないタイミングだったので、最初は転職するつもりはありませんでした。ところが、パナソニックの担当者と会って話してみると、この巨大組織を本当に変革しようという意思が伝わってきて、壮大なチャレンジ、夢のあるポジションだと感じました。何度か話を重ねるうちに、この挑戦に強く惹かれるようになり転職を決断しました。
——さまざまな転機を経験されてきた小泉さんが、日頃から心がけていることを教えてください。
パナソニックへの転職のエピソードともつながりますが、私は、チャンスが来たと思ったら、思いきって掴むことが大事だと考えています。
ただ、本当に大きなチャンスが目の前に現れた時、いきなり飛び込むのは簡単ではありません。「自分にできるだろうか」「失敗したらどうしよう」と不安になるのは当然です。
だから私は、普段から「チャンスを掴む練習」をしておくことが大切だと思っています。

例えば私はトライアスロンを2年前に始めました。水泳は25m泳げないところからのスタートで、正直、「自分には無理かもしれない」と思うこともありました。それでも挑戦してみる。そして練習を重ねる。すると、できなかったことが少しずつできるようになっていきます。
そうした経験を重ねることで、「努力すれば乗り越えられる」「まずはやってみよう」という自信、つまりセルフコンフィデンスが育まれます。
私は、このセルフコンフィデンスこそが、人生の大事な局面でチャンスを掴む力になると思っています。
多くが途中で諦めるのは、継続が成果につながるのが10年後だから
——その他に、小泉さんが仕事をするなかで意識していることはありますか?
絶対に諦めないことです。自分がどうなりたいか、何をしたいかを見定めて、その目標に向かって、諦めずに取り組みを継続することが大切だと考えています。私の場合は「子育てをしながら会社でも活躍する」という目標に向けて歩み続けてきたことが、今に結実しています。たとえ私のように新卒の就職活動がうまくいかなくても、マミーズトラックに10年間乗っていても、諦めなければ、このようなポジションに就くことも十分に可能なのです。
ただ、難しいのは「諦めずに続けることが成果につながるのは10年後」だということです。だからこそ、多くの人が途中で諦めてしまうのではないでしょうか。
私自身、ある女性管理職の先輩から「今は大きくジャンプできなくても、諦めずに少しずつでも成長し続ければ、10年後に花開くよ」というアドバイスをもらい、その言葉を信じてやってきました。この言葉をくれた先輩には今でも感謝しています。また、楽天の三木谷社長から「勝つまでやり続ける」という言葉を何度も聞いた経験も根底にあるように思います。私が諦めないのは、楽天のDNAが入っているからなのかもしれません。
——最後に、読者の皆さんへメッセージをお願いします。
皆さんにも、同じ言葉を送ります。
今の選択と努力が、10年後の未来をつくります。
だから、たとえ今は成果が見えなくても諦めないでください。少しずつでも前に進み続けてください。

そして10年後に、自分自身に「あの時の挑戦があったから今の私がいる。諦めずに頑張ってくれてありがとう」と言える人生を歩んでいただけたらと思います。
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