連載・コラム
3つの転機で語る 女性リーダーのライフキャリア
軸は「未来が良くなる予感」を掴むこと。会社と自分の未来をつくる柔らかなキャリア観
読了時間:10分
- 公開日:2026/09/28
- 更新日:2026/09/28
国分グループ本社株式会社
執行役員
社長室長 兼 サステナビリティ推進部長
野間 幹子(のま みきこ)氏
昨今、日本企業でも女性活躍が着実に進み、女性管理職比率も高まっています。一方で、部長以上の上級管理職に目を向けると、女性の登用はなかなか進んでいない現状があります。
そこで本シリーズでは、企業の枠を超えてロールモデルとなる方々を紹介したいという思いから、現在上級管理職に就く方々にインタビューを実施しました。どのようなライフキャリアを歩んできたのか、どのような転機があったのか、そしてリーダーとして何を心がけているのか――。「3つの転機」を挙げていただき、その歩みや考え方を伺いながら、次世代の女性リーダーに向けたヒントをお届けしていきます。
第2回は、国分グループ本社株式会社にて執行役員 社長室長 兼 サステナビリティ推進部長を務めている野間 幹子氏にお話を伺いました。野間氏は1995 年、国分株式会社(現 国分グループ本社株式会社)に入社。人事総務部にて労務や人事戦略の策定などに携わったあと、2020年に第11次長期経営計画策定委員、2022 年に仕事における幸福度担当に就任しました。2026年より現職に就き、生産者をはじめとする地域の方々との関係づくりなど、「持続可能な食」の実現に向けて取り組みを進めています。
- 3つの転機で語る 女性リーダーのライフキャリア
- 軸は「未来が良くなる予感」を掴むこと。会社と自分の未来をつくる柔らかなキャリア観
- 3つの転機で語る 女性リーダーのライフキャリア
- 諦めずに続ければ、花開く。10年前の自分に「ありがとう」と言える人生を歩もう
- 目次
- キャリアの起点は、「食に関わりたい」という思い
- 転機1:自分のなかに生まれた「複数の役割」
- 転機2:グループ再編を機に抱いた、静かな使命感
- 転機3:変わりゆく社会を見つめるため、「外の世界」へ
- 3つの転機を経て、リーダーとして心がけていること
キャリアの起点は、「食に関わりたい」という思い

——最初に、現職について教えてください。
国分グループ本社は1712年、日本橋(東京都)で創業した会社です。醤油醸造業から始まり、1880年に食品卸売業へ転換。現在は全国に酒類食品卸売業を展開するほか、自社ブランド商品(K&Kなど)の開発や情報・マーケティング支援、輸出入、地域共創など、食品流通の基盤を幅広く支えています。
私は入社以来、長らく人事部門の仕事を担ってきました。労務や人事制度設計などに携わったのち、現在はサステナビリティ推進部長として、持続可能な社会に向けたグループの取り組みをサポートしています。食の卸売業を担う私たちが、持続可能な社会を実現していくためにどんなことができるのか。お客様に食という価値を届け続けることができるよう、施策の立案や各部門の取り組みの支援などを行っています(※取材は2026年7月)。
——野間さんは大学を卒業されてから一貫して御社でご活躍されていますが、入社のきっかけを伺ってもいいですか。
きっかけは、実家が魚屋で「食に関わる仕事」に興味があったことと、親友の一言があったからです。「国分はすごく良い会社だと思う」という彼女の熱弁に惹かれて、一緒に採用試験を受けたことがご縁の始まりでした。
「食に関わる仕事がしたい」――そういった思いから入社したのですが、配属先が人事部門だったので、自分のやりたかった「食に関わる仕事」へのモチベーションと、目の前の仕事をどう結びつけたらいいのか、掴みかねた時期もありました。当時の女性社員は1つの領域を深掘りするようなキャリアパスが主流だったこともあり、最初は「何のためにこの会社に入ったんだっけ」と悩む日もあったほどです。
——そうだったのですね。そうしたご経験を経て、今振り返ると、ご自身のキャリアをどのように捉えていますか?
振り返ってみると、自分のキャリアは、その時々の環境や状況のなかで考えながら選択を重ねてきた結果なのだと感じています。当時は、人事部門への配属に戸惑うこともありましたし、「経験の幅を広げにくい」という時代ならではの難しさもありました。
ただ、それを「昔は大変だった」という話として語りたいわけではありません。今の若い女性からは「女性活躍への期待が高まっているぶん、自分がやりきれないことまで託されてしまう」という葛藤を聞くこともあります。
そうした話を聞くたびに、いつの時代にも、それぞれの時代ならではの難しさがあり、誰もが自分なりに向き合いながら乗り越えていくものなのだろうと感じます。だからこそ、これからお話しする私の3つの転機も、「こうすればいい」という正解や、その時代だからこその行動に光を当てるのではなく、私がその時々で悩みながら選んできたこととして、聞いていただけたらと思います。
転機1:自分のなかに生まれた「複数の役割」

——ここからは、3つの転機について伺います。野間さんのこれまでのキャリアのなかで、1つ目の転機になったことを教えてください。
1つ目の転機は、自分に「母」という役割が増えた時です。結婚した時も「妻」という役割が増えたはずですが、夫の協力もあって仕事に注力できる時期が続いたので、複数の役割に板挟みになることはあまりありませんでした。しかし子どもについては、大きくなるまで必ず私たち親の介添えが必要になります。子ども本位にならざるを得ない「母」の役割が増えたことで、子どもと夫、そして自分という3者にとってベターな状況をどのようにつくったらいいのか、最初はとても悩んだことを覚えています。
——そういった転機を、どのように乗り越えたのでしょうか?
最初は夫に、「プロジェクトをやり遂げたいから、やらせてほしい」と頼みました。ただ、そうして私が仕事に振り切ったことで現れた家族の姿は、不安定なものでした。私だけでなく家族も疲れていたので、「これが私の望む生活像だ」とはとても思えなくて……。だからこそ、「これからは誰かを不幸にする働き方はしない」と、自分のなかでルールを作りました。
自分が目の前のことにのめりこむようなやり方を後悔してからは、アプローチを大きく変えました。私、夫、子どもという3者を見たうえで、「お互いに崩れないバランスの範囲内で、しっかり仕事をしよう」と決意しました。夫婦のコミュニケーションを増やし、役割分担も具体的に話すようになりました。「どちらが子どもを見て、1週間のスケジュールはこうで、自分の忙しさのピークはここで、仕事のこの部分は妥協できる」というような、お互いの間に流れる情報量も増やしました。自分だけを点で見るのではなく、3者を見ながらバランスを取ったことが、仕事と家庭の両立につながったと感じています。
転機2:グループ再編を機に抱いた、静かな使命感
——2つ目の転機は、どのような出来事でしたか?
2つ目の転機は、当社のグループ再編です。産休から戻ってきて数年が経ち、人事領域のキャリアを磨きながら、自分のやるべきことを少しずつ広げていく余力もあった時期になります。そんな時、2016年に控えたグループ再編に向けて、親会社である国分株式会社と、全国にある40社を超えるグループ企業の人事制度を1つに統合しようという動きがありました。
子会社も含めて人事制度を統合すると聞いた時は、「これをやりきるのは相当大変だ」と思いました。そもそも人事制度には法的な制約のなかで調整していく難しさがあり、運用の安定化にも時間がかかります。そのうえ各組織や働く人にマインドが根付くにはさらに長い時間がかかり、各拠点で制度が自走していくような布石を考える必要もあります。そんな制度を全社で1つにまとめていこうというのですから、大変な道のりになることは容易に想像できました。
ただ、人事制度をグループ全体で統合することができれば、間違いなく組織に一体感が出ます。国分グループのなかで、私は労務管理の仕事を経験してきているので、「この一大プロジェクトをやりきるために自分の培った経験やスキルを発揮できるのではないか」。そういう思いを抱きながら、人事制度の統合という大仕事を担いました。やりたいことを「やりたい」と言える国分グループの風土にも、大いに背中を押してもらいました。
——使命感のようなものを抱かれたということでしょうか。
使命感、だとは思うのですが、個人的に使命感ってもっとギラギラしているイメージだったんです。熱い魂がこもっていて、周りにも伝播していくような……でも、自分の内から湧いた使命感は、どちらかというと非常に静かなものでした。
メンバーマネジメントの場面では、熱い想いが言動を通じて外に表出することを「使命感を強く抱いている」と思われがちなので、一般的な使命感のイメージと、私が思う使命感とは異なるものかもしれません。ただ、環境が整った時に、ふと「自分はこれをやりたい」「やろう」と、静かに湧き上がることもあります。そういった自分の変化を流さず、大切に掴むことで、より良い未来やキャリアにつながっていくこともあるのではないかと思います。
転機3:変わりゆく社会を見つめるため、「外の世界」へ

——野間さんは執行役員の業務と並行して、大学院を修了されています。ご多忙のなか、なぜ大学院であらためて学ぼうと思われたのでしょうか。
きっかけは人事の業務を担うなかで、国の法律の作り方に変化の兆候を感じたことです。これまでの法律は企業を規制する傾向にありましたが、近年の法律には企業内のゆらぎや裁量を認める、余白のようなものを感じます。「1つの尺度にあてはめられないほど、世のなかの企業環境は多様化しているのでは」「私たちも何か変わるべきなのかも」そんな危機感を持ったのですが、うまく言語化できないまま社内に問題意識を持ちかけて、真意が伝わらず、後回しになってしまうこともありました。
「社員の人生を40年近く預かる人事として、こういった外の変化を見過ごしてもいいのだろうか」「そもそも私が感じている外の変化は、本当に起こっていることなのだろうか」そんなモヤモヤと向き合いたい気持ちから、大学院の門を叩きました。
——とても大きな転機だったかと思いますが、実際に大学院で学ばれてみていかがでしたか?
大学院で触れた外の世界は、私が今まで見ていた「会社」という世界よりも、はるかに変化が激しいものでした。大学院ではグローバルな視点で物事を考えるので、国内流通を主な事業領域としている当社のなかでは知り得なかった文化やリスクを広く学ぶことができます。組織と人材のマネジメント、そしてサステナビリティを推進していく立場として、グローバルな視点で物事を捉え直すことはとても有意義な経験でした。
同時に、40代、50代で学び直す方々との出会いにも助けられました。大学院には、今までのポジションで経験してきたことや、学びに来た方たちの今までのポジションや経験、それぞれの企業で起こっている事象を大学院で開示・共有し、分析し、みんなで解決策を話し合う。それを自分のスキルに生かそうとしている仲間がたくさんいたんです。中高年の学び直しは趣味のようにいわれがちですが、外の世界の実感値や経験、矜持を持っておく大切さと、学び続ける重要性をあらためて感じました。
そうして外の世界を知るうちに、本当の意味での「食のサステナビリティ」とは、卸売業のなかだけで完結させるのではなく、生産者から生活者まで、サプライチェーン全体で考えることが大切なのだと痛感するようになりました。そういった思いから、今は、一次産業を基幹産業とする北海道浦幌町で、生産者をはじめとする地域の方々との関係づくりにも取り組んでいます。これからも都心と地域、組織の内と外を行き来しながら、「持続可能な食」のあり方を考えていきたいです。
3つの転機を経て、リーダーとして心がけていること

——3つの転機を伺うなかで、野間さんは一見困難な課題にもしなやかにチャレンジされる方だと感じました。その一歩を踏み出す時は、一体どのようなお気持ちでしょうか?
私は目の前の出来事から、ふと「面白そう」「何かにつながるかも」と感じ取るアンテナを張るようにしています。できるかどうかは別として、「自分が役に立てるかもしれない」という予感を楽しみながら挑戦するなかで、大きな役割を任せていただくこともありました。
「管理職になりたい」という上向きのパワーがあったかというと、実はそうでもありません。内にエネルギーは秘めているのですが、どちらかというと、自分が関わることで組織や会社が良くなっていくことに重要性を感じる方でした。過去、今、そして未来という大きな流れのなかに自分を置いて、できることをやっていく。当社がそういう社風なので、風土に育ててもらったバランス感覚でもあるのかもしれませんね。
——最後に、上級管理職を目指す読者の皆さんへメッセージをお願いします。
私が大切にしている言葉に、フランスのSF作家ジュール・ヴェルヌの「人が想像できることは、必ず実現できる」というものがあります。昔は難しいと思われていた社会のあり方も、誰かが想像し、行動に移していくことで、実現に近づいていくこともありますよね。
だからこそ皆さんにも、自分のなかに生まれた違和感や熱意を、小さなものとして片づけないでほしいです。「これをやったら面白いかもしれない」という予感こそ、より良い未来につながる大切なサインかもしれません。誰かにコントロールされるのではなく、自分が大切にしていることを信じ、一歩踏み出すことを恐れずにチャレンジしてみてほしいです。
(インタビュー:武藤久美子)
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