- 公開日:2026/04/06
- 更新日:2026/04/06
以前のコラムでは、3回にわたって人事担当者に役立つ「キャリア自律」の進め方をお伝えしました。その際にお伝えできなかったことの1つが「技能系職場(製造現場)におけるキャリア自律」です。本コラムでは、デンソー様の事例を紹介しながら、技能系職場でのキャリア自律をどのように進めればよいかを具体的に提示します。前編では、技能系職場でキャリア自律が進まない要因となる「7つの壁」と、技能系職場のキャリア自律をどのように企画・準備したらよいのかを具体的にお伝えします。
- デンソー事例に学ぶ、個と組織を生かすキャリア自律【後編】
- 技能系職場におけるキャリア自律の実践 ~「強い組織・人づくり」を実現する7つの処方箋~
- デンソー事例に学ぶ、個と組織を生かすキャリア自律【前編】
- 技能系職場におけるキャリア自律の実践 ~「強い組織・人づくり」を実現する7つの処方箋~
- 目次
- なぜ今、製造現場にキャリア自律施策が求められているのか
- 技能系職場でキャリア自律が進まない「7つの壁」
- デンソーの挑戦:約1万人を対象とした大規模な「技能系キャリア研修」
- 【処方箋1】技能系職場でのキャリア自律の必要性を明確にする
- 【処方箋2】技能系のキャリア自律のステップをつくる
- 次回に向けて
なぜ今、製造現場にキャリア自律施策が求められているのか
最近では、多くの日本企業が社員の「キャリア自律」を推進しています。しかし、製造業の場合は、事務系・技術系社員のキャリア自律が比較的進んでいる一方で、製造現場で働く技能系社員のキャリア自律は後手になりがちです。
ところが実際には、現場の技能系社員こそ、キャリアに対する漠然とした不安を持っています。現在の製造現場は、カーボンニュートラル、電動化(産業用ロボットなど)、デジタル化(AIなど)の進化が急速に進み、モノづくりの在り方や働き方が劇的に変化しているからです。そのために、特に若手の技能系社員が「10年後、この職場は存在しているのだろうか」「自分の技能は異動先で通用するのだろうか」といった不安を感じており、自分のキャリアを自ら考えたい、自分の手で未来を切り拓きたい、という想いを強めているのです。これが今、製造現場においてキャリア自律施策が求められている理由の1つです。
もう1つの理由は、キャリア自律施策が「製造現場の採用や人材確保」につながるからです。労働人口減少や働く価値観の変化によって、どのような職場でも新規採用や人材確保が難しくなっています。なかでも技能系職種においては採用競争が激化しており、人材の確保・定着が大きな課題となっています。
こうした状況で重要な差異化要素となるのが、キャリア自律施策です。「自分でキャリアを考え、構築できること」や「魅力的なキャリアを実現できること」は求職者にとって大きな魅力となり、採用や人材確保の面でもプラスに働く可能性が高いのです。
技能系職場でキャリア自律が進まない「7つの壁」
では、なぜ社員たちが求めているにもかかわらず、技能系社員のキャリア自律は後手になりがちなのか、それには「7つの壁」があります。
壁① キャリアパスの見えにくさ
技能系職種はそれぞれ技能の専門性が高く、習熟にも時間がかかるため他部署への転換がされにくい側面があります。また、技能系職種は複線型人事があっても十分に機能させていない場合もあり、キャリアゴールがライン長(管理監督職)に限定されやすく、ポスト数が限られているため昇進を諦める人も多いです。そのため、これまで多くの企業では、技能系職種に自職場の管理監督職のキャリア以外の選択肢を示してきませんでした。選択肢がない以上、キャリア自律は難しくて当然です。
壁② 自分の強みを言語化する機会が少ないこと
技能系職種は標準作業書に基づいて仕事を進めるため、身についたスキルは職場全体が目指す技能であり、自分の「できること(技能)」を強みとして認識しにくい、という特徴があります。現状は技能チェックシート等の育成ツールがあるものの、評価とのつながりが見えにくく経験年数重視の運用をされていることも多いです。この状態でキャリア自律を促すのは無理があります。
壁③ 業務特性上の制約
技能系職種はシフト制や交代勤務があり、学習時間の確保が難しいという特性があります。どうしても生産計画が優先になるため、研修や自己啓発の時間が取りにくく、現場を離れて研修を受講する心理的・物理的ハードルが事務系や技術系よりも高いのです。
壁④ 情報・機会へのアクセスが制限されていること
技能系社員はPC作業が少なく、社内情報やキャリア関連情報に触れる機会が限定的です。また、他部署や他職種との接点も少なく、情報がなかなか入ってこないというケースも少なくありません。結果的にキャリア自律が進んでこなかったという側面もあります。
壁⑤ 組織文化とマインドセット
製造現場では、自律的なキャリア形成よりも「与えられた役割をまっとうする」ことを大切にする文化や空気感があります。もちろん技能の習得層においては大事な考え方ですが、作るモノが変わり、作り方(技能)も進化する環境では、主体的な挑戦(技能修得等)が求められます。そのため、この文化を進化させない限り、技能系職種のキャリア自律を促すのは難しいでしょう。
壁⑥ 教育・支援体制の不足
多くの企業は、製造現場向けのキャリア開発プログラムを整備していません。そのため、本人が自律的なキャリア形成スキルを持たないだけでなく、上司のキャリア支援スキルも不足しています。また、実は多くの企業では、製造現場向けにもキャリアカウンセリングや相談の窓口があるのですが、残念なことに、その存在を知り、活用している技能系社員はあまり多くありません。
壁⑦ 本人のキャリア意識不足
これまでの壁①~⑥からも分かるとおり、技能系社員はキャリア自律という概念にあまり馴染みがないことも多いです。日々の業務に追われ中長期的視点を持ちにくく、「自分には他の選択肢がない」と思い込み、自己評価や自己効力感が低くなる傾向があります。この現状を変えない限り、技能系職種のキャリア自律は決して進みません。
デンソーの挑戦:約1万人を対象とした大規模な「技能系キャリア研修」
こうした壁を乗り越えるヒントとして、デンソー様の取り組みをご紹介します。以前の記事でも紹介しているとおり、デンソー様は2021年に人と組織のビジョン「PROGRESS(プログレス)」を定め、「個人の成長と幸せ」と「会社の大義と発展」の両者統合を目指されてきました。
PROGRESSの一丁目一番地となる重要な柱が「キャリア自律」です。そこでデンソー様は、2022~2025年の4年間で、約1万人の中堅クラスを対象とした大規模な「技能系キャリア研修」を展開しました。その事例の詳細はこちらの記事で紹介しています。ここからは、デンソー様の事例を参考に、キャリア研修を軸に置きながら、技能系キャリア自律を支援するなかで見出した「7つの処方箋」をお伝えします。
【処方箋1】技能系職場でのキャリア自律の必要性を明確にする
人事部が技能系職種にキャリア自律を広める際、最初にすべきなのは「現場の管理監督者の理解を得る」ことです。そのためには、事業上の必要性とメリットを明確に伝える必要があります。特に、「現場が忙しいなかで、なぜ今、キャリア自律が必要なのか?」という疑問にしっかりと答えることが肝要です。
デンソー様の人事部では、今回の技能系キャリア研修を「個の幸せと組織の大義の両方を追求する施策」と定義し(図表1)、管理監督者層に向けて、PROGRESSなどの全社的な動きと接続しながら説明しました。現場の管理監督者たちは、社員一人ひとりが「どこでも生きていける強いプロ」として成長することの大切さを理解されています。一方で「環境変化と会社戦略に対応できる強い組織づくり」の必要性も強く感じています。そこで人事から「どのような状況でも自分たちなりの一歩を踏み出せる強い組織・人づくりのために技能系キャリア研修が必要」と語り、管理監督者の理解を得たのです。
<図表1>デンソー様が定義する技能系職場の課題とキャリアの必要性

画像提供:株式会社デンソー
【処方箋2】技能系のキャリア自律のステップをつくる
次に、「技能系独自のキャリア自律のステップ」をつくる必要があります。なぜなら、技能系は事務系・技術系などと違い、ゼロから自由にキャリアビジョンを描くことが難しいからです。技能系の場合は、工場のビジョンや方針(MUST)のなかで、自分の欲求・価値観(WILL)や強み・経験(CAN)を生かしながら、貢献領域を広げていくアプローチが有効です(図表2)。
<図表2>技能系キャリアの考え方

画像提供:株式会社デンソー
デンソー様は、このWILL・CAN・MUSTをもとに「技能系職場におけるキャリア形成のための5つのステップ」を定義されました(図表3)。
<図表3>技能系職場におけるキャリア形成のための5つのステップ

画像提供:株式会社デンソー
●STEP1:組織の期待伝達
社員のキャリア形成の出発点は、組織側から社員に向けて「組織の期待」を明確かつ具体的に伝えることです。この際に示すべきことは3つあります。1つ目は、組織の長期ビジョンや、組織がどう会社に役立つかなどの「組織の目指す姿(WILL)」です。2つ目は、目指すべき人財像、必要な技能、学び方などの「組織が求める能力(CAN)」です。3つ目は、年度目標や、各人の業務が組織にどう貢献するかなどの「組織のニーズ(MUST)」です。これらを示すために、既存の方針、スキルマップ、ロードマップ、育成プログラムなどの道具を整備しておくことが重要です。
●STEP2:部下自身が自分の将来を考える
次に、組織の期待を受けて、部下が自らの「CANとWILL」を考えるステップに入ります。まずは自分の強み・弱み(CAN)を棚卸しして、何が得意か、何ができるかを明確にします。そのうえで、価値観やライフプランを含めた夢や志(WILL)を持つのです。
ただし、1人でCANやWILLを考えるのは簡単ではありません。そこで実践的にお薦めしたいのが、キャリア研修中に「面談で実際に使うシート」に記入していくやり方です。デンソー様の技能系キャリア研修※では、班長・係長が各グループに付き、サブファシリテーターとしてグループワーク中に部下がCANとWILLを考えるプロセスを支援してもらいました。部下たちが、班長・係長自身のキャリアプランを参考にしながら、キャリア面談シートを具体的に書いていったのです。このような工夫は非常に効果的で、お互いの自己開示にもつながり、上司・部下のコミュニケーション促進の面でもプラスに働きました。
※ デンソー様では「キャリアキャンプ」といいます。
●STEP3:キャリアデザイン面談で将来像をすり合わせる
キャリアキャンプの終了後は、上司と部下が「キャリアデザイン面談」を行います。面談では、上司が部下に組織として期待する役割を伝え「期待値を設定(MUST)」し、上司と部下で「強み・弱みをすり合わせ(CAN)」、3〜5年後に何ができるようになりたいか話し合い「成長課題を設定(CAN)」し、部下が成長に向けて具体的に何に挑戦するかを宣言する「私の挑戦(MUST)」を話し合って決めます。
また、上司はキャリアデザイン面談の際、次の5つに配慮しながら対話する必要があります。
まずは、「①部下の現状の役割遂行状況」を確認し、悩みや困りごとがないかを確認することが大切です。そのうえで、「②部下の強みを認め、自信をつけさせる」「③部下の価値観を把握し、現状の働き方とのギャップを確認する」「④部下の目指す姿と成長課題をすり合わせる」「⑤部下の悩みや壁を解消し、動機づける」ような対話を展開するのです。
●STEP4:計画的な育成と成長
キャリアデザイン面談が終わったら、その対話の内容に基づいて、実際の育成と成長を進めます。上司側は人財レビューなどを通じて、計画的な育成や戦略的な配置を行い、成長に資する挑戦テーマを創出します。部下側はスキルの現状値を把握し、年間評価シートをもとに進捗確認をしながら、自己新記録を目指します。
●STEP5:振り返り
定期的に、組織の振り返り(組織能力向上の確認)と個人の振り返り(自己新記録の確認)を行います。この振り返りが、次のサイクルのSTEP1へとつながります。
次回に向けて
前編では、製造現場においてキャリア自律施策が求められている背景と、技能系職場でキャリア自律が進みにくい要因である「7つの壁」、そしてそれを乗り越えるための「7つの処方箋」のうち、処方箋1・2をご紹介しました。
後編では、引き続きデンソー様の事例をもとに、「強い組織・人づくり」を実現するための、残る5つの処方箋について解説します。技能系職種において、キャリア自律を実際に推進していくうえでのポイントやコツを具体的に紹介します。
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執筆者

技術開発統括部
コンサルティング部
エグゼクティブコンサルタント
山本 りえ
1999年 サービス業。
2000年 税理士・社会保険労務士事務所(社会保険労務士)専門は労働法、企業労務問題の解決やリスクヘッジに関する制度構築・相談を担当。
2005年 株式会社リクルートマネジメントソリューションズコンサルタント兼ファシリテーターとして幅広い業種やテーマに対して行動誘発を得意とし、実効性の高い変革支援を行っている。
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