連載・コラム
マネジメントに必要なのは“指示”より“信頼”──年上部下との関係づくりの基本
第3回 経験を生かす組織のあり方
- 公開日:2025/10/06
- 更新日:2025/10/06

前回の記事では、年上部下へのマネジメントで留意する点や具体的なコミュニケーションの取り方を解説しました。年上部下に対して遠慮をしたり、「シニアは新しいもの(特にデジタル技術)が苦手だろう」といった思い込みがあると、意欲や本来の能力を発揮する機会を遠ざけてしまったりする可能性があります。
また、自分が体験したことがないシニア社員の立場を自分事として捉え、想像するのは難しい一方でマネジメントをするうえでは大切なことです。
若手の労働人口が減り、社員の高齢化に悩む企業が増えるなかで、シニア社員の活躍は今後ますます期待されます。そのなかでも、実際に成果を上げている組織ではどのようなマネジメントが行われているのでしょうか。
今回は、年上部下をマネジメントするうえで陥りやすい“よくない関わり方”と、参考にしていただきたい“よい関わり方”を、具体的なケースを用いて紹介します。
- マネジメントに必要なのは“指示”より“信頼”──年上部下との関係づくりの基本
- 第1回 年上部下のマネジメントが難しい理由
- マネジメントに必要なのは“指示”より“信頼”──年上部下との関係づくりの基本
- 第2回 年齢で機会を制限するリスクとは
- マネジメントに必要なのは“指示”より“信頼”──年上部下との関係づくりの基本
- 第3回 経験を生かす組織のあり方
年上部下とのよくない関わり方
技術部の課長であるAさんは、以前に部長を務めていたBさんを技術グループに迎えることになりました。Bさんの豊富な技術経験を若手育成に生かしてもらいたいと考え、数名の若手メンバーの育成係をお願いしました。
Aさん自身も若手時代にBさんから指導を受けた経験があり、その適任性を疑うことはありませんでした。そのためAさんは善意から「Bさんのやりやすいように進めてください。すべてお任せします」とだけ伝え、細かな説明やサポートは行いませんでした。
ところが3カ月が経過した頃、Bさんが手持ち無沙汰な様子でいるのを目にします。どうやら育成係としてうまく機能していないことに、Aさんはそのとき初めて気づいたのです。
思い込みで役割を設定するリスク
これまでの経験をもとに仕事を任せること自体は、決して悪いことではありません。年上の部下にとっても、自分の得意分野を生かせる内容であれば前向きに引き受けやすくなるでしょう。
そのため今回のケースでも、課長のAさんは善意からBさんの豊富な経験が生かせそうだと感じる業務を依頼しました。しかし、Bさんにとって経験を生かせる仕事が、必ずしもやりがいを感じられる仕事だったとは限らないのです。
業務を割り振る際に大切なのは、上司の判断だけで役割を決めてしまわないことです。その仕事に対して本人がどう感じるか、どのような想いで取り組めそうかを、あらかじめ確認しておくことが大切です。
もちろん、業務上やむを得ず本人の関心が薄い仕事を担ってもらう場面もあるでしょう。しかし、せめて1つはその人が意欲的に取り組めるテーマを用意するとよいかもしれません。
“丸投げ”と“信じて任せる”ことは異なる
以前管理職を務めていた年上のメンバーを迎え入れる際、年下上司が業務を丸ごと本人任せにしてしまうケースがあります。確かに、経験が豊富な年上部下に対して細かな指示を出すのは、気が引けるかもしれません。
しかし、定期的な報告や確認の場を設けず任せきりにしてしまうと、予期せぬところでつまずいていることに気づけない場合があります。例えば、技術的な知見が豊富な方であっても、「社内の新しいシステム操作に戸惑っている」「以前は部下がフォローしてくれていたが、今は自力で対応しなければならず困っている」といったケースも考えられるでしょう。
どれほど優秀な元管理職であっても、新しい業務環境に慣れるには時間がかかるものです。安心して質問や相談ができる体制を整え、必要なサポートを惜しまない姿勢が大切です。
年上部下とのよい関わり方
商品開発部に新たに着任したグループリーダーのCさんは、以前は別部門でも同じ役職を務めており、今回の異動でベテラン社員Dさんの上司となりました。Dさんは長年、商品開発部の中核として活躍してきたスペシャリストです。
着任後すぐに、CさんはDさんとの面談を実施。グループの現状や課題、職場の雰囲気についてDさんの話をじっくり聞きながら、自身が抱く課題認識や今後の方向性についても伝え、それに対するDさんの意見を求めました。
さらに1週間後、Cさんは再びDさんと面談の場を持ち、今度はDさんのこれまでのキャリアや実績、印象に残っている仕事など、個人としての歩みに耳を傾けました。
こうした対話を重ねながら、1カ月後にCさんはDさんを商品開発部における重要プロジェクトのリーダーに任命。Dさんの経験と想いを踏まえたうえで、その力を存分に発揮してもらいたいと考えたのです。
年上部下は“パートナー”として協力してもらうのが鍵
異動してきたCさんは、年上の部下であるDさんとの対話を重ねながら、新たな組織づくりに取り組み始めました。若手メンバーに対しては、育成する対象として接することが一般的です。しかし、年上部下の場合は“協力し合うパートナー”として位置づけることが望ましいといえます。場合によっては、自分を支えてくれる心強い存在として頼る姿勢も必要です。
そのような関係を築くうえでは、Dさん自身が関心を持っていることやこれまでに積み上げてきた想いに丁寧に耳を傾ける姿勢が欠かせません。Dさんの自己実現に目を向け、その実現に向けたサポートを申し出ることも、信頼関係を深めるうえで大きな意味を持つでしょう。
なお、年上部下は「自分が上司の目標達成のためだけに動かされていると感じる」ことに敏感です。一方的に役割を押し付けるのではなく、誠意をもって関係を築いていくことが、良好な協働を進める鍵となります。
年齢や経験を問わず重要なテーマを任せることが大切
組織のなかで経験を積ませるという観点から、重要なプロジェクトやテーマには若手メンバーがアサインされやすい傾向にあります。それ自体は意義のある判断ですが、年上部下やベテラン社員にもこうした大切な役割を担ってもらうことは、本人だけでなく組織全体にもよい影響をもたらします。
また、年上部下に重要なテーマを任せることは、「年齢に関係なくチャレンジを期待されている」というポジティブなメッセージになります。求められているという実感は、どの年代でも大きなやりがいにつながるでしょう。誰かに信頼されて期待されることは、人にとって本質的な喜びでもあります。
こうした姿勢は、若手社員に対しても「年齢を重ねても活躍の場がある」という前向きな印象を与えることができます。そのため、長期的なキャリア形成を支える安心感にもつながるでしょう。年齢を理由に役割を限定しない姿勢が、組織の活力を高めることにもつながるのです。
まとめ——マネジメントの基本をあらためて見つめることの大切さ
ここまで、合計3回にわたって「年上部下のマネジメント」について考えてきました。しかしメンバーマネジメントの基本は、年齢や性別、雇用形態といった属性によって大きく変わるものではありません。年齢に関係なく、相手を尊重し、大切にしようという気持ちをもって接することができれば、その姿勢はきっと相手にも伝わるはずです。
もし、あなたにとって少し苦手に感じる年上部下がいるとしたら、その方もまた「年下の上司」であるあなたに対して、同じような気持ちを抱いている可能性があります。人間関係は、双方の影響によって成り立っており、お互いがその関係性に責任を持っているということです。
気が進まないと感じることもあるかもしれません。しかし、まずはあなたから一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。年上部下に限らず、「苦手だ」と感じる相手との距離を縮めることが、信頼関係構築の第一歩となるかもしれません。
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執筆者

HRDサービス共創部 パーソナルディベロップメントグループ
マネジャー
内山 敦夫
人材開発・組織開発等の業務に従事したのち、新規サービス開発や事業責任者を担当。
スタッフ部門・営業部門など複数部門でのマネジメント経験を経て現在はコーチングやマネジメントに関するコミュニケーション領域を担当。
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