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【トレーナーコラム】中堅社員育成のヒント

第3回 中堅社員が「言ったもの負け」と感じる職場――避けたい上司の“ひと言”とは

  • 公開日:2025/09/16
  • 更新日:2025/09/16
第3回 中堅社員が「言ったもの負け」と感じる職場――避けたい上司の“ひと言”とは

弊社は「人と組織の成長」を支えるソリューションパートナーとして、年間約1万5000クラス(※)の各種研修を実施しています。そうしたビジネスパーソンの学びの場で、受講者に寄り添いながら成長や変化を引き出しているのが、現場で伴走するトレーナーたちです。
※2025年3月期のインハウス型研修年間開催クラス数(短時間ワークショップを含む)

人材育成の難しさが叫ばれる今、育成のプロであるトレーナーはどのような視点でビジネスパーソンを見つめ、成長を後押ししているのでしょうか。今回は連載企画「トレーナーに聞く」の最終回として、中堅社員向けの研修を担当するトレーナー・毛利威之が、実は気をつけたい“上司のひと言”をお伝えします。

本シリーズ記事一覧
【トレーナーコラム】中堅社員育成のヒント
第3回 中堅社員が「言ったもの負け」と感じる職場――避けたい上司の“ひと言”とは
【トレーナーコラム】中堅社員育成のヒント
第2回 コツは「認知をマッサージすること」。管理職になりたくない中堅社員との向き合い方
【トレーナーコラム】中堅社員育成のヒント
第1回 伸び悩む中堅社員がぶつかりやすい“壁”とは?
トレーナー自己紹介
中堅社員の「見て見ぬふり」を誘いかねない、上司の何気ないひと言
「君がやってよ」は、「言ったもの負け」の文化を生みやすい
「言ったもの負け」と感じている中堅社員とのかかわり方
おわりに

トレーナー自己紹介

毛利トレーナーの顔写真

毛利威之(もうり たけし)

経歴
(株)リクルートマネジメントソリューションズ
研修トレーナー
大手情報・出版会社に入社。新卒求人事業でマネジャー任用。元就職情報サイト・情報誌編集長。戦略を設定し、メンバーの内発的動機と結びつけて実行し、成果を共有してキャリア観醸成へつなぐ、といったサイクルを実践すれば、スター選手がいなくとも事業の根幹に影響する大きな実績を生み出せると確信(事業内で年間最優秀マネジャー賞を2年連続受賞)。できないと悩むメンバーの気持ちを知り、寄り添って切磋琢磨するのがスタイル。

中堅社員の「見て見ぬふり」を誘いかねない、上司の何気ないひと言

毛利トレーナーの写真

豊富なノウハウやポテンシャルを持ちながらも、「成長しなくていいや」と諦めてしまう。マネジャークラスになれる能力がありながらも、「管理職になりたくない」と避けてしまう――。本連載の第1回・第2回では、そんな中堅社員の方々が抱えている本音や、彼らの認知を前向きに整えるかかわり方についてお話ししました。

最終回となる今回は、中堅社員の成長やモチベーションに影響を与えかねない、「“言ったもの負け”という感覚を生みやすい、上司のひと言」について取り上げたいと思います。

そのひと言とは、「じゃあ、君がやってよ」という何気ない言葉です。

「じゃあ、君がやってよ」は、一見すると社員の意見を受け入れ、快く任せているように聞こえる言葉かもしれません。しかし、この言葉が頻繁に繰り返される職場では、社員がモチベーションを失い、やるべきことに見て見ぬふりをしてしまうケースが多いと感じています。今回は、この「君がやってよ」という言葉が中堅社員に与える影響や、中堅社員の方々とかかわるにあたって気をつけているポイントについて、トレーナーの視点からお話しできればと思います。

「君がやってよ」は、「言ったもの負け」の文化を生みやすい

まず「君がやってよ」という言葉についてですが、職場でよくある流れとしては、社員から何らかの意見やアイディアが出たときに使われることが多いかと思います。「こんな施策はどうでしょうか」という提案に、「いいアイディアだね。じゃあ、君がやってよ」と答える、一見よくあるやり取りを想像する方も多いのではないでしょうか。

ただ、トレーナーとして日々、多くの中堅社員の方々と接するなかで、気づいたことがあります。「会社に提案したいことはあっても、むしろ気づいていないふりをしている」と仰る方が多いのです。その理由についてヒアリングしたところ、多くの方が「うちの会社は言ったもの負けの文化だから」と答えました。

状況を詳しく聞いてみたのですが、彼らの組織では「こうしたらいいのではないでしょうか」という進言があると、「じゃあ、みんなで解決しよう」ではなく、「じゃあ、君が何とかしてみてほしい」と、発言者1人に任せる風潮があるのだそうです。

ただでさえやらなければならない大量のタスクに追われているなかで、良かれと思って進言したことについて、「じゃああなたがやって」と自分にだけ押し付けられてしまう。その結果、キャパシティがパンクして、評価対象である本来の大量のタスクが完了しない――これは本人にとって、大きなリスクとなります。まさに「言ったもの負け」の文化です。だからこそ、「リスクを避けるためにも、気づかないふりをする方が賢い」と考えるのだと分かりました。しかも根深いのは、多くの中堅社員が「本当はやった方がいいと、職場のみんなが恐らく気づいています」と言うことです。それにもかかわらず、誰もものを言わない状況が生まれているのです。

リスクから自分を守る気持ちが、モチベーションの低下を引き起こすことも

毛利トレーナーの写真

「うちの会社は言ったもの負けの文化だから、やらない」という言葉は、比較的大きな企業の研修でよく聞くトピックになりつつあります。昨今は自律性や主体性が大切といわれていますが、この「気づかないふりをする」という行為も、本人たちの一種の主体性の体現であると捉えられます。「気づかないふり」を主体的に行うことで、火中の栗を拾うリスクから自分を守っているのです。

「言ったもの負け」「やったら損」という気持ちが慢性化すると、組織に対して期待が持てず、成長意欲もわかないという、第1回の記事でご紹介したような「壁」にぶつかってしまうことにもなりかねません。新しいアイディアが生まれても安心してチャレンジできない閉塞感や、何をしても褒めてもらえない失望から、モチベーションが上がらないループにもはまりやすくなってしまいます。

「言ったもの負け」と感じている中堅社員とのかかわり方

「誰からのサポートもないのに、火中の栗を拾いにいきたくない」という中堅社員の方々の不安は、私も痛いほど分かります。ただ、彼らの成長を支えていくトレーナーとして、「このままあなたが長く働く職場を、今の状態のままに放っておきましょう」と言うわけにもいきません。「言ったもの負け」の組織文化を変えていくには、内部の方々の意識も変えていく必要があります。

では、こういう「言ったもの負け」「やったら損」と感じている中堅社員の方々に対して、どのようなかかわり方をすればいいのでしょうか。私は自分に甘い人間なので、いきなり「熱々の栗を拾いましょう!」とはとても言えません。自分が言われたら嫌だからです(笑)。だからまずは、「このレベルだったらできる」と無理なく思えるような行動を、思い起こしてもらうようにしています。

「会社がこのままだったら?」という問いかけから、最初の一歩を促す

研修のなかで、私は中堅社員の方々によくこう尋ねています。「職場のなかで、“本当は自分も含めてみんなが気づいていそうなのに、誰も動こうとしない”ような、違和感を覚える部分はありますか?」 
すると、次のような答えがよく挙がるのです。

  • こちらがあいさつしても返してもらえない
  • 明らかにゴミがあるのに誰も捨てない
  • コピー用紙が切れていても誰も補充しない
  • 共有フォルダのファイル名のルールを誰も守らないので、見たいファイルが見つからない
  • 大変そうにしている同僚がいても声をかけない
  • 誰も電話を取ろうとしない
  • 目的の分からない会議が多すぎる

「じゃあ、この違和感はどうすれば改善されると思いますか?」と尋ねると、「電話当番をルール化する」「ゴミ捨て担当を決める」「ファイル名ルールを徹底させるために、責任者を決める」といった、何かしらの仕組み・ルールで解決しようとするアイディアがよく出てきます。

そのうえで、「そのようなルールが作られたら、1年後、3年後、5年後、みなさんの職場は変化していると思いますか?」と尋ねます。すると、「結局ルールを守る人がいなくて、変わっていない気がします……」と返ってきます。

なぜルールを作っても変わらないのか質問してみると、「ルールを守ったところで誰も評価してくれないから」。さらに「じゃあ本当はどうしてほしいのですか?」と尋ねると、「みんなのために良かれと思って何かをしたら、“ありがとう”って言ってほしい」というコメントが挙がることが多いのです。

この「ありがとうって言ってほしい」というコメントが出ると、多くの研修でほとんどの方が大いにうなずきます。お互いがお互いを気にかけて、誰かに何かをしてもらったら、「ありがとう」と伝える。一見当たり前のような思いやりが職場で忘れ去られていることが、問題の根源になっているケースが非常に多いです。大事なことは相手のことを心から気にかけて、たった一言でいいから声をかけることなのです。

だからこそ、もし職場の雰囲気を変えてみたくなったら、あいさつから始めてみようと伝えています。誰も「ありがとう」と言わない職場はそもそもコミュニケーションが少ない傾向にあるので、あいさつという小さなアクションの方が、心理的な負担も少なくなります。

もちろん、最初は「急にあいさつしてくるようになったな」と思われるかもしれません。ただ、「いつもあいさつしてくれるこの人には、あいさつを返さないと悪いな」と感じてくれる人が少しずつ増えていけば、何かしてもらったときの「ありがとう」も自然と言い合えるようになります。

「ありがとう」が言えるようになれば、「この仕事、一緒にやらない?」「この会社のこういうところ、一緒に何とかしてみない?」という声かけをするハードルも低くなっていくでしょう。そうやって少しずつ、かかわりの質を変えていくことが大切だということを、トレーナーとして伝えるようにしています。難しくて賢そうなソリューションなど要りません。みんなが欲しているのは良好な関係性をつくりたい、それだけだったりします。

組織全体で「アイディアを出しやすい環境」を目指す

毛利トレーナーの写真

組織がいつまでも「言ったもの負け」状態だと、現場からせっかく良い変化が生まれても、次第にやる気を失ってしまう可能性があります。もし現場に「言ったもの負け」の空気を感じたら、人事や経営層の方々が主導して、「社員がストレスなくアイディアを出していける組織」に変えていく発想こそが必要だと感じています。

例えば、社員から何か提案があったときに、「じゃあ、君がやってよ」と提言した本人にのみ任せきりにしない意識が大切です。「何でそう思ったの?」と背景の思いをしっかりと聴いて、大事なテーマだと思ったら、「じゃあみんなで共有しよう」「みんなで考えよう」と、主体者を提言者本人のみに閉じないようにしましょう。なぜなら起きている問題の多くは、職場の負の集合意識が作り出しているものだからです。職場のみんなで起こしてしまっていることだと理解し合う機会が決定的に重要です。

また、上司層の方はメンバーと意見交換をする際に「結論から話して」と言わないようにすることをお薦めします。上司層の方々はどなたもお忙しいので、部下には論理的に話してほしいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。ただ、何度も上司から「結論から言って」と指摘されると、部下は常にロジックを整理しなければならない窮屈さから、話を避けるようになってしまうリスクがあります。

また、職場に感じるモヤモヤした違和感などは、きれいにまとまった言葉で表現できるものばかりではありません。言葉や論理にならない思いや気持ちに寄り添うスタンスがないと、メンバーは言葉にできないことをあえて伝えようなどと思ってくれません。言葉にならない何かにこそ、職場に漂う問題の根っこがあります。論理だけではどうにも腑に落ちないモヤモヤを抱えるのが、人間なのです。

だからこそ、「ここまで考えてくれてありがとう」という視点を持って、中堅社員の方々の話を聞くことを意識してみていただけたらと思います。

おわりに

中堅社員は、ひと言でくくるにはあまりにも幅広い層です。非常に優秀な方もいれば、豊かな経験を持っているにもかかわらず気持ちがついていかないという方も珍しくありません。だからこそ一律的な育成が難しく、育成方針に悩まれる人事の方々も多いかと思います。

ただ、トレーナーとして多くの中堅社員の方々と接するなかで、「彼らには十分なポテンシャルがある」と確信しています。中堅社員と接していて毎回感じるのは、彼らはその持てる素晴らしい能力とエネルギーの大半を「空気を読むこと」「波風を立てないこと」「自分を不利な立場にしないこと」に費やして消耗しています。将来を形づくるクリエイティブなことに、エネルギーを半分も使っていません。

だからこそ、人事やマネジメント層の方々にはぜひ、「中堅社員の魂やポテンシャルに蓋をしないためには、一体どうしたらいいか」という視点を、ぜひ大切にしてみていただけたらと思います。


中堅社員向けの研修一覧は、中堅社員研修特集ページをご覧ください。

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