- 公開日:2025/09/08
- 更新日:2025/09/08

弊社は「人と組織の成長」を支えるソリューションパートナーとして、年間約15000クラス※の各種研修を実施しています。そうしたビジネスパーソンの学びの場で、受講者に寄り添いながら成長や変化を引き出しているのが、現場で伴走するトレーナーたちです。
※2025年3月期のインハウス型研修年間開催クラス数(短時間ワークショップを含む)
人材育成の難しさが叫ばれる今、育成のプロであるトレーナーはどのような視点でビジネスパーソンを見つめ、成長を後押ししているのでしょうか。今回は連載企画「トレーナーに聞く」の第2弾として、中堅社員向けの研修を担当するトレーナー・毛利威之が、中堅社員の育成の現場で感じていることをお伝えします。
- 【トレーナーコラム】中堅社員育成のヒント
- 第2回 コツは「認知をマッサージすること」。管理職になりたくない中堅社員との向き合い方
- 【トレーナーコラム】中堅社員育成のヒント
- 第1回 伸び悩む中堅社員がぶつかりやすい“壁”とは?
- 目次
- トレーナー自己紹介
- トレーナー視点から見る、「管理職になりたくない中堅層」の本音
- トレーナー流「管理職になりたくない中堅層」とのかかわり方
- 「上司の隠れた本音」を伝えることも、認知のマッサージになる
- まとめ
トレーナー自己紹介

毛利威之(もうり たけし)
経歴
(株)リクルートマネジメントソリューションズ
研修トレーナー
大手情報・出版会社に入社。新卒求人事業でマネジャー任用。元就職情報サイト・情報誌編集長。戦略を設定し、メンバーの内発的動機と結びつけて実行し、成果を共有してキャリア観醸成へつなぐ、といったサイクルを実践すれば、スター選手がいなくとも事業の根幹に影響する大きな実績を生み出せると確信(事業内で年間最優秀マネジャー賞を2年連続受賞)。できないと悩むメンバーの気持ちを知り、寄り添って切磋琢磨するのがスタイル。
トレーナー視点から見る、「管理職になりたくない中堅層」の本音

「昨今の中堅社員の皆様には、非常に高いポテンシャルがある。一方で、『会社からきちんと評価してもらえない』という失望から、本来の自分の気持ちや思いにフタをしてしまうことがある」――。前回の記事では、このようなお話をさせていただきました。
また、優秀な中堅社員の誰もがリーディングプレイヤーとして活躍し、マネジャーに昇進していくわけではないことにも触れました。なかには「管理職になりたくない」という気持ちから、マネジャーに抜擢されないように、あえて自分の能力を抑える方もいらっしゃるほどです。
なぜ彼らは自分にブレーキをかけてまで、管理職というポジションを避けてしまうのでしょうか。今回は、研修を通して感じた中堅社員の皆様の本音や、トレーナーとしてかかわるにあたって意識していることについて、お話しできればと思います。
管理職になりたくない理由その1:「あまりにも上司が忙しそう」
トレーナーとして中堅社員の皆様と向き合うなかで、「管理職になりたくない」という気持ちの背景には、大きく2つのパターンがあると感じています。
1つ目は、あまりにも多忙な上司の様子を見て、「出世するってこういうこと?」と尻込みしてしまうケースです。管理職がプレイヤーとしての業務を抱えていることも多いので、長時間の残業が定常化している方もいます。「管理職になるとあんな激務に追われるのか」という肌感が、管理職になるモチベーションを削いでしまっている状態といえます。研修に来てくださった中堅社員の方からも、「上司の予定は一日中会議で埋め尽くされている」「部下である自分が、たった10分もらうことさえ恐縮してしまうほど忙しそう」という声がよく上がります。
管理職になりたくない理由その2:「求められる能力が高そう」
2つ目は、「管理職なんて自分にはとても務まらないのではないか」と、能力面での不安を感じてしまうケースです。
専門性の高い企業において特に顕著ですが、上司というポジションには優秀な人材が集まります。「仕事には慣れたものの、まだまだ情報をキャッチアップし続けなければならない」と感じている中堅層にとって、上司は豊富な製品知識やノウハウを持つスーパー人材に見えてしまうのです。「管理職になりたくない」というよりは、「求められるレベルになれそうもない」というニュアンスが近いパターンといえるでしょう。
トレーナー流「管理職になりたくない中堅層」とのかかわり方

中堅社員は本来、組織の将来を担っていくことが期待されるポジションです。だからこそ、現場から「管理職になりたくない」という声が出ると、「一体どうしたら前向きになってくれるのか」と心配される人事の方もいらっしゃるかと思います。
なので、中堅層向けの階層別研修では、「自分の仕事だけでなく会社や社会を広く見渡し、新たな価値を創造するために周囲をひっぱるリーダーとして成長してほしい」といった、等級定義に沿ったメッセージを送りたくなります。伝える側は要請としてこのようなまともなメッセージを伝えるのですが、伝えられる側は心の底から「そのとおりです! そうなりたいです!」と受け取るでしょうか。ただ教科書通りの真っ当な期待を伝えただけでは、本人たちに内面化している「管理職は多忙すぎるし、自分にマネジメントはできないだろうし、向いていないだろうし、他人にそこまで興味がないし、マネジメントをやっても損しかないだろう」といった固着した思い込みが、自己防衛のために再現されてしまうことが多いように感じます。
だからこそ私がトレーナーとしてかかわるときは、「会社の期待を捉えてリーダー・管理職を目指し、ふさわしい行動に変えていこう!」とは言いません。彼らが抱え込んでいる認知をまず全部出してもらって、ちょっとずつマッサージするようにほぐしながら、「大切にしている思いや価値観と次にできそうなアクション」を引き出すようにしています。
認知をマッサージする接し方のコツ
例えばコミュニケーションのスタート地点では、まず相手が何を言っても肯定するようにしています。「管理職にはなりたくない」という、研修という場面においてやや否定的な意見が出たとしても、「そうなんだね。どうしてなりたくないの?」と、すべて受け入れて理由などを聞きます。
すると、「忙しそうだからやりたくない」とか、「年収は上がらないのに苦労だけ増えそう」とか、当人のなかから感情や思考が次々と湧き出てきます。研修の参加者と話していくうちに、前回の記事でもご紹介した「メタ認知」が起き始めるのです。
そもそも研修という対話の輪のなかで、否定的な意見をいつまでも出し続ける方はそうそういないように感じています。「管理職になりたくないと思っていたけど、同じ会社にいるこの人は、管理職に興味があるって言っているな……」、「不満ばかり言っているのは、自分だけだな……」など、周りから問いをもらい、思考と感情が刺激されていくプロセスを通して、自分を客観視しやすくなっていきます。
普段は目先のタスクをこなすだけで精一杯という中堅社員の方も多いのですが、一旦メタ認知で思考をリセットすることで、「そもそも自分はどんな思いを大切にしているのか」「譲りたくない価値観は何なのか」「本当はどんな関係性のなかに身を置きたいのか」といった、自分事としての内発的なイメージが喚起されていきます。そこでようやく、「そうなるためには、簡単にできそうな一歩目として、どんなことができるとよいですか?」という問いを投げて、相手の反応を待つのです。
すると、「そもそもうちの会社は誰もあいさつしないから、自分からあいさつしようと思った」とか、「どうせやるなら関係者たちともっと納得した状態で仕事にかかわりたいから、仕事の目的を再確認しようと思った」という反応が返ってくるので、すかさず「いいね! いいじゃない」と、全面的に肯定して後押しします。そこからは、「こうしてみようかな」「いいね!」の応酬です。「それができたら、次はどうなると思う?」「本当にそうなったら、ご機嫌に仕事できそうじゃない?」とやり取りをしていくと、相手の表情がだんだん緩やかになっていきます。
大切なポイントは、相手から出た気持ちを「こちら側」に落とし込もうとしないこと
トレーナーとして心掛けていることが、もう1つあります。せっかく本人に芽生えた「こうしてみようかな」という気持ちや考えを、研修提供側や会社の要請に照らして、もっともらしい教科書通りのところへ落とし込もうとしたり、「それではその等級としては不十分だ」「そんなレベルでいいのか?」などと否定したりしないことです。
認知のマッサージを経て出てきたものは、当人が主体性を持ち、自分や会社の課題に対してどうにかできないかと思って芽生えたものなのです。自分の外にある基準に順応させるのではなく、自分のなかに芽生えた自分が生んだ基準が主体性とエネルギーの核になるので、あえて外にある基準を意識させようとする必要はありません。
最初は小さな一歩でも、「いいね。ぜひやってみよう」と背中を押して、前向きな気持ちを大事に持ち帰ってもらう。こういったアプローチも、育成を担う側としての大切な役割の1つだと感じています。
「上司の隠れた本音」を伝えることも、認知のマッサージになる

管理職を避けてしまう中堅層へのアプローチとして、最近もう1つ、「これは光が見えるかもしれない」と感じた方法があります。弊社の中堅研修プログラムの一部に「上司の立場になって考えてみよう」というセクションがありますが、そこで私自身の上司時代の本音を話すと、受講者の反応がほぐれやすくなるのです。
セクションの流れとしては、まず受講者の方々に事前準備として、「上司はこの1週間どんな活動に時間を使っていたか」というテーマで、上司の方にインタビューしてもらいます。そして研修ではインタビュー内容を共有しながら、「上司はどんな気持ちを抱えながらマネジメントしていると思う?」と、グループメンバーと想像する時間を設けます。
すると、「忙しいと思っているのではないでしょうか」という意見を筆頭に、まだ凝り固まっている認知が出てくるわけです。そこで、トレーナーの私からさらに、「大変というのは前提で、そのなかでも上司はどんな気持ちを抱きながら日々過ごしているんだろうね?」と聞きながら、自分が上司だった頃の記憶をたぐり寄せて伝えます。「小まめに報告してくれて助かっているよ」「新人のフォローを率先してやってくれてめちゃくちゃありがたいよ」「負荷をかけすぎているよね。ごめんな」「あの時の言い方、きつかったかもしれないな。申し訳ない」「実は私もよく分かっていないんだ。不安なのは私も一緒なんだ……」など、上司として日々感じていたけれど、なかなか言えなかった本音を伝えます。
毎日、周りを見る余裕もないほど頑張っている上司も、実は心のなかで自信を失っていたり、皆に対して詫びる気持ちがあったりするのかもしれない。そして面と向かってはあまり言わないけれど、実は結構感謝してくれているかもしれない。こういった視点を投げかけてみると、「口では言わないけど、上司がそう思っている瞬間はあるかもしれない」と、中堅社員の方々が思い返してくれます。セッションの最後には、「ちょっと、上司の手伝いをしようと思います」「後輩の面倒くらい見てあげようと思います」と、支援的な気持ちになってくれる方は多くいらっしゃいます。
「お互いが支援的になれる感覚を、どう呼び起こすか?」というのも、研修が提供できる1つの要素なのかもしれません。
まとめ
「管理職になりたくない」と考えている中堅社員の方々は、「上司は大変だ」「忙しそうだ」という認知が固まってしまっていることが多いです。研修や社内でのコミュニケーションを通して、管理職へのイメージをほぐしてあげることが、当人の前向きな気持ちを引き出す最初の一歩になるでしょう。
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