連載・コラム
組織が抱えるオンボーディングの課題を乗り越えるヒント
第3回 キャリア入社者の支援には「上司と人事」による面談が有効
- 公開日:2025/07/28
- 更新日:2025/07/28

本連載では、新卒入社者・キャリア入社者・異動者などに対する「オンボーディング(早期の戦力化を促進し、定着を支援するプロセス)」に関して、組織内で起こりがちな課題を解決するヒントを紹介しています。
第3回はオンボーディング施策のなかでも、対象のメンバーが「キャリア入社者」の場合において効果的なアプローチを、客観的な調査データをもとに深く掘り下げていきます。キャリア入社者自身の内面や施策の効果から、実際のオンボーディングプログラムに生かせる多くの手がかりが得られるはずです。
- 組織が抱えるオンボーディングの課題を乗り越えるヒント
- 第3回 キャリア入社者の支援には「上司と人事」による面談が有効
- 組織が抱えるオンボーディングの課題を乗り越えるヒント
- 第2回 「本人主語+企業主語」で不安を払拭してやる気の好循環へ
- 組織が抱えるオンボーディングの課題を乗り越えるヒント
- 第1回 新たに組織に加わった人材が直面する「3つの壁」と「6つの症状」
- 目次
- (1)キャリア入社者が求めているのは「組織の一員になった」実感
- (2)多くのキャリア入社者が「対人面」で自ら工夫を行っている
- (3)キャリア入社者に対する企業側のバックアップはいまだ不十分
- (4)早期からの「定期的な人事面談」がキャリア入社者の活躍を支える
- (5)離職意向度を下げ、パフォーマンスを高めるには「上司面談」も重要
- (6)人事と上司の連携こそが、キャリア入社者のやる気を引き出す第一歩
(1)キャリア入社者が求めているのは「組織の一員になった」実感
本連載の第1回でも軽く触れたとおり、一定の経験やスキルを持つメンバーも多い「キャリア入社者」のオンボーディングプロセスには、新卒入社者などの場合とは一部異なる特徴や傾向があります。
例えば、キャリア入社者のオンボーディングにおいて人事担当者や上司が目指すべきゴールは、メンバー自身が「組織の一員になった」という実感を得ることにあります。なかでも、キャリア入社者が安心感と前向きな姿勢を獲得するためには、「自分の取り組みで成果が生まれた」「自分の能力が周囲に認められた」といった実感が重要となります。
以下の表は、実際にキャリア入社で活躍している方に「組織の一員になった」と実感した瞬間を挙げてもらい、その結果をまとめたものです。この表からは、「仕事の成果」に関わるエピソードの多さと共に、メンバー自身が自分を役立つ存在だと実感するうえでは「周りから評価され、頼りにされて仕事を任せてもらう」といった経験が大きな役割を果たしていることが分かります。

出典:リクルートマネジメントソリューションズ「中途採用者の適応に関する実態調査報告」2015年8月
本連載の第2回では、「やる気が高まる公式」を紹介しました。「メンバー自身が自分で決断し、周囲からOKをもらい、効力感を実感できればやる気は高まる」という公式です。
上記の調査結果にこの公式をあてはめて考えると、キャリア入社者のやる気の向上にはミッションに主体的に取り組んで成果を出す(=自分で決める)こと、組織内で褒められる・信頼される・役割を任される(=周りからOKがもらえる)こと、成果を実感して自分を認める(=効力感を実感する)ことの3つが必要であるといえます。
(2)多くのキャリア入社者が「対人面」で自ら工夫を行っている
ここまでは「組織の一員になった」という実感の重要性を紹介してきましたが、そうした実感を得て組織に適応するため、実はキャリア入社者たちも陰ながら努力を重ねています。
以下の表は、キャリア入社者の方にお聞きした「組織に適応するために自分で工夫したこと」をまとめたものです。その内容からは、非常に多くのメンバーがコミュニケーションや質問、社内での人脈づくりや社内イベントへの参加といった「対人面」の工夫に力を注いでいることがうかがえます。

出典:リクルートマネジメントソリューションズ「中途採用者の適応に関する実態調査報告」2015年8月
(3)キャリア入社者に対する企業側のバックアップはいまだ不十分
しかしキャリア入社者自身の工夫の一方で、そうした努力を支える企業側のオンボーディング施策は決して十分とはいえない現状があります。リクルートキャリア(現リクルート)「中途入社後活躍調査 第1弾」によれば、導入研修や歓迎会といったごく一般的なオンボーディング施策でさえ、実際に行っている企業は半数以下にとどまっています。その他の支援策の実施率にいたっては、全体の30%以下に過ぎません。

出典:リクルートキャリア「中途入社後活躍調査 第1弾」2018年10月
(4)早期からの「定期的な人事面談」がキャリア入社者の活躍を支える
では、キャリア入社者の支援にあたり、企業にはどういった取り組みが求められているのでしょうか。リクルートキャリア「中途入社後活躍調査 第1弾」では、数ある施策のなかでも「定期的な人事との面談」が最もパフォーマンスへの影響が大きいとの調査結果が出ています。意外に思われるかもしれませんが、キャリア入社者の戦力化を促進するうえでは、人事の介入が極めて有効なのです。

出典:リクルートキャリア「中途入社後活躍調査 第1弾」2018年10月
さらに、同社の「中途入社後活躍調査 第2弾」では、キャリア入社者に対して人事がケアを行うタイミングとしては「入社前」が特に効果的であることも分かりました。というのも、キャリア入社者のなかでも入社前のコミュニケーションがなかったメンバーは、パフォーマンス発揮率が20%台にとどまっていたのに対し(入社後の面談あり28.1%、入社後の面談なし22.7%)、入社前のコミュニケーションがあったメンバーの発揮率はその20ポイント近く高い値となっており、半数近くがパフォーマンスを発揮していました(入社後の面談あり50.5%、入社後の面談なし42.6%)。

出典:リクルートキャリア「中途入社後活躍調査 第2弾」2019年4月
また、実施されたコミュニケーションの内容をみていくと、人事が「入社後に想定される疑問や不安を解消する情報を、隠すことなく開示してくれた」「入社を検討するうえで十分な情報を得たか確認してくれた」と感じたメンバーは、そうでないメンバーと比較して活躍する可能性が格段に高いことが分かります。つまりキャリア入社者の早期の戦力化には、不安や疑問の解消に向け、入社前に人事がさまざまな情報を提供したり手厚くケアしたりすることが重要なのです。

出典:リクルートキャリア「中途入社後活躍調査 第2弾」2019年4月
一方で同調査では、⼊社後に人事面談を行う場合には、入社5カ月目までに面談を実施すると優れたパフォーマンスの発揮につながりやすいとのデータも得られました。具体的には、パフォーマンスを発揮していたメンバーが入社5カ月目までに人事面談をした割合は69.7%に達しているのに対し、パフォーマンスを発揮できなかったメンバーが入社5カ月目までに人事面談をした割合は44.8%にとどまっています。

出典:リクルートキャリア「中途入社後活躍調査 第2弾」2019年4月
こうしたデータから、キャリア入社者へのオンボーディング支援には「入社前から入社後5ヵ月目までの間に、人事が面談を積極的に実施する」ことが特に効果的であるといえます。
(5)離職意向度を下げ、パフォーマンスを高めるには「上司面談」も重要
そのほか、キャリア入社者の離職意向度を下げて定着を促進するうえでは、「定期的な上司との面談」が最も効果的であるとの調査結果もあります。定期的な上司との面談はメンバーのパフォーマンス向上にも有効であり、オンボーディング支援として確かな効果が期待できる施策となっています。
実際にリクルートキャリア「中途入社後活躍調査 第2弾」でも、キャリア入社者が上司と一定量のコミュニケーション(雑談を含む)を取ることは、メンバーの定着とパフォーマンスの両方に良い影響をもたらすとのデータが出ています。

出典:リクルートキャリア「中途入社後活躍調査 第2弾」2019年4月
加えて、コミュニケーションの内容としては「会社や組織の方針の意義」「自分の役割・目標の意義」に関する会話が特に効果的であると判明しています。多くのキャリア入社者は仕事に関して一定レベルの経験と専門性を持った状態で入社しているため、具体的な進捗管理や成果報告よりも、組織方針や仕事の意味・価値などをめぐる対話にメリットを感じる傾向にあるようです。
(6)人事と上司の連携こそが、キャリア入社者のやる気を引き出す第一歩
以上の内容をまとめると、キャリア入社者のオンボーディングにおいて高い効果を発揮する、望ましい施策とは「定期的な人事面談と上司面談」であり、その連携があるとさらに効果が高まるといえるでしょう。
つまり、キャリア入社者の戦力化と定着のためには、人事と上司が連携してメンバーの「やる気」を引き出すことが大切です。本連載の第2回で紹介した「やる気が高まる公式」を活用し、メンバーとよくコミュニケーションを取り、成果に対しては積極的にOKサインを出して効力感を高めることを心がけましょう。

また、第1回でも説明したとおり、人事担当者には組織ぐるみでキャリア入社者を支援する「オンボーディングの仕組み」を社内に提供することも求められます。キャリア入社者と上司の「定期的な1on1」を奨励する、オンボーディング研修を導入するなどの仕組みづくりが効果的に行えれば、メンバーと周囲の関わりやコミュニケーションも増えていくはずです。
そのほか、本連載の第2回では、オンボーディングの良し悪しは本人を取り巻く人々や職場に左右されることも説明しました。キャリア入社者の場合、その周囲や環境とは主に「人事と上司」のことであり、そうした存在からのアシストも好循環サイクルの実現には欠かせない要素となっています。

ちなみに、リクルートキャリア「中途入社後活躍調査 第1弾」によると、「キャリア入社者同士のコミュニティづくり」や「定期的な入社後アンケート調査」といったオンボーディング施策は、逆にメンバーの離職意向度を高めてしまうリスクがあるようです。メンバー同士の横のつながりや一方的な情報の吸い上げはキャリア入社者の不安定な心理を刺激し、定着だけでなく活躍にもネガティブな影響を与えかねないため注意が必要です。
キャリア入社者に対しては、やはり入社間もない時期には上司や人事との「縦の関係づくり」がポジティブに働きやすい傾向にあります。繰り返しにはなりますが、キャリア入社者のオンボーディング支援にあたっては、人事と上司による面談を優先して実施することをお薦めします。
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また、リクルートマネジメントソリューションズでは中途入社者を支援するサービスをご用意しています。
ぜひ貴社のオンボーディング施策にお役立てください。
執筆者

技術開発統括部
コンサルティング部
エグゼクティブコンサルタント
竹内 淳一
1993 年、株式会社リクルート入社。人事部門での採用リーダーを経て、2003 年から「データを活用し個を生かし組織を強くする」をテーマに、採用から入社後の活躍までを一貫して取り組むコンサルティングに従事。組織マネジャー・プロジェクトマネジャーとしてコンサルティングや営業、サービス開発を行い、2011 年より現職。
●メディア掲載
・人手不足で「適材適所」に脚光 人事データに基づく予測ソフトも(掲載/日経コンピュータ)
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