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可能性を拓くマネジメント発明会議 第17回 ユーグレナ

未来の大人と共に描く未来

  • 公開日:2023/10/06
  • 更新日:2024/05/16
未来の大人と共に描く未来

本連載は、創業から歴史は浅くとも、独自の組織・人材観を掲げ成長する企業や組織に取材し、彼らが「発明」してきたマネジメント手法に学ぶインタビューシリーズだ。東京大学発バイオベンチャーとして有名なユーグレナ社は、研究開発型スタートアップと見られがちだが、海外への食料支援やバイオ燃料事業の発展は多様な部署・社員が力を合わせた結果だ。自身も広報の立場から事業発展に尽力している北見裕介氏に、経営を未来と社会につなぐ発明を聞いた。  

「Sustainability First」というフィロソフィー
社会課題の解決を全社員の「自分ごと」に
CFOの提案がきっかけでペットボトル商品を全廃
10代に権限と責任を与え他の責任者と協働させる

「Sustainability First」というフィロソフィー

永井:18歳以下の人材を経営の意思決定に参画させるCFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)などの取り組みを拝見し、ユーグレナ社が描く社会との関係性についてぜひ聞いてみたいと思いました。

北見:そもそも当社の出発点は、創業者である出雲充(いずもみつる)が東京大学在籍時にバングラデシュにインターンシップで訪れ、深刻な栄養問題を解決したいと考えたことです。当時は冷蔵庫もなく食料の保存が難しいため生鮮食品は送れません。「それなら持ち運びしやすい栄養満点な食材を見つけよう」ということで、大学の先生や友人に聞いて回り、微細藻類のユーグレナにたどり着いたのです。当時、ユーグレナの培養技術は「不可能」とされており、大量に培養することはハードルが高かったのですが執念で成功させました。以降、食品や化粧品などに事業が広がっています。2018年には横浜市鶴見区にバイオ燃料の実証プラントが完成し、2020年からバイオ燃料の供給をスタートさせました。

永井:途上国の食料問題という社会課題を解決するために設立された会社だったのですね。

北見:そうなのです。設立が2005年だったので、2020年は当社の15周年でした。自分たちがやってきたことを見直す機会があり「私たちがやってきたことってサステナビリティだったんだ」と、改めて思いました。私たちは事業活動を通じてサステナブルな社会を作りたいと考えています。その想いをのせて「Sustainability First」というユーグレナ・フィロソフィーを掲げました。

加茂:ユーグレナがバイオ燃料の原料にも使えるから事業を広げたというより「Sustainability First」の観点で推し進めたのでしょうか。

北見:そのとおりです。ユーグレナから良質の油が採れ、その油から石油の代替となるバイオ燃料の精製も可能であることは知られていました。しかし同時に、ユーグレナ由来のバイオ燃料原料はまだ生産コストが高く、現時点で主流である使用済み食用油から作るバイオ燃料に置き換わるには相当な時間と技術革新が必要であることも分かっていました。これらを踏まえて「社会のためにどうあるべきか」を考えたとき、バイオ燃料の供給は一刻も早い方がいいですよね。「ユーグレナ原料のバイオ燃料にこだわる必要はない」と決断しました。これは公表している情報なのですが、当社のバイオ燃料の原料は、大半が使用済み食用油で、ごく一部がユーグレナ原料です。バイオ燃料事業は、まさしく「Sustainability First」の考えで進めている事業です。

加茂:素敵な思想だと思います。

北見:藻類由来原料のバイオ燃料を作る研究は続けていきますが、そこにこだわっていたら、バイオ燃料の実証プラントもまだ存在しなかったでしょう。ちなみに、今日本のメーカーで、バイオ燃料によるフライトを10回以上成功させている企業は当社だけです。そのうち3回のフライトは政府専用機です。夢にこだわらなかったから、夢のある未来を現在に引き寄せることができていると感じています。

社会課題の解決を全社員の「自分ごと」に

永井:ビジネスと社会課題解決を両立させる難しさもあると思いますが、社会課題の解決を事業とするなかで大事にしていることはありますか。

北見:「全員が当事者意識をもてるようにすること」です。例えばバイオ燃料と聞くと理系の研究職のようなイメージをもたれがちですが、実際には人事や総務も関わるし、営業が燃料供給先の会社と交渉したりしています。先端技術をもつスタートアップのような見られ方をしているかもしれませんが、日常的な仕事の積み重ねで成り立っている事業なのです。

加茂:社員の提案も積極的に受け入れているのでしょうか。

北見:提案制度も常時開放しています。例えば、会社ロゴの変更も、提案制度が起点でした。15周年と東京五輪の予定が重なったこともあり「変えるタイミングはここしかない!」と決断したのです。また、会社の総会ではワークショップを実施し、サステナビリティについてのみんなの意見をすり合わせ、グループごとに話した内容を、代表者が舞台の上で30秒プレゼンします。「誰かの話を5分聞くなら、みんなの意見を30秒ずつ聞こう」という考えからです。できれば全員のプレゼンを聞くことが理想だと思いますから。

永井:当事者意識が自然と育まれますね。御社の場合は、18歳以下のCFOの声を反映させているところも、本当にユニークだと思います。どうして10代を経営に参画させようと考えたのですか?

北見:日本の大企業の経営者はおそらく平均年齢が60歳を上回ると思います。その企業が30年後、50年後のビジョンを今発表しなくてはならないわけですが、経営者が現役を退いた後の未来を予想して語るのは簡単ではないですよね。一方で、今の10代は50年後に60代ですから、その時代の当事者です。「未来の大人たちに、未来をどうしたいのか聞いてみるべき」と考えました。「未来の大人たちとどんなパートナーシップが組めるだろう」と考えて生まれたのがCFOでした。CFOは「権限と責任をもち、未来を考える最高責任者」なのです。

永井:CFOについて当初はさまざまな反応があったのではないですか?

北見:「遊びじゃないの?」と言われたこともありました。「私たちは真剣にやっているので少し待っていてください」という気持ちでしたね。CFO就任時には取材を受けたりもしますが、世間に発表する実績ができるまで一定期間、露出を抑えています。宣伝用のお飾りではなく、CFOとしての責務があるからです。

CFOの提案がきっかけでペットボトル商品を全廃

永井:CFOは具体的にどういった取り組みをされているんですか。

北見:当社を通して社会を変える提案をしてもらっています。例えば初代のCFOから「ペットボトルは便利だけど、環境に負荷がかかっている。なのにずっと使うんですか?」という提言がなされたことがありました。その提言を受けて、ペットボトルの商品を全廃しました。みんなの頑張りで、ようやくスーパーの冷蔵棚に製品を置けるようになったのに、です。紙パックになると、売り場の棚が変わり、露出が減ります。大企業では難しい経営判断だと思いますが、当社は「Sustainability First」だからこそ決断できました。このようにCFOの提言は、会社のなかで実装されるのです。

加茂:権限が行使され、きちんと事業に反映されているのですね。

北見:私たちは、CFOの未来志向の消費者目線、生活者目線に期待しています。私たちは仕事でやっているから、消費者目線といっても、どうしても仕事目線が抜けません。CFOにはそれがないので、純粋に未来のための提言をしてくれます。実際の提言に対しては「やっぱり言われたか」という感覚が強く「未来を担うCFOが提言しているからやろう」と合意形成しやすいです。

永井:共に「Sustainability First」を目指しているわけですね。

北見:もちろん私たちもアイディアを出しますが、CFOたちのアイディアを引き出して実装することが大事だと思っています。当社は、彼らの声を何倍にも大きくする拡声器でありたい。そうでないと、この取り組みの意味がないとさえ思います。

永井:CFOが社外の方々とコミュニケーションをとる機会もありますか。

北見:国をはじめ公的機関の方々と意見交換することもあります。当社を代表してCFOが他社の代表と話す機会も多いです。他社から「CFOの取り組みはいいですね」と言われますが、CFOを採用した企業は1社か2社ですので、広く浸透させることが課題です。「いいですね」という言葉で満足してはいけないと思っています。

10代に権限と責任を与え他の責任者と協働させる

永井:他社がCFOを導入するにあたり、一番の壁はどのようなことだと思いますか。

北見:CFOの提言を実行できる組織にすることだと思います。1回目はとにかく大変ですが、乗り越えれば「次もきっとできる」となるはず。そのためには権限と責任が両立している必要があります。「商品企画に若い子を参加させる」というような軽い取り組みにしてはいけません。

永井:CFOと真剣に未来を考える組織にするということですね。

北見:当社では「CFOを中心として未来を考えよう」という姿勢です。例えば、「サステナビリティ委員会」では、CFOを中心として他のCxOや事業責任者が集まり、当社をどうサステナブルにするか協議しています。

加茂:未来という観点だと、すべての事業に横串が入りますね。

北見:CxOが相互に確認しながら未来に向かって調整する体制になりました。CFOとCEOが一緒に起案内容を確認したり、人事的な制度ならCHROと協働したり、案件ごとにあらゆるCxOと連携しています。

永井:CFOとはいえ学生なので、フォローすべき点もあるのかなと思いますがいかがでしょうか。

北見:10代の1年間は濃密ですし、授業や試験、受験もありますから、関わる時間が限られています。いかに早く、当社についてインプットしてもらうかが大事ですね。その際、インプットする内容を意図的に選んで、提言を誘導しないようにしています。ここに関しては、まだ私たちも手探りの状態です。

加茂:一人ひとりのアイディアを取り入れて未来を創る本気度が伝わるお話です。

北見:当社には「ユーグリズム」という行動指針があり、そのなかに「7倍速」という言葉があります。ここでいう「7倍速」は、「急げ」という意味ではありません。実はビデオの7倍速は早送りというよりスキップで飛んでいます。つまり、私たちは「何をやったら飛ばせるか」を考えているのです。「5日間かかることを1日でやるにはどうしたらいいか、脳みそがちぎれるほど考えましょう」という姿勢ですね。私たちが、「サステナブルな未来」を創るために「7倍速」の考え方は欠かせません。なぜなら、2030年はすぐにやってくるからです。

加茂:「7倍速」で進むためにも、CFOを含め、皆さんのアイディアが必要になるということですね。

永井:ユーグレナ社の皆さんの協働による「Sustainability First」の実現を願っています。本日は貴重なお話をありがとうございました!


【text:外山 武史 photo:平山 諭】

マネジメント発明を考える

「未来の大人」の参加でサステナブル経営を推進

社会と会社の未来から問いかけ変革を起こす仕組み[永井]

ペットボトル廃止のお話のように、社会や未来にとって良いと思われる取り組みを発想しても、さまざまな背景や要因から組織としてすぐに決定できなかったり、組織内浸透が進まないことはよくあります。

未来に対して責任と権限をもったCFOは、純粋に組織と社会の未来の視点から問いかけ提案をすることで、組織内での意思決定を早め、実際に取り組みを実行していくブレイクスルーとなる発明ではないでしょうか。またCFO導入時には、偏りのない経営情報のスピーディーなインプットや、サステナビリティ委員会という未来視点から横串を通す会議体の設置といった工夫がポイントといえそうです。

フィロソフィーを絶対的な判断軸として未来を創る[加茂]

CFOのような取り組みや未来に資する事業判断が行える組織には、未来や社会とのつながりをより感じられるフィロソフィーが息づいています。これまで培ってきた資源や技術、商品に対してもフィロソフィーに照らした際の素朴な疑問や改善アイディアを従業員一人ひとりが考え発信し、それを皆で大切に扱い、具現化することがそれにあたります。

フィロソフィーを飾りのスローガンではなく、絶対的な事業判断軸とできるかが組織の未来を創る上で重要であり、ユーグレナ社において、フィロソフィーに照らしてバイオ燃料やペットボトル商品をも転換された点に感銘を受けました。



【インタビュアー:加茂 俊究(コンサルティング部)[左]/永井 うらん(コンサルティング部)[右]】

※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.71連載「可能性を拓くマネジメント発明会議 連載第17回」より転載・一部修正したものです。

RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE

北見 裕介(きたみ ゆうすけ)氏
株式会社ユーグレナ
広報宣伝部 部長

下着メーカー、化粧品メーカー、IT企業を経て、2019年にユーグレナ社に入社。マーケティングの立ち上げなどを経て現在は、広報宣伝部の部長。コーポレートブランディング、ヘルスケア事業、バイオ燃料事業、バングラデシュの活動など横断的に広報活動をしている。

 
バックナンバー
第12回 行動原理の異なる、エンジニア組織と事業を「乳化」させる(READYFOR)
第13回 VR(バーチャル・リアリティ)オフィスは人類の叡智を解き放つ鍵(メタリアル)
第14回 組織の自律分散と中央集権を使い分ける(Gaudiy)
第15回 内発的動機は報酬に勝る(サービスグラント)
第16回 応援から生まれる挑戦がある(ETIC.)

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