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連載・コラム

可能性を拓くマネジメント発明会議 第19回 ヘラルボニー

80億人の異彩を放つ社会を目指して

  • 公開日:2024/04/15
  • 更新日:2024/05/16
80億人の異彩を放つ社会を目指して

本連載は、創業から歴史は浅くとも、独自の組織・人材観を掲げ成長する企業や組織に取材し、その「発明」に学ぶインタビューシリーズだ。今回の取材先は、「異彩を、放て。」をミッションに掲げ、主に知的障害のある作家とアートのライセンス契約を結び、福祉領域の拡張と新しい文化の創造を目指す福祉実験カンパニー、ヘラルボニー。異彩を放つ自社の組織マネジメントについて、矢野智美氏に聞いた。

障害は欠落ではなく「異彩」の一つ
社会が動く実感が関わる人の意識を変える
たった1人のために組織全体が変わる
課題への当事者意識が組織の足並みを揃える

障害は欠落ではなく「異彩」の一つ

山田:本日はどんなお話が聞けるのか楽しみにしていました。福祉施設で暮らす作家さんとアートライセンス契約を結んで価値ある作品を世の中に届ける事業も、「ヘラルボニー」という社名も、とてもユニークですね。

矢野:ありがとうございます。弊社の代表は松田崇弥・文登という双子で、4つ上に重度の知的障害のある自閉症の兄がいます。代表2人がお兄さんを取り巻く環境に疑問をもったことが起業の原点でした。「ヘラルボニー」という社名は、お兄さんが7歳の頃自由帳に書いた「辞書にない言葉」です。弊社ミッションの「異彩を、放て。」は、通常「異才」と書かれるところを、「彩」としています。例えば、知的障害のある方のなかには1つのことを繰り返す特性がある場合がありますが、その繰り返しの行動があるからこそ生まれる作品があります。作家の佐々木早苗さんはボールペンをぐるぐると動かし続けて、丸を描き続けアートを作ります。障害は欠落ではなく、アートを生み出すことを一言で表すために、「才」ではなく「彩」としています。

加茂:矢野さんはどんな経緯でヘラルボニーに入社されたのですか?

矢野:私は2015年にテレビ岩手に入社し、アナウンサーをしていました。それまで岩手に縁はなかったのですが、仕事を通じて岩手がどんどん好きになりました。岩手の被災地を北から南まで300キロを歩く番組企画を2年ほど担当したとき、原稿を読む仕事よりも、現場で人と触れ合う仕事が向いていると感じました。そのことをきっかけに、課題を「伝える」メディアの仕事を離れ、課題を「解決する」ゲームチェンジャーの側に行きたいと思ったのです。

加茂:岩手への思いが発端なのですね。

矢野:入社と同時に「岩手コミュニティマネージャー」という役職をもらい、「岩手からヘラルボニーの異彩を放つ」という意識で広報活動をしながら、「障害は欠落ではない」と伝えることと、「障害のある人への価値観」を変えることを目指しています。

社会が動く実感が関わる人の意識を変える

山田:例えばどんなご活動を?

矢野:岩手県北バスとのコラボレーションで、障害のある異彩の作家のデザインをもとにしたラッピングバスを作りました。その頃、私のなかには「美しいものを作ると共に、見た人の意識を変えるにはどうしたらよいのだろう」という課題感がありました。そこで、前職でお世話になった中学校に出向いて、「もっと優しいバスを作るには?」というテーマを考える授業をすることに。県内のメディアに取材してもらうことによって、授業に参加した生徒だけでなく、視聴者の意識変革にもつなげたいと考えました。

加茂:企業の意識も変わりましたか。

矢野:「乗り合いバスは、行き先も目的も異なる人が一緒に移動する。まさに多様性や包摂性を形にしたもの」と再発見するきっかけにしていただきました。ラッピングバス自体は珍しくありませんが、ヘラルボニーと連携したことでお互いの哲学が重なり合い、共に社会にメッセージしたことで社会が動いた実感が、関わる人たちの意識を変えたのだと思います。

山田:矢野さんの当事者意識や熱量を感じるエピソードです。

矢野:私だけではなく全員が当事者意識をもっているのが弊社の特徴だと思います。例えば、令和6年能登半島地震のとき、発生の2日後には「#障害者を消さない」という、障害のある人を取り残さないための情報を発信する特設ページを立ち上げました。東日本大震災のときに障害のある方が避難所に避難できなかったという話を聞き、代表らが課題意識をもち続けていたのです。

山田:私も拝見しましたが、震災後すぐに特設ページが立ち上がっていました。

矢野:障害のある方は、一度避難しても住み慣れた場所に戻る方が安心するので、倒壊の危険性のある場所に戻ってしまうことがあるそうです。そんな危機的状況を知っているからこそ、動ける人から動いて、有志を募り、プロジェクトになりました。圧倒的な当事者意識を感じる出来事でしたね。

加茂:当事者意識の源泉は、人それぞれ違うのでしょうか。

矢野:そうですね。代表と同じように家族に障害がある方がいるという社員もいます。私自身もうつ病の精神障害で働けなくなった時期があったのですね。「精神障害になっても働けることを知ってほしい」という気持ちもありました。そうした思いを、みんながnoteやX、InstagramといったSNSを使って発信し、互いに触れています。それが、お互いの違いをリスペクトすることにもつながっているのです。会社としても登壇機会をいろんな人に任せており、全員が発信者になります。

加茂:障害だけではなく、一人ひとりが「弱み」と感じていることでさえ、ヘラルボニーでは異彩なのですね。

矢野:今は世界80億人の異彩を放つことを目指しています。従業員が「弱み」や「欠落」と感じている点も、異彩に変えられる環境を目指しています。

たった1人のために組織全体が変わる

山田:異彩が集まるからこその組織マネジメントの工夫もありますか。

矢野:昨年、菊永という、ろう者の社員が入社しました。彼女の入社後は、オンライン会議では字幕をつけるようになりました。字幕は完璧ではないので、音声の誤変換に気づいた人が進んでチャット欄で直しています。さらに、職場で雑談時の配慮として、コミュニケーション支援ボード(透明なディスプレイにテキストで会話の内容が表示される)を導入しました。一緒に働くメンバーは手話も覚えています。弊社では、才能のある方が障害の有無にかかわらずフラットにリーダーとしても活躍できる環境を会社側が作るべき、と考えています。もちろん、障害の有無は関係なく、「子どもの療養のための時間が必要」という従業員がフレックスタイムで働けるようにするなど、多様性を受け入れる土台があります。

透明なディスプレイにテキストで会話の内容が表示されるコミュニケーション支援ボード

透明なディスプレイにテキストで会話の内容が表示されるコミュニケーション支援ボード。菊永さんがオンライン会議以外の雑談にも交ざれるよう「組織をアップデートする」ために導入された。

山田:そうした環境づくりは、事業活動にも生かされていますか。

矢野:まさに菊永が中心となって作った「ダイバーセッション・プログラム」という企業研修が良い例ですね。私たちが気づかないアンコンシャスバイアスや、彼女だから気づけたことなどが詰め込まれています。

加茂:異彩を放つための環境づくりや、そこから事業が生まれたお話から、御社の掲げる「福祉実験カンパニー」という言葉を想起しました。

矢野:「実験」という言葉が良いかは分からないのですが、例えば福祉施設にいる作家の作品はその品質にかかわらず安く売られていることもあります。「障害」=「欠落」という認識があるからその価格設定になっているのかもしれません。弊社では「障害」=「異彩」として届けることで「障害」に対するイメージを変えるためのさまざまな「施策」を行っています。今、盛岡市のまちづくりに参加したり、さまざまな企業の方と共創の取り組みをしているのも手探りの実験といえるかもしれません。

加茂:実験は続いているわけですね。

矢野:「実験」だからこそ許される挑戦もあるし、失敗が成功の糧になると思えるのも「実験」という言葉の力かもしれないですね。海外進出は良い例です。経済産業省のプログラムの一環で昨年夏、代表がヨーロッパへ視察に行ったとき、「ヘラルボニーのアートは、ヨーロッパでも通じるのではないか」という話をいただき、それでは「挑戦してみよう」となりました。

山田:社内でも異彩が出会い、共創が繰り広げられているのでしょうね。

矢野:弊社のメンバーは福祉関連の出身が少なく、テレビ局のディレクターや、住宅メーカー出身、脳科学を勉強していた人など多種多様です。得意分野が異なるからこそ、「#障害者を消さない」のような実験的なアウトプットが出てきます。

課題への当事者意識が組織の足並みを揃える

山田:ヘラルボニーはまさに多様性のある組織だと感じました。この後は、どんな進化をイメージしていますか。

矢野:私たちが掲げる大きな目標は「80億人が異彩を放つ世界を目指す」です。そのためには事業規模の拡大、一人ひとりの生産性の向上が不可欠だと考えています。福祉という分野を超えていく必要があると思います。一方で、障害のある作家と信頼関係を築くための細やかなコミュニケーションといった部分は、変わらず残していく必要があると思います。

加茂:ヘラルボニーの組織づくりを参考にする場合、企業の人事担当者は何を意識したらよいと思いますか。

矢野:人事の専門家ではない私から伝えられることがあるとしたら、「ミッションへの共感」が大切なのではないかと思います。組織の人数が増えれば増えるほど、組織を沸かす源泉である代表などと距離が遠くなり、共感が薄くなりがちかもしれません。その会社の課題に対して、どれだけ当事者意識のある人たちが集まっているかが鍵になると思います。加えて今の時代は、発信することが非常に重要になっていると感じます。社会に向けてどのように発信するかは難しいことですが、社会が変容し、それによって会社が変わることもあるはずです。さらには会社や経営者が考えていることを従業員に向けて発信し続けることで、従業員の意識が変わり、社会が変わることもあるのではないでしょうか。

加茂:ミッションへの共感と発信が大事ということですね。

山田:矢野さん、本日は素敵なお話をありがとうございました!

【text:外山 武史 photo:平山 諭】

マネジメント発明を考える

当事者としての思いと弱さを組織ぐるみで解き放つ

当事者意識は伝播し、影響し合い、機会を通じて、共創が生まれる[山田]

なぜ、ヘラルボニーから新たな実験が次々と生まれるのか、そのメカニズムを垣間見た思いです。「異彩」や「実験」といった明確で芯のある〈言葉〉に惹かれ、共感した方が入社していること。代表や周囲の仲間が当事者意識を〈行動〉に移す様子を見て、互いの当事者意識がさらに高まること。「全員が発信者」となり外部と接する機会を作る組織的な〈仕組み〉。それらすべてが影響し、多様な個が1つの目的に向かって共創している。「震災2日後に特設ページが立ち上がる」、信じられないスピードで組織が動く背景には、当事者意識を解き放つ絶妙なマネジメントが機能しているのだと思いました。

各人の弱み・欠点に向き合うことで組織としての進化が生まれる[加茂]

一見、弱みや欠点のように見えることも大事な各人の特性であり、その特性を十分に生かすことが唯一無二の取り組みやアウトプットにつながる。また、各人の強みや才能を生かすために、弱みや欠点が活躍の障害とならぬよう皆で受け止め、知恵を出し合うことが、組織運営の進化やサービス創造、各人の新たな機会獲得・成長につながる。

組織運営の進化やサービス創造、従業員の成長支援に悩まれている企業や組織は多いように感じます。各人の弱み・欠点を捉え直し、それに向き合うことが組織を進化させる上でのきっかけになるのではないでしょうか。

【インタビュアー:加茂 俊究(コンサルティング部)[左]/山田 海(コンサルティング部)[右]】

※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.73連載「可能性を拓くマネジメント発明会議 連載第19回」より転載・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE

矢野 智美(やの ともみ)氏
株式会社ヘラルボニー 広報室 岩手コミュニティマネージャー

2015年にテレビ岩手に入局し、アナウンサーとして情報番組などを担当。2023年、株式会社ヘラルボニーに入社。岩手の地に根ざしたヘラルボニーの文化を醸成し、人と人とをつなげて新しい価値を生み出す、「岩手コミュニティマネージャー」として、さまざまな取り組みを通じ岩手から「異彩」を届けている。

バックナンバー
第14回 組織の自律分散と中央集権を使い分ける(Gaudiy)
第15回 内発的動機は報酬に勝る(サービスグラント)
第16回 応援から生まれる挑戦がある(ETIC.)
第17回 未来の大人と共に描く未来(ユーグレナ)
第18回 対話の力で主体的な挑戦を育む(広島県教育委員会)

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