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連載・コラム可能性を拓くマネジメント発明会議 第6回 ヌーラボ

“協働”を育む多国籍企業のコラボの流儀

“協働”を育む多国籍企業のコラボの流儀

経営学や心理学において古典とされるマネジメント理論は、今日の事業環境においても有効なのだろうか。本連載は、創業から歴史が浅いながらも大きな成長を遂げる企業に、シリーズでインタビューしていく。それら「若い」企業は、現代の人と事業に最適なマネジメント理論を生み出すポテンシャルを秘める。古典の理論を温めつつ、これから急成長に向かう企業から第2、第3の創業を志す大企業まで広く参考となるような、最新知見を「発明」していきたい。今回はプロジェクト支援ツールのBacklogで有名な株式会社ヌーラボの、グローバル&リモートで協働を生み出す発明に迫る。管理部 人事労務課 安立沙耶佳氏にお話を伺った。

今回のテーマ「バーチャル・チーム」

バーチャル・チームとは、何らかの組織目的を達成するために、地理・時間・文化および固定的な所属組織などの境界を越えて結成され、主にオンラインでのコミュニケーションによって推進されることを想定したチームです。企業のグローバル化、および昨今の新型コロナウイルス対策の影響から実質的にバーチャル・チーム化した組織も多くありますが、そのチームづくりには困難もあります。例えばコミュニケーションの前提不足・誤解・遅延が起こりやすいことや、地理的な分散からお互いが顔を合わせる相互作用が弱いといった特徴があり、伝統的チームよりメンバー間およびチームに対する信頼が低いという研究もあります。

また、別の研究では、グローバル・バーチャル・チームの成果を高め効果的な組織学習を促進させるために、個人またはチームに必要な能力を整理しています(図表1)。セルフマネジメント力をもち、情報技術への開放性をもつことに加えて、互いの文化的差異に敏感になることや、タスクベースだけでない関係性を意図的に作ることの必要性が指摘されています。

今回、多くのチームに支持されるタスク管理ツール「Backlog」を生み出し、日本、アメリカ、オランダ、シンガポールに拠点を構え、日本においては出社を前提としないフルリモート勤務の採用を行うことを発表したヌーラボに、タスクだけでなく感情でつながるチームづくりの実例を伺いました。


荒井:コロナ禍で日本企業の多くが場所と時間を問わない働き方やチームづくりに取り組んでいます。国籍も働く場所もバラバラの人たちが集まっているヌーラボでは今、どんな取り組みをしていますか。

安立:2月からテレワークにシフトしはじめ、8月には採用時の勤務地条件を廃止しました。「国内であればどこでも働けます」と公表しています。「そもそも出社を強制する意味はなかったのかな?」と感じているところです。

荒井:直接顔を合わせて働かなくても、仕事上の協働はできるということですね。

安立:プロジェクトの進捗を見える化する「Backlog(バックログ/ヌーラボの自社開発サービス)」を、開発だけでなく経理や労務のメンバーも全員で使っているので顔を合わせないと進まない業務がないんです。むしろ、「みんなの知らないところで、この2人だけで話をしていました」という状況を排除しないことには、多拠点でビジネスすることは難しいですから。

荒井:私もBacklogを利用しています。タスクの内容・履歴や進捗、現在の担当などが明確で、とても助かっています。

安立:ログが残っているため「誰かがチャットでこう言った」とか、そういうソースをもとに話ができます。「言った、言わない」がないんですよね。

荒井:マネジメント上の課題はありますか?

安立:業務で関わらない人とのコミュニケーションが発生しづらいという問題はあります。ですから、月1回は「シェアリングミーティング」を開催し、部署をまたいで情報共有しているんですよ。5月からは部署外の利害関係のない人同士をマッチングさせて、社内で「スモールトーク」と呼ばれている1on1をしています。そのほか、当社の特徴的な取り組みとしては、社長の選任で選ばれたリーダー組織「ブリッジ」があります。

荒井:どのようなチームなのでしょう。

安立:当社が採用を拡大する局面で、会社のコンテキストをどう伝承していくかが課題でした。そのため、社長のメッセージを理解して、エバンジェリストとして動ける人を集めて「ブリッジ」を作ったんです。「ブリッジ」は、社長や部長・課長などの意思決定を補助する役割もあります。評価決定権はないけれど、現場の様子をリポートしてもらっています。「ブリッジ」のメンバーはすべての部署から選出し、任期は半年です。

荒井:まさに「架け橋」ですね。「ブリッジ」は、マネジメントラインとは異なる役割なのでしょうか。

安立:基本的にはそうですね。課長と兼務しているケースもなくはないのですが「ブリッジ」は人事権もなく組織上にも現れないバーチャル・チームです。

ソーシャルディスタンスを超えてインクルージョンするために

荒井:縦、横、斜めのつながりを重視されているのですね。海外の拠点でも同じような取り組みをしているのでしょうか。

安立:海外は文化的な違いがあるので、日本の仕組みをそのままあてはめられないんですよ。

荒井:その違いに興味があります。

安立:日本はTypetalk(タイプトーク/ヌーラボの自社開発サービス)というチャットツールを使っているのですが、基本的に全員が招待されており、情報もすべてオープンです。どんな話題にも入っていけるし、そこで意見を交わすこともできます。

荒井:海外拠点では行っていないのですか?

安立:実は、海外の場合は自分の上長から指示がくることが普通だと考えているんですよね。なので、それ以外の人が、「これはこうしない?」と計画にないことを提案すると、びっくりされちゃうことがあるんです。

荒井:就労慣行や文化的規範の違いですね。ぜひ、海外拠点も含めた取り組みもご紹介ください。

安立:やはり、みんなで同じゴールを目指して、コラボレーションしていく風土を作ることですね。このコロナ禍の完全リモート勤務のなかで入社した人もいるのですが、その人たちには、既存メンバーたちのやり取りが内輪ノリに見えてしまうと思うんです。「この人たち、何を言っているか分からない……」みたいな。そこをどうつなぐかが課題ですね。例えば、有志を募ってテック・カンファレンスの企画をするなど、部署を横断して協働する仕掛けを増やしていきたいです。

荒井:日頃、業務上接点のないメンバーとチームを組むと、新しい絆が生まれますよね。私自身、物理的距離があるなかでもインクルージョンするための、意図的なチームづくりの重要性を感じています。

安立:私たちは何か1つの共通の目標をもってコラボレーションする、一緒にやり遂げるという行動が連帯感を生み出すと思っていまして。そのために毎年1回、全世界、全拠点から福岡に集まっていたんです。今年はコロナで断念しましたが。

荒井:全員で、つながりを確認し合う場ですね。

安立:「ジェネラルミーティング」という名前で、前回は月曜日から金曜日まで5営業日連続で行いました。必須出席コンテンツに加えて、自由参加のものをたくさんちりばめて、ダーツでも日本酒でも何でもいいからテーマを設定し、みんなで思い出を作りましょうと(図表2)。目的は大きく3つあります。「ゴールの共有」と「グローバル視点の強化」そして「感情交換」です。期間中は自ずと「グローバル視点」が磨かれます。みんなと英語で話すので「英会話、もう一回やり直そう」と視点を上げるきっかけになります。みんなで食事をするときも、豚肉を食べられない人もいれば、ベジタリアンの人もいる。しかも、それぞれNGのラインが微妙に異なるんですよね。


荒井:世界にさまざまな価値観・慣習があることを、肌身で体感するわけですね。

安立:そうです。うわべで理解していたダイバーシティが、急に自分事になるんですよ。

感情交換後のチャットは本人の表情と声で再生される

荒井:「ジェネラルミーティング」の目的の1つである「感情交換」とはどういう意味ですか?

安立:「感情を互いに交換できる強烈にポジティブな思い出づくり」のことです。例えば、チャットのテキストだけ見て「あの人、冷たいな」と思っていた人が、実際に会ってみると実はとてもフレンドリーな人だったとか、テキストと本人のギャップを感じた経験はありませんか?

荒井:ありますね(笑)。

安立:感情交換によってそのギャップがかなり埋まります。テキストが頭のなかで本人の声と表情で再生されるようになるんです。感情交換は当社の代表が本腰を入れてやっているのですが「afterコロナになったらまた集まって感情交換しよう」ではダメだとも言っていて。会えなくても解決できる状態を目指すべきという考え方なんです。

荒井:元に戻すのではなくて、この環境下で感情交換する方法を探すんですね。この先、どんな企画が発明されていくのか楽しみです。直近で動いている企画はありますか。

安立:1つ挙げるとしたら「言語化」ですね。例えば、新入社員のやるべきことをまとめたBacklogのWiki(マニュアルなどドキュメントを残す機能)を見れば初日から仕事に入れます。その他、会社のブログでの情報発信もそうです。でも、まだまだ言語化が足りていないと思っていて。

荒井:今まで言葉にしてこなかったものも言葉にする挑戦をされると。

安立:そうです。例えば、業務でコラボレーションするためのガイドライン。「いろいろな考え方の人を受け入れて進めようよ」というスタンスを明文化したいです。

荒井:言語化は海外のメンバーとプロジェクトを動かすときも重要ですね。終わりの時間が迫ってきてしまいました。改めてヌーラボのコラボレーションの秘訣を一言で表すとしたら何でしょう?

安立:「適切な諦め」のような気がします。「結束しなきゃいけない」とか「団結しなきゃいけない」とか思っていないんですよ。1つのことに対してみんなが賛同してくれるはずがありませんから。例えば、評価にもこれと同じことが言えると思います。リモートで評価するのは難しいとよく聞きますが、対面なら100%評価ができるというわけでもない。リモートのせいにはせず、「評価はそもそも難しいものだから」という適切な諦めが重要ですね。

荒井:顔を合わせたら完璧に評価できるというわけではないですもんね。

安立:何をするにしても完璧はないという諦めの前提がありますね。その上で「賛同しなくていいけど、許容しましょう」と繰り返し伝えています。

荒井:違いを認めて許容するということですね。私も常々チームに良い関係を生み出したいと思っているため、大変参考になりました。ありがとうございました。

【text:外山武史】

感情をつなぎ、バーチャル・チームに血を通わせる職種を問わずBacklogを用いた業務管理で統一するなど、業務推進上の規範を明確にすることでスムーズなチームづくりを実現している同社。チームの業務遂行を支える基盤づくりとして、会社の意思決定の背景や存在目的・理念を共有する場や仕掛け(ブリッジや1週間ものジェネラルミーティング)、さらに、チーム構成員個々人の背景にある文化や価値観、感情といったいわば「人間味」を理解し合う場も積極的に作り出していました。しかも、それらを頭で理解する(合理)だけでなく、体感して理解し合うプロセスを大切にしている点もユニークです。むしろこの体感的な人間関係の土台があるからこそ、日々の業務ルールも効果的・効率的に運用できているとすらいえそうです。

本事例は、バーチャル・チームになることで、職場メンバーが単なるタスク遂行マシンと化してしまうのではなく、感情や多様な価値観をもつ人間同士であることを確認し合う大切さを、示唆してくれています。

【インタビュアー:荒井理江(HRテクノロジー事業開発部)】

※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol. 60連載「可能性を拓く連載第6回」より転載・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。


PROFILE
安立 沙耶佳(あだち さやか)氏
株式会社ヌーラボ 管理部 人事労務課

大学卒業後の約5年間、大手人材サービス会社に所属。リクルーティングアドバイザーに従事した後、ITエンジニア向け新規事業を担当し、渉外・ビジネス開発を経験。2016年11月より、株式会社ヌーラボに人事として入社。東京事務所に在籍しながら、国内3拠点の採用、採用広報、制度構築、教育研修などを担当している。

バックナンバー第1回 エンジニアを奮い立たせる仕組みを作る(VOYAGE GROUP)
第2回 マネジャーの仕事をチームに委譲(サイボウズ)
第3回 “Why”から構築するデザイン組織(グッドパッチ)
第4回 マネジャーがいない会社の組織デザイン(ネットプロテクションズ)
第5回 人が増えても“全員CEO”を貫く組織設計(ゆめみ)

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