コラムCOLUMN
公開日:2023/07/14
更新日:2023/07/14

THEME 組織開発

連載・コラム可能性を拓くマネジメント発明会議 第16回 ETIC.

応援から生まれる挑戦がある

応援から生まれる挑戦がある

本連載は、創業から歴史は浅くとも、独自の組織・人材観を掲げ成長する企業や組織に取材し、彼らが「発明」してきたマネジメント手法に学ぶインタビューシリーズだ。今回は、アントレプレナーシップ(起業家精神)溢れる人材を育むことをミッションとし、長期インターンシップや社会起業家支援の事業に取り組んできたETIC.(エティック)の設立メンバーでもある山内幸治氏に、個人のアントレプレナーシップを育て、組織において生かす方法を聞いた。

 

アントレプレナーシップに欠かせない「ゼロイチ」の経験



永井:今の時代、「アントレプレナーシップが重要だ」といわれますが、どのようにして育むものなのでしょうか?

山内:まず、アントレプレナーシップがどんなものか、私の考えをお伝えしますね。自分の内発的動機から、「ゼロイチ」(0から1)を創造する力のことであると捉えています。「成し遂げたい」という自分のなかの思いを熟成させ、具体的な形に変えるプロセスまで含むものです。アントレプレナーシップを育む上で、大切なのはそのような行動を経験したことがあるかどうかだと考えています。

永井:つまり、そのような経験がない人に、会社が「アントレプレナーシップを発揮しろ」と言っても難しいと。

山内:そうですね。ただし、ゼロイチの経験といっても、学生時代に自分が言い出しっぺでサークルを立ち上げたことがあるとか、そういう素朴なことでもよいと思っています。寝ても覚めてもそのことに熱中するようなマインドや、それによって自分の可能性を解放した経験が大事です。

永井:ETIC.での活動を通して、そうした方々に出会ってこられたのですね。

山内:実際に、インターン時代にはそれほど大きな成果を見いだせなかった学生がいました。あるとき、就職した彼から突然連絡があり、企画書をもってきたのです。それがお米版のECサイト「おこめナビ」というアイディアでした。農家の置かれている状況を詳しく聞くなかで、彼のなかで問題意識が芽生え、お米の通販で農家の販売支援をしたいと考えたのでしょう。企画内容はインターン時代と比べて格段に優れていました。「自分の内発的動機から取り組むことで人はここまで変わるのだ」と痛感した出来事でしたね。

永井:当事者意識をもち、解決したいと思う気持ちの強さが大事なのですね。

山内:思いの強さは、最初からすごく強くなくても、やりながら育てていけるものだと思います。初めのきっかけは小さなものでも、一歩踏み出していくなかで、現場のリアルな声やフィードバックをもらいながら、思いが強くなっていくのではないかなと。ですからゼロイチを生み出すサイクルに早く飛び込むことが重要ですね。

アントレプレナーを育むETIC.のプロジェクト



加茂:ETIC.では、そうしたアントレプレナーシップを育むプロジェクトがあると思うのですが、どのような仕掛けをされているのでしょうか。

山内:個人のアントレプレナーシップを育て、挑戦する人たちを応援する仕掛けをしています。「右腕プログラム」の例を挙げると、思いをもったリーダーは、東日本大震災の被災地である東北など、余白が生まれると必ず出てくるものです。しかし、東北沿岸部は高齢化が進み、大学などの高等教育機関の数も限られ、若者が少ないエリアです。そのようなエリアで新しい事業を始める際、一緒に事業を進める仲間が不足するだろうと感じ、「右腕プログラム」を始めたのです。創業期や変化が激しいタイミングではスキルベースのマッチングよりも、ビジョンや実現したい思いに共感できるかどうかが重要です。右腕となる人材というと、即戦力のスキルが重視されると思われるかもしれませんが、これまでの20年間のインターンシップ事業で共感ベースのマッチングを大事にしてきた経験から、「右腕プログラム」でも同様の考えをもち続けていました。結果として、参加した右腕たちの約1割が東北で自ら起業する側に回り、循環が始まったことは非常に喜ばしいことでした。

加茂:被災地ということで通常とアプローチが異なったのでしょうか。

山内:初期は復興への強い思いが参加動機の中心でしたが、3〜4年経つと、プロジェクトへの魅力を感じて参加する人が増えました。復興への思いと自分のやりたいことを重ね合わせて参加するという意味です。被災地の方々も、自分のやりたいことをもって参加してほしいと言っていました。なぜならそれは、徐々に平時に近づいていることを意味しますし、そうでなければ続かないと感じていたからだと思います。

加茂:なるほど。被災地での活動には、最初は支援者として、続いて自分の思いをもって、というようにフェーズによって求められる関わり方が異なるのですね。「家業イノベーション・ラボ」はまた違うアプローチでアントレプレナーシップを醸成する取り組みですか。

山内:「家業イノベーション・ラボ」は、家業を革新させたい経営者や後継者を対象としたコミュニティですね。アントレプレナーシップを伸ばすために重要なのは、同じ立場や目線をもった仲間同士のつながりです。そのため、コミュニティを通じてお互いを育てる感覚を大切にしています。つまり、特定の事業だけを1対1で育てるのではなく、アントレプレナーたちが切磋琢磨できる環境を用意しています。これはさまざまなプログラムや仕掛けにも通じる基本的な考え方ですね。

永井:企業や団体の方が副業やプロボノとして参加し、社会課題の解決に取り組む「Beyonders」というプロジェクトも、アントレプレナーシップをコミュニティのなかで育てるという考え方でしょうか。

山内:これはまた少し事情が異なりますが、アントレプレナーシップを重視してきたのは同じです。創業経営者であろうとなかろうと、自分の意思で前進し、挑戦を続けるような社会をどのように築くか、そしてそういった人々を増やす方法に焦点を合わせています。この視点から、「企業や自治体、行政がどのようにベンチャー化を進めるか」を検討していました。大手企業には多くの優秀な方々がいらっしゃるため、彼らの可能性がいかに開花し、解放される環境を作るかという問題意識をもっています。そのため、大手企業とコンソーシアムを組み、社員がまだ生煮えな構想にゼロイチから関わる仕掛けづくりを進めているところです。

永井:先ほどおっしゃっていたとおり、やはりアントレプレナーシップを育てるためには、ゼロイチを生み出すサイクルに身を投じる機会や、体験を通じて「自分がなぜそれをやりたいのか」という思いを育てることが大事になってくるのですね。

山内:そうですね。加えて、何よりも周囲の人たちが挑戦しようとする人に対して共感、応援しながら、励ましていくことが必要だと考えています。

組織の枠組みから挑戦者を解放せよ



加茂:会社組織のなかでアントレプレナーシップを育てていくためのポイントはありますか。

山内:組織内でアントレプレナーシップを開花させる方法について考える際、「組織のなかでの新規事業やアントレプレナー育成に対して、真逆のアプローチがとられているのではないか」という問題意識があります。私たちは、枠を外し、個人を解放することで、組織や社会全体がクリエイティブになると考えています。しかし、組織内で取り組む際には、「会社のために」という目的や会社の枠組みがどうしても存在するものです。これがイノベーションの足かせとなってしまう。会社がイノベーションを生み出すためにアントレプレナーシップを育てようとするパラダイムは、目的と異なる方向に導くリスクがあるのです。そうではなく、会社が社員のアントレプレナーシップを解放するための器となり、相性が良ければその会社のなかで事業を進めるというパラダイムが適切だと思います。

永井:障害となる枠組みとは、例えばどんなものでしょうか。

山内:組織内にはアントレプレナーシップを阻害する構造が多く存在します。例えば、社内で新しい事業の提案を募り、コンペを開催した場合、その結果は会社の枠組みからの評価が主となります。自社の事業ドメインとのシナジーや何年でどれだけの利益を生み出せるかなどの視点から評価されます。せっかく思いを提案しても、その評価軸を基に評価・否定され、やりたいという思いが削がれていきます。しかし、私たちのアプローチは真逆で、個人の思いに寄り添い、応援し、励ますことを重視しています。評価されることから入るパラダイムとはまったく違うのです。また、私の友人のアントレプレナーに大手企業の新規事業部門でインターンをしたときの話を聞くと、「9割の時間が社内説明に使われており、新しい事業が生まれるわけがない」とこぼしていました。やはり組織内の評価が枠になってしまい、アントレプレナーシップを育てる上で阻害要因となっています。いかにエネルギーを外に、顧客との対話に向けることができるか。そのために、パラダイムを変える必要がありますね。

加茂:パラダイムシフトに成功して、うまく機能している企業の事例もあるのでしょうか。

山内:ロート製薬は素晴らしいですね。山田邦雄会長は、従業員は会社の所有物ではなく、会社が従業員一人ひとりのウェルビーイングや幸せ、成長環境を提供することが重要だと語っていました。ロート製薬では、マルチジョブを推進する社内ベンチャー制度「明日ニハ」プロジェクトがあり、会社のドメインとは関係ない取り組みも対象となります。例えば、保護猫を使った猫カフェ事業を立ち上げたいと考えている女性従業員がいました。評価プロセスがあるものの、最終的には社内クラウドファンディングのような仕組みで実現されました。社内通貨にあたる「健康ポイント」を従業員がドネーションすることができ、それに対して会社が10倍の出資金を出すという仕組みです。つまり、上層部の評価ではなく「従業員の共感があればよし」とされています。会社のドメインは関係なく、ウェルビーイングが中心にあるのです。このようなパラダイムで取り組むロート製薬の事例は示唆に富んでおり、私たちの考え方と通ずる部分もありますね。

ETIC.を進化させた試行錯誤の組織変革



加茂:ETIC.自身も、アントレプレナーシップを体現する組織を目指して試行錯誤されてきたと聞きました。2021年に自律分散型へと組織改編し、代表であった宮城治男氏が退任されています。

山内:そうですね。ETIC.は、アントレプレナーシップを体現する組織でありたいと常に考えています。2013年頃には、アメーバ型の組織にしようという議論がありましたが、理事会から足腰を強化するよう助言を受け、事業部制に舵を切りました。そのときも、個々がアントレプレナーシップを発揮して働くことを重視していましたが、事業部制では縦の構造が生まれ、中途半端な状態になりやすいのですね。「やりたい」という思いに対しては、事業部の枠組みを超えて応援するものの、階層があると「誰かの指示で動いている」という感情を抱くメンバーも出てきます。確かに事業部制でマネジャーや事業部が成長しました。一方で、組織の硬直化が進み、誰かの意見を求めなければ何もできない組織になるのはアントレプレナーシップを発揮する組織のパラダイムとは真逆ですよね。予定調和の未来には魅力を感じないため、何か変えられないだろうかという問題意識で議論が始まりました。ただし、この問題に対する見解は、語る人によって異なります。今述べたのは私の視点での風景にすぎません。

加茂:事業が強化され、マネジメント能力をもつ人材が育つ一方で、自分の発案や責任で行動している実感をもちにくい風土が生まれてしまったということですか。

山内:端的にいえばそうですね。本来、個々の人が自由に行動し、自分の意思で前進できる状況が望ましいです。ちょうどティール組織に関する本が登場し、それを参考に勉強会などを重ねるなかで、代表の宮城は創業経営者である自分の存在が、皆がアントレプレナーシップを発揮する上での阻害要因になると考えました。彼は本当にETIC.の活動を推進したかったはずですが、あえて理想の姿のために、身を引く決断をしたのです。

加茂:それでは、その後の意思決定プロセスやルートは大きく変化したということでしょうか。

山内:基本的には個々の意思で仕事ができる構造に変化しています。説明責任は求められますし、関連する人たちに助言プロセスを経る必要がありますが、助言プロセスを経た後の実行は個々の決定に委ねられます。この新しい構造への期待感やどの程度活用したいかには、現段階でメンバーの間でも個人差があるようです。

永井:非常に効果的なプロセスだと思います。以前は自動的に進んでいたことに対して、一つひとつ対話を重ねることで、個人のスキルが向上しそうです。一方で、どのように資源を集中的に投入し、成果を上げていくのかという点については疑問があります。事業部制に匹敵するような、事業を育てる部分も残っているのでしょうか。

山内:事業部長のようなポジションは廃止されていますが、事業部は今も存在しています。個々の小さな取り組みだけでは、多くのプロジェクトが乱立し、混乱を招く可能性もあります。やはり、チームでまとまって取り組むことで、より大きなインパクトを生み出すことができます。事業部的なチームが複数のプロジェクトを統合し、新たなチームが誕生することもあります。また、事業部間やプロジェクト間のコミュニケーションや連携については、以前は「事業部長にアプローチしなければ」という状況でしたが、現在はより現場レベルでのやり取りが容易になり、有機的に進めやすくなっているように感じますね。

大切なのは「安心感」 応援から挑戦が生まれる



加茂:最後に、アントレプレナーシップを醸成していきたい企業側に対して、応援のムーブメントをどう作るかアドバイスをいただけますか?

山内:「and Beyond カンパニー」というプロジェクトがまさにその役割を担っています。これは、ロート製薬をはじめとする多くの企業とコンソーシアムを組んで取り組んでいるプロジェクトで、「バーチャルカンパニー」と呼ばれる組織体です。実際の会社ではなく、誰かの意思を応援するために、参加企業がリソースを共有し合い、社内の制約を受けずに外で自由に活動を展開できる、まるで江戸時代の出島のような活動を目指しています。毎月開催されているイベント「Beyondミーティング」は、このプロジェクトの中心となる場です。カヤックさんたちが鎌倉で行っているカマコン(鎌倉を拠点とする企業や個人がITで地域を支援するため、立ち上げた団体)の定例会を参考に、ブレスト手法や考え方を尊敬の念をもって取り入れました。評価ではなく、応援に徹することで、応援し合う文化を社内外や地域に広げることを目的としています。応援から始めるコミュニケーションスタイルを体感することで、参加者が安心感を得られ、積極的に手を挙げることができるのです。

加茂:安心感が挑戦を促すのですね。 

山内:挑戦する人に対して応援するという考え方が一般的ですが、実際には応援を受けることで人々が手を挙げることができると気づきました。だから、参加企業の方から「自社で挑戦するのは難しいので『and Beyond カンパニー』で取り組みたい」と相談を受けることもあるんです。「and Beyond カンパニー」を通じて、応援から始まる挑戦を広めていきたいですね。

永井:山内さん、本日は興味深いお話をいただき、ありがとうございました!



【text:外山 武史 photo:平山 諭】





マネジメント発明を考えるのタイトル画像

企業に創発と変革を生むアントレプレナーシップ開発


アントレプレナーシップと企業変革をゼロイチ経験で育む[永井]

個人のアントレプレナーシップはゼロイチ経験やリーダー経験を通じて育まれるという点が印象的でした。企業内アントレプレナー育成においても、社員を小さなゼロイチ経験に早期に飛び込ませることが有効といえるでしょう。

新規事業や新たな取り組みにおいては、これまでの企業文化や評価の前提を取り払うことがカギになりそうです。アイディアに評価を下すのではなく、共に磨いていくプロセスが有効と考えられます。一方で、自分たちで枠を外す難しさを乗り越えるために、「and Beyond カンパニー」のような外部セクターとの協働も1つの選択肢になり得ると感じました。


創発は応援があるからこそ生まれてくる[加茂]

経営や人事の方から、「従業員から提案が出てこない、提案があれば応援・支援するのだが……」という声を聞きます。しかし、ETIC.の事例は、提案→応援という考え方を逆転し、応援→提案へと発想を転換する有効性を示しています。

応援の文化を作り、提案や創発を育むために、経営者や人事ができることは多くあります。(1)対話の機会を作り、個人の思いに共感してくれる人が必ずいるという認知を形成すること、(2)従業員各人の問題意識や思いを深めるために社会の現実や課題に触れる機会を提供すること、(3)同じ思いをもった人同士をつなげること、この3点が重要となるでしょう。



【インタビュアー:永井 うらん(コンサルティング部)[右]/加茂 俊究(コンサルティング部)[左]】

※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.70連載「可能性を拓くマネジメント発明会議 連載第16回」より転載・一部修正したものです。

RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。


PROFILE

山内 幸治(やまうち こうじ)氏
特定非営利活動法人ETIC.
シニア・コーディネーター 兼 共同創設者

1997年大学在学中に参画し、インターンシップ事業化に携わる。以降、ソーシャルアントレプレナー育成や地方自治体との連携に従事。立教大学大学院非常勤講師、認定NPO法人カタリバ理事、特定非営利活動法人JANIC理事、環境省アドバイザーなどを務める。

 
バックナンバー
第11回 希少な優秀人材を副業で巻き込む(カウシェ)
第12回 行動原理の異なる、エンジニア組織と事業を「乳化」させる(READYFOR)
第13回 VR(バーチャル・リアリティ)オフィスは人類の叡智を解き放つ鍵(メタリアル)
第14回 組織の自律分散と中央集権を使い分ける(Gaudiy)
第15回 内発的動機は報酬に勝る(サービスグラント)

応援から生まれる挑戦がある
アントレプレナーシップに欠かせない「ゼロイチ」の経験
アントレプレナーを育むETIC.のプロジェクト
組織の枠組みから挑戦者を解放せよ
ETIC.を進化させた試行錯誤の組織変革
大切なのは「安心感」 応援から挑戦が生まれる
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