コラムCOLUMN
公開日:2023/04/24
更新日:2023/04/24

THEME 組織開発

連載・コラム可能性を拓くマネジメント発明会議 第15回 サービスグラント

内発的動機は報酬に勝る

内発的動機は報酬に勝る

本連載は、創業から歴史が浅いながらも大きな成長を遂げる企業に取材し、彼らが、現代の人と事業に最適となるように「発明」してきたマネジメント手法に学ぶインタビューシリーズだ。今回は、仕事を通じて培ったスキルで非営利組織の支援をする「プロボノ」を日本に普及させてきたサービスグラントに取材し、多様な人材が互いのスキルを活かし合い短期間に成果を出すプロジェクトについて、嵯峨生馬氏(写真中央)、篠崎敦司氏(写真右)、大森純子氏(写真左)に聞いた。多様なチームで成果を生み出すコツを、ボランティアのスキルと内発性を活かす発明に学ぶ。

 

プロジェクトの成果イメージをしっかり共有し、期待する役割を明確にする



加藤:今、多くの企業で、組織横断型のプロジェクトや副業・兼業の広がりを受けて、組織運営が複雑化しています。多様なバックグラウンドをもつ人たちがチームを結成し、NPOを支援するサービスグラントの取り組みは、参考になると考えました。そもそも、嵯峨さんが「プロボノ」(社会的・公共的な目的のために、職業上のスキルや専門知識を活かして取り組むボランティア活動)を日本に広めようと考えたきっかけは何でしたか?

嵯峨:私は元々シンクタンクに勤めていました。2004年に米国に渡って、さまざまな業界出身のビジネスパーソンや、クリエーターが初対面でチームを結成し、プロジェクトを動かして成果物を生み出すプロボノという仕組みを見て衝撃を受けたのです。帰国後、2005年にサービスグラントを立ち上げ、現在までプロボノワーカーのスキルや専門知識を活かしたNPOの支援活動を推進してきました。同席している2人は、事務局でプロジェクトマネジメントの専門性を発揮してくれているんですよ。

篠崎:私は外資系IT企業で定年を迎える時期に「全く違うフィールドで力を発揮したい」という思いからサービスグラントに入りました。

大森:前職では外資系物流企業でプロジェクトマネジメントをしていました。「お母さんの仕事は何?」と子どもに聞かれたときに、胸を張って答えられる自分でありたいし、「自分の知識や経験をソーシャルな分野で活かしたい」と思い、プロボノワーカーに登録したのが越境のきっかけでした。

加藤:お二人のようなプロジェクトのプロが関わって運営されているのですね。支援内容やプロジェクトはどんなふうに決めていますか?

嵯峨:支援内容は「団体にとって重要度が高い課題」であり、「プロボノワーカーが入ることで効果的な解決が見込めるもの」に特化しています。プロボノワーカーをはじめ、関わる人々のモチベーションや成果物の質に大きく影響するからです。支援内容の大枠が決まったら、各プロジェクトのアカウントディレクター(以下、AD)が「新プロジェクト発表会」を通じて「こんな社会課題の解決につながります」とか「こんな人に集まってほしいです」などとプレゼンし、プロジェクトマネジャー(以下、PM)をはじめとしたメンバーの立候補を募ります。そしてチームを結成し、スタートするのが基本的な流れです。



<図表1>プロボノプロジェクトの標準的なプロセス

事務局が進行ガイドを提供しつつ募集・共有・発表の場づくりをし、ボランティアであるプロボノワーカー自身の運営で多くのプロセスが進む。


プロボノプロジェクトの標準的なプロセスの図



加藤:参加に際して、プロボノワーカーの自主性・主体性を重視するのですね。具体的なプロジェクトの内容としてはどのようなものがありますか。

嵯峨:プロボノでお手伝いできるメニューを用意して支援先に公開しています。「情報発信」「ファンドレイジング」「業務改善支援」などさまざまです。依頼いただいた内容と、実際にお手伝いできる内容が一致しているとは限らないので、プロジェクトは課題を整理するためのヒアリングから始まります。そうして支援内容を具体化していく。プロボノワーカーに対して、プロジェクトの成果イメージをしっかり共有し、そのなかでどんな役割を期待するのか明確にすることも大事です。またボランティアだからこそ、依頼側もプロボノワーカー側も双方が「やってよかった」と思える気持ちの良い終わり方にしたい。われわれは「大人の社会科見学」と表現していますが、受け身すぎるのも、前のめりすぎるのもよくないんですね。そのため、プロジェクト中は、支援先団体との確認とフィードバックの機会を複数回設けることを推奨しています。

加藤:支援内容が具体化された後も、サポートをされているのですね。

大森:中間交流会では近いフェーズにある複数のチームが集まります。悩みを共有することで「悩んでいたのはウチだけじゃないんだ」と分かる。プロジェクトをリードするADやPM同士の工夫の共有もとても大事ですね。

篠崎:あくまで事務局は、「場を作る」ことに徹して見守ります。それでも、みなさんは社会人としての経験を活かして、自ら課題に気づき、解決へと歩み出せるんですよ。

会社の外に出たことで自分の潜在能力に気づく



加茂:プロジェクトを進めるにあたり、ADとPMの役割がとても大きいと思うのですが、どのような方々ですか?

嵯峨:プロジェクト経験が少なくとも一度あり、なおかつプロジェクトマネジメントの経験がある人がほとんどですね。事務局がフォローすることもありますが、基本的にはADとPMを中心とするプロボノワーカーのみなさんにプロジェクトを委ねています。

加茂:なるほど。各自がやりたいことを主体的にやれる仕組みになっているところがすごいと思います。

嵯峨:正直に話すと、活動規模が大きくなったからこそ可能になった部分もあります。支援先の数が増えてくると、どの人が課題に合っているのか一人ひとり細かく見て調整することが難しくなる。そういう意味で、メンバーの決定を立候補制に切り替えたことは合理的判断でもあったのです。

加藤:プロボノワーカーのみなさんは、プロジェクトを通じて、どんなことを得られるのでしょうか。

篠崎:例えば、会社でやったことがないことにトライできます。会社のしがらみがないから、新しい挑戦に踏み出す機会になるんですよ。また、プロジェクト完遂後に「こんなに褒められたことがなかった」という感想を語る人も少なくないです。会社では当たり前のスキルが、プロボノで重宝されることも多いですから。

大森:共通言語のない越境体験だからこそ、自分を再認識することにつながります。個人的には、プロボノワーカーとして登録すること自体も、自己認識を深めるきっかけになりました。登録時には、たくさんのスキル情報を入力します。社名と業務歴だけでなく、「どんな範囲でどんな内容のプロジェクトを回しましたか」という感じで、かなり具体的な内容を求められ、入力にもわりと時間がかかる。さらに事務局から「この経験をもう少し細かく書けませんか」と言われて、人数や規模、成果などを書き加えるなかでスキルや経験を棚卸しできる。私自身、自分を客観視する良い機会になりました。そして「スキルを活かせる機会がありそう」と思えるから高いモチベーションで立候補ができる。これは私だけではなく、多くのプロボノワーカーも感じているところだと思います。

加茂:普通に仕事をしていたら、共通言語を意識することも、自己認識を再構築する機会も少ないですものね。

報酬に勝る仕事の魅力をもっと伝えていくべき



加藤:プロボノのプロジェクト運営は企業にも活かせると思いますか。

大森:私は組織が本人の「コミットしたい」という気持ちをどれだけ引き出した上でアサインメントをするかが大事だと思っています。「受けたくないけど仕事だからやる」とか「報酬がもらえるからやる」というのはモチベーションにつながりにくい。その仕事自体にどんな面白みがあるのか、その経験を経てどんな未来を描けるのかを伝える仕組みがあると、手を挙げる人が増えると思います。心理的安全性も大事なので、挑戦者をサポートする役割も置いておきたいですね。

篠崎:アサインメントに応えて、自律と協働を主体的に進められる社員を育てる必要もあるわけですが、プロボノがその学習機会となります。それが回り回って会社が潤うことにつながるのですが、人事部や企業のマネジメントは、そのことに気づいていないかもしれない。プロボノを組織活性化に役立てる視点をもってほしいですね。

嵯峨:私も同感で、プロボノは社員の自律やリーダーシップの育成に役立ちます。今はリーダーではない人が、共通言語がない世界でプロジェクトを引っ張る経験は、大きな成功体験になるはずです。また、プロボノは座組みが定まっていないなかでコラボレーションをしたり、クリエイティビティを発揮できる人材を可視化したりする機会でもある。先行きが見えないVUCA時代に重宝される人が、プロボノを通じて育つわけです。ちなみに、プロボノ参加者にアンケートをしたところ、そのうち14%が会社に帰ってから新規事業提案をしたそうなんですよ。つまり、何かしらのイノベーションを起こそうとしている。新しい風を吹き込みたい会社にこそ着目してほしいですね。

加茂:「プロジェクトそのものの面白みが内発的動機につながる仕組みづくり」や「新しいことにトライする機会を作ること」は、あらゆる組織に通じる話だと思います。

加藤:本当の意味で人を動かすのは報酬ではないのですね。今日は示唆に富むお話をありがとうございました!



【text:外山 武史 photo:平山 諭】





マネジメント発明を考えるのタイトル画像

自己決定とガイドのバランスで内発性と成果創出を両立


個々人の内発性を起点にプロジェクトを設計・推進する[加藤]

サービスグラント様のお話を伺うなかで、特に個人の内発性を起点にプロジェクトの設計・推進のサポートをされていることが印象的でした。プロジェクトの立ち上げ時に、そのプロジェクトがメンバーにとって魅力的な仕事かどうかを検討することや、メンバーからの立候補に基づいてプロジェクトアサインを決定することなどは、企業でも取り入れられる工夫のように思われます。

また、スキルや強み(CAN)の棚卸しをすることで本人の自信と目標を明確にする関わりは、プロジェクト設計・推進時に個人の内発性を引き出すために効果的といえるでしょう。


スコープとプロセスで成果につながるガイドをする[加茂]

一方で、個人の内発性に依存するのみでは、多様なメンバーが集まるプロジェクトで成果を創出することは簡単ではありません。個人の内発性を成果につなげられるようプロジェクト全体を意図してデザインし、ガイドすることも必要です。効果的な解決のためにスコープを設計することや、メンバー相互に相談し合える場を提供することなどは内発性を育みつつ成果につなげる工夫だと考えます。

ガイドする部分と内発性に委ねる部分の双方をうまく使い分けることは、副業・兼業なども含め多様な人材を活かす組織運営においても参考になるのではないでしょうか。



【インタビュアー:加茂 俊究(コンサルティング部)[左]/加藤 佑介(コンサルティング部)[右]】

※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.69連載「可能性を拓くマネジメント発明会議 連載第15回」より転載・一部修正したものです。

RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。


PROFILE

嵯峨 生馬(さが いくま)氏
認定NPO法人 サービスグラント
代表理事

東京大学教養学部卒。2005年サービスグラントの活動を開始し、2009年にNPO法人化、代表理事に就任。ソーシャルセクターのニーズに応えるプロボノプログラムの企画・開発をはじめ、企業・行政・財団などとの協働を通じた新規性の高いプロジェクトの創出・展開に数多く携わる。

 
バックナンバー第10回 ピースなチームは一日にして成らず(ヤッホーブルーイング)
第11回 希少な優秀人材を副業で巻き込む(カウシェ)
第12回 行動原理の異なる、エンジニア組織と事業を「乳化」させる(READYFOR)
第13回 VR(バーチャル・リアリティ)オフィスは人類の叡智を解き放つ鍵(メタリアル)
第14回 組織の自律分散と中央集権を使い分ける(Gaudiy)

おすすめダウンロードレポート

関連するテーマ

関連する課題