コラムCOLUMN
公開日:2023/01/16
更新日:2023/01/16

THEME 組織開発

連載・コラム可能性を拓くマネジメント発明会議 第14回 Gaudiy

組織の自律分散と中央集権を使い分ける

組織の自律分散と中央集権を使い分ける

本連載は、創業から歴史が浅いながらも大きな成長を遂げる企業に取材し、彼らが、現代の人と事業に最適となるように「発明」してきたマネジメント手法に学ぶインタビューシリーズだ。今回は、ファンプラットフォーム「Gaudiy Fanlink」を展開するWeb3企業であるGaudiyの藤原良祐氏に聞く。同社では、話題のDAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)の思想で社内組織を構築するために工夫を重ねている。個人と組織に自律を促す取り組みを聞いた。

自律分散でもカルチャーを希薄化させない取り組みが「Protocol」



加藤:Gaudiyはまさに今、自社に最適な自律分散型の組織を構築していると聞きました。今日は旗振り役の藤原さんから、組織人事に関する試みについて伺いたいと思っています。

藤原:実は、私自身は一度も人事の経験がないんです。前職のシンクタンクでDX関連のコンサルティングを経験したのち2022年1月にGaudiyにジョインしました。事業開発とデータアナリストとして入りましたが、「Gaudiyの組織構造や、どんなインセンティブ体系で動機付けすれば組織がうまく回るのか考えてほしい」と代表の石川に依頼され、組織設計にも深く関わっています。当社はWeb3企業でバリューにもDAOを掲げており、もともと自律分散的なマインドがありました。今年1月に入社した私は26人目の社員でしたが、今は40人を超えています。ちなみに、社名のGaudiyは、サグラダ・ファミリアで知られるアントニ・ガウディとDo It Yourselfを合わせた造語です。サグラダ・ファミリアはガウディ没後も自律分散的に造られ続けていますよね。

加藤:素敵な社名ですね。組織が拡大するなかで、どのような自律分散型の取り組みをされていますか。

藤原:自律分散型であり続けつつ、カルチャーの希薄化を防ぐため「GaudiyProtocol」という取り組みを始めました。Gaudiyらしい合意形成・意思決定の仕方が、「トップの頭のなかにしかない」とか、「古参の10人の頭のなかにしかない」という状態を防ぎたかったんです。新しいメンバーに自分たちの決め方を押し付けたくないが、“らしさ”を捨てることで「この会社は変わっちゃったよね」と初期メンバーが抜けることも避けたかった。そこで、Gaudiyらしい決め方を明文化し、「Protocol」という仕組みで運用しています。

加茂:バリュードリブンの企業でも、抽象的なバリューワードのみで判断・運営していることが多いと思うのですが、あえて「Protocol」で明文化しているのはどうしてですか?

藤原:例えばHTTPのProtocolに従えば、どんなドキュメントもブラウザで読むことができますよね。それと同じで、Protocolとして明文化することにより「人のバイアスがかかる意思決定を極力廃したい」と考えました。

加藤:Protocolの中身はどのように決めるのですか?

藤原:「Protocol Issue Board」(図表1)を作成して、コーポレート以外のメンバーも含め、誰でもカルチャーや組織制度を作れるようにしています。



<図表1>GaudiyのProtocol Issue Board


GaudiyのProtocol Issue Board画像


同社の意志決定基準が明文化された「Protocol」の変更を誰でも起案できる。どのような課題解決のための起案かを書く欄がある。


加藤:「急に意見を出せと言われても……」という反応もありそうですが。

藤原:むしろ始めた瞬間から起案が多く、われわれがアタフタしました(笑)。ただ、事務局が介在しない自律分散型にこだわって、誰でも要件を満たせばIssueをあげられる手続きにこだわった結果、手続きが煩雑化し始め起案が停滞することに……。それを反省し、事務局がサポートに入り、提案しやすい仕組みに改良しました。今は入社2、3週間の社員からもIssueがあがります。

加藤:どんなIssueがあがりますか?

藤原:Slackの命名規則のような細かなものから、水曜日は丸ごと中長期の“探索”に充てる「EMPOWER-DAY」など、ハード、ソフト、デザイン、プロダクト、ビジネス、すべてのファンクションに関するものがあがります。特徴的なものとして、カルチャーフィットの課題を解決する「お試し入社」があります。メンバー全員から「この人と働きたい」とジャッジされることを入社条件としています。全員で本気のマッチングをしており、石川も「100人までは続けたいよね」と話しています。

加藤:入社する人が「全員から承認されている」という心理的安全性の高さも、自律分散の組織運営を支えているのですね。

加茂:一方で、採択されないIssueはどんなものなのでしょうか。

藤原:課題解決につながらないものは採択されません。「Protocol Issue Board」の申請書の一番最初に「誰のどんな課題を解決するものか」を書く欄があります。Protocolに基づきGaudiyらしい課題解決になっているかどうか、申請書を「極力AIのような、バイアスのない目」で見て、1件1件に対して、事務局から助言コメントをつけて返しており、採択されなかったとしても次につなげられるようにしています。

多数決による合意形成は致命的な欠陥がある



加藤:DAO的な運営をする上で、特に意識していることはありますか?

藤原:組織の制度やカルチャーに関して、「自分は人事じゃないから作れない」というマインドになりがちだと思うんですよね。私が事務局として活動を進めるにあたっては、「いつでも誰でも、見て、触れて、作り替えられる」と感じてもらえることを大事にしています。そのため、デリケートな情報以外すべて開示し、議事録の類は原則公開、個人宛のDMは原則禁止です。性善説に基づいているので、給与なども公開する可能性があります。また、Issueの起案は2人以上でと義務付けているのですが、それも気軽なコラボレーションで起案の質を高める工夫です。Gaudiyでは「職種や肩書は目安」です。そのため「ちょっとコラボしませんか?」とカジュアルにコラボレーションが展開されています。

加藤:オープンネスとコラボレーションを徹底しているのですね。GaudiyのDAO的なエッセンスは他社でも取り入れられると思いますか?

藤原:中央集権と自律分散のバランスは、ゼロから始めているわれわれですら悩んでいる問題です。すでに良い意味でのヒエラルキーがある会社は、かなり慎重に考えないとできないかもしれません。代表の石川は、「『ONEPIECE』のシナリオをファン投票で決めたら、つまらない漫画になる」と言っています。これはそのとおりだと思っていて。われわれが自律分散を大事にする半面、大事なことをあえて多数決で決めないのはそこに根ざしています。「熱量のあるリーダーが決めたことは、多数決よりもよほど正しいんじゃないか」という信念を、実はもっているんですよ。GaudiyはWeb3企業といわれていますが、社内ではWeb2.5と表現します。中央集権と自律分散のバランスを常に見極めていますね。

加藤:その見極めは難しそうですね。

藤原:個人的には「時期」と「テーマ」がポイントだと思います。Web3のプロジェクトも最初は中央集権的にやらないと骨格ができません。熱量のある、ある種カリスマ的な人も含め、リソースを割いてコアをガッと作りきる。ビットコインも同じだったと思うんですが、その後の運用は自律分散的に回っていますよね。

加藤:テーマはどう考えていますか。

藤原:例えば今、私がコミットしているのは、バリューを言語化するプロジェクトです。これは自律分散的に作りきるものではないなと。バリューの言語化はすべてのProtocolに影響する問題です。抽象度が高く、影響範囲が大きいものは中央集権性があっていいと思います。

加茂:人事や経営の役割、立ち位置についてはどう考えていますか。

藤原:人事に関しては、ある種、全員がこのProtocolの一部を担うイメージかなと。いわゆる人事のチームも存在しますが、その隣に全員が混然一体となったDAO的な仕組みがあるんです。人事はその領域に詳しく、最も熱量があるので、基本的には人事のProtocolは正しいと思っています。一方で、現場で起きていることと矛盾が出てきた場合、人事ではない人が「それはちょっと違うんじゃないか」と待ったをかけられるようにしたいなと。当社では「ジャンケンの関係」と言っていますが、ずっとグーが勝つのではなく、パーが勝つこともある関係性が理想ですね。

加茂:それは経営も同じでしょうか。

藤原:基本的には同じですね。代表の石川が一番熱量をもっているし、一番見えている領域が広いのは確かなので、彼の経営判断を全員がリスペクトすると思います。一方で石川に対して異を唱えるメンバーもいる。そこにはジャンケンの関係があり、メンバーが正しいと感じたら、石川は柔軟な人間なので修正します。うまくDAOの牽制機能が働いているのです。

加藤:まさにGaudiyらしさを感じるお話でした。今後、組織が拡大するなかで、「ここだけは譲れない」と思うことはありますか。

藤原:人数が増えると「Gaudiy っぽい」という目線での採用を問い直す必要が出てきます。40人の組織と500人の組織では活躍できる人が違います。Gaudiyとして譲れない基準を明示しつつ、反対に「なんとなくGaudiy っぽい」という思い込みを排除するような基準をProtocolで明示したいですね。

加藤:Protocolの運用自体が、今後の鍵なのですね。藤原さん、今日は刺激的なお話をありがとうございました。



【text:外山 武史 photo:平山 諭】





マネジメント発明を考えるのタイトル画像

参加型のルールとマネジメントで自律を促す


加藤:Gaudiyは「自律分散」の思想が社名の由来であり、事業から組織マネジメントまで一貫していました。昨今、社員に「自律」を期待する企業が多くあり、示唆を見出したいです。象徴的な仕組みであったProtocolは組織にルールを課すものですが、自律を阻害し大企業病の象徴となってきたルールとは大きく異なり、むしろ自律を促進していました。

加茂:いつでも・誰でも・どのルールでもその制定・改定に参画できるようにすることは、ルールを自律の核にした発明といえますね。

加藤:また、自律分散の意義や魅力が語られ、同時に個人の発言や意思決定を後押しする風土や信頼関係が醸成されていることも重要そうですね。

加茂:「自律」を制度・仕組みとして導入する際には、個人の自律分散への共感や覚悟も重要になりますね。

加藤:Gaudiyでは、お試し入社で自律に共感する人を採用するだけでなく、一人ひとりが主体者として貢献したいと思えるようにマネジメントが関わることも印象的でした。

加茂:Protocol改定によって解決したい課題を明確にさせる、複数人での起案を義務付けるなど仕組み上の工夫に加え、事務局の声がけや丁寧なフィードバックなどの対話的介入の工夫も見られました。

加藤:Gaudiyで意識されていたのは、熱量のあるリーダーが枠組みを作り、その後は誰もがその推進や改善に主体者として参加するというバランスの重要さであり、すべてを自律に任せる必要はないということが発明の肝であったといえますね。



【インタビュアー:加茂 俊究(コンサルティング部)[左]/加藤 佑介(コンサルティング部)[右]】

※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.68連載「可能性を拓くマネジメント発明会議 連載第14回」より転載・一部修正したものです。

RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。


PROFILE

藤原 良祐(ふじわら りょうすけ)氏
株式会社Gaudiy
Business Development/Data Analyst

東京大学大学院修了後、2015年に経営コンサルティングファームに入社し、主にテック領域の戦略立案・業務改革に従事。その後、2022年1月にGaudiyにジョインし、自社プロダクトの経済設計や、 Protocol Issue Boardの運用を担うDAO的な組織開発などを幅広く担当している。

 
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第2回 マネジャーの仕事をチームに委譲(サイボウズ)
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第4回 マネジャーがいない会社の組織デザイン(ネットプロテクションズ)
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