コラムCOLUMN

THEME 組織開発

連載・コラム可能性を拓くマネジメント発明会議 第11回 カウシェ

希少な優秀人材を副業で巻き込む

希少な優秀人材を副業で巻き込む

経営学や心理学において古典とされるマネジメント理論は、今日の事業環境においても有効なのだろうか。本連載は、創業から歴史が浅いながらも大きな成長を遂げる企業に、シリーズでインタビューしていく。それら「若い」企業は、現代の人と事業に最適なマネジメント理論を生み出すポテンシャルを秘める。古典の理論を温めつつ、これから急成長に向かう企業から第2、第3の創業を志す大企業まで広く参考となるような、最新知見を「発明」していきたい。
今回は、副業者中心の組織づくりを通して、多様な人材を組織に惹きつけるマネジメントの発明を行った株式会社カウシェの代表取締役 CEO 門奈剣平氏にお話を伺った。

今回のテーマ「正統的周辺参加」



「正統的周辺参加」とは、ある実践共同体(特定のテーマについて共通の関心があり、相互交流をもって深める人々の集団)において、新しく加わった人が、古くからいるメンバーから学びながら徐々に熟達していくことで、その集団の中心的役割を担っていくプロセスのことを指します。Lave & Wengerによって1991年に提唱されました。

もともとは、徒弟制において古参の熟達者から新参者へと技が伝承されていく様子を観察した研究が土台になっています。最初は、集団のなかで見習いや手伝いのような「周辺的」な仕事をしながら、より重要な役割を担う古参の仕事の様子を観察したり、教えを受けたりしながら学習していきます。なお、ここで言う「学習」とは、特定技能に限らず、文化適応、関係性、アイデンティティを含む全人的な変化も含まれます。「周辺的」な位置から徐々に「中心的」な役割を果たすようになっていくので「正統的周辺参加」と呼ばれます。

<図表1>正統的周辺参加

<図表1>正統的周辺参加


この学習のプロセスは、古参者が現場でリアルな実践を見せ、また新参者がそれを意図的に学ぼうとすることで進んでいくとされてきました。その意味で、ある程度多くの時間を使ってその共同体の古参の人たちと触れ合って学ばなければならず、古参メンバーとの接点が少ないと、学習に制約が出てしまうと考えられてきました。

その原則は現代においても変わらないのでしょうか。つまり、古参メンバーとの関わりに多くの時間を割けないと、その共同体のなかではいつまでも中心的役割を担えないのでしょうか。今日では、新参は古参から学ぶだけでなく外部から新しい知や視点を持ち込む役割を求められています。昨今は、共同体に副業や時短で所属することも一般的になってきています。そうした環境変化も踏まえた、より幸せな協働の形の発明に向けて、今回は、新しい正統的周辺参加の可能性を考えてみたいと思います。

「正社員と副業者の二刀流」は創業時から



荒井:門奈さんは2020年に創業されたのですね。

門奈:まさにコロナ禍で絶望的な空気のなかでした。日本のEC(イーコマース)化比率は現在8%程度で、世界と比較して遅れています。新たに楽天市場クラスのプラットホームが1つか2つくらいできてもおかしくないので、全力を捧げようと思いました。

荒井:創業当時から副業の方がいらしたのですか?

門奈:創業時から変わらず副業者が8割以上の組織です。現在は、フルタイムの正社員が10名前後で、副業者が50名ぐらいですね。4月に創業し、9月にサービスをローンチすると決めていたので、猫の手も借りたいくらいでした。そこで、友人知人に「副業でもいいから手伝ってくれない?」とお願いしたのが、副業者に頼ることになったきっかけです。実際にやってみたら、会社にとって良いことずくめでした。今では、「二刀流」を全力でやる会社になっています。

荒井:「正社員と副業者の二刀流を全力で」ですね。

門奈:コロナ禍でリモートワークが浸透して、副業をしやすくなったタイミングというのも良かったと思います。正社員を採用する場合、探し始めてから働きだすまでに1年くらいのリードタイムがありますが、副業なら即日で開始できる。事業としての機動性がまったく違います。

荒井:確かに正社員として働いている会社を辞めずに済むので、すぐに参画できますね。ちなみに副業の方は、本業ではどのような会社にお勤めなのですか。

門奈:フリマアプリ企業やゲーム企業などの有名メガベンチャー企業での業務を本業とする人もいますし、会社に属さずにフリーランスで働いている人もいます。皆さん本当にパワフルで、本来なら採用したくてもできない方々です。副業は日本全体の限られた優秀人材を活用する最高の手だと思います。

荒井:副業で活躍している皆さんは、カウシェでどのような働き方をしているのですか。

門奈:1日1時間くらいの方もいれば、1週間に20時間くらい働く方もいます。土日に働いてくれる方もいますね。働く時間も場所もバラバラなので、いつでも情報共有できるようにSlackなどを使った非同期的なコミュニケーションを重視しています。副業の皆さんに疎外感を感じさせたくないからです。いわゆる「スキルの切り売り」ではなく、副業の方がスキルや経験を複数の環境で検証し、新たな成長やインサイトを得られるような会社でありたいと願っています。

荒井:カウシェで副業することでキャリアが豊かになるし、いい腕試しもできるということですね。

門奈:そして、それがわれわれの成長の原動力になっています。というのも、カウシェを加速させてくれたのは紛れもなく副業の力なのですよ。他社でPR担当として活躍していたメンバーの力により、テレビ番組で紹介してもらい、事業に追い風が吹きました。その際、アクセスが集中してもサーバーがダウンしないようにあらかじめ強固なインフラを設計し、安定稼働を維持できたのも副業のエンジニアのおかげです。私はカウシェがテレビに取り上げられるイメージをもっていませんでしたから、完全に副業のメンバーの知見のおかげだし、逆に言えば、この一件がなかったら今のカウシェはなかったかもしれません。

副業者にアサインするのは緊急度が低く重要度が高い仕事



荒井:副業の皆さんに対して、どのようにジョブアサインしているのですか。

門奈:「緊急度が低く、重要度が高い仕事」をどんどんアサインしています。具体的には組織や事業が抱えている課題に関するものです。例えば、「1年で採用応募数を5倍にするにはどうしたらいい?」というような「問い」をぶつけていくのです。

荒井:それはすごい。自分の枠を打ち破らないと達成できないような「問い」をぶつけるわけですね。未達でもチャレンジは評価されるのでしょうか。

門奈:評価されますし、副業者のなかには猛者が多いので達成するパターンもあります。

荒井:副業の方の目標設定はどのようにするのですか。

門奈:私を含めたボードメンバーと面談して「絶対に無理」な目標を立てるようにしています。どうにもこうにも達成困難なときに、人は知恵を絞って打開策を考えて、成長していくものだからです。

荒井:どんどん脱皮してくださいということですね。

門奈:私たちは副業希望者を惹きつけられるようなクリアでシャープな事業をやりたいし、魅力的なジョブを切り出してアサインする必要があると思っていて。会社の中身を社内外に晒している状態なので、マネジメント陣も見定められている緊張感があります。

荒井:副業希望者を惹きつけるために、評価制度やジョブローテーションも工夫されているのだとか。

門奈:そうです。例えば、カウシェでは副業の皆さんも正社員と同じように半年に1度のフィードバックと評価、査定、昇給があります。さらに本人の成長につながる目標設定をしますし、本人の希望を踏まえた異動もあります。そして、1人の力には限界があるから、積極的にチームで困難な課題に向き合ってもらいます。カウシェは「自律・自燃」を重要なバリューとして、熱量を周囲に波及させながらプロジェクトを動かす人を求めています。そこにおいては、フルタイムも副業も関係ないのです。

荒井:きっかけは副業だったけれど、フルタイムで働きたくなる人もいそうですね。

門奈:カウシェはまさに今成長中で、魅力的なポジションも生まれているところなので、副業者からフルタイムにコンバートする人もかなりいます。副業者全体の20%弱が、カウシェの正社員に移行しました。多くの企業担当者が採用のミスマッチを減らすために努力されてきました。結局のところ、一緒に働いてみることが一番だと思います。お互いの幸せのためにも。

荒井:おっしゃるとおりです。入ってみないと分からないことだらけですから。副業が双方にとって良い「お試し期間」になっているのですね。日本でもいよいよ副業解禁の流れになりましたが、まだまだ及び腰の企業が多いです。カウシェさんの成功事例は、多くの企業を勇気づけてくれると思います。

門奈:当社には「トライ・ファースト」というバリューがあります。「イノベーションしましょう!」と言っても無理だけど、たくさん試して失敗することで促進できると思います。カウシェが副業の力で成長してこられたのは、この「トライ・ファースト」をしてきたからです。人材市場は競争が激しいので、もっと多くの企業が副業に目を向けるべきだと思いますね。

荒井:カウシェさんの副業活用スキームは他の企業にも通用すると思いますか?

門奈:通用します。例えば、大企業の新規事業部門などに勧めたいです。新規事業の企画は、緊急ではないけれど重要な仕事ですから。新規事業は、立ち上げに慣れている人の方がいい。「うちにはそういう人材はいないよ」と考えている企業には「副業を活用することで突破できます」と伝えたいです。すでにそういう時代が来ているのだから、今すぐやるべきだと思いますね。副業は解禁した方がいいです。

副業で冒険心を満たすことで本業がより安定することもある



荒井:日本の企業はどんどん開国していくべきであると。もしかしたら副業が本業に悪影響を与えるのではと心配する企業もありそうです。

門奈:意外かもしれませんが、大手企業で働いてきた方が、カウシェのようなスタートアップで新しい業務にチャレンジし、冒険心が満たされたことで、本業にも力が入って安定するというケースも見てきました。

荒井:本業の経験が副業で生かされ、さらに副業を経験することで、本業を捉え直すこともできそうです。

門奈:他にも、カウシェでプロジェクトの進め方を会得して、本業で生かしている人もいます。「自社では無理だろう」と思われていたプロジェクトを、今まさに進めているところだそうです。その他、社内SNSの文化がない会社に勤めている人が、カウシェがコミュニケーションツールを使いこなしてワイワイ盛り上がっている様子を見て、「会社のスタンプを作ったりして工夫すれば、バリュー浸透にも役立つ」とか、そういう「気づき」を持ち帰って、自社で活用しているケースもあります。

荒井:副業を受け入れることで、働き方がより多様になり、優秀な人材が集まりやすくなりそうですね。

門奈:日本人は「週5日は同じ会社で働くもの」と考えがちだと思います。その考えにとらわれず「副業」「フレックスタイム」「リモートワーク」「育休・産休」などを活用し、働き方の多様性を広げる取り組みをすることが大事。そうすることで「イケてる会社だと社員に認めてもらえる」のだと強く感じています。

荒井:多様性のある組織が優秀な人を惹きつけるということですね。カウシェさんのような会社が増えれば、日本の社会も変わっていきそうです。

門奈:日本はまだまだ人材の流動性が低いと思います。副業の力を活用するノウハウも少ないかもしれない。そういう意味で、二刀流にこだわるカウシェとして、社会にも好影響を与えていきたいと考えています。

 

<図表2>門奈氏が語る副業の「三方よし」

<図表2>門奈氏が語る副業の「三方よし」

 

荒井:創業から1年半で、その境地に至るまでになったことに感服です!

門奈:いやいや、まだまだこれからです。とにかく、働き方の多様性と自由度においてはどこよりも懐の深い会社を目指していきたいと思っています。今、カウシェには、副業者をはじめ、フルリモートの方も、時短の方も、インターンシップの方もいます。カウシェへのコミット度合いは、100%から10%くらいまでさまざまです。コミット度合いにかかわらず、カウシェという組織と良い関係でいられるようなカタチを模索し続けたいと思っています。

荒井:刺激的なお話をありがとうございました!


【text:外山 武史 photo:柳川 栄子】




マネジメント発明を考える

優秀な副業人材を惹きつける新たな周辺参加の妙


優秀な副業人材を惹きつけるカウシェ。本人の専門性を生かせるよう、事業上、今日明日の緊急性はないが今後のビジョンや事業成長を見越すと重要となるミッションを任せます。さらに経営上の課題感や「問い」だけを渡し、その解き方は制限しません。期待成果が高く明確ながら、時間的制約を受けにくいため、副業者には嬉しい工夫です。また、情報開示など、副業者に「周辺」の不便や孤独を感じさせない丁寧な工夫も。異動申請の機会もあり、新しい領域にも挑戦できます。ダイナミックでスピード感あふれる創業組織の仲間となり、自分の専門性を生かして事業成長に直結する貢献機会を得られ、本業では踏み出しにくいチャレンジも行いやすく、成果につながれば外でも通用する自信も得られる。一連の体験のなかでカウシェと自分とのFitを検証することもできる。恐らく困難も多々あれど、そこからの学びは外部の刺激とイノベーションを望む本業組織にも生かされるはずです。まさに三方よしのエコシステム。カウシェが仕掛ける、新たなマネジメントの妙です。

 

<図表3>カウシェ副業メンバーの正統的周辺参加


カウシェ副業メンバーの正統的周辺参加


【インタビュアー:荒井 理江(HRテクノロジー事業開発部)】

 

※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.65連載「可能性を拓くマネジメント発明会議 連載第11回」より転載・一部修正したものです。

RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。


PROFILE

門奈 剣平(もんな けんぺい)氏
株式会社カウシェ代表取締役CEO

1991年生まれの日中ハーフ。慶應義塾大学環境情報学部卒。Loco Partners2人目のメンバーとして入社、2人から200人、シード前からM&A後まで経験。Reluxの海外事業立ち上げから責任者を務め、年間取扱高50億円へのグロースに貢献、海外担当執行役員&中国支社長兼任。2020年4月カウシェを起業。

 
バックナンバー第1回 エンジニアを奮い立たせる仕組みを作る(VOYAGE GROUP)
第2回 マネジャーの仕事をチームに委譲(サイボウズ)
第3回 “Why”から構築するデザイン組織(グッドパッチ)
第4回 マネジャーがいない会社の組織デザイン(ネットプロテクションズ)
第5回 人が増えても“全員CEO”を貫く組織設計(ゆめみ)
第6回 “協働”を育む多国籍企業のコラボの流儀(ヌーラボ)
第7回 「らしさ」と創造的な場をデザインする(Japan Digital Design)
第8回 1社複数文化が最適解 文化は「混ぜるな危険」(Ubie)
第9回 丹念な言語化文脈の理解が文化醸成の礎(ユーザベース)
第10回 ピースなチームは一日にして成らず(ヤッホーブルーイング)

おすすめダウンロードレポート

関連する無料セミナー

関連するテーマ

関連する課題