連載・コラム
【事業成長期のHRMを考える】 vol.3 HRBP勉強会レポート
組織のリーダー・マネジャーが成長する仕掛けとは何か?
- 公開日:2020/02/17
- 更新日:2025/04/15

2019年10月、私たちは新たな試みとして、「事業成長期のHRMを考える勉強会」シリーズを始めました。急激な事業成長のなかで、人材の熱量・才能を最大限に引き出し、事業成長を力強く推し進める人・組織づくりのために何ができるかを、ベンチャー企業の人事の皆さんと共に探索する学びのコミュニティです。
今回は、企業の持続的成長と個人の成長をつなげた人材モデル「トランジション・デザイン・モデル2.0」を参照しながら、自社のマネジャー・シニアマネジャー育成の課題とポイントを発見していくためのディスカッションを実施。その内容と様子をダイジェストでご紹介します。
第2回目 ご参加企業(ご掲載許諾企業様のみ/敬称略)
EXIDEA / ゲームエイト / スタークス / ディー・エヌ・エー / FABRIC TOKYO / VOYAGE GROUP / MUGENUP / リーズンホワイ / ロコガイド
ナビゲーター
リクルートマネジメントソリューションズ HRテクノロジー事業開発部
野崎日土志・荒井理江・奥野康太郎・藤江嘉彦
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- 【事業成長期のHRMを考える】 vol.3 HRBP勉強会レポート
- 組織のリーダー・マネジャーが成長する仕掛けとは何か?
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- 目次
- マネジャーの成長には「伸ばす意識・行動」と 「抑える意識・行動」の両方が欠かせない
- 人事が1on1に介入し、マネジャーを育成する
- 意志決定の場数をどう踏ませていくのか
- 「マネジャーとしての自分のあり方」を省み、志を言葉に
マネジャーの成長には「伸ばす意識・行動」と 「抑える意識・行動」の両方が欠かせない
藤江:事業成長期のHRMを考える勉強会の第2回は、参加していただいた皆さんに、自社のミドルマネジャー・シニアマネジャー育成の課題を確認し、ポイントを発見していただくことがテーマです。
そのツールとして参考にするのは、弊社が開発した「トランジション・デザイン・モデル2.0」です。このモデルでは、組織内の期待役割を10のステージに分け、各ステージの間に「期待役割ステージの転換期=トランジション」があると捉えます(図表1)。そして、トランジション時に生じる企業が求める役割と本人の意識・行動のギャップに着目していきます。

このモデルで重要なのは、役割が変化するときには、自分自身のそれまでの「意識・行動」を、新たな役割のものへと転換させる必要があるということです。具体的には、「伸ばす意識・行動」と「抑える意識・行動」があります。この「抑える意識・行動」を考えることが肝でして、例えば、Leading Player(主力)からManager(マネジメント:ここでは特にミドルマネジメント層を指す)へのトランジションでは、「組織の目標、計画、方針を自分の言葉で伝える」意識・行動を伸ばす一方で、「自分で手を下すプレイヤーであり続けようとする」意識・行動を抑えなくてはなりません。それが、役割転換期の難しさでもあります。自分なりにマネジメント経験を積むなかで、行動を調整していく必要があります。
※「トランジション・デザイン・モデル」についてはこちらの記事、「トランジション・デザイン・モデル2.0」についてはこちらの記事で詳しく説明しているのでご参照ください。
Leading PlayerからManagerへトランジションするとき、特につまずきやすいのは「ピープルマネジメント」です。ミドルマネジャーになりたてのときは、どうしても短期業績に目が行きがちです。成果を出そうとするあまり、自らプレイヤーとして動いてしまい、ピープルマネジメントが疎かになる。優秀なプレイヤーほど、その傾向は強まります。
また、もう一段上のSenior Manager(変革主導:ここではシニアマネジャー・部長層を指す)への昇格時に起こりがちなのは、本来ミドルマネジャーが行うべき組織の短期業績達成のタスクに手を出し、いわゆる「大課長」になってしまうことです。部長にとって重要なのは、より中長期の目線で事業・組織のために手を打つこと。
つまり、短期業績だけにコミットする意識・行動を抑え、組織の中長期戦略を実現する意識・行動を伸ばすことが必要になるのです(図表2)。

なお、私たちは、この段階でMI(マネジリアル・アイデンティティ)を意識できると、シニアマネジャーとしての影響力を組織に発揮していけると考えています。MIとは、マネジャーとして実現したいことと自分自身が大切にしていることを結合した「マネジメントを通して実現したい志」です。
図表2のとおり、シニアマネジャーともなると、答えがないなかで事業上の舵を切らなければならない。さらに、ミドルマネジャーだったときと比較して、メンバーに直接コミュニケーションを取る機会は激減します。間接的に、強い影響力を出さなければならない。そうしたときにこそ、「志」の強さがものをいう。私たちはそれを、MIと呼び、その形成を支援しているのです。
人事が1on1に介入し、マネジャーを育成する
藤江:以上を踏まえ、各社のマネジャー育成の課題や施策を共有する時間に移りたいと思います。今回は、「ミドルマネジャー育成グループ」と「シニアマネジャー育成グループ」の2つに分かれていただきました。各社、事例と課題・悩みをシェアし合いながら、自由に語り合っていただけたらと思います。
~グループごとに共有・討議~

さて、お時間になりましたので、各グループでどのような話が出たのか、全体に共有をしていただけますでしょうか。まずは「ミドルマネジャー育成グループ」より、担当したファシリテーターが代表してシェアをお願いします。
荒井:まず話題に上ったのは、「ミドルマネジャーにどんな人を選ぶのか?」ということです。やはりローパフォーマーを昇格させると現場が納得しませんから、ハイパフォーマーを昇格させるという会社が多かったように思います。しかし、そうすると、必ずしもマネジャーとして向いているわけではなかったり、トランジション・デザイン・モデルの話でもあったように、どうしても自分がプレイヤーとして頑張ってしまってメンバーに権限委譲ができなかったり、メンバーの育成が疎かになったりするマネジャーが出てくる。そのため、一度昇格した上で、マネジャー適性が見えなければ異動させていくという対応をされている事例もありました。
参加者Aさん:私の会社では、そもそもミドルマネジャーの役割があまりはっきりしていませんでした。そこで「役割をどうやってつくればいいと思いますか?」と問いかけたところ、人事やマネジャーたち自身が社長や経営陣と話し合いながら、役割を明確にしていけばいいんじゃないかというアイディアをいただきました。
荒井:そうですね。会社の未来像や社長の想いと、マネジャーたちが大事にしたいことの両方を、ミドルマネジャーの役割に反映させることが大事だと。私もそのとおりだと思います。ただ、会社は刻々と変わっていきますから、折々で見直しも必要になるだろうという意見も出ましたね。
また、「ミドルマネジャーをどう育てるか?」も大きなテーマでした。ミドルマネジャーがきちんとメンバーをマネジメントしているかどうかをレビューする1つの象徴場面としては、1on1の場面があるという話が出ましたね。Bさん、ぜひご紹介を。
参加者Bさん:うちの会社の場合は、毎週ミドルマネジャーとメンバーの1on1ミーティングでどんな会話をするのかを記録してもらって、少し心配なときはHRが介入するという方式をとっています。時には、マネジャーの上長に協力を仰ぐ場合もあります。
荒井:とても丁寧ですよね。
まとめますと、まずはミドルへの期待を組織として言語化し、共有化すること、そして、人選した後もきちんとそのパフォーマンスをモニタリングし、育成していく。どうしても難しい場合はポストオフという方法もきちんと視野に入れていくということが、重要になるでしょう。

意志決定の場数をどう踏ませていくのか
藤江:ありがとうございました。次に「シニアマネジャー育成グループ」の議論に移りましょう。どのような議論がありましたか?
奥野:トランジション・デザイン・モデルの説明にもあったとおり、シニアマネジャーの役割は事業・組織上の中長期的な意思決定です。しかし、これは相当な難度です。それが昇格時にいきなりできるかというと、難しい。ではどうしたらそういった人材を一定数確保し続けられるのかというのがポイントでした。皆さんからもぜひ、補足をお願いいたします。
参加者Cさん:例えば私たちはクリエイター中心の会社なので、そもそもマネジメントをやりたいメンバーが少ないんですね。それで結局、外部からマネジメント人材を採用しているんですが、そうするともともといる社員の成長機会が減ってしまう。このジレンマに悩んでいます。
野崎:マネジャークラスは、採用してもすぐにパフォーマンスを発揮するかどうかという点も難しいところですしね。
参加者Dさん:そうなんですよね。そこで私からは「シニアマネジャーの人材要件・昇格基準は?」という問いを投げかけさせていただきました。議論で挙がったのは、「過去の業績・経験」のほかに、「会社のバリューの体現をしながら成果を上げる人材」「ミドルマネジャーのうち、調整力や対人関係力の高い人材」という回答もありましたね。ミドルとしての業績だけでなく、バリューの体現や人間力などの要素もさらに強く重視されるということです。
荒井:背景には、ミドルマネジャーと違い、間接マネジメントを行う場面が主となることによって、一対多への影響力が重要になる点もあるでしょうね。
参加者Eさん:うちは組織階層を増やしたばかりで、まだミドルマネジャーがプレイヤー業務に埋没し、シニアマネジャーが実質的なミドルマネジャーになってしまっている点が悩みですね。
藤江:シニアマネジャーを育てていくために、どうやって、マネジメントの視界を引き上げていくのか?は重要な論点です。
奥野:この悩みに対して出た意見としては、とにかく多くの経営上の意思決定の体験を積んでもらうこと。つまり、「自ら経営の意思決定する場を用意する」または、「経営者の視点を体験できる場をつくる」という見解です。
私からも、シニアマネジャーの成長に必要な経験を分解し、ステップに刻んで少しずつ経験を積み上げてもらうことで、中長期的な意思決定ができる人材を育てている、ある企業の事例を紹介させていただきました。
Cさん:うちでも、ミーティングの場で「もし自分がいなくなったらどうする?」とメンバー全員に問いかけて、何かしら考えを持っているメンバーを上のポストに上げていく方法をとっています。これは1つの手だと思いますね。
Aさん:私も近い考えで、上長からメンバーに「どうしたらいいと思う?」と聞く機会を増やしてもらっています。
Eさん:面白いですね。そうやってメンバーがセルフマネジメントできるようにならないと、会社がどんどん硬直していきますから。

「マネジャーとしての自分のあり方」を省み、志を言葉に
藤江:では最後に、私たちから2つの事例を紹介します。まずはミドルマネジャーへのトランジション事例です。
G社ではミドルマネジャーが十分に育っておらず、ミドルマネジャーがプレイヤーとして動いてしまってメンバーを放任してしまったり、逆にマイクロマネジメントを行ってメンバーが困ったりしていました。対話でも話題に上っていたとおり、これは典型的な悩みです。
そこで私たちは、G社のミドルマネジャー全員に対して、3カ月間、メンバーの自律性を生かすマネジメントの型を職場で実践し振り返る仕掛けを用意しました。まず、「職場へのアンケート」で自らのマネジメント課題に気づいていただいたうえで、マネジャーの役割と、メンバーを生かすマネジメントの原理原則を学んでいただき、職場で実践。ミニワークショップも3回繰り返し、マネジャーとしての自分の実践状況の振り返りも行いました。そして、最後にもう一度、「職場アンケート」を行って、自分のマネジメントがどのように変化したか、またそれをメンバーがどう感じたかを振り返っていただいたところ、チームの変化を感じてもらえたようです。
3カ月間、1つでも、2つでも行動を変化させることによって、まだまだ強いチームへと変わるきっかけを得られるのだという自信をつけてもらえたことが、何よりの成果でした。

もう1つは、シニアマネジャーへのトランジション事例です。H社では、経営陣の意思決定やマネジメントのバラツキが課題になっていました。経営陣が共通して大事にする行動要件が不明瞭で、個人の違いが前面に出てしまうことで、重大なミスコミュニケーションが多発してしまっていたのです。
そこで、創業CEOが経営陣のリーダーシップ改善に取り組むと決め、まず自らが率先して360度サーベイを受け、続いて経営陣も360度サーベイを行って、自分たちが社内でどう思われているのかを知ってもらうところから始めました。集合研修では新旧の経営陣全員に参加いただき、車座になって各自のサーベイ結果をもとに、各自が何を大事にリーダーとして行動してきたのか、自分のリーダーシップについて何を本質的課題と感じているのか、互いに率直に意見を出し合いました。そして、自分自身が大事にしているリーダーとしての「志」を改めて発見していただいたのです。

ポイントになったのは、「自社プロダクトを通じて社会をよくしたい」という想いは、経営陣全員に共通していたということです。それが共有できたことで、最終的には「その想いを実現するために、各自ができることをしよう。ボードとしてふさわしい姿をメンバーに見せていこう」という意思統一が起きたのです。
いずれのケースにも共通しますが、マネジメント陣にとって重要なのは、任せることを決め、本来担うべき領域で適切な意思決定をしていくことに尽きます。そのために、自分が、過去の役割の力学にとらわれていないか、組織によい影響力を発揮しているのか、自らが心から強く願う意思決定をしているのか、自らのあり方を常に点検し、自らのマネジメントとしてのアイデンティティを明確にして臨むこと。私たちはそういったリーダー育成の支援を行っていきたいと考えています。
今回の勉強会は以上となります。次回は、採用人数を急激に増やすことによって必ずといっていいほど生じるテーマ、「入社者が早期に活躍するためにHRができる仕掛け作りとは?」について議論したいと思います。

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
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