IT Management Journey vol.5 ミッション・ビジョン・バリューを
どうやって浸透させるのか?

伸び盛りのIT・ネット系企業の人事の方々は、同じような悩みや課題をもっているのではないか。それなら、悩みを打ち明け合い、解決策を共有するとよいのではないか。こうした仮説のもと、私たちは2016年8月からIT・ネット系企業と共に人・組織を考える研究会“IT Management Journey”をスタートしました。毎回、参加する人事の皆さんが気になっているテーマについて話し合っています。本記事では、8回目「どのように経営理念を浸透させていけばよいのか?」について議論した内容の一部をご紹介します。


千差万別の理念浸透施策を共有する

組織を拡大していく過程で、多くの企業は経営理念を浸透させる必要が出てきます。
しかし、その取り組みの意義やタイミングなどは千差万別で、各社でまったく異なるのが実情です。そこで、参加者の皆さんの具体的な理念浸透施策を伺いながら、互いにヒントを得られる場にできればと考え、対話を行いました。

〈今回の参加者〉 ※社名五十音順
久佐野悠さん(株式会社アイスタイル ヒューマンリソース本部 ヒューマンリソース部 部長)
坪谷邦生さん(株式会社アカツキ 組織・人事グループ 人事企画室長)
服部穂住さん(株式会社マネーフォワード 社長室 人事部長)
高森純さん(株式会社リクルートキャリア 事業開発部 ソリューションプロデューサー)
飯遥さん(株式会社 LITALICO マーケティングコミュニケーション部)
小助川将さん(株式会社 LITALICO 執行役員/HR部 部長)

〈弊社メンバー〉
荒井理江(組織行動研究所 主任研究員)
奥野康太郎(ソリューションプランナー マネジャー)
齋藤悠介(コンサルティング部 マネジャー) ※今回のファシリテーター
野崎日土志(ビジネス・テクノロジーデザイン部 事業開発グループ)

〈会場〉
株式会社マネーフォワード本社

経営理念への「共感」や「内省」を促す

齋藤:まず私の方から、目線合わせのためのフレームを共有してみたいと思います。経営理念は、大きく「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の3種類に分けられます。

「ミッション」とは、企業の「存在意義」、社会で果たしたい役割を示す言葉です。ミッションは基本的には普遍ですが、時代と共に読み替えられる可能性はあります。「ビジョン」とは「企業が目指す姿」、中長期的に実現したい状態を示す到達目標です。時期や定量的な値を含み、経営環境に合わせて流動的に設定されます。「バリュー」とは、日々の判断・行動の基準となる組織独自の「価値観・行動指針」で、定期的に変える必要があります。長く継承されていくバリューもあれば、そのときどきで追加・削除されるバリューも出てきます。

久佐野:このフレームに照らすと、実はアイスタイルでは上記ミッションをビジョンと呼んでいます。

齋藤:アイスタイルさんのようなことは、実際よくあります。ここではミッション・ビジョン・バリューをこのように定義しましたが、各社によって定義が異なることは珍しくありません。今回は、その定義の違いにも注意しながら、お話を進められればと思っています。

なお弊社では、「持続的成長企業」の組織特徴について研究してきましたが、「ビジョンを共有する」という力は、企業の持続的成長に重要なファクターとなることが分かっています(下図)。

ところで、「ビジョン」を含む、経営理念を浸透させたいと考えるタイミングはさまざまです。例えば、新方針・新戦略のスタートのときもあれば、経営陣が交代したとき、創業○周年の際、大きな不祥事が発生した際、統合・合併のタイミングなどが考えられます。ただ、すべてに共通しているのは、何かしらの「経営課題」があり、「組織変革」を行いたいときに、理念浸透施策が実施されるということです。

この組織変革の方向性は、2つにまとめることができます。1つは、過去の延長線上にない非連続な未来創造を目指す「変革創造」で、もう1つは、連続的な変化で実現できる未来を目指す「原点回帰」です(下図)。

しかし、問題は理念浸透がなかなかうまくいかないことです。実際、理念浸透施策が単なるお題目にとどまっていたり、中途半端な形で終わっていたりするケースが散見されます。例えば、「ワークショップは盛り上がったけど、その後の日々の行動が変わったようには感じられない」「上司の言動が経営理念と全然合っていない」といった声をよく耳にします。何か1つ施策を行えば、理念が浸透するというわけではないのです。

では、どうしたら理念浸透がうまくいくのでしょうか。私たちは、経営理念ワークショップなどを行い、メンバーに経営理念を十分に理解してもらうだけでなく、その後の日々の仕事を通じて、一人ひとりが経営理念への「共感」や「内省」を行う必要があると考えます。「現場では、ミッションをどうやって目指していけばよいのだろう?」「バリューに合わせて行動すると、確かにミッションに近づける」などと考えたり、行動したりすることが、経営理念のより深い理解につながっていくのです。

そして、この理解と共感・内省のサイクルを回すためには、「経営層のコミットメント」「インナー・コミュニケーション」「継続性・一貫性を担保する仕組み」の3つを並行して進めながら、職場での実践も行っていく必要があります。
かつ、重要なのは、これらを単発で実施するのではなく、全体を意図的にデザインすることです。

「わかちあう場を耕す」ことが最も重要

齋藤:以上を踏まえて、「感情を報酬に発展する社会」を目指すというユニークな経営理念を掲げるアカツキさんの理念浸透施策について、坪谷さんからお話しいただければと思います。

坪谷:私たちアカツキは、2010年に塩田・香田の2人の創業者が、「感情を報酬に発展する社会を目指し、サービスやプロダクトで新しい価値を創出して、世の中に貢献したい」という強い想いをもって始めた会社です。齋藤さんの定義でいえば、「バリュー」でドライブをかける会社だと思います。ゲーム事業とライブエクスペリエンス事業を展開しており、ビジネスは急成長を遂げています。従業員も増えていて、現在は正社員が180名ほど、全体で600名ほどの組織になりました。2015年からは新卒採用もスタートし、2015年に5名、2016年に26名、2017年に31名の新卒社員が入社しています。

ただ、創業から月日が経ち組織の人数が増えていくにつれて、このバリューを薄めたくない、という思いが強くなってきました。そのため、全社で「らしさの種まき」をしようというのが、アカツキの経営理念浸透の方向性です。具体的には、人材企画室WIZのなかに「HEARTFUL領域」を置き、ここでアカツキとして共通で大切にしたい「アカツキらしさ」を未来につなげる組織活性化(理念浸透)施策を進めています。

なお、私たちにはすでに、アカツキらしさをまとめた『アカツキハート』『アカツキのコトノハ』という2冊の本があります。前者は創業者2人の想いや哲学をまとめたもので、後者はミッション・ビジョンの「幹」と、“さすがっす”“ピンチにスマイル”“義利合一”といった社内でよく使われる「言の葉」、メンバー体験談の「コトの葉」を編集したものです。これまでは、この2冊の本と、研修・合宿などでの「対話」、日々の仕事での「共感」などを通じて、アカツキらしさを育ててきました。しかし、それだけでは足りなくなってきたのです。

そこで私たちは、2017年から、らしさの種まきに必要な「型作り」のための3つの活動を始めました。「ハッピーカンパニープロジェクト2(ハピカン2)」「All Heartful」「Heart & Fish」です。

「ハピカン2」は、アカツキと同じようにユーザーと社員の幸せを目指している「面白法人カヤック」「ほぼ日」「サイボウズ」「リクルートキャリア」の4社に伺って、アカツキとのらしさの比較をする施策です。具体的には、「カヤックくん」「ほぼ日くん」「サイボウズくん」「リクルートキャリアくん」、そして「アカツキくん」というように、会社をそれぞれ擬人化して、各社の方々と、私たちの擬人化が正しいかどうか、アカツキくんについてどう思うかといったことを対話しました。
ハピカン2で分かったのは、アカツキくんは「ピュアな少年」で、「Whyを考えてわかちあう」ことや「教科書からしっかり学ぶ」こと、「深い人間理解」を大切にしているということです。「ピュアな少年」というのは、創業者2人が「100年続く偉大な企業」を目指すと真顔でずっと語り続けているようなところを指します。また、アカツキは目的志向が強く、誰もがWhyから考え抜こうとしていて、さらにその考えを日々わかちあっています。それから、アカツキのメンバーは教科書が好きで、『ビジョナリー・カンパニー 2』『7つの習慣』などを繰り返し読み、それに沿って行動するといった傾向があります。最後に、私たちは「人は不合理だ」「義利合一」「二律背反」みたいなことをよく言うのです。人間を深く理解したい気持ちが強いのだと思います。私たちはこのようにして、アカツキらしさを再定義しました。

「All Heartful」は、アカツキの福岡拠点、台湾拠点のメンバーたちと「らしさ」を深め合う場を設けた施策です。驚いたのは、福岡や台湾のメンバーの方が、かえってピュアなアカツキらしさをもっていたことです。彼・彼女たちは、アカツキのことを語り出したら止まらず、むしろ東京の人事メンバーがその熱をもらって帰ってきたのです。

この取り組みで分かったのは、「伝道師」と「議論の場」の重要性でした。そこで、次に始めたのが「Heart & Fish」です。これは、HEARTFUL領域のリーダーの趣味が魚釣りというところから生まれた施策で、社内から15名ほどのメンバーが集い、彼が釣ってきた魚を食べるという企画です。もちろん、ただ食べるのではなく、まず彼が釣ってきた魚のらしさを熱く語ります。その上で、今度は一人ひとりが自分のらしさを語っていくのです。つまり、これは主催者の「自分らしさ」を生かして、「アカツキらしさ」をわかちあう場なのです。実は、これがうまくいきました。参加者から、「こんな会社、なかなかないと再認識して胸が熱くなった」「この“意志をもって無駄をする”イベントは偉大な発明だ」といった感想をもらえたのです。熱量をもって、自分の言葉でアカツキらしさを語る「伝道師」が、その人らしい場をつくると、参加者もつられて自分について語りだし、アカツキらしさを再認識できることが分かりました。

これらの活動から分かってきたのは、らしさの種まきの中心に必要なのは、Heart & Fishのような「わかちあう場を耕す」こと。そして、そこに哲学・原則・物語・共通言語などの「知識の種」と、合宿などのON体験・サークルや遊びなどのOFF体験・日々の良い習慣といった「体験の種」をまくことで、アカツキらしさはすくすくと成長していくということです。また、わかちあう場を設ける上では、自分の言葉・体験で「らしさ」を熱く語れる伝道師の存在が肝で、その場で伝道師を中心にアカツキらしさを磨きあうことが、らしさを育てる原動力になることです。

理念を体現するための制度とは?

齋藤:坪谷さん、ありがとうございました。「らしさの種まき」という、まさに「らしさ」がにじみ出るキーワードが印象的ですね。では、ここからは質問と対話の時間にしたいと思います。まず僕から質問ですが、組織のなかで理念が薄まることの問題をどう捉えていましたか?

坪谷:端的にいえば、アカツキらしさやアカツキの用語が分からない新しくジョインしたメンバーが増え、コミュニケーションコストが上がってしまったことが問題でした。例えば、「感情報酬」と言っても、前ほどはピンと来ないのです。この状況を変えなくてはと思ったのが大きなきっかけです。

小助川:今後、これらの施策で確立したアカツキらしさを、人事制度や採用・育成などに宿していくことは考えているのですか?

坪谷:構想はしています。ただ、私たちには、まず「文化の中心を創りたい」という想いがありました。例えば、カヤックさんなら「ブレスト」に当たるような、アカツキの文化の中心を明確にしたかったのです。仕組みを変えたりするよりも、その方がいまのアカツキには効果があると感じています。「ハピカン2」で明らかになったのは、アカツキの文化の中心は「わかちあい」だということでした。例えば、私たちは全社発表などの場で、4〜5人で円になって、発表の感想や感情をわかちあう時間を必ず設けるのです。こうしたわかちあいが、日々いろいろ場面で行われている会社は珍しいと思います。

服部:面白いですね。「らしさの種まき」を継続していくための工夫は何かされているのでしょうか?というのは、らしさや文化を言葉にして浸透させていくことによる効能もあれば、逆に弊害もあるのではと感じたのです。言葉はどうしても一人歩きしてしまいますから。

坪谷:服部さんの仰るとおりで、言葉やイメージで表現したツールにばかり執着してはいけないと思っています。結局は、推進している人のもつ熱量がすべてだと思っていて。言葉やイメージから、創業者やメンバーのエネルギー・想いが伝わっている間はよいのですが、そのうち「感情報酬って……」「わかちあいって……」などと言葉の善し悪しが議論されるようになったら、もうその言葉・イメージは変えなくてはなりません。そうしたスクラップアンドビルドは定期的に行う必要があると思っています。

高森:なるほど、分かります。言葉として表現することをゴールにするのではなく、皆が心から共感できる状態を保つことが重要ということですよね。忘れてはいけない重要なポイントと感じました。

齋藤:ありがとうございました。先ほど小助川さんからご質問のあった人事制度や採用などへの接続については、アイスタイルさんがまさに最近取り組んでおられると伺いました。久佐野さん、アイスタイルさんの取り組みについて教えていただけますか?

久佐野:まず、アイスタイルのビジョン、バリュー、スピリッツを紹介します。齋藤さんの定義でいえばミッションですが、私たちのビジョンは「生活者中心の市場の創造」です。また、バリューは「共創の精神」で、その下に、より高い次元でのあるべき姿を目指す「落としどころではなく、目指しどころ」、互いに境界を越えて積極的に関わっていく「over the border」、お互いを理解し、尊重しようとする「相互理解とリスペクト」という3つの言葉があります。この3つを実現することで、共創の精神を実現していこうとしています。

そして、スピリッツは「7i」です。「imagination」から始まって「intelligence」「innovation」「inspire」「infinity」「interesting」「i」の7つです。まずワクワクする未来をimaginationして、intelligenceでそれを実現するための戦略や道筋を考え抜き、過去の成功体験を捨ててinnovationを起こして、周りをinspireして仲間を増やし、決して諦めずにinfinityの力でやり抜きながら、大変な時期もinterestingと考えて、新しいiを創り続ける=自己変革をし続けるのです。

私たちはいま、人事制度・育成制度などのすべてをバリュー・スピリッツとつなげようとしています。例えば、採用ではバリュー・7iをベースに人材の要件定義をしていますし、等級制度もバリュー・7iの構造で作り直しています。また、7iを体現した社員を表彰する「7i Award」、社員が賞賛し合って決める「Like! Award」という2つのアワードも設けました。

齋藤:ありがとうございます。ビジョン・バリュー・スピリッツを軸として一貫性のある取り組みを展開されているのが浸透のポイントですね。それでは、LITALICOさんのお話も少し伺ってよろしいですか? LITALICOさんは、事業の社会的意義に強く共感して入社される方が特に多い印象がありますが、実際のところはどうなのでしょうか。

飯:課題意識からお話しすると、私たちもアカツキさんと同じで、「らしさの希釈」が問題になっていました。というのは、私たちはいま、毎年200〜300名ペースで社員が増えているのです。私たちには、「障害のない社会をつくる」という壮大なビジョンに向けて、非連続な成長を続けていきたいという想いがあるのですが、このペースで社員が増えると、どうしても非連続な成長を生み出す力強さが薄れてきます。その力強さを取り戻すために、多様な取り組みを始めました。

小助川:「障害のない社会をつくる」ビジョン実現に向けて、人事領域では「社員の“ちがい”を活かす会社No.1」を方針として掲げています。これは一人ひとりの「ちがい」をビジョン実現に向けた力強さへつなげることが目的です。そのために、まず毎年200〜300名の新入社員に向けた研修を見直し、新しく2つの研修を始めています。1つ目は「当社の存在意義である理念を実感するワーク」の導入です。社員から募った理念「世界を変え、社員を幸せに」を体現しているエピソードを読んだ上で、理念を自分なりに捉えてもらう機会をつくりました。2つ目は、自分の「ちがい」を理解するワークです。入社初日に、自分の特性(得意・苦手など)や当社入社に対する思いなどを言語化し、それを配属職場で自己紹介の際に利用してもらうことで、安心して仕事ができる環境をつくっています。
世の中の障害の多くは、相手を理解せず、何らかの価値基準に沿って裁くことから生まれていると感じます。当社では、「人はちがう」という考えを前提に、そのちがいを相互に理解し、ビジョン実現に向けて活かしあう、という前向きなものにすることへ挑戦しています。

齋藤:所属する企業の理念に共感し、体現していくというのは、働く醍醐味でもあるかもしれません。組織規模が大きくなっても、そうした組織を創り続けるために、不断の努力が必要なのだということも、3社の事例からあらためて感じました。

ありがとうございました。ここから、さらに掘り下げていきたいところですが、なんとお時間が来てしまいました。服部さん、高森さんにはぜひこの後の二次会でお話をお伺いできれば嬉しいです(笑)。

バックナンバーはこちら

IT Management Journey vol.1
組織拡大に伴いマネジャーをいかに立ち上げるか?


IT Management Journey vol.2
採用した人材が活躍するための「採用」「配属」「適応支援」とは?


IT Management Journey vol.3
組織の力を高めるために、どのような評価・処遇を行うか?


IT Management Journey vol.4
個人の意欲をどのように高め、組織の力に転換していくか?



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