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連載・コラムIT Management Journey vol.4

個人の意欲をどのように高め、
組織の力に転換していくか?

伸び盛りのIT・ネット系企業の人事の方々は、同じような悩みや課題をもっているのではないか。それなら、悩みを打ち明け合い、解決に向けた議論ができるとよいのではないか。こうした仮説のもと、私たちは2016年8月からIT・ネット系企業とともに人・組織を考える座談会“IT Management Journey”をスタートしました。毎回、参加する人事の皆さんが気になっているテーマについて話し合っています。本記事では、「個人の意欲をどのように高め、組織の力に転換していくか?」について議論した内容の一部をご紹介します。

多様な人材の力を合わせて、
組織の力をどう高めればよいのか

組織が拡大してくると、多様な人材が社内に増えてきます。そのなかで組織の力を高めていくためには、一人ひとりの多様なモチベーションを、組織の力に変えていく必要があります。それを実現するためにはどうしたらよいのか。会場は、株式会社VOYAGE GROUPの本社会議室をお借りし、人の意欲を高め、組織の力に変えていくマネジメントのあり方を考える旅に出てみました。

〈今回の参加者〉 ※五十音順
青柳 智士さん(株式会社VOYAGE GROUP 取締役CCO・新規領域事業兼人事部門管轄)
大日方 誠さん(株式会社アカツキ 組織・人事グループ グループマネジャー)
向坂 真弓さん(株式会社サイバーエージェント 人材科学センター)
谷本 洋さん(株式会社モバイルファクトリー 執行役員 兼 計数管理部 部長 ※2016年9月より人事部門を兼任)
坪谷 邦生さん(株式会社アカツキ 組織・人事グループ
人事企画室長)

〈弊社メンバー〉
荒井 理江(組織行動研究所 主任研究員)
奥野 康太郎(ソリューションプランナー マネジャー)
齋藤 悠介(コンサルティング部 マネジャー) ※今回のファシリテーター

〈会場〉
VOYAGE GROUP本社

モチベーションを
どういう意味で使っている?

齋藤:今日は、個人のモチベーションを高め、組織の力としていくにはどうしたらよいかについて、お話ししていきたいと思います。

奥野:モチベーションと一言で言っても、その様相は多様です。最初に1つ、皆さんに伺いたいのですが、例えば、一見意欲は高くないように見えるけれど、仕事のパフォーマンスは高いというタイプの従業員の方が、どの企業にもいらっしゃるのではないかと思います。そういう社員をどう思いますか?

大日方:私は、モチベーションはニュートラルな状態で維持するのが良いという考え方です。なぜなら、モチベーションを高くキープするのは難しい。一時的には上げることができても、必ず下がってしまう。それが人間だと思っています。それなら、一定のモチベーションを維持するのが健全なのではないかと思うのです。ただ、このような考えで動く方は少数派なのかなという気がしますね。

荒井:確かに、組織貢献への意欲が強まりすぎると、メンタルヘルスを阻害するリスクがあるという研究結果もあります。

大日方:更に言えば、ポジティブであることが良い、モチベーションを高くもつことが良い、という風潮に少々疑問をもっています。各分野で世界に名を残すようなスターたちのなかには、ネガティブな思考をする方もいる認識です。成果を上げられるか不安だからこそ、準備・練習を徹底的にする、という行動はその一例かと考えます。そのため、ネガティブ思考は成果を上げる上で重要なのではないか、モチベーションの高さは必ずしも必要ではないのではないかと思うのです。

青柳:私は、トラブルがあったときや業績が下がったときの「耐える土壌」がモチベーションだと考えています。一体感が試される場面で、普段から働きがいをもって、社内で多様な関係を結びながら仕事に取り組んでいる従業員は強いのです。そして、皆が意欲を高めて危機を乗り切ったとき、組織は強くなります。その意味では、組織の危機やトラブルは決して悪いことばかりではないと思いますね。

大日方:なるほど。確かに、私もいざ有事のときには、皆で意欲高く乗り越えていくことも大切だと思いますね。

青柳:例えば、ベンチャー企業にとって大きな変化の1つは、創業者から他の経営者に変わる瞬間です。そのときに、従業員の意欲が問われるようにも思います。実際に、経営者が数度変わっても成長し続けているベンチャー企業がありますよね。すばらしい組織運営だと思います。いったいどのような経営・人事をしているのか、大変興味がありますね。

坪谷:あらためて、モチベーションという言葉の意味は、とても重層的ですね。ポジティブで前向きな姿勢であったり、危機を乗り越える「胆力」のようなものであったり。私は「方向づけられている」「目標を目指す姿勢」という意味を重視して使っています。

青柳:そうですね。考えてみれば、経営陣と人事では、普段からモチベーションの言葉の使い方や意味合いが違うように思います。そのことを意識すると、社内のコミュニケーションがもっと豊かになりそうです。

モチベーションを高めるのに
社会的意義を示すビジョンは必要?

齋藤:確かに、モチベーションという言葉にはさまざまな面があります。そこで、ひとまずベーシックに、「マズローの欲求段階理論」の枠組みを土台に整理をしてみましょう。ご存じの方も多いと思いますが、マズローは人間の欲求について、低次から「生理的欲求」「安全の欲求」「親和の欲求」「承認(自我)の欲求」「自己実現の欲求」の5段階を提唱し、低次の欲求がある程度満たされると、より高次の欲求を満たすための行動を取ると考えました。さらに最近では、マズローが6段階目に「自己超越の欲求」を想定していたことが注目されています。

向坂:サイバーエージェントでは、「自己実現の欲求」に応える制度をいろいろと充実させています。例えば、人事部内に「キャリアエージェント」の部署を設置し、従業員の「やりたいことがある」「異動したい」という声を最優先して、彼らの異動希望をできるだけスムーズに叶えています。現在、キャリアエージェント部門は、年間150件ほどの異動を実現しています。このくらいのことをしないと、特に優秀な人材の自己実現欲求を満たすことができないのです。

青柳:この制度はきっと、普段から丁寧なマネジメントをしてほしいというマネジャー陣へのメッセージでもあるのですよね。

向坂:そうですね。異動の際は、所属先のマネジャーとしっかりと対話・説明して、理解を促しています。

荒井:2016年にカリフォルニアで開かれたAcademy of Management(米国経営学会)2016のテーマは「Making Organizations Meaningful(組織を意味あるものにすること)」でした。個々人が働く上で、「社会的意義」の実感、先ほどのマズローで言えば「自己超越」の欲求を満たしていくことが重要ではないかという考えに注目が集まっているのです。社会的意義をもった「存在する意味を感じられる組織」こそが、従業員のモチベーションを上げるのではないかということですね。

更に、私たちも組織コミットメントに関する調査を行ってみたところ、組織目的への共感の重要性を示唆する結果になりました。「その組織が好きだ」という愛着的な組織コミットメントが、働く意欲を高めることは先行研究が示すとおりなのですが、加えて組織の意義や目的にコミットしていると、愛着だけを感じるよりも更にやる気や貢献意欲が高まっている可能性がある、という結果です。

※調査データを掲載している「RMS Message vol.38 組織コミットメント 〜滅私奉公ではない帰属のあり方〜」はこちらからお読みいただけます

齋藤:最近は日本でも、社会課題解決を掲げるビジネスや企業が増えてきており、特に若者世代のなかには、社会課題解決をビジョンに掲げる会社で働きたいと考える方が出てきていますね。
働く上で、社会的意義を実感したいということなのでしょう。皆さんはその点をどのようにお考えでしょうか。

青柳:極論を言えば、インターネットはなくても生きていけるものです。その意味で、私たちのようなインターネット企業では、社会的意義を設定するのはとても難しいものだと感じます。

谷本:私は、自分の携わるビジネスに社会的意義を感じるかどうかは、各自の考え方次第なのではないかと思います。私はいつも部下たちに、経理は会社にも社会にも大きな意義のあるものだから、誇りをもって働こうと話しています。

坪谷:アカツキは組織の目的や社会的意義に対するコミットメントが高い会社です。それは創業者が「感情を報酬に発展する社会」というビジョンを実現すると発信しており、それをピュアな気持ちで実現しようとしているからです。そして、私も含めて、このビジョンに共感したメンバーが集まってきているように思います。

向坂:そのビジョンメッセージは意識的に発信しているのですか。

坪谷:そうですね、意識的に発信し続けています。私は組織を牽引するリーダーに一番大切なのは、ビジョンなど、組織の進むべき方向性を「指し示す」ことだと思っています。どんなに優秀なメンバーが集まっていても、それぞれの方向性がバラバラでは勝てませんから。
人事面では「感情を報酬に発展する社会」に共感してくれる人のみを採用していますし、入社後はCEOから3時間かけて創業からこれまでの思いと「アカツキハート」というアカツキの哲学を伝えています。また「緊急でなくても重要なこと」に時間を投資する文化が徹底されていて、例えば先週も終日の全社員研修で「アカツキらしさ」について語り合うワークを行っています。

向坂:そうやって、方向性を感じてもらおうとしているのですね。

坪谷:はい。まさに「方向づける」という意味でのモチベーションアップです。ちなみに、私がいつも人差し指を立てているのは、「指し示す」ことの大切さを伝えるためなんです(笑)。

個の意欲は
どうしたら組織の力になるのだろう?

齋藤:ただ、ビジョンをトップダウンで強く示しすぎると、従業員が受身的になってしまう側面もあるのではないかと思うのですが、その点はどう思われますか?

青柳:OYAGE GROUPがビジョンを置いていないのはまさにその理由です。ビジョンの言葉に引っ張られるよりも、インターネットの変化に身を委ねてほしいという思いが強いのです。

齋藤:確かに環境変化が激しいなかでは、既存のビジョンにとらわれるよりも、変化のなかで生じる新たな機会に着目し、常に変化し続けるようにする方法もある、と。

青柳:そうなんです。しかし、最近は、中長期的には社外へメッセージを発信するという意味で、あらためてビジョンが必要ではないか、とも考えています。難しいところです。

荒井:一方で、全員に同じモチベーションを求めるのは押しつけになる、と受け取られるケースもあるかもしれません。もちろん、全社ビジョンや目標についてはしっかりとコミュニケーションが必要ですが、一方で従業員たちがその会社で働く理由は人それぞれですし、ビジョンをどう感じるかも一人ひとり違います。各自がきちんと成果を上げられるなら、大きなベクトルは合っているなかで、個人それぞれの気持ちを尊重する視界も必要と感じます。

向坂:私は、全社的にはおっしゃるとおりだと思うのですが、一方で、チーム単位ではメンバーが同じ目標に向かってモチベーションを高めていく必要があると思っています。サイバーエージェントでは、半期に一度、チーム単位でチーム目標に対するスローガンを考え、パンフレットやポスターを作る全社コンテストを行っています。ねらいはチーム目標に対するチーム内での議論の活性化ですが、時に頑張りすぎではないかと思うほど力を入れて面白い制作物を作るチームが多く、毎回コンテストは盛り上がっています。

齋藤:環境変化のなかで、どこまで組織の統一的なビジョンを指し示すべきなのか、難しい議論です。しかし、何らかの「ビジョンへの方向づけ」が、個の意欲を組織の力に変え得る力をもっているとはいえそうです。そして少なくとも、小組織のビジョンやチームの目標に関しては、できればメンバーの目線が揃う必要があって、それが実現できると強い組織になるのでしょう。
組織のビジョンに関して、本当に存在する意味があるのか、またどこまで足並みを揃えていくべきなのか、妥当解がないなかでも、社員や経営陣と一つひとつ議論を深めながら決めていくことが大切ですね。
今回も話は尽きませんが、お時間が来てしまったため、ひとまずここまでとしたいと思います。
議論へのご参加、本当にありがとうございました。

おわりに−可能性をともに拓く研究会として

IT成長企業の人・組織を考える研究会IT Management Journeyでのディスカッションレポートを4回にわたり連載してきました。いかがだったでしょうか。

ここでの議論は、解を示すものではありません。人・組織の問題は、統一見解を安易に見出せるものではないからです。しかし、さまざまな視界から議論を深めていくことによって、一歩ずつ各社にとって信じられる選択へと近づいていくことはできるはずです。

私たちリクルートマネジメントソリューションズも、企業の人・組織を考える方々とともに議論を深めることで、人・組織づくりについての更なる可能性を拓いていきたいと考えています。
これからも研究会などを企画していく予定です。ご興味のある方はぜひお声がけください。



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