IT Management Journey vol.1 組織拡大に伴いマネジャーをいかに立ち上げるか?

伸び盛りのIT・ネット系企業の人事の方々は、同じような悩みや課題をもっているのではないか。それなら、悩みを打ち明け合い、解決策を共有するとよいのではないか。こうした仮説のもと、私たちは2016年8月からIT・ネット系企業と共に人・組織を考える研究会“IT Management Journey”をスタートしました。このたび、その内容の一部を記事にまとめ、4回にわたって連載いたします。本記事は、「組織拡大に伴いマネジャーをいかに立ち上げるか?」の内容をご紹介します。


なぜこの問いなのか?

“IT Management Journey”とは、月に1度、成長中のIT・ネット系企業の人事と共に、人・組織のあり方について議論する自主研究会です。
研究会では今回、「組織拡大に伴いマネジャーをいかに立ち上げるか?」という問いをテーマに話し合いました。なぜこの問いを選んだのか。実は、拡大中の企業組織にはある共通の特徴があるのです。
組織発展ステージ(図表01)に照らしてみると、経営者が直接マネジメントする創業ステージとは違い、拡大化ステージに入った組織では必ず「マネジャー」(※ミドルマネジャー・PL・リーダーなど、企業によって少しずつ名称が異なりますが、本記事では、以下マネジャーで統一しています)が数多く必要になってきます。
組織が急成長を遂げるなかで、大量のマネジャーを育成・採用するのは大変なことです。しかし、マネジャーが不足すると、マネジャー1人あたりの管理スパンが大きくなりすぎたり、上位役職者が兼務することになったりして、現場を十分にマネジメントできなくなってしまいます。これらの問題は、参加者の関心が高いテーマでした。そこで、今回は「組織拡大に伴いマネジャーをいかに立ち上げるか?」を中心議題として取り上げたのです。
なお、今回はアカツキ本社の一室をお借りしました。賑やかでお洒落なオフィス空間のなかで対話は白熱。あっという間に時間が経ってしまいました。その一部を、お伝えします。
〈今回の参加者〉 ※五十音順
青柳智士さん(株式会社VOYAGE GROUP 取締役CCO・新規領域事業兼人事部門管轄)
大日方誠さん(株式会社アカツキ 組織・人事グループ グループマネジャー)
谷本洋さん(株式会社モバイルファクトリー 執行役員 兼 計数管理部 部長 ※2016年9月より人事部門を兼任)
坪谷邦生さん(株式会社アカツキ 人事企画室 室長)
服部穂住さん(株式会社マネーフォワード 社長室 人事部長)

〈弊社メンバー〉
荒井理江(組織行動研究所 主任研究員)
奥野康太郎(ソリューションプランナー マネジャー)
齋藤悠介(コンサルティング部 マネジャー) ※今回のファシリテーター

〈会場〉
アカツキ本社

マネジャーに期待することは?

齋藤:最初に、弊社メンバーから前提情報の共有を簡単に行います。

奥野:最初に、私からマネジャーの役割について、考え方の一例をご紹介します。弊社では、昔からこのような図を使って説明してきました(図表02)。マネジャーの役割は、大きく「仕事の管理」「チームづくり」「仕事の改善」「人材育成」の4つに分けられます。私たちが研修などでよくお話しするのは、優れたマネジャーはこの4つを別々に行うのではなく、1つの行動でできるだけ多くの役割を担っている、一石二鳥、一石三鳥を常にねらっているということです。

荒井:私からは、弊社が企業の人事責任者に対して行った調査データを紹介したいと思います。マネジャー(課長)に求められる要件としては、特に「目的遂行に向けての実行力」と「部下・後輩の指導・育成・動機付け能力」が挙げられます。さらに最近では、「自ら担当する職務に関するスキル・知識」や「状況変化への柔軟な対応」も強く求められるようになってきました(図表03)。マネジャーに必要な要件は多岐にわたっており、年々難しい仕事になってきています。

齋藤:こうした情報を踏まえた上で、皆さんは今、マネジャーに何を期待し、何にコミットしてほしいと思っているのでしょうか?

谷本:自分は本業が経理職であり、人事業はこれからであるため、もっぱら自分の登用基準になりますが、マネジャーは、経営と、ユーザーや現場をすべて見渡しながら考えていける能力が必要です。選考の際は、そのバランスを重視しています。ユーザー目線が強すぎても、経営の方ばかり向いていても難しい。物事を複眼的に見る能力がなければ、マネジャーを務めるのは難しいのではないかと思います。
服部:マネーフォワードはミッション共感型のマネジャーが多いですね。マネジャーも含めて、当社の社員たちは皆、「お金を前へ。人生をもっと前へ。」というビジョンを実現するために入社します。ですから、マネジャーにはそうした社員たちをまとめ、ミッションの具現化にコミットしてもらうことが第一だと思っています。

青柳:マネーフォワードさんのように「会社名=ビジネス」であれば、ミッションビジョナリーなアプローチができますね。対して、VOYAGE GROUP(以下、VOYAGE)のように事業が多角化すると、マネジャーも多様化していくのかもしれません。現在VOYAGEでは、多様なマネジャーを増やそうとしています。それぞれの強みを集積することで、全体として会社が伸びていくというストーリーがVOYAGEらしいと考えています。

坪谷:アカツキもVOYAGEさんに近い考え方です。自分が担当するタイトル(ゲーム)とユーザーの皆さんを愛しているマネジャーもいれば、アカツキが大好きでたまらないマネジャーもいます。ゲームづくりと組織づくりのあり方を根本的に変えて、もっと幸せにゲームを作れる環境を用意したいと言っているマネジャーもいます。これからもカラフルな個性でいてほしい。「タレントドリブン」というのが、アカツキのスタイルです。

大日方:事実、アカツキのマネジャーたちは皆、自分の信じるものに強くコミットしてくれていて、目標数値もあえて自ら高い数値を出してくれたりします。そういうリーダーの背中を見て、次のマネジャーも育つ、と思っています。

青柳:なるほど。それがアカツキさんの強みですよね。

マネジャー、どう選ぶ? どう育てる?

齋藤:必ずしも、名プレイヤーが名マネジャーではないと思います。皆さんはマネジャー候補者をどのように選んでいるのでしょうか?

青柳:VOYAGEでは、マネジャー候補をたくさん発見できる仕組みを考えています。現在、そのキモとなっているのが、「小耳会議」です。この会議では、各事業部付の人事が現場視点で候補者を選び、人事メンバー皆と議論します。議論の際は、「長所を伸ばす」というスタンスで話し合うことを重視しています。経営陣の「いいよね」と現場の「いいよね」は違いますから、こうやって現場の集合知を集めていくことで、より多くの、より多様なマネジャー候補を見つけられるんです。また、この会議には副次的効果もあって、僕ら人事が何かの機会で社員に会ったときに、「キミのこと、Aさんが評価していたよ」と間接的に褒めたりもできます。こういう一言って嬉しいですよね。小耳会議は、こうして社員をモチベートし、組織を良い雰囲気にしていく上でも一役買っています。
奥野:VOYAGEさんと似た手法で、「マネジャー候補に誰が良いか」というアンケートを現場でとっている企業があります。青柳さんの言葉をお借りすると、「アイツいいよねアンケート」ですね。1000名くらいまで企業規模が大きくなったら、そうした方法も有効だと思います。


齋藤:それでは、マネジャーやマネジャー候補をどのように育てているのでしょうか? 各社とも、それほど育成に長い時間をかけられないのではないかと思うのですが。

谷本:僕は、マネジャーが最初の頃にうまくいかなくても、すぐに諦めたくはありません。一度任せたら、2年程度はじっくり向き合ってあげたいと思っています。昇格させた以上、それが登用者の役割ではないか、と思うのです。

坪谷:アカツキでは、中期経営計画に合わせて、2020年までに50人のマネジャーを育てたいと考えています。会社の成長スピードを考えると、そのくらいのマネジャーが必要なのです。同時に、現在は主に役員が兼務で担っている部長クラスを増やす必要もあります。そのために、人事がマネジャー一人ひとりを丁寧に支援する体制を作り始めました。その体制では、人事は「軍師」の役割を担います。マネジャーを「将軍」に、人事を「軍師」に見立てて、人事がマネジャーを直接支援するわけです。
大日方:マネジャー育成の上で鍵になっているのは、「権限委譲」ですね。アカツキでは若手がどんどんマネジャーに登用されるので、とにかく若手の成長スピードが速いです。実際、入社2年目の社員がマネジャーとして、大活躍していたりするんです。

奥野:権限委譲は本当に重要ですね。有望なメンバーが課長の視界で、有望な課長が部長の視界で考えている企業では、次々にマネジャー候補が育っているように感じます。

大日方:一方で、多くのマネジャーが、つまずくべきポイントで必ずつまずきます。その面で、先の「軍師」体制などを通じ、私たち人事がマネジャーと並走しながら支援していけたらと考えています。

青柳:「育てるには機会を」というのには共感します。VOYAGEでも、「小耳会議」で名前が挙がったメンバーには、全社横断プロジェクトなどの機会をすぐに提供して、育成していくようにしています。このとき大事なのは、チャンスの大きさではなくて「タイミング」です。機会の大小は、期待の大小に比例しない、と僕は思っていて。半年後に大きなプロジェクトを任せるよりも、「今任せてほしい!」というタイミングを見逃さず、社員総会の司会でも採用面接官でも、何でもいいから「新しいこと、やってみない?」と声を掛けることが大事なんじゃないかと思っています。

谷本:今までの知識が通用しない場所に行くわけですものね。

青柳:まさにそうです。

服部:そうしたときに、私は「覚悟感」の醸成が大事なのではないか、と思っています。主体的に考え、行動し、決定できるかどうかが、マネジャーの成否や成長度合いを大きく左右しますが、そのためにはマネジャーが組織とビジネスを背負う覚悟をもつことが欠かせません。マネジャーの覚悟感をどう醸成するか。人事の腕の見せどころだと思っています。
荒井:ちなみに、弊社の研究員が行った「事業リーダーの赴任後の組織立ち上げ研究」では、日本企業の優れた事業リーダーの分析結果から、就任後すぐに抜本的な改革を行うのではなく、まず組織理解を深め、メンバーとのコミュニケーションを増やして「組織からの信頼を蓄積する」ことが重要ということが改めて確認できました。信頼づくりに半年かけることもあります。ポイントは、「同調性」と「有能性」を感じてもらうこと。これは事業部長層を対象にした研究でしたが、課長層にもフィット感があるのではないかと考えています。この研究成果を踏まえると、新しい組織に着任したマネジャーに対しては、就任後は、成果をあせらず現場と信頼関係を作るためのサポートも有効といえそうです。

現場との密接な関係づくりが重要?

齋藤:皆さんのお話を伺っていると、マネジャーを登用し、また立ち上げていく上で、人事と現場との密接な関係づくりが重要なようです。そのことについてどう思いますか?

青柳:そのとおりだと思います。僕は、人事の知らないところで突然退職者が出てしまう「びっくり退職」が人事として一番のNGで、あってはならないことだと思っています。それを防ぐためには、退職の意思決定をする前に情報を入手することが大切です。私たちが事業部付人事を置き、日頃から現場と密な関係を作ろうとしている一番の理由はそこにあります。

谷本:しかし一方で、すべてが人事任せになってしまってもいけませんよね。人は現場で育ちますから、現場が責任をもって次のマネジャーを育てていくという意識をもってもらうこともまた、非常に重要なことと思っています。

坪谷:そうですね。どちらか一方の責任と考えるのではなく、現場・人事・経営の「三位一体」が理想的だと思っています。先ほど少し紹介した「軍師」体制も、その理想を目指した動きで、将軍=マネジャーのパートナーとして、経営ともつながりながら、進んでいきたいと思っているのです。

大日方:しかし現状、私たちはまだまだマネジャーたちを理解しきれていない。これからの課題です。

服部:組織が本当に小さいときは、人事は必要ありません。ところが、事業と組織が成長していくと、あるときから人事部が設置されます。組織の理想は「自走する組織」ですが、組織が大きくなると、そうは言っていられないから人事部ができるのです。じゃあ、人事の存在意義とは何なのか。それを常に考え続けるようにしています。

齋藤:成長期の企業において、人事が必要とされるということですね。マネジャーはやはり組織の要。だからこそ、人事はマネジャーとタッグを組み、現場目線で丁寧に支援していくことが大切ですね。あっという間に時間が過ぎてしまいました。本日もありがとうございました。

おわりに――オープンセッションを開催

いかがでしたか。
次回は、採用した人材が社内で活躍するための「採用・配属・適応支援」の方法をテーマに議論した内容をご紹介します。

参考記事
「ひずみ」を乗り越え、持続的な成長を実現する
成長企業の組織・人材マネジメント


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