これからの時代の役割、能力・スキルのあり方 成長につながる“トランジション”をデザインする

執筆者情報
HR企画統括部
リサーチ&デザイン部
部長
小方 真

昇進・昇格や人事評価と能力開発、キャリア開発を連携していくための役割、能力・スキル定義のあり方とはどのようなものだろうか。

(1)新人・若手の職務・組織適応、(2)マネジメント層への役割転換、(3)役職担当後のプロフェッショナル転換 という企業・個人それぞれにとって鍵となる3つの転換点(トランジション)のポイントを明らかにしながら、HRM施策とHRD施策をつないでいくトランジションのデザインについて考えてみたい。


役割、能力・スキル定義の必要性の高まり

企業を取り巻く環境変化やテクノロジーの進化に伴い、「人材力の強化」が経営課題のトップに挙げられるようになって久しい。なかでも優先順位が高いものとして、「新人・若手社員の戦力化」「中堅社員の育成」「ミドルマネジメント層の能力開発」が1〜3位となり、歴代1位であった「次世代経営人材の育成・登用」を上回っている(「現在の人材マネジメント課題調査」〈リクルートマネジメントソリューションズ、2018〉)。それらの背景として、日本における生産年齢人口の減少に伴う働き手の不足、産業構造の変化に伴い求められるスキルや知識が変化したこととそこに向けたスキル再装着の必要性(Reskills)の高まりが挙げられる。AIやロボティクスの進化から「ヒトが担う仕事の再定義」が求められることも併せて、幅広い対象層に対する「能力・スキル開発」の期待へとつながっているのであろう。

別の角度から、ここ20年の人材力の強化に向けた各企業の取り組みを概観すると、持続的に成長を続けている企業には、ある特徴が見られる。それは、人事制度において各役割ステージに求められる機能や能力を明確にし、業績のみではなく能力やスタンス、バリューも併用した評価を組み込み、それらを育成にもつなげることを意図して役割ステージごとに行うべきこと、求められる能力を明らかにしようとする傾向である。

このような取り組みを自社に展開する際の留意点は何だろうか。それは、内容の具体性を高めることではないか。例えば、ほぼすべての職務とコンピテンシー(成果を生み出すための能力・スキルセット)が公的機関により定義・更新される米国とは異なり、企業ごとの役割定義、固有の文脈を含んだ能力を定義しようとするのが日本企業であるといえる。そこにおける一般的な「役割」や「能力・スキル」定義はどうしても抽象度の高いものになりがちであり、等級格付けには用いることができるものの、対象者本人の行動開発・能力開発に活用しづらい状況にあるといえる。

このようななか、小社では、企業人に各役割ステージで一般的に期待される役割と求められる具体的な能力・スキル、ならびに当該ステージで有用な経験を抽出した「トランジション・デザイン・モデル2.0」をリリースした(図表1参照)。トランジションとは役割の転換・移行を指し、本モデルでは目指すべき状態に向けた移行を円滑に進めることを目的としている。作成にあたっては、企業人事へのインタビューや定量調査をふまえて初版としてまとめた後、環境変化にも対応させた実態把握や研究を展開して2.0へと版を重ねた。

「トランジション・デザイン・モデル2.0」では、組織への新規参入者から経営層・プロフェッショナル層に至るまでを10ステージに区分(図表2参照)し、ステージごとに期待される役割、意識・態度の変化、求められるスキル(能力・知識)、有用な経験、関連するキャリアや発達的な課題を整理している。HRMの観点からは、各ステージの期待役割や能力・スキルの明確化、対象者本人の育成・キャリアデザインの観点からは各ステージで獲得すべき内容の明確化による成長支援への活用が期待されている。

鍵となる3つのトランジション

では、10のステージのうち、今日の日本企業において重視すべきはどのステージへの転換点であろうか。前述の調査結果もふまえて、ここでは(1)新人・若手の職務・組織適応、(2)マネジメント層への役割転換、(3)役職担当後のプロフェッショナル転換の3つを、企業内人材の能力・スキル開発において重視すべきポイントとして取り上げる。新人・若手段階での適応が不全であれば「3年3割」といわれる早期離職につながり、マネジメント層への役割転換が進まなければ経営リーダーに向けたパイプラインが目詰まりを起こす。そればかりではなく、新人・若手を生かす組織マネジメントは望めない。結果、若者にとっての魅力が低下し採用力の低減につながるであろう。また、役職担当後のプロフェッショナル転換を円滑にデザインできなければ、企業にとってマネジメント負荷が高まることのみならず、個人にとっても長寿命化のなかで長くイキイキと働くための新たな出発点を失うことを意味する。以下では、能力・スキル開発の観点から、企業・個人それぞれにとって鍵となる3つの転換点(トランジション)について、今日的環境におけるポイントを明らかにしていきたい。

(1)新人・若手の職務・組織適応
〜自力でトランジションを乗り越えられる経験を


少子高齢化、AI・ロボティクスの活用などのテクノロジーの転換により、企業内では新人・若手と総称される「若者」の力を生かす必要性が高まっている。そのようななか、若年層の早期離職や適応不全が指摘されるようになり久しい。「どのようにしたら先輩に近づけるのか手がかりがつかめない」「他社に就職した同年齢の友人の方が大きな仕事を任せてもらっているようだ」という声も聞かれるが、若者たちは、「成長につながる仕事」「価値につながる仕事」に取り組みたいという意向を強くもっている。

小社調査からも、「仕事の価値を実感できた方が適応感が高い(図表3)」「仕事の意義や価値を伝えてくれる上司や育成担当がいる組織は適応感が高い(図表4)」との結果が得られた。

また、人事として若手に期待したい行動・スキルと中堅社員本人が若手時代に獲得したそれとの比較を行った小社調査によると興味深いことに、特定箇所において両者には大きなギャップが見られた(図表5)。

人事が期待しているが本人側の発揮・獲得認識が低いものとしては「経験の浅いメンバーの指導、支援」「プロジェクトやチームの状態についての問題提起」などが、逆に人事からの期待度は高くないものの本人側が発揮した行動・スキルとしては「業務に必要な情報を集め、分析し、仮説を立てる」などが挙げられている。これらから、企業側の期待(「個人としての問題解決を超えて、指導や支援ならびに集団で仕事を進めるための問題提起をしてほしい」)と本人側の認識(「分析能力、仮説構築能力を獲得できた」)のレベルには大きなギャップが存在することがうかがえた。

新人・若手を早期戦力化したい、という企業のニーズは依然として高い。他方、取り巻く環境変化の不確実性、新人・若手社員一人ひとりの成長スピードには個人差があるため、育成や能力開発は個別状況に合わせていく必要が出てくる。その際に、トランジション・デザイン・モデルを活用しながら、新人・若手本人にとっても自律的な学び方、ステージの乗り越え方を自ら学んでいくことが必要である。かねてからIT化などによる新人・若手に与えられる業務の高度化や複雑化が指摘されている状況を加味すると、新人育成期間を「社会人としてのスタートを切るStarterに加えて、Playerへの芽が見え始めるところ」までとするのが適切かもしれない。

(2)マネジメント層への役割転換
〜プレマネジメント経験の拡充とマインドセットの醸成を


人員構成上、構成割合が少ない中堅層からマネジメント層へのトランジションは各社において重要課題であるといえよう。プレイング業務を抱えながら、年上部下をはじめとする多様な構成員のマネジメント、そしてコンプライアンス対応など、ミドルマネジメントにのしかかる負荷は重い。小社による複数の調査・研究からも、「マネジメントとして適応し、やりがいをもっている人は80%。残り20%の人は確実に適応できていない」との結果が出ている。適応が難しい理由として、「マネジメントとしてのやりがいがもてない」「(さまざまな)部下の育成に悩む」が上位に挙げられている。さらに、マネジメント職としての役割理解や自身のマネジメントとしての強み・弱みの理解が不足すると、「適応感」にマイナスの影響を及ぼすことも明らかになっている。今後も中堅層が少ない状況がしばらく続くことをふまえると、このトランジションを乗り越える確率を上げることは大きな命題であるといえよう。

また、トランジション確率を上げるための試みとして、マネジメントを担う際にどのような変化があり、それがどれほど大変なことなのかを可視化していくことが挙げられる。小社研究から、1)初めてマネジメントを担う際に直面する大きな変化は「人事考課への責任」「先々のことを考える必要性の高まり」が挙げられるが、それらはそれほど大変ではない(時間が経てば慣れてしまう)。2)「資源が少ないなかでの目標達成」「経営層や上司から資料や提案を求められる機会」が、変化として大きいだけではなく大変さの程度が大きい、つまり切実な課題として挙げられている(図表6)。これらを事前に知り、中堅社員時代の疑似体験を行えるとより良いかもしれない。

加えて、近年注目すべき論点として「マネジメントになりたくない」理由の変化が挙げられる。以前からの、「大変さに照らして処遇・給与面で報われない」という代表的な理由に加えて、「マネジメント担当期間に自らの専門性開発が遅れて、市場価値が下がることへの不安」を訴える人が増えてきている。小社のマネジャーを対象にした調査でも、「マネジャーになる前より、自分の専門能力を発揮する場面が少なくなった」との回答が67.1%にも上り、技術進化が激しく、かつ長く働くことが期待される昨今、それらの認識を更新する活動を行っていかなければならない。

以上のことから、マネジメントへのトランジションを円滑に進めるためには、マネジメント役割の明確化、求められる能力やポータブルスキルの見える化、経験の定義とそれとプロフェッショナルで獲得されるものとの異同の峻別、ならびにそれらの疑似体験が有効となろう。近年、中堅層のうちから、マネジメントの擬似体験として、組織を任せ、非連続な能力開発課題の設定と経験・獲得スキルの明確化、上司やメンターからの支援をセットにした能力開発施策を導入されるケースが見られるようになった。このように、プレイヤーからマネジメントという非連続なトランジションに対する事前準備を、期待役割に加えて行動やスキル、それらの変化の詳細を明らかにした上で行っていくことは極めて有用であろう。

(3)役職担当後のプロフェッショナル転換
〜人生100年時代のキャリアのあり方


各企業が直面する大きな課題として、役職担当後のプロフェッショナル転換が挙げられよう。定年延長や廃止、継続雇用の流れ、グローバル競争下でのマネジメント層の低年齢化の流れ(例:40代執行役員の輩出)など、マネジメント役職を担当した後のプロフェッショナル期間が長くなること、個々に応じた期待役割の設定を求められる場面が増加していくことも予想される。すでに各企業人事の悩みとして、「マネジメント層にとって年上のポストオフ者の扱いが困難(製造・A社)」「副部長、参事、副所長などの役職で処遇し枢要業務をシェアした結果としての中堅・若手のモラールダウン(サービス・B社)」「プロフェッショナルとして期待したいものの、技術変化が激しく適応が困難(マスコミ・C社)」などの声が多く聞かれるようになり、対応が求められている状況であるといえる。

これらの状況に対して、まずプロフェッショナルの役割と求められる能力を明確化することが必要であろう。特に、社外でも通用する高度な専門性を有する者としてプロフェッショナルを定め、そこに向かう過程としてエキスパートを位置づけていくことが重要である。社内資格ならびに賃金移行を先に考えた結果、プロフェッショナルの量産につながってしまったという事態は避けなければならない。ここでは、あくまで役割としてのプロフェッショナルやエキスパートを明確に定め、求められる能力や行動・スキル、経験を明らかにしていくことが先決である。

その上で、「役職を外れる」ことに伴うモラールダウンの解消に向けては、本人側のマインドセット形成が期待される。これには、時を遡り、マネジメント任用時からのマインドセットの形成が必要となる。具体的には、

●マネジメントもプロフェッショナルも役割の1つで相互に転換し合うことは当たり前のことである
●それぞれの役割を果たすためには、それぞれの段階(ラダー)を登ることが期待される
●環境変化による専門性の変化が起これば、異なる専門性領域が定義され、そこの段階(ラダー)に登り直すことが発生する

といったことの合意がなされることであろう。特にこれまで、役職定年まではそこにとどまることができる、とされていたマネジメント職については、個々の状況に応じたマネジメント/プロフェッショナル間の選択が定期的に発生するものであるとの認識を合意することが期待される。結果として、ある一定期間(例えば、中期経営計画期間)においてマネジメントとして何を成し遂げるのかを改めて問うていくことになる。長い人生、社会貢献や地域活動、趣味などマネジメントの能力が求められる場面は多い。マネジメントをプレイヤー時代の成果の褒章ではなく、役割の1つとして改めて定義し、本人のキャリアや人生のなかでの意味をもたせていくことが求められる。

最後に

ここまで企業内のトランジションの重要性と重要な3つの転換点と具体的な打ち手について論を進めてきた。トランジションをデザインすることは、評価や格付けのみならず、役割や能力定義を育成・能力開発に向けて再定義し、HRM施策と人材開発(HRD)領域をつないでいく活動であるといえる。各社の人材力強化施策の立案、個人のキャリア開発に向けて、「トランジション・デザイン・モデル2.0」がお役に立てれば幸いである。

※「トランジション・デザイン・モデル2.0」は、小社インハウス型研修・組織開発ソリューションを提供させていただいている企業に対して、営業担当を通じてご案内しております。


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.51 特集2「成長につながる“トランジション”をデザインする」より抜粋・一部修正したものである。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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