連載・コラム
「働く」ことについてのこれまでとこれから 第11回
不安だらけに見える未来だからこそ、面白い(未来の労働)【中編】
- 公開日:2019/08/26
- 更新日:2024/05/28
本連載は、これまでに「狩猟採集民社会の労働」「江戸時代の労働」「近代以後の労働」そして「現代の労働観」を扱ってきました。ここからは、未来の「働く」について考えていきたいと思います。
◆前回はこちら
未来の働き
「これまでの働き方に対する不満」と「未来に起こりそうなこと」を念頭に置きながら、未来の働き方について、述べていきたいと思います。ここでの未来は、10年先、つまり2030年頃の日本を想定しています。いくつかのものは「そうなるだろう」という予測です。一方で、いくつかのものは「そうなるといいな」あるいは「そうなるように頑張りましょう」という願望です。
弊社で、2013年に「2030年の『働く』を考える」というプロジェクトを立ち上げました。文字通り、未来の働き方を考えるプロジェクトで、学者、政府、民間企業の実務者やシンクタンクの有識者の方々に話を伺い、未来についてこれまで5年以上議論を重ねてきました ※1。
その議論のなかで、分かってきたことがあります。それは、未来予測というのは、とても難しいということです。経済の専門家に、未来の経済に関する話を聞いても、2020年以降景気が悪くなるという話もあれば、良くなるという話もあります。予測はさまざまです。働き方や雇用慣行は、景気に依存します。つまり、一般に、景気が良くなれば人は不足気味になり、個人の思惑が働き方に反映しやすくなります。一方で、景気が悪くなれば、個人の思惑よりも企業側の論理が強くなります。働き方の土台になる経済状況も予測できないということになれば、未来の働き方を予測するということは、かなり難しい作業になります。
よって、単純に未来の働き方を予測するというよりも、働く個人にとって、どういう働き方がいいのかを考えた方がいいと思うようになってきました。そういう観点で、予測に、願望を加え未来の働き方について述べていきたいと思います。
未来の働き方1 80歳まで働く
前述したように、平均寿命は伸びています。医療の発達により、健康寿命も伸びていくでしょう。それにともない、社会保障費が増大していくことも予想されています。社会保障費の内訳は、年金、医療費、生活保護費などですが、高齢者に関するものが多くを占めており、高齢化にともなって、増大していきます。社会保障費は、2017年に120兆円であったものが、2025年には140兆円、2040年には190兆円になるという予測です ※2。
65歳以上の老年人口は、2010年2900万人から2030年3700万人に急増しますが、生産年齢人口(15~64歳人口)は、2010年8100万人から2030年6800万人と激減します ※3。社会保障費を使う人は増え、支える人が減っていきます。それは、支え手の負担が大きくなることを意味します。ゆえに、政府としては「生涯現役社会」を掲げて、なるべく長い期間働くことを奨励しています。
高齢者の働く場所が十分にあるのかという課題はあるものの、個人としては長い期間働く覚悟が必要になってきます。60歳あるいは65歳まで働けばいいと思っていたのが、70歳あるいは80歳まで働かなければいけないということになるからです。
ここでは、「80歳まで働く」ということを考えたらどうでしょうかと提案します。歴史を振り返ると、狩猟採集民社会でも江戸時代の農民でも、働ける限り、働いていました。働かなければ、家族や所属している共同体に負担がかかるわけですから、それを減らそうと思えば、生涯働くというのが一般的でした。
日本の国民年金のスタートは1961年です。そのことを考えると、定年があって、そのあとは年金で暮らすという生活の歴史は、ここ50~60年の出来事です。あらためて、「80歳まで働く」ということを前提として物事を考えていくのがいいのではないかと思います。
働くのはしんどいので、80歳ぐらいまで働くのであれば、無理することなく働き、働くことが楽しくなるように設計し直していくことが求められていると思います。また、長い期間、全力で働き続けることも難しいと思われます。よって、全力で働く期間もあれば、休む期間もあるという考え方も必要になってきます。あるいは、仕事ばかりを行うのではなく、地域活動やボランティア活動、趣味やスクールなど、そのほかの活動も充実させるという視点もあるでしょう。
長い期間働くということには、経済的な基盤という観点だけでなく、つながりを維持するという観点もあります。OECDの調査によると、日本人の男性は、世界でも最も孤独といわれています。常日頃、話をする友人や仲間を持たない人の割合が他国と比べて、きわめて高くなっているためです ※4。
仕事をすることで、一緒に働く仲間などとつながりを保つことができます。そういう意味でも、80歳まで働くことならびに80歳まで働くことを前提とした労働市場の整備や意識の切り替えを推奨します。
未来の働き方2 45歳定年
前述しましたが、技術は指数関数的に進展しています。今までも進展してきましたが、今後は、それ以上のスピードで進展することが予想されています。
未来の働き方1で述べたように、私たちは長い期間働かなけれ
ばいけなくなるでしょう。一方で、仕事内容は変化し、消滅することがあります。つまり、ずっと同じ仕事を続けることは難しく、キャリアの途中で、職を変えていくことが求められます。セカンドキャリア、サードキャリアが当たり前の時代になっていきます。知識やスキルも陳腐化していくので、生涯にわたって、学ぶことが求められます。場合によっては、仕事を中断して、学び直しのためにスクールに通うことが必要となってきます。
現時点では、高年齢者雇用安定法に基づき、企業は希望者全員を65歳まで雇用するよう義務付けられています。政府は、この法律を再考しており、70歳まで働けるようにするために、雇用を70歳までに延長するだけでなく、「他企業への再就職支援」「フリーランスで働くための資金提供」「起業支援」「NPO活動などへの資金提供」を努力義務として取り組むよう定めた内容になっています ※5。政府は雇用制度と併せて年金制度も見直す予定になっており、公的年金の受給開始年齢を70歳超も選べるようにしようとしています。
国の社会保障費の負担が大きくなっていきますので、そうしないと国の財政が回らないという側面があります。しかしながら、70歳まで雇用するとなると企業の負担も大きくなりますし、個人としても65歳からのキャリアチェンジが現実的なのか考える必要があるでしょう。
技術の進展のスピードを考えると、企業は安定的に収益を上げ続けることが、ますます困難になるでしょう。ビジネス転換も必要になります。その際に、雇用保障をすることは難しくなります。そうすると、企業としては、従業員一人ひとりに対して45歳ぐらいで、雇用を継続していくのか、社外への転出を支援していくのか、話をしていくことが望ましいと思われます。
個人としても、変わっていく仕事内容に対して、知識やスキルを学び続けていく必要がありますので、働き始めて20年、45歳ぐらいで、その後のキャリア人生を考え、その企業で仕事を続けていくのか、転職も含めて考える機会を持つというのが現実的だと思われます。その際には、社内か社外かの二者択一ではなく、副業という形で試しながら、キャリアを考えていくというやり方もあります。その方がリスクが少なく、円滑なキャリアチェンジができると考えられます。
未来の働き方3 会社の仕事に合わせるのではなく、個人に合った仕事から考える
多くの会社で、副業を認める方向で動いています。会社の思惑は、さまざまです。従業員一人ひとりに応じた仕事を、長い期間十分に提供できないことが予想されるので、副業の奨励に踏み切っている会社もあります。一方で、社外の仕事をすることで、会社のなかで得られない知識やスキルが培われることを期待して、副業を奨励している会社もあります。
高齢者用のオムツの開発を担当する社員が高齢者施設で介護の仕事に就くことで、商品の課題や改善点を見つけることにつながります。あるいは、人事担当者が、副業で他企業の人事を行うことで、自社の仕事だけでは気がつかないことや他社の知見が自社で生かせるといったことが起こっています。
個人からすると、自分を成長させる機会が1つの会社のなかになければ、社外を含めて検討することは理にかなっています。また、自分を100%生かせる仕事が社内になければ、社外の仕事を行うことでその機会を増やせます。さらには、人生100年時代において、生涯1つの会社に依存することはリスクがあり、リスク分散という観点で、副業が選択できる自由を獲得しておきたいと願うことは当然だと考えられます。
つまり、これまでは1人1社が当たり前でしたが、これからは1人で複数の会社に勤務している方が、個人にとっても会社にとっても社会にとっても良いことだといえるでしょう。もちろん労働時間管理や残業代など、さまざまな問題はありますが、政府としても柔軟に考えていく方向です ※6。
未来の働き方4 1日6時間、週3日勤務
前回のコラムで触れましたが、経済学者のジョン・メイナード・ケインズは、1930年に「孫の世代の経済的可能性」というエッセイを発表しました ※7。同エッセイは、1928年ケンブリッジ大学の学生に向けて行った講演をまとめたものでした。
そのエッセイのなかで、ケインズは100年後の経済予測を行っています。
「100年以内に、経済的な問題は解決する」と。
ここでの経済的な問題が解決されるということは、衣食住で悩まされ、健全な暮らしができないことから解放されることです。つまり、全世界の人が生きていく上での最低限の富が満たされるということです。その際には、多くても1日3時間、週15時間働けば、経済的な問題はなくなるという主旨の予測も行いました。
予測は当たったのでしょうか。
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次回は、未来の働き方の続きを取り上げた後編をお届けします。
※1 議論の一部は、弊社HP内(https://www.recruit-ms.co.jp/research/2030/)に掲載されています。
※2 内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省(2018)「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」
※3 総務省「国勢調査」
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」
※4 OECD“Women and Men in OECD Countries”
※5 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44828520V10C19A5MM8000/
※6 厚生労働省(2019)「『副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会』報告書(案)」
※7 J・M・ケインズ(2010)『ケインズ説得論集』(山岡洋一訳)日本経済新聞出版社
バックナンバー
第1回 「働く」という概念が変わっていく
第2回 食うために働き、働くために食って寝る(狩猟採集民社会の労働)【前編】
第3回 食うために働き、働くために食って寝る(狩猟採集民社会の労働)【後編】
第4回 利己的な勤勉性(江戸時代の労働)【前編】
第5回 利己的な勤勉性(江戸時代の労働)【後編】
第6回 労働中心の時代(近代以後の労働)【前編】
第7回 労働中心の時代(近代以後の労働)【後編】
第8回 統計資料から見た現代の労働観【前編】
第9回 統計資料から見た現代の労働観【後編】
第10回 不安だらけに見える未来だからこそ、面白い(未来の労働)【前編】
執筆者
技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
主幹研究員
古野 庸一
1987年東京大学工学部卒業後、株式会社リクルートに入社 南カリフォルニア大学でMBA取得 キャリア開発に関する事業開発、NPOキャリアカウンセリング協会設立に参画する一方で、ワークス研究所にてリーダーシップ開発、キャリア開発研究に従事
2009年より組織行動研究所所長、2024年より現職
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