「働く」ことについてのこれまでとこれから 第8回 統計資料から見た現代の労働観【前編】

執筆者情報
組織行動研究所
所長
古野 庸一

ここまでの連載では、近代までの労働について考察してきました。狩猟採集民社会における労働、江戸時代の労働、近代の労働の実態を探ることによって、これからの働き方を考えてきました。

今回は、現代の労働観を扱います。私たちの労働観は、この数十年の間に、どのように推移してきたのでしょうか。そのような推移を見ることによって、これからの働き方を考えていこうと思います。


働く目的:お金以外の目的は何か

まず、取り上げたいのは「働く」目的です。

内閣府『国民生活に関する世論調査』によると、「お金を得るために働く」と答えている人は5割から6割の間で推移しています。次に「生きがいを見つけるために働く」が約2割で「社会の一員として、務めを果たすために働く」「自分の才能や能力を発揮するために働く」が続きます。この傾向は、2000年代に入ってあまり変わっていません(図表1)。

その前はどうだったのでしょうか。内閣府『国民生活に関する世論調査』では、2001年より前には、働く目的を聞いている項目がないため、同じ内閣府の調査である、『勤労意識に関する世論調査』を見てみましょう。すると、やはり「お金を得る」ためにが最も多く、1982年56.7%、92年55.3%と5割を超えています(図表2)。1980年代から今に至るまで、働く目的は「お金を得る」ためと答える人が半数以上いるといえます。それは、おそらく、働けば働くほど経済的に豊かになって、生活水準を高めることを知った江戸時代の頃から、変わらないと考えられます。働く目的は、仕事を楽しむことというよりも、働かなければ食べることも、いい生活を送ることもできないからといえるでしょう。

しかしながら、理想の仕事という質問になると、必ずしも「お金」ではありません。NHK『「日本人の意識」調査』では、理想の仕事は「高い収入が得られる仕事」ではありません。それよりも「仲間と楽しく働ける仕事」がいいと答えています(図表3)。

新入社員の働く目的は、日本人全体の働く目的とは、多少異なっています(図表4)。
「経済的に豊かな生活を送りたい」よりも「楽しい生活をしたい」の方が上位にきています。2000年代に入ってから、その傾向はより顕著になっています。経済的に豊かになれば、楽しい生活を送れる選択肢は増えます。しかしながら、経済的に豊かになっても、労働時間が長かったり、仕事がきつかったり、面白くなかったりすれば、楽しい生活ができるとは限りません。経済的に豊かである方がいいが、それよりも仕事生活を含めて生活全体が楽しい方がいいと考えるようになったのではないでしょうか。単に経済的に豊かになりたいというよりは、それ以外の面も含めて豊かになりたいという意味合いで、仕事に対する考え方を表明していると考えられます。

注目すべき動きとして、「社会のために役に立ちたい」と回答している新入社員が2000年代に入って急増していることが挙げられます。他の調査も見てみましょう。内閣府『社会意識に関する世論調査』に、「国民は、『国や社会のことにもっと目を向けるべきだ』という意見と、『個人生活の充実をもっと重視すべきだ』という意見がありますが、あなたのお考えは,このうちどちらの意見に近いですか」という質問がありますが、「国・社会志向」は2000年代になって増加しています。1980年代には3割台だった「国・社会志向」は、2000年代に入って、5割を突破しています。

同調査では、「日頃、社会の一員として、何か社会のために役に立ちたいと思っていますか」という社会貢献意識も聞いています。こちらの方も、1980年代には、4割程度だった貢献意識が、2000年代に入って7割近くになっています。ここ30年余りで、社会貢献意識を持つ人が明らかに増えています。

なぜ急増したのでしょうか。
物質的に豊かになり、衣食住に関しては安価にいいものが手に入るようになり、それほど稼がなくても生きていける時代になりました。稼ぐよりも社会にあるさまざまな問題を解決する方が、働く意味があるのではと思ったのかもしれません。

あるいは、高度経済成長期を支えた父母の生き方を見て、単に経済的に豊かになるために働いてもいいことはないと悟った。あるいは、小学校の頃から、環境問題や貧民問題、格差問題などの教育が行われ、社会をよくしたいという若者が増えたとも考えられます。1998年にNPO法(特定非営利活動促進法)が施行され、社会貢献意識に目覚める若者が増えたとも考えられます。

さまざまな要因と解釈が考えられますが、経済的に豊かになるよりも社会そのものがよくなることに、働く意味があると考える人が昔より増えてきたということです。ある意味、「傍(はた)を楽(らく)にする」という「働く」本来の意味合いに回帰したともいえるかもしれません。

仕事の中心性

次に、仕事の中心性を見てみましょう。前回までの連載に書いたとおり、江戸時代から近代にかけて、労働時間は長くなっていったと考えられます。休日も労働のための休息であり、生活全体に対して仕事の割合が非常に高い生活を数百年も続けてきました。西洋に比べて、日本では、仕事そのものは悪ではなく、修行の場であり、共同体を形成するものであり、尊ぶべきものとして捉えられる傾向がありました。勤勉に働くことは美徳として奨励され、いい意味で、仕事と生活が渾然一体となっており、生活のなかに仕事が浸潤していたといえるでしょう。

一方で、現代の日本はどうでしょうか。他国と比較して見てみましょう。

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次回は、仕事の満足度などを取り上げた後編をお届けします。

バックナンバー第1回 「働く」という概念が変わっていく
第2回 食うために働き、働くために食って寝る(狩猟採集民社会の労働)【前編】
第3回 食うために働き、働くために食って寝る(狩猟採集民社会の労働)【後編】
第4回 利己的な勤勉性(江戸時代の労働)【前編】
第5回 利己的な勤勉性(江戸時代の労働)【後編】
第6回 労働中心の時代(近代以後の労働)【前編】
第7回 労働中心の時代(近代以後の労働)【後編】

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