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「働く」ことについてのこれまでとこれから 第10回

不安だらけに見える未来だからこそ、面白い(未来の労働)【前編】

  • 公開日:2019/08/19
  • 更新日:2024/05/28
不安だらけに見える未来だからこそ、面白い(未来の労働)【前編】

本連載は、これまでに「狩猟採集民社会の労働」「江戸時代の労働」「近代以後の労働」そして「現代の労働観」を扱ってきました。ここからは、未来の「働く」について考えていきたいと思います。

「新しい働き方」の勃興
これまでの働き方に対する不満
未来に起こりそうなこと

「新しい働き方」の勃興

ここ数年、「働き方改革」あるいは「新しい働き方」という形でさまざまな働き方が注目されています。そのような「新しい働き方」の勃興は、何が要因になっているのでしょうか。

その要因は、大きく2つに分けられると考えられます。1つは、これまでの働き方に対する不満や問題、もう1つは、未来に起こりそうなことがベースになっています。

「新しい働き方」の勃興

これまでの働き方に対する不満

これまでの働き方に対する不満や問題の話から始めてみましょう。
まず挙げられるのは、長時間労働です。長時間労働は、メンタルヘルス疾患や脳・心臓疾患などの原因ともなっており、心身に悪影響を及ぼすことが、多くの研究で明らかにされています。また、職場に長時間拘束されるために、家事や育児や介護など、社外での活動が十分にできないという問題もあります。この問題は、個人だけでなく、離職や休職という形で組織側にも影響を及ぼすことになります。そのようなことを背景に、働き方改革においてまず手をつける問題として、長時間労働が扱われています。

次に、職住分離の問題があります。職住が分離しているために、家事・育児・介護に取り組みにくいということがあります。また、職住が離れていれば、通勤する必要性も生じます。通勤そのものが苦痛ということもありますし、通勤に時間が取られるということも起きます。そのような問題から、在宅勤務やサテライトオフィスなどの施策が検討され、実際に行われています。

3つめに、コミュニティ不足の問題があります。かつて会社は、コミュニティを提供することができました。会社は雇用を保証し、安心できるコミュニティを提供してきました。しかしながら、激変する環境において、会社がそのようなコミュニティを提供することは難しくなってきています。そうすると、会社の外でのコミュニティの重要度が増してきます。家族と過ごす時間、地域活動を行う時間、趣味やスクールでの時間が貴重になってきます。いずれにしても、会社以外の居心地のいい場所が必要になってきています。

4つめに、1つの会社に依存する怖さ、あるいは個人の可能性を1つの会社に拘束することで生じる問題があります。東京商工リサーチの調査によると、2017年に倒産した企業の平均寿命は23.5年でした ※1。人間よりも会社の寿命の方が短く、1つの会社に依存できないことを示唆しています。また、1人の個人が持つ能力は、1つの企業にとどまっていては十分に発揮できない可能性もあります。そのようなことを背景に、2つ以上の組織で働くこと、つまり「マルチプルワーク」「パラレルワーク」「2枚目の名刺」「副業を行うこと」「インディペンデント・コントラクター」という働き方が注目を集めています。

5つめに、都市化に対する反作用のような動きがあります。東京のような都市は便利です。仕事はたくさんありますし、買い物するところも豊富にあります。おいしいお店も揃っていますし、図書館、美術館、博物館、音楽ホール、体育館など文化・体育施設も豊富にあります。また、楽しいイベントも目白押しです。刺激がたくさんあります。

しかし、刺激がありすぎることが苦痛になることもあります。自然を感じたいという欲求もあります。よって、都会と地方の2拠点に居住地を持つ「デュワラー」や、山や海辺の町でテレワークすることや旅先で仕事をする「ワーケーション」が広がりつつあります。「ワーケーション」は、「ワーク」と「バケーション」を合わせた造語です。企業としては、多少仕事をしてもらうことになっても、長期休暇の取得促進に使えますし、個人としても、1つの外せない会議を理由に、長期旅行をあきらめるということを回避できるため、普及し始めています。

6つめに、仕事のストレスの問題があります。技術革新にともない、仕事そのものが複雑化し、テンポも早くなり、不確かさが増しています。そのために、ストレスを感じる人は増えています。また、サービス産業に従事する人は増えており、感情労働 ※2を行っている人の割合も増加しています。感情労働は、接客のために笑顔をつくるなどして、自分の感情を誘発したり抑制したりすることが求められる労働です。そのためにストレスは増加し、うつ病などメンタルヘルス不調を訴える人も増えています。その対処として、個人としても組織としても、より自然に、より「自分らしく」働くことに注目が集まっています。

いずれの問題も、働く上で組織や顧客の都合に合わせなければならないという暗黙のルールから発生しているように思えます。そのようなルールに対して「もっと人間らしく生活したい」「もっと自己実現を図りたい」「もっと社会とつながっていたい」という欲求から、働き方の改革や新しい働き方の提唱につながっているように見えます。

未来に起こりそうなこと

新しい働き方が勃興している要因の後者、「未来に起こりそうなこと」について触れてみたいと思います。

未来に起こりそうなことの1つめは、平均寿命の伸びです(図表1)。1950年に60歳程度だった平均寿命は、現在では80歳を超えています。この60年余りで20歳寿命が伸びたことになります。1950年代の定年が55歳であったことを考えると、現在の定年は75歳であってもおかしくありません。長くなった寿命にどう対応していくのかという問題は、個人にとっても社会にとっても大きな問題になってきています。

図表1 日本人の平均寿命の推移と推計

2つめは、年少人口と生産年齢人口の減少です(図表2)。
0歳から14歳までを若年人口、15歳から64歳の人口を生産年齢人口といいますが、年少人口は1980年代をピークに、生産年齢人口は1990年代をピークにすでに減少し始めています。一方で、65歳以上の老年人口は増えています。このことは、労働者が減少するという問題と共に、年金で老年人口を支えていくことが難しくなっていくことを意味しています。年金受給開始年齢の後ろ倒しあるいは高齢になっても働くことが当たり前になっていくことが予想されます。

図表2 年齢3区分別人口の推移と推計

3つめは、都市化の進行です。都市化が進んでいるために、その反作用として地方で働きたいと考える人も増えていると前述しました。その実態として、三大都市圏に住む人の割合は増えており、今後も増え続けると政府は予測しています(図表3)。これは、今までのトレンドの延長で予測していますが、地方創生の施策が行われることで、このトレンドが変わる可能性も考えられます。いずれにしても、働き方に影響を及ぼすトレンドであると見ています。

図表3 日本の総人口に占める三大都市圏の割合

4つめは、非正規社員の増加です。生産年齢人口の減少にともない、社会的には人材不足感があり、非正規社員の正社員化も進んでいます。しかしながら、統計データを見てみると、非正規社員は増えています(図表4)。特に65歳以上になると、4人に3人が非正規で働いており、高齢者は、パート・アルバイト・嘱託など非正規での雇用が一般的であると考えられます。65歳以上の人口の割合が増えることを加味すると、全体として非正規社員は、まだまだ増えるのではないかと予想されます。

図表4 非正規社員の割合

5つめは、共働き世帯の増加です。1980年代までは、専業主婦世帯が主流でした。しかし、雇用機会均等法の整備など、女性の働く機会が増えるにしたがって、社会全体の意識や、雇用慣行なども変化しました。それにより、出産、育児などのライフイベントがあったとしても働き続ける女性が増え、共働き世帯数は増加していきました(図表5)。現在では、共働き世帯数は専業主婦世帯数の2倍になっており、もはや主流です。企業も政府も仕事と家庭の両立支援を推進していること、雇用の不安、老後の不安が増していることを考えると、共働き世帯の増加は、将来にわたって進行していくトレンドであるといえるでしょう。

図表5 専業主婦・共働き世帯数の推移

6つめは、グローバル化の進展です。製造業に関して、海外売上高比率、海外生産比率、海外収益比率のいずれも増加傾向です(図表6)。国内人口の減少にともない、国内市場が縮小していくことを踏まえ、企業は海外展開していきました。この傾向も、今後、継続していくことが予想されます。

図表6 海外売上高比率、海外生産比率、海外収益比率の推移

企業のグローバル化が進んでいくと、海外で行われている雇用慣行や働き方から受ける影響が大きくなると思われます。諸外国と比較して日本の労働時間が長ければ、日本でもその見直しが行われます。有休取得日数が少なければ、より取得させるような動きになってきます。女性の活躍度が低ければ、より活躍できるような仕組みが整ってきます。

諸外国に比べてみると、日本が特殊と思われ、今後、変化していくのではないかと考えられる働き方は、長時間労働、有休取得、女性活躍以外にもあります。それは、「ワークエンゲージメント」と「ワーク・ライフ・バランス施策」と「地域、ボランティア活動の少なさ」です。それぞれ見てみましょう。

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次回は、未来の働き方などを取り上げた中編をお届けします。


※1 東京商工リサーチ(2017)「業歴30年以上の『老舗』企業倒産」調査
※2 「感情労働」は、アメリカの社会学者のアーリー・ホックシールドが提唱した概念

執筆者

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技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
主幹研究員

古野 庸一

1987年東京大学工学部卒業後、株式会社リクルートに入社 南カリフォルニア大学でMBA取得 キャリア開発に関する事業開発、NPOキャリアカウンセリング協会設立に参画する一方で、ワークス研究所にてリーダーシップ開発、キャリア開発研究に従事
2009年より組織行動研究所所長、2024年より現職

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