連載・コラム
コミュニケーションは人間の永遠の課題
苦手な人をなくす 〜実践としてのソーシャルスタイル理論〜
- 公開日:2006/05/01
- 更新日:2025/03/27

私たちはみな、誰もが人と人との関係性の中で生きています。その関係はコミュニケーション次第で、良くもなれば悪くもなる。コミュニケーションは、人間の永遠の課題といえるのかもしれません。どうすればうまくゆくのか? 誰とでもうまく付き合えるスキルは? 今回はソーシャルスタイル理論を活用した対人スキル向上研修(STAR)のマスタートレーナーに、話を聞きました。
あなたの隣は、どんな人?
私はトレーナーとして年間およそ1400人、これまで1万人を超えるビジネスパーソンの皆さんとお会いしてきましたが、その中で思うのは、人は本当に十人十色だということ。目標に対するアプローチひとつとってみても、いろんなタイプの人がいることがわかります。例えば、
1.問題解決に必要とされるデータを収集・分析して成功の可能性を慎重に考える、「まったく理屈っぽいんだから」と言われやすいタイプ。
2.それに対して「とにかく目標達成が最優先」、そのためにはゴールまで常に最短距離を走り、回りくどいやり方には耐えられないというタイプ。
3.逆に、「仕事をうまく進めていくためには波風立てないことがいちばん。周りの人たちと協調して、合意の上でなくっちゃ」というタイプ。
4.そうかと思えば、とにかく明るく元気で、知らぬ間に周りの人たちを巻き込んでしまうようなタイプ。
どうですか? このコラムをお読みの皆さんにも思い当たるところがあるのでは? 「そうそう、こういうタイプとはウマが合うんだよなぁ」「いやー、このタイプは苦手なんだよね」。ひょっとすると、具体的な顔を思い浮かべている人もいるかもしれませんね。上司や部下、取引先のお客様をはじめたくさんの人と接点を持たなければならないビジネスの世界では、いつもウマの合う人とだけ仕事ができるわけではありませんし、苦手だからといって避けていてはチャンスを逸し、ビジネス自体に悪影響を及ぼすことにもなりかねません。
私が担当しているSTARは対人スキル向上のための研修ですが、その目指すところを端的に言うなら、苦手な人をなくし、どんなタイプの人とも気持ちよくコミュニケーションができるようにしようということです。
自分を知る、相手を知る
STARは、米国で生み出されたソーシャルスタイル理論という考え方をベースにしています。私たち一人ひとりには個性があり、同じ人間は存在しませんが、行動を正しく観察すると、一定の傾向が見えてきます。この理論はそうした傾向を4つに類型化し、その違いを認識することによってコミュニケーションの向上を図っていこうというものです。冒頭で紹介した目標へのアプローチの仕方は、これら4つのソーシャルスタイルの特徴の一つを表していて、紹介した順に1【アナリティカル】、 2【ドライビング】、 3【エミアブル】、 4【エクスプレッシブ】と呼んでいます。

研修の最初のステップは、まず自分のソーシャルスタイルを知る、つまり行動傾向を知ることから始まります。行動傾向というのは、簡単に言うと「クセ」です。クセは無意識でしていることが多く、自分ではなかなか気付かないものですが、周りにいる人から客観的なサーベイをとることによって理解していきます。私自身のことを例にして話をしますと、ふだんの私は非常におしゃべりで、熱くなってくると手振り身振りが入ってくる人間(エクスプレッシブ)です。じつはこれもクセなんですね。大切なのは、クセは強みにもなり弱みにもなるということ。相手や状況によって、私のことを「元気でいいなぁ」と思ってくれる人もいれば、「うっとうしいヤツだなぁ」と思う人もいるわけです。自分のクセが弱みになる相手や状況では、行動傾向を抑える必要があります。
自分を知ったら、今度は相手を知るステップに入ります。さまざまな行動傾向を持つ人物が登場するビデオを見ながら、4つのスタイルのどれに当てはまるかを学習していきます。自分と相手のソーシャルスタイルがわかると、これまでなぜコミュニケーションがうまくとれなかったかがわかってきます。「なるほど、あの人はドライビングなのか。辛辣な人だと思っていたけれど、それは事実をストレートに伝えようとしていただけなんだな」「あの人は雑談ばかりしていると思っていたら、エミアブルかぁ。物事がなかなか前に進まなくて心配していたけれど、信頼関係を築くための方法だったんだな」といったようなことが、だんだんとわかってくるわけです。
ソーシャルスタイルを実践に活かす
ソーシャルスタイルを実際のコミュニケーションにどう活かすか、いろんな相手との対応性をどう高めていけるか…。じつは、これはそう簡単なことではありません。なぜなら慣れ親しんだ行動傾向を変えるのは、ものすごくストレスがかかることだからです。例えば、話すことによって自分のペースをつくっていくような人にとっては、わずか2秒程度の沈黙がとても長い時間に感じられる。逆に沈黙が多い思考タイプの人は、話すことが苦痛だったりします。でも、優れたビジネスパーソンはこれができる。いくつかのコミュニケーションのパターンを持ち、相手のタイプに合わせた対応性を発揮しています。
対応性というのは、簡単に言うと相手に対する気配りや気遣いです。あるいは、相手をできるだけ緊張させない場や雰囲気作りと言い換えてもいいかもしれません。緊張感は人と人との関係作りにおいて最大の阻害要因だといわれますが、ほとんどの人は「相手を緊張させている」ことに気付いていません。講師である私であっても、研修時やコミュニケーションする相手がいる時は、つねに相手の発言や顔に浮かぶ表情、仕草、態度を気にかけています。それらはすべて自分への「サイン」なのです。さまざまなサインをキャッチしながら、「まずい、ちょっとしゃべりすぎているな」と思ったら、黙る。あるいは、話すスピードを変える、間を空ける…。こんなふうに相手の様子をいつも自分にフィードバックして自己の行動を調節しています。難しいスキルのように感じるかもしれませんが、こうしたことを私たちは日常の中で、ごくふつうに行っています。例えば、満員電車の中でドアのそばに立っていたら駅に着いたときには自然と降りるでしょう。相手が他人であるにも関わらず。これは満員電車という状況と、自分の後ろにいる人が降りたいという気持ちを理解しているからです。冠婚葬祭にフォーマルな服装をして出かけるのも同じような状況対応だといえます。従って、対応性も日常的に行っている習慣やマナーのようなものだと思えばあまり構えずに済むかもしれませんね。
プライベートでも、ソーシャルスタイル?
STARはもともと営業力強化のためにつくられた研修プログラムですが、最近ではマネジメント層の部下育成をはじめ、コミュニケーションツールの一つとしても活用されるようになってきています。マネジメントのあり方や仕組みは、かつてとは大きく変わっていますが、上司と部下のコミュニケーションはまだまだワンパターンになっているような気がします。あるマネジャーは事実やデータ一辺倒、あるマネジャーは自分が経験したエピソードばかりといったふうに。一人ひとりの部下のソーシャルスタイルに合わせて、話す順番を変えたり、内容を変えたりするだけで、もっといいコミュニケーションが生まれてくるように思います。
さらに言うなら、ソーシャルスタイル理論やそれに基づくコミュニケーションがビジネス面での活用だけでなく、もっと世の中全般で活用されるようになったらいいと思っています。日本では人の性格やタイプというとどうしても血液型になってしまい、ソーシャルスタイルはまだまだ知られていません。私は2000年11月に、ソーシャルスタイルの本家本元である米国トラコム社のマスター資格を取得したのですが、その際、面接試験を担当した副社長に「この研修は、プライベートの世界でも活かせるのよ」と言われました。夫婦、親子、友人、恋人、いろんな関係の中で、お互いのソーシャルスタイルを知り、対応性を発揮し、高めていくことができたら、もっといい世の中になると思います。満員電車の入口で踏ん張っている人もいなくなるでしょうし、熟年離婚なども、きっと減るんじゃないでしょうか(笑)。
執筆者

人材開発トレーナー
太田 浩
1984年(株)リクルートに入社。営業職に就き、マネジャー職を含めて14年間営業に携わり、98年より(当時はリクルート、現リクルートマネジメントソリューションズ)のトレーナーとなり現在に至る。自分自身の経験も活かした営業系研修を主たる担当としている。銀行・証券・保険といった金融業界の実績が多くある。エリアとしては、北海道から九州まで日本中を駆け回っている。
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