企業事例
合言葉は「フィードバックなくして成長なし」 コンカー
「高め合う文化」を醸成するためにフィードバックを徹底
- 公開日:2025/09/01
- 更新日:2025/09/01

上司と部下が対話する1on1の普及もあり、フィードバックという対話スキルがごく日常のものとなってきたが、世の中にははるか先を行く企業がある。フィードバックを経営の根幹に据えた外資系IT企業、株式会社コンカーである。代表取締役社長の橋本祥生氏とチーフカルチャーオフィサーの田中由香氏に、その背景と現状、今後の課題を聞いた。
フィードバックを共通言語化するために全社員が研修を受講
コンカーは経費精算に代表される企業の間接業務のデジタル化をクラウドを通じて行う外資系IT企業だ。本社は米国にあり、日本法人であるコンカーは2010年に設立された。従業員数は324名(2025年6月現在、インターンや契約社員含む)である。
同社では「フィードバックなくして成長なし」「No Feedback,No Concur」といった合言葉があるほど、フィードバックというコミュニケーションが浸透している。
とはいえ、「フィードバック」の捉え方や解釈は人それぞれ異なることから、社内での共通言語化を図るため、コンカー独自の約5~6時間のフィードバック研修を全社員が受講している。チーフカルチャーオフィサーの田中由香氏が話す。「いろいろなテクニックを紹介しますが、相手の成長を願うということがその芯にあります。特徴的なのは、フィードバックを素直に受け取る力─コーチャビリティと呼んでいます─を伸ばすためのコンテンツも入っていること。耳に痛い言葉をどうやって素直に受け止めたらいいのかを教えるレッスンですね。自分からあるいは日常的にフィードバックを相手に求めることにより、自ら成長していくという内容になっています」
フィードバックといっても四六時中、ダメ出しをされるわけではない。「研修では、日常はポジティブなフィードバックを8~9割して相手との関係性を作っておき、弱点や課題を指摘するフィードバック─ギャップフィードバックと呼んでいます─をするのは全体の1割程度がいいと教えます。しかも、上司から部下への一方通行ではなく、部下から上司や同僚同士、他部門の上司、同僚、後輩といった全方向へのフィードバックを推奨しています」(田中氏)
もともとコンカーにはこうした文化はまったくなかった。前社長の三村真宗氏は、当時を数字のみを追い求める悪しき業績至上主義だったと著書『みんなのフィードバック大全』(光文社)のなかで振り返る。働きがいは顧みられず、フィードバックも希薄で、社内に不満が渦巻いていた。
これではいけないと、2013年から、働きがい重視を打ち出すと共に、フィードバックし合う文化、感謝し合う文化、教え合う文化の3つで構成される「高め合う文化」の醸成とそれに見合った人材の採用に注力したところ、会社の雰囲気が一変しただけでなく業績も改善した。「その背後には働きがいを高めれば業績や生産性も上がるはずだという仮説がありました。スキルが高くても文化や価値観に合わなければ採用しない、逆にスキルが多少低くても文化や価値観に適合すれば採用するという施策を10年ほど続けた結果、みごと仮説通りになりました」(田中氏)
フィードバック定着のためモニタリング調査を実施
フィードバックはやってやられて終わり、というわけではない。その定着のため、同社では年1回、2つの全社員対象のモニタリング調査を、いずれも2014年から実施している。
1つはフィードバック実施調査で、全方位でフィードバックが実施されているかを確認する。現社長の橋本祥生氏が話す。「単なるアンケートではありません。個別の傾向値が見えてきますので、例えばフィードバックの回数が少ない社員に対しては、増やすための指導ができます。さらにその結果も踏まえ、『MVF(Most Valuable Feedbacker)』となる管理職と一般社員が1人ずつ選出され表彰されます。いずれも部下や同僚や上司に積極的にフィードバックしている人です。物事をやりっ放しにするのではなく、結果を検証し成果を促進することで、組織のDNAまで高めていくことを当社では重視しています」
もう1つがコンストラクティブフィードバック(建設的な意見を求める)である。会社や他部門、上司の優れている点と要改善点を記入して提出する。こちらもやりっ放しではない。「例えば営業部に対するものは、営業責任者がすべて受け止め、四半期に一度の全社ミーティングで解決策や改善点を発表してもらいます」(橋本氏)
さらに、昨年1月に新社長に就任した橋本氏はタウンホールミーティングという名称で、社内の全17部門の社員、それぞれ数名から20数名と直接対話する機会を年2回設けている。「コロナ禍を機に社員同士の対話が減っていることへの配慮と、前社長の在任期間が13年という長期にわたり、その体制に慣れた社員へのケアという2つの意味があります。今後の経営の方向性などを伝えるだけではなく、基本的に質問にはすべて答えるというスタンスです。フラットな対話の場を心がけているので、時には答えづらい質問や耳の痛いフィードバックをもらうこともあります」(橋本氏)
こうしたフィードバックが十全に機能するためには、組織内に心理的安全性が担保されていなければならない。そこで活躍するのが、四半期に一度、全社で実施されるパルスチェックという記名式アンケートだ。仕事量、組織、心身、やりがいという4つのスコアと、実際の事例を答えるハラスメントチェックで構成される。これがあるからこそ、各方面への忌憚のないフィードバックが可能になっているのだ。
今後の課題はリモートワークが普及するなか、高め合う文化をどう伸ばしていくかということだと橋本氏は言う。「コンカーでは週5日のうち3日出社を推奨しています。業務の枠を超えた何げない会話がさまざまなアイディアを生み出し、成長の活力になるはずです。出社して会話してフィードバックをし合えるような環境をどう提供できるか。それを考えています」(橋本氏)
今年3月から始めたのが「巡り会い」という取り組みだ。同社は大手町に本社があるが、東京駅近くのシェアオフィスも借りている。そこに、社内の2部門が同じ日に出社して隣同士に座り、仕事をしながら、ランチをとったり、シェアオフィス側から提供されるビールを夕方に飲んだりして、交流する。次は別の部門とそれを繰り返す。高め合い、フィードバックし合うのも、顔見知りであることが前提になる。リモートワーク全盛の時代、原点を梃入れしようとしているのだ。
【text:荻野 進介 photo:平山 諭】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.79 特集1「成長と信頼につながるフィードバック」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
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