企業事例
多様な専門性を生かす現場 浜松医科大学医学部附属病院
チーム医療の鍵はアサーティブと心理的安全性にある
- 公開日:2020/01/10
- 更新日:2024/03/18

「チーム医療」とは、医師・看護師・歯科医師・薬剤師・栄養士・リハビリテーション療法士・ソーシャルワーカー・事務職員など多様な専門職が連携して、患者さん中心の医療を実現することだ。チーム医療が広まる背景に何があるのか。実現のポイントはどこにあるのか。浜松医科大学医学部附属病院 医療福祉支援センター長(特任教授) 静岡県医師会理事 小林利彦氏に伺った。
医師だけでは適正な治療法などを選択・判断できなくなった
ここ最近、日本の医療界では「チーム医療」が注目されている。小林氏は、その背景にはいくつかの理由があると語る。
1つ目の理由は、医療専門職が増えたことだ。
「私が医師になったのは35年以上前ですが、その頃の病棟には、医師・看護師・事務職員くらいしかいませんでした。しかし現在は、それに加えて薬剤師・栄養士・リハビリテーション療法士・ソーシャルワーカーなど、多種多様な専門家が関与しています」(小林氏)
2つ目に、1つ目と関係しているが、医療技術が飛躍的に発展し、病気・医薬品・治療法の数が爆発的に増えた。そのため現在は、医師だけですべての医薬品を把握して治療法などを適正に判断することができないという。「やはり急病時には、医師が強力なリーダーシップを発揮して、迅速に治療する必要があります。しかし、その後の医薬品の処方選択は薬剤師に、栄養管理手法は栄養士に任せた方がよい世の中になったのです。一昔前は、医師が全方位でリーダーとなるのが最適解でしたが、今は、時期や状況に合わせて、リーダーが適正職種に入れ替わるチーム医療が、患者さんにとって最も良いのです」(小林氏)
3つ目は「働き方改革」だ。小林氏はこう語る。
「一般企業と比べると遅れていますが、医療の世界でも働き方改革が進みつつあります。医師は全体的に働きすぎで、最低限の睡眠・休息すらとれていない医師が少なくありません。その状態を改善する必要がある。チーム医療の実現は、医師の負担を減らすためにも欠かせないことです」
どうしてもまだ医師の指示に従ってしまいがちである
しかし、小林氏によれば、全体的には、日本のチーム医療は機能しているとは言いがたいという。一丸となって患者さんに向き合うチームが増える一方で、そうなっていないチームも多いのだ。
その大きな原因は3つある。1つ目は、ほぼ全員が国家資格をもった専門家の集団だからだ。縦割り意識が強く、良いチームを結成するために必要なコミュニケーションや信頼構築をあまり得意としていないメンバーが多い傾向があるのだ。
2つ目に、業界の慣習が障壁となっているという。「医師法で、医師の指示で動くことが命じられていることもあって、医療現場では長らく、医師の指示系統のもとに皆が役割を果たすことが当たり前とされてきました。今もその風土が根強く残っています。そのため医師がトップダウンのリーダーシップを発揮すると、全員がそれぞれの専門性を主張しないまま安易に従ってしまいがちなのです」(小林氏)
3つ目に、医療現場独特の環境が影響している。
「医療現場では、1人の患者さんに対して、その場にいる専門家たちが短時間でチームを組まなくてはなりません。初対面同士がチームとなることも日常茶飯事です。これは一般企業のチームビルディングとは大きく異なる点でしょう。医療現場のメンバーには、より高いチームビルディング能力が求められているのだと思います」(小林氏)
多職種連携教育(IPE)が今後ますます重要になるだろう
では、良い医療チームを実現するにはどうしたらよいのか。小林氏は次のように考えている。
「チームづくりの基本は、やはりチェスター・バーナードの“組織成立の3要件”、すなわち共通目的・貢献意欲・意思疎通にあります。チームのビジョン・ミッション・バリューを共有し、権限委譲などのインセンティブによって貢献意欲を高め、コミュニケーションを図って信頼を構築することが必要です。チームの中心にいる医師が、このことを理解・実行することが極めて重要です」
その上で、小林氏が鍵になると考えているのが「アサーティブ」と「心理的安全性」だ。
アサーティブとは自己主張することだ。といっても、攻撃的になることではない。攻撃的にも受身的にも作為的にもならず、自分の気持ちや意見を、相手の気持ちも尊重しながら、誠実に、率直に、対等に表現することを指す。
「私なりの言葉で言えば、アサーティブとは、相手に配慮しつつ、遠慮なく正しいことを言うことです。専門家同士ですから、意見を言い合えば当然さまざまな議論が起こるでしょう。しかし、全員がアサーティブであれば、必ず議論を乗り越えて、チームとして良い方向に進むことができます。
問題は、アサーティブに言い合える状況づくりが難しいことです。先ほど触れたとおり、医師が最も偉いという意識が根強くあるからです。そこでものをいうのが、心理的安全性です。医師が“協働型リーダーシップ”を発揮しつつ、誰もが安心して意見を言える雰囲気を醸成することが極めて重要です。その上で全員が相手をリスペクトし、互いの言葉に耳を傾けるようにする。そうすれば、全員がアサーティブになれるでしょう。協働型かつアサーティブなリーダーシップを発揮できる医師が増えれば、きっと日本でもチーム医療が当たり前になります」(小林氏)
そのためには、医療界の教育プロセスに多職種を交えたグループワークを多く組み入れることが効果的だという。最近は、こうした教育を「多職種連携教育(IPE)」と呼んでいる。「IPEでは、例えば多職種のチームで、トランプを使ってできるだけ高いタワーを作るなどノンテクニカルスキルの訓練を重ねていきます。IPEは、間違いなく今後ますます重要になるでしょう。医療教育も、単に専門性だけを伸ばせばよいという世界ではなくなりつつあるのです」(小林氏)
【text:米川青馬】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.56 特集1「多様性を生かすチーム」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
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