導入事例
女子バスケチーム「デンソーアイリス」が、チーム全員で「フィロソフィーづくり」を行った
株式会社デンソー 女子バスケットボール部(デンソーアイリス)
- 公開日:2025/12/22
- 更新日:2025/12/22
事例概要
背景・課題
私たちは、2025年に「クラブフィロソフィーづくり(ミッション・ビジョン・バリューの策定)」を始めました。新加入の選手・スタッフにもチームが何を大切にするかを共有し、継承していくためには、フィロソフィーを言語化した方がよいと考えたからです。もう1つの理由は、全員が本音で語り合う機会をつくり、コミュニケーションの質と量を高めて、これまで以上にチーム一体となって2025-2026シーズンを活動したいと考えたからです。近年、Wリーグ全体の人気が高まり、各チームの力が拮抗する中で、選手・スタッフ含めたアイリス全体の力を結集して勝利を目指すことが、より重要になってきました。また、私たちは「勝利」だけでなく、その先にあるゴールや価値も見据え、チームとして成長していきたいと考えていました。
検討プロセス・実行施策
2回の「クラブフィロソフィー策定ワークショップ」を実施しました。1回目のワークショップでは、「自分自身とメンバーをよりよく知る」「アイリスらしさを共有する」という2つのテーマを取り上げ、その内容を受けて、事務局が暫定案となる「クラブフィロソフィー0.9」を策定。2回目のワークショップでは、その内容について選手、スタッフ全員で対話しました。
デンソーでも、変化の激しい時代に対応するため、個人の力だけでなく組織の力を高める「組織開発」に取り組んできました。今回のプロジェクトでは、その考え方をスポーツの現場にも応用し、フィロソフィーをつくること自体がゴールではなく、それを生み出し、体現していくチームづくりを目指しました。
成果・今後の取り組み
選手、スタッフ総勢30名が一堂に会し、全員が本音で話し合った結果、選手とスタッフの考えが想定以上に近いことを確認できました。メンバー同士が知らなかった部分を自己開示することで相互理解が深まり、チームの結束を強めるきっかけになりました。
取り組み後は選手間やスタッフ間の声かけが明らかに増え、普段のチーム活動でも意思疎通のスピードが上がったという声が聞こえてきており、コミュニケーション活性化の兆しが見えています。話し合いの中では、選手・スタッフ間で価値観や言葉の使い方にズレがあったものの、対話を重ねることで共通言語が生まれ、フィロソフィーが「自分ごと」として浸透していきました。
今後は、策定したフィロソフィーをさらに磨き上げ、2年かけてチーム全体への浸透を図ります。
背景・課題
フィロソフィーを言語化して、新加入メンバーにも共有できるようにしたかった
齋藤:私たちデンソーアイリス(以降アイリス)は、デンソーの企業チームとして1962年に創部された女子バスケットボールチームで、現在Wリーグに所属しています。私たちは、2025年にチーム全員で「クラブフィロソフィーづくり(ミッション・ビジョン・バリューの策定)」を始めました。チームに脈々と息づいていながらも漠然としていたものを、きちんと言語化していく活動です。
鈴木:私は1年ほど前に、デンソーエアリービーズ(女子バレーボールチーム)からアイリスに移ってきました。そのとき、多くの選手・スタッフにインタビューしたのですが、誰もが同じような目標や想いを語ってくれました。フィロソフィーのようなものは、すでに何となく共有されていたように思います。
齋藤:選手やスタッフがずっと同じ面々なら、フィロソフィーが漠然としたままでも皆が共通認識を持てるのかもしれません。選手やスタッフが入れ替わってもチームの目標や価値観や行動基準を共有して継承していくために、世代交代の過渡期であるこのタイミングできちんと言語化したい。私たちはそう考えました。これがフィロソフィーづくりを始めた大きな理由の1つです。
また、アイリスは企業チームですので、社員や地域に誇りを届けるチーム、バスケットボールを通じてデンソーグループの行動規範である「デンソースピリット」を体現する存在でありたい。それを再確認するためにもフィロソフィーを明確にすることが重要だと考えていました。
鈴木:例えば、チームスポーツでは、誰かが良かれと思って起こした行動が、結果的にチームに悪影響を及ぼすようなことがよく起こります。フィロソフィーがあれば、目標や価値観や行動基準を全員で揃えることができるため、そうしたことを減らせるはずだと考えました。
全員が本音で語り合う機会をつくり、コミュニケーションの質と量を高めたかった
齋藤:もう1つの理由は、会社で実施している「組織開発」をスポーツチームに取り入れて、「選手とスタッフ全員が本音で語り合う機会」をつくりたかったということです。スポーツチームは特殊な環境で、選手とスタッフが長い時間、同じ空間で密に過ごします。皆が一致団結して盛り上がり良い方向に進んでいけばいいのですが、何か歯車が1つ外れただけで、チームの空気がいきなり悪くなり、皆のモチベーションが下がるということもあり得ます。
私たちは、チーム内のコミュニケーションの質と量を高める第一歩として、全員が本音で語り合える場を用意するのが効果的だと考えました。そうすれば、何か問題が起きたときに、選手・コーチが自分たちで本音で話し合って問題を解決していけるはずです。また、私たちフロント(選手やコーチングスタッフといった競技以外のチーム経営や運営を担うスタッフやマネジメントメンバー)や会社に対して本音をぶつけやすくなるでしょう。
この取り組みは、デンソーが大切にする「人と組織の力で価値を生み出す」という考え方と深くつながっています。フィロソフィーづくりを通じて、その想いを現場で形にしていきたいと考えています。また、デンソーの人事方針「Progress」で掲げる「人×組織=提供価値」という視点を、スポーツチームの活動にも反映させたいという意味合いもありました。
検討プロセス・実行施策
フィロソフィーを組織文化として根づかせていくことが今回の目的
齋藤:今回、私たちはフィロソフィーづくりのコンサルティングとファシリテーションをリクルートマネジメントソリューションズにお願いしました。一番の理由は、フィロソフィー策定だけでなく、フィロソフィーを組織文化として根づかせるための全体サポートをしてもらえそうだと考えたからです。
今回は、フィロソフィーの策定そのものが目的ではありません。チーム全員がフィロソフィーに沿った活動を体現し、フィロソフィーを組織文化として根づかせていくことが目的です。言わば、企業の人事領域で培った組織開発の知見をスポーツチーム運営に応用するという挑戦です。浸透までを視野に入れた設計が必要なので、人事部門と連携して活動を進めることにしました。
デンソーは、これまでさまざまな形でリクルートマネジメントソリューションズの支援を受けてきました。特に、2000年代後半に実施した「デンソースピリット」のグローバルな浸透活動ではリクルートマネジメントソリューションズの支援が大きく貢献したと実感しています。その経験も含めて、リクルートマネジメントソリューションズが実効性にこだわること、フィロソフィーづくりや対話の場づくりに関するリソースと知見を十分に持っていることを確認していたので、私たちの目的を深く理解し、適切に支援してくれるパートナーになってもらえると考えました。
鈴木:私は最初のミーティングで、リクルートマネジメントソリューションズの皆さんが「フィロソフィーの浸透まで見据えて取り組まないと、フィロソフィーが形骸化します」と話してくれたときに、皆さんと一緒にやっていきたいと思いました。
2回のミーティングを実施。全員で対話を重ねて、暫定案の「クラブフィロソフィー0.9」を策定した

齋藤:私たちは、リクルートマネジメントソリューションズの協力のもと、2025年に選手、スタッフが参加する2回の「クラブフィロソフィー策定ワークショップ」を実施しました。
1回目は、「自分自身とメンバーをよりよく知る」「アイリスらしさを共有する」という2つのテーマのもとで行いました。選手とスタッフを分け、選手同士、スタッフ同士で話してもらいました。
鈴木:前半は、全員が事前に受検していた「SPI3 for Employees」の結果を開示し合ったり、「相互インタビュー」をしたりして、お互いのことをよりよく知ってもらう時間にしました。後半は「チームのありたい状態」や「その状態に向けてやりたいこと」などを考えてもらい、全員で共有していきました。個人ワーク、4人1組のグループワーク、全員共有の時間を行き来しながら「アイリスらしさとは何か?」を皆で話し合いました。
この活動は、互いを理解し、アイリスらしさを言語化し、日々の行動に落とし込むためのものです。なぜやるのかを全員で確認しながら進めていきました。また、ワークショップは、選手とスタッフが本音で語り合い、共通の価値観を見つける場として設計しました。
齋藤:フィロソフィー案については、私たちフロントが主な選手やスタッフ、OG、会社のトップ、社内で応援してくれている皆さんにインタビューを重ねて得た声と、1回目のワークショップの内容を反映して、暫定案として「クラブフィロソフィー0.9」を策定しました。そのうえで、2回目のワークショップでクラブフィロソフィー0.9を発表して、その内容について選手・スタッフ全員で話し合いました。
成果・今後の取り組み
本音で話し合った結果、選手とスタッフの考えが近いことを確認できた
齋藤:ワークショップでは、先輩選手・スタッフがリーダーシップを発揮しながらも、リクルートマネジメントソリューションズのファシリテーションにより若手選手も積極的に意見を出してくれました。「SPI3 for Employees」の結果をもとに自分を語るセッションでは、入団3年目の平賀真帆選手が「中学時代にキャプテンを務めて苦労した」という意外な一面を話すなど、今までメンバー同士が知らなかった部分を自己開示することで相互理解が深まったようでした。こうしたやり取りが、チームの結束を強めるきっかけになると感じています。
2回のワークショップの後、私たちは選手・スタッフ全員とシーズン前の個別面談を行いましたが、チームの支柱である髙田真希選手をはじめ、多くの選手が今回の取り組みをポジティブに捉えてくれていました。「コミュニケーションが大事だと分かった」「本音を話し合うことが大事だと分かった」など、今回の場の意味や意義を理解してくれた選手が何人もいて、嬉しく思いました。
それから、多くの選手・スタッフが面談のなかで、「挑戦と継続」というキーワードを語ってくれました。また、「挑戦と継続」の基盤は、ワークショップで選手・スタッフがアイリスらしさとして挙げた「泥臭さや粘り強さ」であると認識している人がほとんどでした。今回の場を通して、多くの選手・スタッフとアイリスらしさをある程度共有できたと感じています。
また、入団11年目となる篠原華実選手が、「選手とスタッフが意外と同じことを考えていたことが分かったのがよかったです」と語ってくれたのも印象的でした。私も、現時点での一番の成果は、本音で話し合った結果、選手とスタッフが同じ方向を向いていることを確認できたことだと思っています。
鈴木:2025シーズンのスローガン「WE ARE DENSO」は選手が自分たちで考えてくれたもので、選手、スタッフ、社員、ファン、全員が一体となってシーズンに取り組むという想いが込められています。さらに髙田選手が「WE ARE DENSO」Tシャツを作ってくれて、良い形で今シーズンを迎えられています。
齋藤:先日、チームはWリーグ開幕戦に臨んだのですが、選手間やスタッフ間の声かけが明らかに増えていました。また、普段のチーム活動でも意思疎通のスピードが上がったという声が聞こえてきており、コミュニケーション活性化の兆しが見えています。こうした変化は、フィロソフィーづくりが単なる言葉遊びではなく、行動に結びついていく証しであり、今回の取り組みの効果を実感しています。
2年がかりでフィロソフィーを0.9から1.0に磨き上げる
鈴木:本音で対話する重要性を理解した一方で、自分自身が「うまくコミュニケーションできない」「上手に言葉にできない」と悩んでいる選手やコーチも少なくありません。メンバー全員のコミュニケーション力を高めることは、今後の課題の1つです。
齋藤:実は、この取り組みは、リクルートマネジメントソリューションズと相談のうえで、最初から2年がかりで行うつもりでした。いったん言語化をしたうえで1シーズンを走り抜いてみる。その結果を踏まえてもう一度考えないと、フィロソフィーが腹落ちすることはないだろうと考えたからです。策定だけならすぐにできるかもしれませんが、浸透を目指すなら最低でも2年はかかると考えたのです。
私たちは2年がかりでフィロソフィーをバージョン0.9から1.0に進化させ、完成させます。一人ひとりにフィロソフィーと向き合ってもらいながら、チーム全体への浸透をはかります。そのなかで皆のコミュニケーション力も自然と高まっていくのではないかと期待しています。
鈴木:最終的には、この取り組みがクラブの求心力やブランド力の向上につながればと考えています。また、デンソーにはアイリス以外にも、スポーツチームがいくつもあります。私たちのこの取り組みがうまくいったら、他のチームにフィロソフィーづくりを展開することも構想しています。
齋藤:今鈴木が語ったように、アイリスはデンソーの企業チームであり、デンソーグループに貢献するという役割があります。今後も私たちは、アイリスの活躍がデンソーグループ社員のエンゲージメントを高め、デンソーグループのブランディングに寄与するよう力を尽くします。
また今年からWリーグで留学生以外の外国籍選手の登録が可能になるなどの環境変化があり、アイリスも多様なメンバーで構成されるように変わってきています。ダイバーシティ&インクルージョンの推進が急務であるという意味では、会社もアイリスも同じ状況にあります。アイリスで多様な仲間が活躍することは、きっとデンソー社内の多様な仲間たちにも響くはずです。
フィロソフィーを考えるためには外部のステークホルダーの声も大切なのですが、まだ外部の声を聞くことができていません。例えば、ファンの皆さんのアイリスへの期待や関心を聞く取り組みも検討したいと思っています。ミッション・ビジョン・バリューの策定に向けて、やるべきことはまだまだいくつもあります。一歩一歩前に進んでいきます。
今回、アイリスの組織やコミュニケーションの状況などを勘案しながら2年間のプログラムを設計し、また実際にワークショップをファシリテーションしてくれたリクルートマネジメントソリューションズの皆さんに感謝しています。おかげで、選手もコーチもスタッフも、遠慮することなく自由に意見を出し合えました。また、「SPI3 for Employees」というアセスメントを活用したことで、お互いのことを今まで以上に深く知り合うことができました。今後のコミュニケーションにおいても活用していきたいと考えていきます。

コンサルタントの声

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
技術開発統括部 コンサルティング部 マネジャー
青木 麻美
今回の取り組みの支援は、企業スポーツの役割とは何かをあらためて考える機会となりました。
自動車業界の電動化、ソフトウェア化が進むなかで、デンソー様は中長期の事業ポートフォリオ転換を推進されています。
併せて人材・組織面においても転換を図られており、これまでにない多様な人材の採用強化・育成、多様な人材が活躍し合う風土醸成に取り組まれています。
人財育成 | 社会への取り組み | サステナビリティ | デンソーについて | DENSO -
株式会社デンソー / Crafting the Core /キャリアイノベーションプログラム | デンソーソフトウェア採用サイト
アイリスは、近年リーグ上位で闘い、日本代表に選手、コーチを多く輩出する歴史と実績のあるチームです。全員が一体となって粘り強く闘い、互いを生かすプレースタイルは、デンソースピリットの「先進、信頼、総智・総力」が体現されていると感じます。
そんなアイリスが、新しいクラブフィロソフィーを設定し、選手・スタッフ一丸となってさらに進化しようとする姿は、変革期にあるデンソー様の従業員やステークホルダーに大きな影響を与えていくと感じます。
シーズンスローガン「WE ARE DENSO」に込められた一体感を原動力とし、アイリスの新たな挑戦が拡がり、従業員エンゲージメントの向上、採用候補者に向けたブランド訴求、地域の一体感醸成といった社内外のブランディングに寄与していくことを期待しています。
取材日:2025/10/20
企業紹介

株式会社デンソー 女子バスケットボール部(デンソーアイリス)
1962年創部。1993年の日本リーグ1部(現Wリーグ)昇格以降、女子日本バスケット界のトップリーグにて活動しています。これまでの成績は、全日本(総合)選手権大会(優勝1回・準優勝7回)・Wリーグ(準優勝4回)となり、悲願のリーグ優勝へ向け練習に励んでいます。東京オリンピックに出場し銀メダルを獲得した髙田真希選手、赤穂ひまわり選手など日本代表への選手輩出や、刈谷市をはじめ全国各地でのクリニック、スポーツ振興活動にも積極的に取り組んでいます。
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