- 公開日:2026/10/05
- 更新日:2026/10/05
日本企業はこれから、評価・報酬のあり方を、そして戦略的人材マネジメントをどのように変革すればよいのだろうか。人的資源管理や組織行動論の専門家で、最近は著書『人が集まる企業は何が違うのか』(光文社新書)などで人事変革提言を積極的に行っている石山恒貴氏に伺った。
- 目次
- 人口オーナス時代がやって来る
- 三位一体の地位規範信仰が日本企業の基盤となってきた
- これからは従業員の気持ちを重視する必要がある
- 部下の強みを生かすには日頃の傾聴・洞察・FBが重要だ
- 「人事は流行を追っているだけ」と従業員が認知すると悪影響
- ドラッカーのマネジメントは個人の強みを生かす世界観
人口オーナス時代がやって来る
日本社会は、人口減少のなかで高齢者と女性の労働供給が限界に近づき、抜本的な変化が生じることになります。つまり、今後の人口オーナス時代(人口負荷・労働力不足時代)の日本では、構造的な人手不足となり、採用は売り手市場になります。
そのような環境下で、組織を変革できずに人が集まらなくなってしまう企業は、人手不足による倒産の可能性が高まります。結論からいえば、日本企業は「個人の強みを徹底的に伸ばして生かす世界観」に変わる以外にない、というのが私の考えです。その世界観に変われない企業は、人に選ばれなくなる時代が近づいているのです。これからその理由を詳しくお話しします。
三位一体の地位規範信仰が日本企業の基盤となってきた
日本企業は長らく「三位一体の地位規範信仰」を基盤としてきました。
三位一体の地位規範信仰とは、無限定性、標準労働者、マッチョイズムを意味します。無限定性とは、「なんでもやらなければならない(職種無限定)」「どこでも働かなければならない(勤務地無限定)」「いつでも働かなければならない(時間無限定)」の3つを指します。標準労働者とは、新卒として入社した企業に長期雇用されている労働者のことです。マッチョイズムとは、行きすぎた仕事至上主義のことで、「弱みを見せてはならない」「強さと強靭さ」「仕事最優先」「弱肉強食」という4つの規範を基盤にしています。
ほとんどの日本企業は、この三位一体の地位規範信仰をベースに成長を遂げてきました。日本企業の「高業績人事システム」も、この信仰の上に成り立ってきました。新卒入社の正社員が会社に長期コミットすること、人事異動や転勤の命令に逆らわないこと、残業を嫌がらずに長時間働き続けること、ライフを犠牲にすることなどが人事システムの大前提となってきたのです。
代わりに、その信仰を受け入れた正社員たちはかなり平等な地位を手に入れることができました。その平等な地位が、もしかしたら自分も社長になれるかもしれないという可能性につながり、その可能性を信じたい思いがさらに過重労働をもたらしました。これが三位一体の地位規範信仰を強固にしてきた要因の1つです。
このタイプの企業は、従業員の気持ちへの関心が低くなります。なぜなら、従業員一人ひとりに配慮しなくても組織がうまく回り、従業員が辞める可能性は低いからです。経営側は強大な人事権を使って思い通りに人員を配置すればよく、一人ひとりの強みや想いやキャリア意向などを詳しく知り、従業員の強みを生かそうとする必要がありません。こうした日本企業の仕組みと日本的雇用の本質は、変わったように見えて、今も根強く残っているのではないでしょうか。
これからは従業員の気持ちを重視する必要がある
しかし、三位一体の地位規範信仰は今後の日本には適合せず、大幅に縮小していくでしょう。
なぜなら、人口オーナス時代の日本は、構造的に売り手市場になるからです。労働者個人が優位になる時代に入るわけで、従業員のライフキャリアを重視する会社が人気になるのは自明です。また、今後は新卒採用だけで十分量の人材を確保するのが難しくなり、標準労働者の概念が確実に揺らぎます。労働力は多様化し、ライフにさまざまな制約がある労働者が増えるので、無限定性やマッチョイズムを求めるのは困難です。これからは育児や介護、体力などの制約で短時間しか働けない従業員が当たり前になります。
このように考えていくと、今後の日本で無限定性、標準労働者、マッチョイズムが長続きしないのは明白です。言い換えれば、「これからは従業員の気持ちや従業員体験(EX=Employee Experience)を重視する必要がある」ということです。しかし、長く三位一体の地位規範信仰でやってきた日本企業はEXを重視しておらず、従業員の気持ちの把握を苦手としています。人事の皆さんは、この点を変革する必要があると思います。
部下の強みを生かすには日頃の傾聴・洞察・FBが重要だ
では、具体的に何をどう変革したらよいかというと、冒頭で触れたとおり、これからの日本企業が目指すべきは「個人の強みを徹底的に伸ばして生かす世界観」です。理由は明確で、メンバーとチームのパフォーマンスを高めるには、メンバー一人ひとりの強みを生かすほかないからです。平均的マネジャーはメンバーの弱みを改善しようとしますが、それではパフォーマンスは高まりません。
しかし、強みを生かすマネジメントは決して簡単ではありません。なぜなら、マネジャーが日頃から1on1などを通じてメンバーの話を傾聴し、メンバーをよく観察して、強みを洞察する必要があるからです。そして、評価面談や普段のやり取りで「あなたの強みはこれだから、その強みを伸ばして生かしてほしい」と伝える必要があるからです。
人事評価の最大のポイントの1つは「本人の受け止め」です。評価の効果は、フィードバックと本人の受け止め次第で大きく変わるのです。しかし、多くの日本企業は従業員の気持ちに興味をもってこなかったため、傾聴・観察・洞察・フィードバックを得意とするマネジャーが多くありません。まずはマネジャーがこれらのスキルを高めることが先決です。目標管理がうまく機能しないという悩みもよく聞きますが、目標管理は元来、個人の強みを生かすためのツールなのですから。
「人事は流行を追っているだけ」と従業員が認知すると悪影響
また今後、人事の皆さんは「HRアトリビューション(HR帰属)」や「HRストレングス(HRの強さ)」などにも着目した方がよいでしょう。
HRアトリビューションは、従業員が人事施策の導入背景をどのように理解しているかに着目する研究領域です。例えば、日本では従業員が「我が社の人事は流行を追いかけているだけだ」と認知すると、ネガティブな影響があることが分かっています。また、従業員が自社の人的資本開示の内容をキレイごとだと感じると職務満足度が下がる、という研究もあります。耳の痛い話が多いかもしれませんが、だからこそ直視すべき領域ではないでしょうか。HRストレングスは、人事施策のメッセージが従業員に届いているか、従業員が納得しているかを研究する領域で、やはり面白い成果が多くあります。
それから、今後は人事も、社会的側面・環境的側面・経済的側面の「トリプルボトムライン」への意識が求められるでしょう。つまり、人材マネジメントを考える際、売上や利益や経費だけでなく、社会貢献や環境貢献を踏まえなくてはならないということです。人事がより高い視座を求められる時代になってきています。
ドラッカーのマネジメントは個人の強みを生かす世界観
最後に、ピーター・ドラッカーに触れます。目標管理は彼が提唱しましたが、その背景にはナチスの全体主義への批判がありました。彼はデビュー作『経済人の終わり』で、「私たちは全体主義をどのように克服すればよいか」を考えました。その答えがマネジメントであり、目標管理だったのです。つまりマネジメントとは、自分の意志で動く人間たちが力を合わせて、全員で難しいことをやり遂げることを目指す方法なのです。しかし、日本はマネジメントを「管理」と訳し、そのような背景を深く理解せずに目標管理制度を導入してきた面があります。
ドラッカーのマネジメントおよび目標管理は、個人の意志を尊重し、個人の強みを生かす世界観に基づいています。私たちは今、人事評価制度としてWHATをどうするかということよりも、HOWやWHYに着目し、世界観を大きく変えるタイミングを迎えていると思います。
【text:米川青馬 photo:平山 諭】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.83 特集1「モチベーションを支える評価・報酬のあり方」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
PROFILE
石山恒貴(いしやまのぶたか)
法政大学大学院 地域創造インスティテュート/キャリアデザイン学部 教授
法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程修了。博士(政策学)。一橋大学卒業後、日本電気、GEなどを経て現職。『人が集まる企業は何が違うのか』『定年前と定年後の働き方』(いずれも単著・光文社新書)、『EXジャーニー』(共著・技術評論社)など著書多数。
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