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インタビュー

テュービンゲン大学 村山 航氏

内発的動機づけの力を過小評価していないだろうか

読了時間:8

  • 公開日:2026/09/14
  • 更新日:2026/09/14
内発的動機づけの力を過小評価していないだろうか

評価や報酬は、モチベーション研究では「外発的動機づけ」に含まれる。ドイツ・テュービンゲン大学で教育心理学の観点から動機づけを研究している村山航氏に、外発的動機づけの効用や特徴と注意点、対する内発的動機づけの効用や特徴、両者の関係などを詳しく伺った。

モチベーションは大きく分けて2つある
内発的動機の源泉で重要なのは「統制感」と「学習の進歩」
報酬による外発的動機づけは「最初の一歩」に効果的
競争がポジティブに働く人とネガティブに働く人に分かれる
内発的動機づけにもっと注目することを薦めたい

モチベーションは大きく分けて2つある

モチベーションは、大きく2つに分けられます。評価・報酬・名誉などの外的要因による「外発的動機づけ」と、興味・好奇心など本人の内側から湧き起こる「内発的動機づけ」です。

私は今、内発的動機づけ研究に重心を置いていますが、その背景にはAIがあります。実は、AI研究者たちが内発的動機づけに注目しているのです。現段階のAIは、開発者などが大量のデータを与え、学ぶように促してはじめて学習します。つまり外発的動機に基づいた強化学習をしているわけです。次段階として「学ぶのが楽しい」と感じ、自発的に環境を探索して学びを深めるAIエージェントを開発できないかと考える研究者が多いのです。私は内発的動機づけを長く研究していますが、この流れも受けて研究し直しているところです。

なお、私は教育心理学の研究者であり、職場の動機づけに詳しいわけではありません。しかし基本原理は教育現場も職場も共通ですから、皆さんの参考になりそうなことをお話ししてみます。

内発的動機の源泉で重要なのは「統制感」と「学習の進歩」

最初に、内発的動機づけについて説明します。内発的動機の源泉はいくつかあります。例えば、自分の有能さを証明したい「有能感」や、周囲との関係を良くしたい「関係性」などの欲求も内発的動機を高めるといわれています。

なかでも私が特に重要だと考えているのは2つで、1つ目は「統制感」です。統制感とは「自分の行動を自分でコントロールしている感覚」のことです。統制感を覚えているとき、人は自分の内側から報酬を出せるのです。これが内発的動機の源泉の1つと考えられています。

学校でも会社でも、所属する人たちは必ず組織側から一定のコントロールを受けます。例えば会社は、社員に対して「営業成績を上げなさい」「新商品を開発しなさい」「ルールを守りなさい」といった要請をしているでしょう。このようなコントロールをなくすのは不可能ですが、コントロールしすぎは良くありません。会社が社員をコントロールする一方の職場では、やらされ感が高まってしまい、社員の統制感が高まらないからです。

統制感はあくまでも主観的なものですから、組織コントロールをゼロにしなくても、本人が自分をコントロールできている感じをもつことができれば高まります。そのためには、社員個人が「自分の価値観に合った仕事ができている」「自分なりに工夫の余地がある仕事に就いている」などと感じられる職場環境や人事制度を作ることが効果的でしょう。また、本人の意思を尊重した配置や異動なども大事なポイントです。

2つ目は、「学習の進歩(ラーニング・プログレス)」です。「自分の学びがはかどっている実感」のことです。私たちは、今の取り組みから学びを得られている、自分のスキルが伸びている、日々進歩しているなどと感じるとき、内発的動機が高まって、高い意欲で取り組み続けることができるのです。これは働いている皆さんなら、一度は経験のあることではないでしょうか。

報酬による外発的動機づけは「最初の一歩」に効果的

教育心理学では、このような内発的動機づけを重視し、報酬や外発的動機づけを軽視する考え方が主流となってきました。もっとはっきりいえば、報酬は良くないものと考えられてきました。

その背景には「アンダーマイニング効果」という現象が広く知られるようになったことがあります。人が何かに楽しく取り組んでいるときに外的な報酬を与えると、内発的意欲がむしろ下がってしまう効果のことです。実際の対照実験では、子どもたちが楽しく絵を描いているときに、あるグループの子どもたちに絵を描けたらご褒美をあげると約束し、実際にそうした後、今度はご褒美をあげるのをやめると、そのグループの子どもたちは他のグループと比べてお絵描きに興味を失い、描く時間も少なくなっていました。

アンダーマイニング効果が発見されて以降、教育心理学の世界では、報酬は内発的動機を下げる悪者のイメージになってしまいました。しかし、私自身は必ずしもそのようには考えていません。それどころか、外的な報酬は内発的動機を高める入り口として重要な存在だと捉えています。

教育現場でも職場でも同じだと思いますが、世の中には「勉強嫌いな子どもたち」や「働く意欲の低いビジネスパーソンたち」が少なくありません。現実問題として、彼らのモチベーションを何とかして高める必要があります。しかし、彼らに何の報酬も与えずに動機づけを行うのは難しいことです。なぜなら内発的動機は、行動を起こさない限りは高まらないものだからです。

実はこのようなケースで、外発的動機づけが役に立ちます。意欲が湧いていない人たちに報酬による外発的動機づけをして、まず第一歩を踏み出してもらうのです。最初の一歩さえ踏み出せば、内発的動機が徐々に高まることはよくあります。先ほどのアンダーマイニング効果の研究のなかでも、もともと楽しくない課題に報酬をつけると、内発的動機が高まることもあることが分かっています。

先ほど説明したとおり、内発的動機は統制感と学習の進歩によって高まります。私たちは自分の行動をコントロールできていて、学びがはかどっていると感じたら、楽しくなる生きものなのです。しかし、最初の一歩を踏み出すのは誰しも面倒で、そのときに報酬があると一歩を踏み出しやすくなるのです。外発的動機づけは決して悪者ではなく、使い方次第で大きな効果を発揮します。

競争がポジティブに働く人とネガティブに働く人に分かれる

もう1つ、皆さんに役立つかもしれない研究成果をお伝えします。私は以前、「競争はパフォーマンスを高めるか」というテーマで、メタ分析(過去のさまざまな研究データを総合的に分析すること)を行ったことがあります。

結論からいえば、全体の平均値を見てみると「競争によってパフォーマンスが上がるとも下がるとも一概にいえない」という結果になりました。ただ詳細を見ると、興味深いことが分かりました。競争がポジティブに働く人とネガティブに働く人に分かれていたのです。

競争の際、勝って表彰されることをポジティブにイメージできるタイプの人は、競争によってモチベーションが上がり、パフォーマンスが高まる傾向がありました。ところが反対に、競争に負けるのが怖いと感じるタイプの人は競争の際に不安が強まり、モチベーションとパフォーマンスが下がる傾向があったのです。競争をすると両方の効果が同時に出て、全体的にはプラスマイナスゼロの結果になっていたというわけです。

この結果から、理論的には競争のプラス面を強調する仕組みを作れれば、競争はよりポジティブな効果を発揮すると考えられます。ただ残念ながら、競争がポジティブな効果を発揮する仕組みや法則などは、まだ発見できていません。

内発的動機づけにもっと注目することを薦めたい

以上を踏まえて、経営や人事の皆さんには、「内発的動機づけにもっと注目すること」をお薦めします。

私たちは一般的に、内発的動機づけを過小評価し、外発的動機づけを過大評価しがちであることが分かっています。例えば、インセンティブに頼る企業や組織が多くありますが、それは外発的動機づけの効果を信じる傾向があるからです。もちろん、インセンティブには一定の効果があるものの、想定するほどのものではありません。インセンティブに頼りきるのは良くないのです。

先ほど語ったとおり、報酬などによる外発的動機づけは、最初の一歩を踏み出す後押しとしてはかなり有効です。しかしそこから先の効果は想定以下であることが多く、時にアンダーマイニング効果のマイナス面もあるのが実情なのです。

取り組みの継続を後押しする際には、外発的動機づけよりも内発的動機づけの方がより重要で効果的です。人事やマネジャーの皆さんが社員のモチベーションを高めたいと思うなら、内発的動機づけの手法を研究し、統制感が高まる職場環境や人事制度づくりを追求することをぜひお薦めします。例えばマネジャーが部下に仕事を与える際には、部下自身で工夫できる余地を残したり、一人ひとりの価値観をよく理解した上で各自の価値観に合った仕事を用意したりすることが、部下の内発的動機づけに効果があるはずです。

最後に、個人の皆さんにもメッセージがあります。このように内発的動機が大事だという話をすると、当然ながら、「やりたいことをコツコツと続けるのがよい」「やりたいことを大きな成果につなげるために、自分なりのプランと野望をもって人生に臨むべきだ」という結論になりがちです。

このような考え方はもちろん間違っていませんが、一方で世の中には「偶然のチャンス」を入り口にして、結果的に大きな成果を生み出している人も多くいます。私たちには偶然をきっかけに将来を切り拓く能力や、新たな環境に適応する能力が備わっているのです。そして、新たなチャレンジをしてみたら、意外と楽しくてやる気になったというケースも少なくありません。あるときは計画性や継続性を発揮し、あるときは楽観性や柔軟性を発揮しながら、モチベーション高く人生を歩んでもらうとよいのではないかと思います。

【text:米川青馬 Photo:©Alexander von Humboldt Foundation】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.83 特集1「モチベーションを支える評価・報酬のあり方」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
村山 航(むらやまこう)
テュービンゲン大学 ヘクター教育科学・⼼理学研究所 教授

2006年東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。独ミュンヘン大学、英レディング大学などを経て、2020年より現職。内発的な動機づけに関して先駆的な研究を行っている。心理学、認知科学、神経科学、教育科学など幅広い立場から数多くの論文を発表。

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