- 公開日:2026/06/22
- 更新日:2026/06/22
企業は、社員の変化適応やキャリア自律を後押しするために、社員にどのように関わって支援すればよいのでしょうか。人事は、どの施策や取り組みを優先すべきなのでしょうか。個人の変化適応能力や企業の支援施策について研究する藤波美帆氏に伺いました。
- 目次
- 変化適応能力は3つの能力のセットである
- 企業が変化適応を全部担うのは難しいが、100%自己責任は酷
- 手挙げで異動したい人も会社主導の異動を望む人もいる
- 「会社は伝えたが、個人には伝わっていないこと」が実に多い
変化適応能力は3つの能力のセットである
私の主な研究テーマは能力開発、高齢者雇用、ダイバーシティですが、そのなかで企業やシニア人材にインタビューしているうちに、個人の「変化適応能力」の重要性に気づきました。
当然ながら、私たちは長く働くなかで、社会や環境の変化に合わせて自らも変化適応し続ける必要があります。シニアの皆さんは、高年齢者雇用安定法の改正にともなって働く期間が長期化したこともあり、役職や職種などが大きく変わるタイミングが必ずやってきます。シニア以外の皆さんも、さまざまな理由で変化適応が必要になることがあるでしょう。そのとき求められる変化適応能力とは何か、企業は個人の変化適応にどう関わるのがよいのか、といったことを研究しています。
私は、変化適応能力は3つの能力のセットだと考えています。1つ目は、自分の能力を認知し、社会や企業の変化に合わせて「能力を整理し直す力」です。シニア雇用などで役職や職種が大きく変わるとき、最初に自分は何ができるのかを改めて把握する必要があるのです。
2つ目は「学び直す力」です。変化適応の際には新しいことにチャレンジすることになりますから、これまでのスキルや経験だけで対応できるケースはほとんどありません。自分が新たな役職や職種を担う上で学ぶべきことを理解し、自ら学ぶ力が必要となります。
3つ目は「新たな役割を見つける力」です。特にシニア人材は、自分のポジションを社内で自ら見つけたり作ったりしなくてはならないケースが多いです。変化適応の際には、自分の能力を整理し直し、学び直した上で、新たな役割を見つけて居場所を創造する力も求められるのです。
具体的な事例を1つ紹介します。ある企業で長年営業を続けたシニア人材が、営業から離れることになりました。そこで彼は社内を探索し、会社と交渉して「対人アドバイザー」と呼べるようなポジションを自ら作りました。社内外のコミュニケーションの困りごと解決を支援する仕事です。
彼はまさに、新たな役割を見つける力を発揮したわけです。当然その前には、自分が営業以外に何ができるのかを考え、能力を整理し直す段階があったはずです。また、対人アドバイザーとなるために学び直すこともあったでしょう。変化適応には、この3つの能力が必要となるのです。
企業が変化適応を全部担うのは難しいが、100%自己責任は酷
企業は、このような個人の変化適応にどう関わるのがよいのでしょうか。私は個人の変化適応には、「会社と個人の協力」が必要である、と考えています。
現代社会では、企業が社員の変化適応を全面的に担うのは難しくなりました。すべての異動を会社主導で決めるのは、もはやあまり現実的ではありません。しかしだからといって、社員の変化適応を100%自己責任にするのは酷です。
そこで私は、人事の皆さんが社員にさまざまな選択肢を用意したり、変化適応に必要な資源や情報を提供したりして、多角的にサポートすることをお薦めしています。そうやって主体性を発揮できる場や機会を多様に用意し、個人の自律を促すのです。そのようにする以上は、従業員の転職・副業などは、以前より許容していくのが筋です。私はこのように企業と個人が最適なバランスを探ることを「協力」と呼んでいます。
個人が先ほどの3つの変化適応能力を身につけるには、「場を変える経験」を増やすのが効果的です。企業はそのために、例えば、会社主導のローテーション、手挙げ制の社内公募制度、副業制度などのメニューを多様に用意し、彼らを後押しするのがよいでしょう。他にも、ある企業は期間限定で週の半分だけ、別部署で試しに働ける「お試し社内副業」のような制度を設けています。いろいろな仕組みや工夫が考えられるはずです。
手挙げで異動したい人も会社主導の異動を望む人もいる
なぜ多くの選択肢が必要かといえば、個人には多様性があるからです。例えば、手挙げで異動したい人や自由に副業したい人もいれば、会社主導での異動を望む人もいます。
最近、ジョブ型雇用を採用する企業が増えていますが、完全なジョブ型でやっていける人は一握りにすぎません。また、ジョブ型はポジション自体がなくなるリスクがあり、異動を望むには勇気が要ります。理想をいえば、社内にジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の両方の選択肢があり、本人が選べるのが最も望ましい形です。
ただもちろん、実際の雇用のあり方は、各社のポリシーによって異なって当然です。100%ジョブ型に振り切る会社も、できるだけメンバーシップ型を残す会社もあるでしょう。例えば病院の場合、医師や看護師は資格職ですから、必然的にジョブ型です。ところが医療事務職はジョブ型にもメンバーシップ型にもできるわけで、どちらにするかは各病院のポリシー次第です。長く働いてほしいからメンバーシップ型にする病院も、医療事務は専門性を高めてほしいからジョブ型を導入するという病院もあるはずです。
「会社は伝えたが、個人には伝わっていないこと」が実に多い
会社と個人の協力を考える上で最大の問題の1つは、「会社は伝えたが、個人には伝わっていないこと」が実に多い、ということです。
例えば、多くの人事の皆さんが、説明会などの場で、60歳以上のシニア社員に向けて今後の活躍イメージを伝えているといいます。ところがシニアの皆さんに話を聞くと、60歳を超えたら、突然上司との1on1がなくなったり、目標管理がなくなったりして、何をどうしたらよいか分からなくなったと語る人が多いのです。
これが「会社は伝えたが、個人には伝わっていない」端的な事例です。つまり、人事が一度伝えるくらいでは、多くの社員は少し経つとすっかり忘れてしまうのです。それがこのすれ違いの原因です。この溝を埋めるためには、企業は一度伝えて終わりではなく、改めて上司からもシニアの活躍イメージを個別に伝える場を設けたりして、何度も繰り返し伝えることが大切です。
もちろん、これはシニア雇用に限った話ではありません。例えば、社内公募制度の活用が進まない要因として、自ら手を挙げて異動した以上、失敗するわけにはいかないという不安があります。もちろん、手を挙げた個人にも一定のリスクや責任は負ってもらうものの、企業が必要な研修やサポート体制を整えたり、1on1や評価フィードバックで成長を支えたりするなどの取り組みによって、社内公募制度の活用率は高まります。
キャリア自律にも同じことがいえます。キャリア自律に向けて一歩を踏み出せない人たちには、必要かつ十分な正しい情報を繰り返し伝え、キャリア自律に伴うリスクの考え方に加えて、働きがいやキャリアの充実感といったメリットも理解してもらうことで、キャリア自律は広まります。
人事の皆さんは、社員に伝えるということは、社員が理解し納得することだと意識し、粘り強く伝え、対話を重ねてください。それこそが変化適応における会社と個人の協力のポイントです。
【text:米川青馬 photo:平山 諭】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.82 特集1「企業の変化適応とキャリア自律の接点」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
PROFILE
藤波美帆(ふじなみみほ)
千葉経済大学 経済学部 経営学科 教授
学習院大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得後退学。労働政策研究・研修機構、高齢・障害・求職者雇用支援機構を経て現職。主な研究テーマは人と組織のマネジメント、政策研究(能力開発、高齢者雇用、ダイバーシティなど)。著書に『1からの人的資源管理』(共著・碩学舎)など。
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