インタビュー
社会を変えるリーダー
HLAB 創業者 小林亮介氏
読了時間:8分
- 公開日:2026/05/11
- 更新日:2026/05/11
昨今、私立・公立問わず、学生寮への入寮を必須とする高校や大学が増えている。2027年秋にスタートする、前号で触れた東京大学の新しい学部、UTokyo College of Designも最初の1年間は寮生活が課される。なぜ学生寮が注目されているのか。その背景にはどんな事情があるのか。学校という枠の外で、学びに主眼を置いた学生寮を運営するHLABの創業者、小林亮介氏に、そのあたりの事情を伺った。
境界を越えるリベラルアーツを学ぶハウス
東京の下北沢駅から徒歩3分の場所に、その建物はある。2020年にオープンした、学生と社会人、約120人が居住するSHIMOKITA COLLEGE(シモキタカレッジ)だ。付近の沿線開発を手がける小田急電鉄グループが建設し、さまざまな人たちが集い、学び合う体験や空間を提供する教育企業のHLABが企画・運営している。
そのHLABの創業者、小林亮介氏いわく、ここはレジデンシャル・カレッジなのだという。一言でいえば、生活寮ではなく教育寮ということだ。「世界のトップ大学を見ると、全寮制をとらない教育をやっているのは日本の大学だけです。特にトップレベルの欧米の大学はほとんどが全寮制で近年学寮にさらに力を入れています。ここでは高校生、大学生、社会人が学び合いながら寝泊まりし、都内にある各々の学校や企業に通っています」
HLABのHとは知的交流の「Hub(ハブ)」となる「House(学寮)」を意味する。LABとは「Liberal Arts beyond Borders(境界を越えるリベラルアーツ)」の略だ。「全寮制で行う教育こそ、リベラルアーツ教育の根幹なのですが、日本では教養教育と訳され、歴史や数学、芸術を学ぶことがその本質だと間違って解釈されてしまった」
では、本当の意味のリベラルアーツ教育とは何だろうか。「自分と異なる意見をもつ人と向き合い、批判的に思考し、何事かを学び取っていくための方法論を学ぶことです。それを実践するために、寮という装置が不可欠なのです」
寮には先輩同輩含め、身近なロールモデルがいる。「自分の当たり前から一歩踏み出すことを後押ししてくれるのは、テレビのスターなどではなく、自分を重ねられるくらい身近な人で、自分とは違う学問を専攻していたり、キャリアをもっていたり、経験を積んだりしている人ではないかと。教育の世界ではそういう仲間との切磋琢磨をピア・メンターシップと呼んでいます。10年後に振り返ったとき、自分の人生がちょっと変わったという偶発的体験をどう積ませるかを重視しています」
そうしたピア・メンターシップを最大化するための仕掛けがカレッジにはあふれている。
例えば、各階には集合スペースが設けられ、そこを通らないと自分の部屋に辿り着けない。「出会う人を無視はできないので、互いにあいさつを交わすようになります。その習慣を毎日重ねると、高校生が40歳の社会人と対等に話せるようになる」
入寮するにあたっては審査があり、エッセイの執筆が課される。「入寮時期を毎年3月と8月に限っています。一緒に入って一緒に出ると強固な仲間意識が育まれます」
カレッジ内では年間500近いイベントが行われる。入学式、新入生オリエンテーション、体育祭、文化祭、卒業式といったものから、朝ラン、勉強会、輪読会などまで、大小さまざまだ。「これらは、運営側は関知すれども仕掛けてはいない。そういうものが自然と生まれる文化を作っているんです」
その文化を作るために、ハウスという仕組みがある。高校生、大学生、社会人横断のグループ(ハウス)が7つあり、月に1回、皆が車座になって、やりたいことや悩みを話し合うリフレクションという場があるのだ。そこに、チューターと呼ばれる専門スタッフが加わる。「カレッジの居住者でありながら、寮生のメンター、学校生活やキャリアのアドバイザー、イベントや勉強会などの学び場の作り手という多様な役割を担ってもらい、活動支援金も支給しています」
大蔵省と名付けられた組織もある。「ハウスほか、さまざまな自主的活動に対して、予算を支給する組織です。この運営もカレッジ生が担っています」
大学生以上向けの2年間の居住プログラムの場合、最後の半年間をかけ「キャップストーン・プロジェクト」に取り組む。入寮後の1年半で見つけた「問い」に対し、寮で学んだ経験をもとに探究や内省を行った成果を最後に発表するのだ。「キャップストーンとはピラミッドの頂点に載せる石のこと。このプロジェクトがあることで、卒業つまり退寮するまでに何かしらの目標を設定し自分を成長させなければという気持ちに自然になるんです」
一橋とハーバードで学ぶ
小林氏は2009年に一橋大学法学部に入学する。新入生歓迎コンパで、隣に座った学生と意気投合した。弟がカナダの高校に留学したというその学生と、高校時、米国への留学経験があった小林氏は、学校外の世界との接点がほとんどなく、いわば“目隠し”されながら進路を選ばざるを得ない日本の高校の進路指導の矛盾について、大いに話が盛り上がった。「当時、日本人留学生が減り、若者が内向きになったと批判されていましたが、学生側の要因ではなく、選択肢が情報として入ってこない構造こそが問題ではないかと思えたのです」
この思いがHLABの活動に結びつく。それを決定づけたのが、ハーバード大学への進学だ。一橋と併願していた同大学に合格。悩んだ末に、2009年秋に同大学に入ると、学生寮の一員となる。学部生だけではなく、ロースクールやビジネススクールに通う社会人の院生や教授も一つ屋根の下で暮らしていた。食堂で出会い、食事をしながらさまざまな話をする。宿題を見せ合ったり、本を教え合ったり、教授も交えた議論をしたり。この体験こそが大学生活そのものだから、99%の学生が寮に入ることを自主的に選択する。レジデンシャル・カレッジそのものだった。
2010年、手始めに出身高校の進路指導部と協力し、高校生と大学生が進路について気軽に話し合う「座談会」を各校で実施。翌2011年には、「世代、国境、学校を超えてお互いから学び合う」というカレッジの環境を夏休みに再現するサマースクールを開始。ハーバード大学の仲間が自腹で来日し、協力してくれた。後に、長野県小布施町、徳島県牟岐町、宮城県女川町などでもサマースクールを実施する。2014年には一般社団法人HLABを設立した。
2016年、サマースクールの環境を長期に体現した教育寮、レジデンシャル・カレッジ事業に参入する。東京の中目黒に「THE HOUSE by HLAB」を設立、運営を開始した。1階にカフェ、2階にジムが入る3階建ての建物を企画、3階部分を借り受け、広い共用リビングのある寮にしたのだ。
2018年には、より本格的なシモキタカレッジの建設プロジェクトをスタートさせた。「デベロッパーが持ち主になってしまうことが懸念材料でした。彼らは土地を買って建物を建てたのち売るのが仕事で、長期で保有しない。この事業は物件を維持して、教育を行うことに賛同してくれるオーナーが不可欠です。東京に長期に大規模な物件を作れて保有してくれるオーナーとなると、神社仏閣か大学もしくは沿線開発に力を入れてまちづくりに長期目線で取り組む鉄道会社の3つしか選択肢がありません。そこでパートナーになったのが小田急電鉄だったのです。先方に対しては『長期的に沿線人口を増やすため、必要なのは学生が可処分時間を過ごしてくれる環境であり、沿線や街へのロイヤリティ(愛着)形成ではないでしょうか。学生時代は街に親しみ、卒業後は家族をもち沿線に住んでもらうのが御社のビジネスモデルなのだから、求めるべきは新たな学校の誘致ではなく、学生が有意義な時間を使ってくれる“カレッジ”という機能、学寮の誘致です』と口説きました」
学生の可処分時間を充実させ、ロイヤリティを高めるのは、欧米の大学がカレッジを作る理由そのものであり、HLABが目指すことそのものだ。そのために、カレッジに入った後の体験を縷々デザインしているわけだが、それだけではない。卒業生を大切にしているのだ。「サマースクールと合わせ、卒業生が5000人ほどおり、各自が今何をやっているかという名簿管理も行っています。同窓イベントはもちろん、個別の横のつながりは強固ですし、結婚式ともなったら、縦横斜めの人たちが何人も出席します。こうしたOB・OGは、寄付だけではなく、カレッジを建設するときの建築モデルを建築家のOBと一緒に作ったり、投資銀行に勤めるOBと財務モデルを一緒に作ったり、カレッジ内のイベントに招待して現役の学生の指導や進路相談に乗ってもらったりと、さまざまな協力をしてもらっています」
これからの教育が目指す方向について、小林氏は語る。「『ノウン・アンノウン(Known Unknown)』という世界があります。ある分野の存在自体は分かっているけれど、まだ勉強したことがなくて内容は分からない状態です。今までの教育はそういった知識の取得がメインの活動場所でした。ところが、AI(人工知能)が発達した今、世界トップの教科書や授業も、家庭教師でさえも安価にスマホで手に入る。だからこそ、自分は何を学びたいかというインスピレーション(着想)や、諦めず学び続けるためのモチベーション(動機)が必要になる。これからの教育は『アンノウン・アンノウン(Unknown Unknown)』、まだ出会っていないから知らないが、一生向き合っていきたいと思える分野や問いという、未知との出会いを学び手に与えることが重要になると思うんです。自分が何が分からないかを分かっていれば、AIチューターに聞けば答えてくれますが、分からなければ手の施しようがありません。そこで必要なのが、未知と遭遇し、対峙するきっかけを与えてくれる多様な他者です。その他者と出会う偶発性をどうデザインするか。われわれも含めた、これからの教育機関が取り組むべきことです」
【text:荻野進介 photo:山﨑祥和】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.81 連載「Message from TOP 社会を変えるリーダー」より転載・一部修正したものである。
RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
PROFILE
小林亮介(こばやしりょうすけ)氏
HLAB 創業者
大学の経営と教育体験の設計に関心をもち、リベラルアーツ・サマースクールや、海外留学の奨学金、寄宿型の教育機関「カレッジ」などの教育事業を運営。ハーバード大学卒業、スタンフォード大学大学院MBA /教育学修士。
おすすめコラム
Column
関連するお役立ち資料
Download
関連する
無料セミナー
Online seminar
サービスを
ご検討中のお客様へ
- サービス資料・お役立ち資料
- メールマガジンのご登録をいただくことで、人事ご担当者さまにとって役立つ資料を無料でダウンロードいただけます。
- お問い合わせ
- 貴社の課題を気軽にご相談ください。最適なソリューションをご提案いたします。
- 無料オンラインセミナー
- 人事領域のプロが最新テーマ・情報をお伝えします。質疑応答では、皆さまの課題推進に向けた疑問にもお答えします。
- 無料動画セミナー
- さまざまなテーマの無料動画セミナーがお好きなタイミングで全てご視聴いただけます。
- 電話でのお問い合わせ
-
0120-878-300
受付/8:30~18:00/月~金(祝祭日を除く)
※お急ぎでなければWEBからお問い合わせください
※フリーダイヤルをご利用できない場合は
03-6331-6000へおかけください
- SPI・NMAT・JMATの
お問い合わせ -
0120-314-855
受付/10:00~17:00/月~金(祝祭日を除く)






