インタビュー
法政大学 坂爪洋美氏
管理職を「大変だが魅力的で、挑戦したい仕事」にしよう
読了時間:7分
- 公開日:2026/03/30
- 更新日:2026/03/30
坂爪洋美氏は、日本では数少ない「管理職の役割」の研究者である。坂爪氏の目から見て、現代の管理職は持続可能なのだろうか。そうでないとしたら、何をどのように変えたらよいのだろうか。人事は管理職の持続可能性にどのように寄与できるのだろうか、詳しく伺った。
- 目次
- 現代の管理職はあまりにも多くのことを求められている
- 管理職の大変さだけが目立ち仕事の魅力が見えにくい
- 管理職が本当にすべきこととそうでないことを整理しよう
- 人事のマネジメント育成支援も個別化してもよいのでは
現代の管理職はあまりにも多くのことを求められている
私が「管理職の役割」研究を始めたきっかけはワーク・ライフ・バランスの研究にありました。先行研究を読むと、「管理職がワーク・ライフ・バランスに関する制度の運用を頑張ればうまくいく」という趣旨の結論で終わっている論文が多かったのです。それなら、制度運用をする管理職について研究する必要があるのではないかと考えたのが、私の管理職研究の始まりでした。
管理職を研究してすぐに分かったのは、現代の管理職はあまりにも多くのことを求められている、ということです。その大きな理由の1つは、企業側が働き方改革、ワーク・ライフ・バランス、女性活躍、ダイバーシティ&インクルージョン、ハラスメント対策など、労働政策にまつわる制度運用をすべて管理職の役割に加えたからです。最近では、部下のキャリア自律支援などもそこに含まれるようになりました。
その過程で、マネジメントはどんどん難しくなっています。昔は「マネジャーは背中で語ればいい」という時代もありましたが、そのうちに「マネジャーは、部下に言葉ではっきり伝えることが大切だ」に変わりました。次に「マネジャーは、部下の言葉にきちんと耳を傾ける必要がある」と言われるようになり、ついには「マネジャーは、部下一人ひとりに合わせた対話と対応をしなくてはならない」「マネジャーは部下の仕事だけでなく、生活や健康や尊厳などにも配慮しなくてはならない」ということになりました。
その上、現代日本のマネジャーの多くは「プレイングマネジャー」で、マネジメント業務の他にプレイヤー業務も抱えています。部下の仕事を巻き取って、プレイヤーとしても部下同様に働くマネジャーも少なくないでしょう。
管理職が大変なのはある程度は仕方がないことだと思いますが、それにしても今の管理職は忙しすぎ、かつ求められる業務のレベルが高すぎるのではないでしょうか。
管理職の大変さだけが目立ち仕事の魅力が見えにくい
管理職は大変な仕事である一方で、魅力的な仕事でもあるはずです。しかし、現代の管理職は大変さだけが目立ち、仕事の魅力が見えにくくなっているように思います。
私の考えでは、管理職の最大の魅力は「裁量の大きさ」と「部下の成長」にあります。
管理職に昇格すれば、多くの場合はメンバーのときよりも大きな裁量をもち、自分のやりたいことができるようになります。やりたいことにチャレンジした結果、次にやってみたいことが見えてくることもよくあります。同時に、自分の仕事の価値も大きくなっていきます。
なかには、大きなプロジェクトの責任者などに就いて、自身の判断で大きな決断をして、責任をもって最後までやり遂げ、大きな成果を出す経験をする人もいます。このような経験を積んだ管理職は、むしろマネジメントが面白くて止められなくなるのではないでしょうか。
一方で、部下育成にやりがいを感じ、若手部下の成長や活躍を見ることに大きな喜びを感じる管理職も少なくありません。マネジャーから見ると、部下が目に見えて伸びてゆく瞬間があるのです。そのような瞬間を見守ることも、マネジメントの醍醐味の1つでしょう。
私は、管理職を「大変だが魅力的で、挑戦したい仕事」にする必要があると考えています。そうしないと、管理職に憧れる若手、管理職になりたいと思う若手が減っていくばかりだからです。将来の管理職候補を確保するためには、企業がこのような管理職の魅力をもっと前面に打ち出す必要があると思います。
管理職が本当にすべきこととそうでないことを整理しよう
現状を踏まえると、今の管理職の負荷はできる範囲で軽減した方がよいでしょう。その方法としては、第1に部下の数を減らすことや、管理職の数を増やすことが考えられます。ただ、これらの対応策だけでは難しいかもしれません。
そこでお薦めしたいのが、「管理職が本当にすべきこととそうでないことを整理して、管理職の業務範囲を絞り込む」ことです。
例えば、自分のキャリアや目標が見えずに困っている部下のキャリア形成支援をするのは、本当に管理職の役割でしょうか。部下のキャリア意向の把握は管理職の仕事ですが、部下のキャリア上の目標の明確化など本格的なキャリア形成支援は、管理職では難しい面があるように思います。この役割は、社内外のキャリアコンサルタントに任せた方がよいのではないでしょうか。
また、再雇用や雇用延長をしたシニア社員のモチベーション向上も管理職任せにせず、評価制度など仕組みで対応していく必要があります。
このように、「管理職ができるとよい」となんとなく捉えられている業務を、管理職でなければできないこと、管理職でなくてもできることという観点から整理していくと、管理職の負荷を軽減できる部分がいろいろと見つかるはずです。
なお、今後はマネジメント支援にAIを導入することも選択肢に入ってくるでしょう。例えば、部下がAIと面談するようなことも十分にあり得ると思います。部下にしてみれば、上司よりもAIの方が話しやすいこともあるでしょうから、AI面談は意外と広まる可能性がありそうです。
人事のマネジメント育成支援も個別化してもよいのでは
もう1つ重要な観点が、人事の皆さんが「管理職をサポートする」ことです。すでに力を入れている会社もありますが、全体的にいえば、日本企業の管理職支援や育成対象としての投資は十分とはいえません。メンバーだけでなく、管理職をサポートする施策がもっと増えてよいはずです。
例えば、現代の管理職は、部下に各種ハラスメントをしないように厳命されており、実際に上司から部下へのハラスメントは確実に減っています。実はその一方で、上司が部下からハラスメントを受けるケースがあると時おり耳にします。もしそのようなことが多いのなら、人事の皆さんは「管理職の心理的安全性を守る」という観点で施策を打つ必要もあるのではないでしょうか。
また、上司が部下のキャリア形成を支援する会社が増えていますが、一方で「管理職のキャリア形成支援」が活発になっているという話はあまり耳にしません。しかし、管理職のキャリア形成支援も同様に大事ではないでしょうか。キャリア形成に積極的な上司の部下はキャリア形成に積極的です。
それから、今は管理職が部下の個別支援を行っていますが、それなら人事のマネジメント育成支援も個別化してもよいのではないでしょうか。管理職も一人ひとり特徴や能力が異なり、それぞれ違う悩みを抱えているわけですから。例えば、「マネジメント相談窓口」を設けて、管理職の悩みや対応策を相談できる場や仕組みを作るようなことが効果的かもしれません。そこで集まった知見は管理職だけでなく人事にとっても価値があるでしょう。
最後に、大学教育について少し触れておきます。私は、大学側がこれから強化すべきだと感じていることがあります。それは「交渉調整スキルの教育」です。現状は、大学生の交渉調整スキルが総じて低いのです。なぜなら、大学までは交渉や調整をする必要がほとんどないからです。
しかし、社会人になって働き始めた途端、交渉と調整の連続になるわけです。それなら、大学のうちから交渉や調整を実践的に学ぶ機会があった方がよいのではないかと思うのです。若手社員の交渉調整スキルが高まれば、管理職は間違いなくマネジメントしやすくなります。大学が交渉調整スキル教育に力を入れることで、管理職の負荷軽減に寄与できる部分もあると考えています。
【text:米川青馬 photo:山﨑祥和】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.81 特集1「『持続可能な管理職』という考え方」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
PROFILE
坂爪洋美(さかづめひろみ)
法政大学 キャリアデザイン学部 キャリアデザイン学科 教授
慶應義塾大学文学部卒業後、人材紹介業勤務を経て、2001年に慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程を取得。和光大学教授などを経て2015年より現職。専門は産業・組織心理学、人材マネジメント。著書に『管理職の役割』(共著・中央経済社)などがある。
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