インタビュー
金沢大学 鈴木 智気氏
サーバント・リーダーの持続的活躍を後押しする組織的支援
読了時間:7分
- 公開日:2026/03/23
- 更新日:2026/03/23
鈴木智気氏は、サーバント・リーダーシップは優れた効果を期待できる一方、管理職の負担が大きいため、管理職個人の努力だけでなく、組織管理側の支援が不可欠であると指摘する。では、組織や人事はサーバント・リーダーの持続的活躍を後押しするために何ができるのだろうか。
サーバント・リーダーシップとは
私の研究モチベーションは、「働く人々がもっと生き生きと元気に仕事をできる、能力を発揮できる職場にするにはどうしたらよいか」ということにあります。私も組織人の1人として、「仕事がつらい、明日になるのが怖い」と思いながら働くのがいかに苦しいことか知っているつもりです。だからこそ研究者として、一人ひとりが気持ち良く働けて、社員の元気な働きぶりや能力の発揮が会社の強さや健全さに結びつく、そんな前向きなマネジメントのあり方を探究したいと考えています。
具体的に取り組んでいるのが「サーバント・リーダーシップ(SL)」の研究です。管理職自らが部下の利益や成長を優先し支援するという経営的に不合理にも見える営みが、組織の強さの源泉たる人々の活力を増やし、人と組織により幅広い利益をもたらす可能性がある――ここにSLという研究領域の魅力があると思っています。
特に着眼しているのが、SLにおける行為者の問題です。SLは行為者=リーダーへの要求度が高く、どうしても実践の難しさがつきまといます。効果に注目するばかりでなく、SLを実践する人々の苦労や試行錯誤など、そのリアルな姿を詳らかにし、「どうすれば実践できるのか?」に実用的な知識を提供できる研究を目指しています。
サーバント・リーダーシップの実践における3つの課題
管理職によるSLの実践で見落とされがちな課題として、大きく3つが指摘できます。
第1に、SLを日常の管理業務のなかで具現化できなくてはいけません。KPIやノルマに追われるなかでも部下が自律感や成長感を発揮できるよう仕事を設計する、多忙ななかでも部下の事情や困りごとに耳を傾ける時間を創出する、部下の逸脱や怠慢にも支援で向き合う……こうした具体的アクションには、管理職自身が創意工夫や試行錯誤を積み重ね、「SLの技法と知識」を身につける、持続的な努力がどうしても必要です。
第2に、SLへの役割意識を貫徹する難しさです。SLは職務記述書に収まらない仕事であり、「SLこそ自分のやり方だ」という当人の納得やコミットなしには成り立ちません。しかし現実には、管理職として期待されるのは数字ばかり、部下の育成・成長や働きがいに力を注ぐことを評価も応援もされないなど、なおざりにされることが珍しくありません。なかにはそうでない会社もありますが、多くの管理職にとって、現実の組織でSLに役割意識をもつというのは、逆流のなかを泳ぐような大変さがあるといえます。
第3に、管理職自身の負担の問題です。具体的には、管理職という多忙な職責を負いながらSLの役割を担うことによる仕事負荷の増大、自制心や共感力の発揮にともなう心理的資源の消費、管理上の優先事項(とりわけ、短期業績の達成)と部下志向との間で生じる軋轢・葛藤などです。こうしたSLの実践にともなう負担には、管理職を精神的に消耗させ、SLの持続を困難にしてしまうリスクがあります。
サーバント・リーダーシップの持続を支える仕組みづくり
ただし、SLは管理職にとって負担になるばかりではありません。実際に海外の研究では、リーダー自身の心理的充実感、部下/チームからの信頼や協力、コミットメントの向上にともなう業務負荷の低減、チーム業績の改善など、SLは管理職にさまざまなベネフィットをもたらすことが指摘されています。こうしたベネフィットには、リーダーの心理的負担を軽減し、SLの消耗リスクを緩和する効果のあることが実証されています。したがって、いかに管理職がSLからベネフィットを得やすくするかが、SLの持続可能性を改善する1つの鍵になります。組織管理側の取り組むべきポイントとして、大きく4点が挙げられます。
第1に、「自社の競争力の根幹は人を育てること」という理念・価値観が、経営慣行を通じ、組織の柱として定着していることです。高い離職率や低いエンゲージメントに経営層が痛みを感じない、業績指標ばかり優先して「人」を軽視する会社では、管理職はSLに対する役割意識を阻害され、サーバント・リーダーはまず育ちません。
第2に、リーダー育成の仕組み化、具体的には、個別の部署ごとに「リーダー役」に必要な能力を工程表にし、各層の管理職が次のリーダーの育成に責任を負うこと、換言すれば、組織に縦の「育て・育てられる関係」を作ることです。上司が自分の成長をサポートしてくれて、かつ部下がサブ・リーダーとして頼れる存在になれば、SLにともなう管理職の負担は大きく低減します。何より、会社のなかにリーダーが育つ長期的な仕組みが埋め込まれることになります。
第3に、管理職の人事評価において、「どれだけ部下が育っているか」の評価ウェイトを大きく高め、かつ、部下を育てて成長結果を出せるリーダーだけが昇進できる人事制度に改める、組織としてSLに正当性を与える人事制度を設計することです。
第4に、管理職の仕事量と負担の適正化、より具体的には、スパン・オブ・コントロールの見直し、プレイヤー業務の見直し、長時間労働の是正などになります。特に超過労働による睡眠不足はSLに必要な精神的余裕を摩耗させる上、社員のエンゲージメントや成長実感、パフォーマンスにも有害です。睡眠時間をKPIにするくらいの先進性が組織管理側には必要です。
SLに関心ある人事の方々に勧めたいのは、「この人なら」という人物にモデル・ケースになってもらって小さく始めながら、人事パーソン自らが管理職へのSL役を担うことです。実際、人事マネジャーが現場管理職にSLで関与すると、管理職がその姿勢を見習い、結果、従業員のコミットメントや職務満足の改善にも波及することが実証されています。当然、人事パーソンにとっても、SLの実践は容易ではありません。管理職と二人三脚を組み、取り組みのなかで共に学んでいく姿勢が肝要だと思います。
管理職という仕事の魅力
近年では「罰ゲーム」という言説もありますが、それだけではない魅力が管理職という仕事にはあります。それは、自分の権限と責任、能力、経験や知識を生かして、人の意欲や成長、育成を後押しできるという魅力です。
部下に思いを致して育成と成長に働きかけるからこそ、部下は自信とやる気をもって仕事に取り組めるようになります。デキる・頼れる部下が育つことで管理職の仕事も楽になり、チームや部署の成果も出しやすく、評価も得やすくなり、ひいてはマネジメントの仕事に自信や誇らしさ、やりがいをもつことができます。このような魅力には、マネジメントという仕事の苦しさやキツさを緩和し、「大変だけれど、やりがいのある」ものにする力があります。そうした「自分を元気にしてくれるマネジメント経験」がないと、文字通りの「罰ゲーム」になってしまうでしょう。
職責に見合った給与を支払うなど、待遇面ももちろん非常に大切なことです。しかし、管理職という仕事を本当に魅力的なものとし、持続できるもの、人と組織により幅広い貢献をもたらすものとするためには、そうした経験を得やすい環境を作ることや、そうした経験に喜びややりがいを見出せる人が管理職になることが、極めて重要な意味をもってくると思います。
【text:米川 青馬 photo:平山 諭】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.81 特集1「『持続可能な管理職』という考え方」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
PROFILE
鈴木智気(すずきともき)
金沢大学 人間社会研究域 経済学経営学系 専任講師
大学卒業後、企業で働いた後に2018年同志社大学大学院商学部商学研究科博士後期課程修了。博士(商学)。同志社大学商学部助教を経て、2021年より現職。専門は組織論、マネジメント論、リーダーシップ論。主な研究テーマはサーバント・リーダーシップ論。
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