インタビュー
九州大学大学院 池田浩氏
リーダーがメンバーを信じることが信頼関係の第一歩
- 公開日:2026/03/16
- 更新日:2026/03/16
持続可能な管理職を考える際に参考になるリーダーシップ理論はないのだろうか? 池田浩氏は、アフターコロナの新たなリーダーシップ理論として「セキュアベース・リーダーシップ」と「信頼のらせん関係」の研究を進めている。どのような概念で何がポイントなのか、詳しく伺った。
- 目次
- テレワークの広まりで新たなリーダーシップ理論が必要に
- 「安全基地」のリーダーシップはメンバーに安全と探索を提供する
- リーダーに信頼されているとメンバーはリーダーを信頼する
- 信頼関係構築の起点はリーダーからメンバーへの信頼
- リーダーがメンバーからの信頼を感じる重要な機会は1on1
- 上司・部下の信頼関係は少しずつ深まっていくもの
テレワークの広まりで新たなリーダーシップ理論が必要に
私は学部時代からリーダーシップ研究をしており、大学院では主にリーダーの自信や変革型リーダーシップを研究していました。その後はチーム力やチームメンタルモデルに関する研究に取り組んでおり、2015年頃からは、チーム力を育成・強化するリーダーシップのあり方として「サーバント・リーダーシップ」に注目しています。
コロナ禍を機に、私のリーダーシップ研究は新たな段階に入りました。そのきっかけは、テレワークが広まったことで、リーダーの影響力が低下しているという内容の論文が出てきたことです。以前は、リーダーとメンバーの対面コミュニケーションがリーダーシップの大前提になっていましたが、テレワークでその前提が崩れ、リーダーの影響力が弱まってしまったのです。
このようなアフターコロナの職場環境には、新たなリーダーシップ理論が必要ではないか。そう考えて研究し始めたのが、「セキュアベース・リーダーシップ」と「信頼のらせん関係」です。
「安全基地」のリーダーシップはメンバーに安全と探索を提供する
「セキュアベース・リーダーシップ」は、養育者と子どもとの関係性を説明する愛着理論を基盤としたリーダーシップ理論です。
子どもにとって、養育者は精神的に安心できる「安全基地(セキュアベース)」のような存在です。子どもは、養育者という安全基地を起点とすることで、不安や危険を伴う外の世界を探索できるようになります。セキュアベース・リーダーシップ研究者ダンカン・クームの言葉を借りると、安全基地は「守られているという感覚と安心感を与え、思いやりを感じる存在であると同時に、物事に挑み、冒険し、リスクをとり、挑戦を求める意欲とエネルギーの源となる存在」です。
では、ビジネス組織のリーダーが、メンバーのセキュアベースとなり得るにはどのような行動や機能が求められるのでしょうか。それを研究するのがセキュアベース・リーダーシップ論です。
セキュアベース・リーダーシップは、安全(安心感や思いやり)と探索(挑戦やリスクテイク)の2つの機能を提供します。また、子どもは成長に従ってセキュアベースの存在を内在化させていくのですが、同様に組織メンバーも、あるリーダーをセキュアベースとして関係を築いた後は、その存在を内在化させていき、仮に異動などで、そのリーダーと離れても、安心してチャレンジできるようになります。つまり、セキュアベース・リーダーシップは、テレワーク環境など社会的な距離が生じても影響力を発揮するのです。私が注目する大きな理由です。
リーダーに信頼されているとメンバーはリーダーを信頼する
もう1つ、私が力を入れているのが、「信頼のらせん関係」の研究です。
コロナ禍でテレワークに移行してから、多くの企業で、リーダーが「メンバーは本当にちゃんと働いているのか」と心配になったり、メンバーが「リーダーは私のことをちゃんと考えてくれているのか」と疑念を抱いたりすることが増えたと聞きます。コロナ以前にオフィスで顔を合わせて働いていたときには、互いに信頼していると思っていたとしても、リーダーとメンバーの距離が離れたことで、不安や不信が生まれやすくなったのです。
そこで私は従来のように、リーダーとメンバーが互いに信頼しているかどうかを静的に捉えるのではなく、相手を信頼することで被信頼感が生まれ、その被信頼感がさらに信頼を強めていく――そうしたダイナミックに循環する信頼関係として捉え直す必要があると考えました。
信頼関係を考える上でポイントとなるのが、相手から信頼されていると感じる「被信頼感」です。人には相手から信頼されていると、相手を信頼する性質があるのです。リーダーに信頼されていると、メンバーはリーダーを信頼します。ひっくり返せば、リーダーに信頼されていないと、メンバーはリーダーを信頼できません。そこには、被信頼感が相手への信頼に結実し、お互いに信頼を高め合う「信頼のらせん関係」があるのです。
私は、信頼のらせん関係が、セキュアベース・リーダーシップのベースになっていると考えています。リーダーとメンバーの信頼を高め合うことが、メンバーが安心して働いたり、リスクをとってチャレンジしたりする基盤になるのです。
信頼関係構築の起点はリーダーからメンバーへの信頼
私たちは信頼のらせん関係の調査分析から、すでにいくつかの知見を得ています。
第一に強調したいのは、信頼のらせん関係の鍵を握るのは、「リーダーがメンバーを信じること」だということです。
なぜなら、信頼関係構築のメカニズムは「リーダーからメンバーへの信頼が起点となる」からです。それが起点となって、メンバーの被信頼感が高まり、メンバーがリーダーを信頼するようになって、その信頼がリーダーの被信頼感を高め、リーダーはメンバーをより深く信頼する、という信頼のらせんサイクルが回り出すのです。
リーダーがメンバーを信じることが、信頼関係づくりの第一歩なのです。リーダーの皆さんには、何よりもこのことを伝えたいです。
なお、信頼のらせん関係は逆向きに働くケースもあります。リーダーがメンバーを信じなければ、メンバーもリーダーを信じられず、お互いの不信や不安がどんどん高まっていく、ということも十分にあり得るので、注意が必要です。
リーダーがメンバーからの信頼を感じる重要な機会は1on1
2つ目に、自身が相手を信頼しているほど、その信頼は相手に伝わりにくいという点です。特にリーダーは、メンバーが思うほどにはメンバーからの信頼を感じられず、不全感や孤独につながりやすいです。リーダーの持続可能性を考える上で、「メンバーがリーダーへの信頼をきちんと伝えること」は大切なポイントの1つです。
では、メンバーはリーダーへの信頼をどこで伝えればよいのでしょうか。3つ目の知見は、リーダーがメンバーからの被信頼感を得る重要な機会は「1on1」であるということです。
信頼構築で大切なのは、一方が「脆弱性」を示し、他方がそれを受け入れることです。脆弱性とは、弱みのことです。弱みを見せることは常にリスクをはらみます。だからこそ、相手が弱みを見せてくれると、自分は相手から信頼されていると感じるのです。そしてその弱みを受け入れることが、相手を信頼したことになるのです。例えば、メンバーが悩みを相談してくれたり、自分を頼りにしてくれたり、プライベートの話をしてくれたりしたとき、リーダーはメンバーから信頼されていると感じます。その被信頼感は、多くのリーダーにとって大きな精神的報酬になるはずです。
昔なら、飲み会や社内イベントが脆弱性を示す場、内密な相談や打ち明け話をする場の1つでした。しかし、今はそうした場が減り、代わりに1on1が貴重な機会になっているのです。リーダーの皆さんは、メンバーとの信頼関係を深める場として1on1を上手に活用してもらえたらと思います。
上司・部下の信頼関係は少しずつ深まっていくもの
4つ目に、「リーダーの人材観」が、リーダーがメンバーを信頼できるかどうかを左右します。
具体的にいえば、メンバーは自律的に働きたい存在、成長したい存在だと考える「拡張的な人材観」をもつリーダーは、メンバーを信じやすい傾向があります。反対に、メンバーは指示しないと動かない存在、自ら変わろうとしない存在だと考える「固定的な人材観」をもつリーダーは、メンバーをなかなか信じることができません。リーダーの皆さんには、メンバーが自律性や成長を望む存在であることを、信じていただければ幸いです。
また、「他者基準の期待」も大事です。他者基準の期待とは、個々のメンバーの状況や特性に応じた期待をかけることです。これができるリーダーはメンバーを信じることができます。反対に、自己基準の期待、つまり「自分がこれだけやってきたのだから、皆もこれくらいできるだろう」という考えで、メンバーに自己基準を押し付けるリーダーはメンバーを信じられない傾向があります。一人ひとりの状況や特性に配慮できるリーダーを目指してもらえたらと思います。
5つ目に、上司・部下の信頼関係は、少しずつ深まっていくものです。
ある企業のセキュアベース・リーダーとそのメンバーにインタビューして、「信頼を築くプロセス」が見えてきました。最初は、リーダーが自身の失敗談などをメンバーに話して脆弱性を示し、メンバーへの信頼を示すことが大切です。そうすると、メンバーもリーダーにプライベートをちょっと明かしたりするのです。次にリーダーがもう少し踏み込んだことを話すと、メンバーもより深い打ち明け話をしてくれるようになります。そうやって徐々に信頼が深まるケースが多いのです。
信頼関係を築くのが上手なリーダーは、メンバーによく話しかけています。苦手なメンバーには特に意識して話しかけるというリーダーもいました。お互いに苦手意識があっても、話すうちに少しずつ打ち解け合っていくからです。セキュアベース・リーダーシップを発揮しているリーダーは、そのようなプロセスが分かっているのです。
【text:米川 青馬 photo:平山 諭】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.81 特集1「『持続可能な管理職』という考え方」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
PROFILE
池田 浩(いけだひろし)
九州大学大学院 人間環境学研究院 人間科学部門 准教授
2006年九州大学大学院人間環境学府行動システム専攻心理学コース博士後期課程修了。福岡大学人文学部准教授などを経て、2016年4月より現職。『モチベーションに火をつける働き方の心理学』(単著・日本法令)、『産業と組織の心理学』(編著・サイエンス社)などの著書がある。
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